同じ重さ
瓦礫の転がる音だけが残る。夜の空気は冷たいのに、肺は焼けるように熱い。背後では、まだ戦闘の気配がしている。
三剣は足を止めなかった。止めたら戻りたくなるからだ。
「本当勝手だよな…」
逃げろと言ったのは七条だ。命令だ、と。
あの男は本気で言っていた。三剣が居ると全力で戦えない、と。
「意味分かんねぇ」
口ではそう云う。でも解っている。七条龍二は、そういう男だ。
三剣の血が飛ぶかもしれない場所では、戦い方を変える。躊躇う。計算が狂う。あの狂犬が。
三剣は屋根の上に飛び乗り、動きを止め遠くの闇を見つめる。七条がさっきまでそこに居た。
ふと、自分の手を見る。そこにあるはずのナイフはない。今、あの男が持っている。
「……俺のナイフ」
七条がそれを指先で回していた姿を思い出す。まるで自分のものみたいに。三剣は少しだけ笑う。
「汚れるぞって言ってたな」
多分今頃、あのナイフは真っ赤だ。でも、アイツは気にしない。寧ろ笑ってるだろう。三剣は空を見上げれば、星が一つ見えた。
「負けるなよ」と呟く。いや、違う。負けるわけがない。
あの男は、絶対に失敗しない。三剣はポケットに手を入れる。指先で、もう一本のナイフを撫でる。同じ店で買った、同じ形。同じ重さ。
「……終わったら返してもらうからな」
そして、又走り出した。
背後の闇の中で、きっと今も——狂犬が暴れている。自分のナイフを振り回しながら。




