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マナ・スクランブル!〜借金返済のため、天才魔術銃士と脳筋剣士は今日もノンストップで大暴れ!〜  作者: 牧野ハル


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第12話:激闘! 灼熱の機関部を駆け抜けろ

「金貨、十万枚……。あたしの、華やかで優雅なバラ色のお金持ちライフが……ただの黒焦げのスクラップに……」


第十層からさらに上層へと続く薄暗い階段を登りながら、あたし、マール=アベニールはうわ言のようにブツブツと呟き続けていた。


先ほどの階層で遭遇した、艶やかな美女型アンドロイド・ローズ。彼女の甘い罠から相棒を救うためとはいえ、あたしは推定市場価値・金貨十万枚の超高級機体を、この手で木っ端微塵に消し炭にしてしまったのだ。


「ピキュ。マール、イイ加減ニ立チ直ッテクダサイ。ソンナ死ンデ腐ッタ魚ミタイナ目ヲシテモ、スクラップハ金貨ニ戻リマセンヨ。覆水盆ニ返ラズ、デス」


レオンの頭の上で、サポートAIのナビコが容赦のない関西弁風のツッコミを入れてくる。


「うるさいわね! アンタにこの喪失感がわかる!? あたしの心には今、超特大のクレーターがポッカリと空いてるのよ! これを埋めるには、もう要塞のコアをぶっ壊して報酬を満額もらうしか……!」


「ガハハ! そうだぞマール、元気を出せ! 過ぎたことをウジウジ悩むのは体に悪い! ほら、だんだん空気が暖かくなってきたじゃないか。いい汗がかきそうだぞ!」


前を歩くレオンが、大剣を揺らしながら呑気に笑う。


確かに、彼が言う通り、階段を登るにつれて周囲の温度が異様に上がってきていた。暖かくなってきた、なんて生やさしいものではない。まるで巨大なオーブンの中にでも放り込まれたかのような、息苦しいほどの熱気だ。


「ちょっと、これ熱すぎない!? サウナどころじゃないわよ! 髪の毛がチリチリになりそう!」


「ピキュ。現在地、第十一層『要塞メインボイラー・動力機関区画』デス。ココハ要塞全体ノ魔力エネルギーヲ生成・循環サセル心臓部ノ一ツ。室温ハ常時、摂氏七十度ヲ超エテイマス」


「七十度!? 死ぬ! 人間が活動できる温度じゃないわよ!」


あたしが抗議の声を上げた直後、重々しい金属の扉が開き、あたしたちはその「動力機関区画」へと足を踏み入れた。


「うわぁ……」


目の前に広がった光景に、あたしは思わず息を呑んだ。


そこは、見渡す限りの広大な吹き抜けの空間だった。天井や壁には、大蛇のように太いパイプが縦横無尽に這い回り、蒸気と火花を噴き出している。


そして、あたしたちが立っているのは、その広大な空間の空中を横断するように架けられた、頼りない一本の細い鉄格子のキャットウォークだった。


問題は、その足場の下だ。


遥か数十メートル下の底で、ドロドロと煮えたぎる真紅の液体が、まるで溶岩のようにごうごうと渦を巻いていたのだ。


「な、なによあれ……! 溶岩!? 要塞の中に火山でも飼ってるの!?」


「ピキュ。アレハ高濃度ニ圧縮サレタ『液状魔力マナ・リキッド』デス。超高熱ヲ発シテオリ、一滴デモ肌ニ触レレバ一瞬デ炭化シマス。絶対ニ落チナイデ下サイネ」


「落ちるわけないでしょ! こんな細い足場、這ってでも進んでやるわよ!」


あたしは足がすくむのを必死にこらえ、手すりにしがみついた。


熱気と恐怖で、すでに全身から滝のように汗が吹き出している。一刻も早くこの灼熱地獄から抜け出さなければ、干からびてミイラになってしまう。


「おお! これは絶景だな! まるで地獄の釜茹でだ! ガハハハ!」


一方のレオンは、眼下の灼熱の海を見下ろしながら、なぜか目を輝かせていた。


「アンタのその恐怖の欠落した脳みそ、本当に一度解剖させてちょうだい! いいからさっさと進むわよ!」


あたしがレオンの背中を押そうとした、その時だった。


『ピロリロリロリ〜ン♪ 警告。動力機関区画ニ、未承認ノ生体反応ヲ検知』


足場の中央付近に設置されていた巨大なスピーカーから、無機質な警告音が鳴り響いた。


「なっ! また防衛システム!?」


『重要施設ノ防衛プロトコルヲ実行。対象ヲ、動力炉ノ燃料ゴミトシテ焼却処分シマス』


機械音声が宣告した直後、あたしたちが立っている鉄格子の足場のあちこちから、「ガコンッ!」「バコンッ!」という不穏な金属音が連続して鳴り響いた。


そして――。


「えっ……きゃあああああっ!?」


足場を支えていた太いワイヤーやジョイント部分が、次々と爆発し、火花を散らして千切れ始めたのだ。


「おっと! 足場が崩れるぞマール!」


「見ればわかるわよォォォォッ!! 防衛システムって、自分たちの設備ごと壊して侵入者を落とす気!? どんだけ強引なのよ!」


古代の防衛システムは、エコや節約といった概念を完全に持ち合わせていなかった。侵入者を排除するためなら、高価な足場ごと溶岩の海に叩き落とすという、実に力技な手段に打って出たのだ。


グラグラと激しく揺れる足場。


前方からドミノ倒しのように崩落が始まり、鉄格子の残骸が次々と真っ赤な魔力液の海へと吸い込まれていく。ジュウゥゥゥッ! という恐ろしい音と共に、鉄が一瞬で溶けて消滅していくのが見えた。


「マール! 飛べないのか! お前の魔法で!」


「無理よ! 下の魔力液から立ち昇る熱対流と乱気流が強すぎて、風魔法で浮遊なんてしたら一瞬でバランス崩して真っ逆さまよ!」


「ピキュ! マスター、コノママデハ落下シマス! 崩落速度ガ、私タチノ走ル速度ヲ上回ッテイマス!」


ナビコの計算通り、崩落の波は凄まじいスピードであたしたちの足元へと迫っていた。


後ろを振り返れば、入口の扉もすでに崩れ落ち、退路は完全に断たれている。前方の安全な足場、つまり出口までは、まだ五十メートル以上はある。


「万事休す……! あたしの人生、借金まみれのまま、溶岩風呂で茹でダコになって終わるのね……!」


あたしが絶望に目を閉じた、その瞬間。


「案ずるなマール! 足場がないなら、作ればいい!」


レオンが、突如として大剣を抜き放った。


「はぁ!? 何言ってんのアンタ! 足場を斬ってどうす……ひゃあっ!?」


レオンはあたしの腰をガシッと掴むと、そのまま小脇に抱えるようにして、軽々とあたしを持ち上げた。まるで米俵か、ちょっと重い荷物でも扱うかのような、一切の遠慮がない扱いだ。


「ちょっと! レオン! どこ触ってんのよ! セクハラよ!」


「ガタガタ騒ぐな! 舌を噛むぞ! 行くぞォォォォッ!」


レオンはあたしを右脇に抱え、左手に大剣を持ったまま、崩れ落ちていく足場の先端に向かって猛ダッシュを開始した。


「ちょ、バカ! 先はもう道がないわよ! 落ちる落ちる落ちるゥゥゥゥッ!!」


あたしの絶叫を完全に無視し、レオンは足場が途切れるギリギリの縁で、思い切り地を蹴った。


ドゴォォォォォォンッ!!


踏み込みの衝撃で、ただでさえ崩れかけていた足場が完全に粉砕される。


しかし、その反動で、レオンの巨体と、おまけのあたしは、灼熱の空中へと大きく放物線を描いて跳躍した。


「うおおおおおおおっ!!」


「きゃああああああああっ!!」


眼下には、煮えたぎる真紅の魔力液。


ものすごい熱波が下から突き上げ、あたしの髪の毛がチリチリと音を立てて焦げ始める。


しかし、五十メートルの距離を、一度のジャンプで飛び切れるはずがない。


空中で勢いが死に、あたしたちの体は無情にも重力に引かれて落下を始めた。


「レ、レオン! 落ちる! 届かないわよ!」


「ここからだ! ――シィィィッ!」


レオンは空中で、左手の大剣を真下に向かって全力で振り抜いた。


ズバァァァァァァァァンッ!!!


強烈な剣圧が、眼下の魔力液の海を叩き割る。


その反発力――いや、それだけではない。


先ほど防衛システムが爆破し、空中に放り出されて落下中だった鉄格子の残骸の数々。


レオンは、その空中の残骸を次々と蹴りつけ、大剣の風圧で姿勢を制御しながら、まるで空中に見えない階段があるかのように、ポン、ポン、と連続で跳躍を繰り返したのだ。


「嘘でしょ……!? 落ちていく瓦礫を蹴って、空を飛んでる!?」


「ピキュ! 物理法則ヲ完全ニ無視シタ軌道デス! マスターノ筋肉ハ、一体ドンナ構造ニナッテイルンデスカ!?」


ナビコも信じられないものを見るように、アンテナを逆立てて驚愕している。


「ガハハ! 落ちる前に蹴れば沈まない! 簡単な理屈だろう!」


「そんな理屈が通るのはアンタの脳内だけよ!!」


眼下に広がる灼熱の海。空中に舞う鉄の残骸。


その間を、レオンはあたしを小脇に抱えたまま、野獣のような身のこなしで跳ね回る。


「熱い! 熱い熱い熱い! 睫毛が焦げてる! お肌が乾燥するゥゥゥ!」


熱風と恐怖で、あたしはレオンの腰にしがみつきながらひたすら悲鳴を上げ続けた。


「よし! 出口が見えたぞ! 最後の一跳びだ! ――ぬぅぅぅんッ!」


レオンが、一際大きなパイプの残骸を力一杯蹴り飛ばす。


その推進力に乗って、あたしたちは出口の扉がある向こう岸のプラットフォームへと、文字通り弾丸のように突っ込んでいった。


ズドドドォォォォンッ!!


「げほっ! ぐえっ!」


見事な着地……ではなく、勢い余ってプラットフォームの鋼鉄の床を豪快に削りながら、あたしたちはダンゴムシのように転がって壁に激突した。


「……っ、いっつぅ……。全身の骨が軋んでる……」


「ガハハ! いやあ、いい運動になったな! サウナ上がりみたいで爽快だぞ!」


煤と埃まみれになりながら、レオンが爽やかな笑顔で立ち上がる。


「……ふざけ、ないで……」


あたしは床にへばりついたまま、震える指をレオンに向けた。


「誰が……誰が荷物みたいに小脇に抱えろって言ったのよ……! もっとこう、お姫様抱っことか、キュンとする助け方があったでしょ……! おかげで脇腹にアンタの腕が食い込んで、内臓が口から出るかと思ったわよ……!」


「お姫様抱っこでは、いざという時に剣が振れんからな! 命あっての物種だぞマール!」


「ピキュ。マール、文句ヲ言イタイノハ分カリマスガ、今ハソレヨリモ鏡ヲ見タ方ガ良イデスヨ。貴女ノ自慢ノ姿ガ、大惨事デス」


「……え?」


ナビコの言葉に、あたしは慌てて手鏡を取り出した。冒険者にとって、身だしなみ確認は生存確認と同じくらい大事である。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


そこには、顔中煤だらけで、熱風のせいで前髪がアフロのようにチリチリに爆発し、まるで新種の魔物のような姿になり果てたあたしの顔が映っていた。


「あたしの……あたしの美貌が! マイナスイオンでケアしたサラサラヘアーが! これじゃあただの焦げたタワシじゃないのォォォォッ!!」


「気にするなマール! そのチリチリ頭も、なかなか個性的で可愛いと思うぞ! プードルみたいで俺は好きだ!」


「フォローになってないわよこの脳筋バカァァァァァッ!!」


あたしは床をバンバンと叩きながら、灼熱のボイラー室の出口で盛大に泣き喚いた。


お金、高級アンドロイド、尊厳、お肌と髪の毛。


全部失って、借金だけが雪だるま式に増えていく。


「絶対に……絶対に許さない! この要塞の黒幕、絶対に八つ裂きにして、慰謝料と美容代をむしり取ってやるんだからぁぁぁッ!!」


あたしはチリチリになった前髪を押さえながら、灼熱の出口通路で立ち上がった。


目的は王都救済。ついでに借金帳消し。そして今この瞬間、美容代の請求も追加だ。


怒りの炎だけは、灼熱の機関部よりも熱く燃え上がっていた。

最後まで読んで頂いてありがとうございます!

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