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マナ・スクランブル!〜借金返済のため、天才魔術銃士と脳筋剣士は今日もノンストップで大暴れ!〜  作者: 牧野ハル


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第14話:中層突破! エレベーターは爆破して乗るもの

「……どいて。そこを、どきなさいって言ってんのよ!!」


王都滅亡まで残り四十八時間という絶望的なタイムリミットを告げられ、さらに上層部へ向かうための唯一の手段である『メインエレベーター』の動力を物理的に切断された。


怒りと焦り、そして何より「王都の絶品ケーキ屋が潰れる」という個人的かつ切実な危機感が、あたしの脳内で完全に危険な化学反応を起こしていた。


血走った目で両手の魔銃『カノン』と『フリューゲル』を構え、銃口をエレベーターの扉……ではなく、足元の床に向ける。


「レオン! その鋼鉄の扉、アンタの馬鹿力でこじ開けなさい!」


「お、おう! 動力がなくても、力業で開ければいいのだな! 任せろ!」


レオンは、うんともすんとも言わない巨大なエレベーターの扉の隙間に、素手で指をねじ込んだ。


そして、額に青筋を浮かべながら、「ぬぅぅぅぅぅんッ!」と野獣のような唸り声を上げる。


メキメキメキッ! ギガァァァァァンッ!!


何十トンという油圧でロックされているはずの分厚い防護扉が、レオンの規格外の筋肉の前ではまるで紙切れのように引き裂かれ、左右に吹き飛んだ。


「ピキュ……。本当ニ、コノ人ノ筋肉ドウスルベキデスカネ。古代ノ叡智ガ、タダノ上腕二頭筋ニ敗北シマシタヨ……」


「機械がドン引きしてんじゃないわよ! さあ、中に入るわよ!」


扉の奥にあったのは、当然ながらエレベーターのカゴではなく、上層部へと真っ直ぐに伸びる、果てしなく続く暗黒の縦穴だった。


見上げても、頂上は完全な闇に包まれていて見えない。


「ピキュ。現在地ハ第十二層。ココカラ敵ノ本拠地デアル第十五層『中央指令エリア』マデ、垂直距離ニシテ約三百メートルアリマス。階段モ梯子モ存在シマセン」


ナビコがアンテナを点滅させながら、無慈悲な数値を告げる。


「ガハハ! 三百メートルの壁登りか! 指先を鍛えるにはちょうどいいが、さすがに時間がかかりすぎるな!」


「壁なんか登らないわよ。そんなことしてたら日が暮れる……っていうか王都が滅ぶわ」


あたしはシャフトのド真ん中に立つと、腰の奥底に隠し持っていた『特製ポーチ』の封印を解いた。


「レオン。あたしの後ろから、絶対に離れないようにガッチリと抱きつきなさい。いい? 絶対に、何があっても離すんじゃないわよ」


「おお? なんだか照れるな! だが、相棒の頼みとあらば全力で抱きしめよう!」


レオンが一歩近づいた瞬間、あたしはビシッと人差し指を突きつけた。


「ただし! 胸とお尻は触らないこと! そこだけは絶対に守りなさいよ!」


「ガハハ。無理な相談だ」


「即答すんなァァァァッ!?」


「お前のやることだ。遠慮していたらすっぽ抜ける。命を守るには、胴体ごとしっかり固定するしかない!」


「正論っぽく言えば許されると思うな! せめてもう少し配慮ってものを――ひゃあっ!?」


レオンは、あたしの抗議を聞き終える前に、背後からその丸太のような両腕で、あたしの上半身と腰をまとめてガッチリとホールドした。


「ちょっと!潰れる!ぺちゃんこになっちゃう!!」


胸の前も含めて完全固定。


相変わらず遠慮のない力強さで、肋骨が数本イキそうになる。


「……後で絶対に一発撃つからね」


「ガハハ! 生きて着いたら好きに撃て!」


「ピキュ。二人トモ、会話ノ内容ガ完全ニ末期デスネ」


あたしはナビコの呆れ声を無視して、ポーチから、禍々しい深紅の光を放つカートリッジを二発、同時に取り出した。


違法スレスレの裏ルートで手に入れた、あたしの全財産その二。


『対巨大要塞用・超臨界魔力圧縮弾』。


一発の値段は……もう考えたくない。考えたら気が狂って、ここで舌を噛み切りたくなる。


「さようなら、あたしの未来の豪邸! さようなら、優雅なアフタヌーンティー!」


血の涙を流しながら、あたしは両手の魔銃にカートリッジを装填した。


カチャッ、という冷たい金属音が響く。


魔力充填率、三百パーセント。


限界突破のさらにその先。


銃身から漏れ出した青白いマナの光が、シャフトの暗闇を真昼のように照らし出した。


「ピキュキュキュッ! 警告! 警告! ソノ火力ヲ閉鎖空間デ真下ニ向ケテ撃テバ、凄マジイバックドラフトデ、貴女タチ自身ガ上空ヘ射出サレマス! 生存確率、〇・〇〇一パーセント以下デス!!」


「ゼロじゃないなら、あたしの気合と金欲で百パーセントにしてやるわよォォォォォッ!!」


エレベーターが動かないなら。


自分たち自身が『弾丸』となって、三百メートル上の階層までひとっ飛びすればいい。


これぞ、天才魔術銃士マール=アベニールが誇る、最終にして最低の移動手段――『ロケットジャンプ』である!


「しっかり構えなさいレオン! 舌噛むわよ!! ――『極大・双炎爆砕、ツイン・グランドフレア』!!!」


あたしは、両手の魔銃の銃口を足元の床に叩きつけるように向け、渾身の力を込めて引き金を引いた。


ドッッッッッッッッッッッッッカァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!


世界が、白く染まった。


音という概念が消失し、ただ圧倒的な暴力という名の推進力が、あたしたちの足元から爆発的に突き上げてきた。


「きゃあああああああああああああああああああああああっ!!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」


「ピキュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!!」


爆炎と衝撃波が、狭いエレベーターシャフトの中で逃げ場を失い、上へ、上へと凄まじい勢いで逆流していく。


あたしたちの体は、その爆炎の先端に乗るようにして、文字通り大砲から撃ち出された砲弾のごとく、真っ直ぐに上層部へとカチ上げられた。


Gがヤバい。


全身の血が足元に下がり、内臓が口から飛び出しそうになる。ボイラー室でチリチリになった髪が、凄まじい風圧で後ろに引っ張られ、今度は見事なオールバック状態になっているのがわかった。


「は、速い速い速い!! 死ぬ! スピード違反で死ぬゥゥゥッ!!」


「ガハハハハハ! 最高だマール! 本当に空を飛んでいるぞ!!」


絶叫するあたしとナビコをよそに、レオンだけはあたしをガッチリと抱え込んだまま、満面の笑みで空の旅という名の大惨事を楽しんでいた。


三百メートルという途方もない距離が、数秒で溶けていく。


下を見れば、あたしが撃ち放った爆炎が、まるで巨大な火竜のように渦を巻きながら追いかけてきている。


「ピキュ! 警告! 上方ニ、防衛用ノ高出力レーザー網ガ展開サレテイマス!」


ナビコの叫び声。


見上げると、シャフトの途中に、侵入者を焼き切るための赤いレーザーの網目が幾重にも張り巡らされていた。


「止まれないわよ! レオン、ぶった斬りなさい!!」


「任せろ! ――シィィィッ!」


レオンはあたしを片腕で抱え直すと、空いたもう片方の腕で大剣を振り抜いた。


上へ向かって急上昇しながらの、超高速の抜刀。


剣閃がレーザーの発生装置ごと壁を叩き斬り、致命的なトラップを一瞬にして粉砕していく。


「よし! そのまま行くわよォォォォッ!!」


視界の先、シャフトの頂上に、分厚い鋼鉄の天井と、それに続く『第十五層』の扉が見えてきた。


「マール! あそこにぶつかるぞ! ブレーキはどうするんだ!?」


「ブレーキなんて気の利いたもの、あるわけないでしょォォォォッ!!」


「なにィ!?」


ロケットジャンプ最大の欠点。


それは「着地のことなど一切考えていない」ことである。


「止まれないなら! 突破するだけよォォォォッ!! 消し飛びなさぁぁぁぁぁいッ!!」


あたしは迫り来る天井の扉に向かって、残っていた魔力をありったけ振り絞り、再び魔銃の引き金を引いた。


上昇の勢いに乗った魔法弾がレーザーと化し、レオンの渾身の突きが、同時に第十五層のエレベーター扉へと激突する。


ズドドドォォォォォォォォォォンッ!!!!!


轟音と共に、分厚い鋼鉄の扉が飴細工のように吹き飛び、あたしたちの体は、その奥に広がる空間へと勢いよく放り出された。


「ぐはっ!」


「げほっ!」


床をゴロゴロと盛大に転がり、高級そうな大理石の柱に激突してようやく、あたしたちの弾丸ツアーは終わりを告げた。


「……いっ、つぅ……」


全身の骨が悲鳴を上げている。


髪型のアフロは風圧で直ったが、見事なオールバックに変わっていた。顔も服も煤だらけ。女の子としての尊厳は、遥か三百メートル下の階層に完全に置き忘れてきてしまった。


「ガハハ! いやあ、見事な到着だったなマール! エレベーターよりずっと早いじゃないか!」


レオンが、傷一つない爽やかな笑顔で立ち上がる。この男の耐久力は本当にどうなっているのだろうか。


「ピキュ……。内部回路ガショートシソウデス……。二度ト、二度トコンナ移動手段ハ御免デスヨ……」


ナビコも、頭のアンテナをヘロヘロに曲げながら弱々しく呟いている。


「ふん……。結果オーライよ。これで、ついに敵の本拠地ってわけね……」


あたしはフラフラと立ち上がり、両手の魔銃を構え直した。


そして、もうもうと立ち込める煙の向こう側を睨みつける。


そこは、これまでのどの階層よりも広く、そして異質な空間だった。


壁一面を覆う巨大なモニター群。無数に明滅する計器類。


中央には、あのインテリ眼鏡・スナイダーが言っていた「要塞を操作するための巨大なコンソール」らしきものが鎮座している。


そして、その空間を埋め尽くすように、黒い軍服に身を包んだ完全武装の兵士たちが、信じられないものを見るような目で、突然床から爆発と共に飛び出してきたあたしたちを囲んでいた。


「な、なんだ貴様ら!? どこから侵入した!?」


「下からエレベーターのシャフトを吹き飛ばして上がってきただと!? 馬鹿な、人間業じゃないぞ!?」


狼狽する敵兵たち。


その奥から、ゆっくりと拍手をしながら歩み出てきたのは――ダストシュートであたしたちを突き落とした張本人、銀縁眼鏡の男、スナイダーだった。


「……驚きましたよ。まさか、あの廃棄場から四十八時間もかからずに、しかも物理的にシャフトをぶち抜いて上がってくるとは。あなた方は、ゴキブリ以上の生命力をお持ちのようだ」


スナイダーは冷ややかな笑みを浮かべ、眼鏡のブリッジを押し上げた。


「……誰がゴキブリよ。あたしは煤まみれでも気高い天才魔術銃士、マール=アベニールよ」


あたしはボサボサの髪型で煤を払い落とし、最高に凄みのある声で言い放った。


「あんたが動力を切ったせいで、こっちは超高額な弾薬を使う羽目になったのよ……。王都のケーキ屋の恨みと、この法外な移動費、まとめてアンタの綺麗にセットされた頭に請求してやるわ!!」


レオンも無言で大剣を構え、ナビコが「ピキュ! 戦闘準備完了!」と赤色灯を点滅させる。


「迎撃しなさい。一欠片も残すな」


スナイダーの容赦ない命令と共に、黒服の工作員たちが一斉に武器を構えた。


中層突破完了。

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