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殺し屋は詐欺師に跪く  作者: 男鹿七海
23/28

温度差



 街は同じ顔をしていた。ネオンは変わらず、人は欲望を売り買いする。

 違うのは、狩る側の温度だけだ。三剣龍之介はバーの奥でグラスを傾ける。意識は外へ張り巡らされている。

(来る)

 あまりにも静かすぎる入店。カウンター越しに手が止まる。

(当たりか)

 遅れて空気が変わる。複数の気配が同時に流れ込み、ためらいなく配置を取る。

「……鹿島政宗」

 背後から声が届く。

「人違いだ」

 三剣は儀式のような否定した。

「一週間、好きに動いたな」

 三剣は立ち上がり、そのまま向き直る。視界に収まるのは処理役が三人。

「で。確認できたか」

「“存在しない形式”だとな」

 事実が表面へ押し出される。

 判断は速い。床を蹴り、椅子を跳ね上げて視界を遮る。その隙に出口へ向かう。

「逃がすか」

 横合いから手が差し伸べられ、瞬間的に流れを切られる。三剣は反応と同時に体勢をずらし、闇へ滑り込む。重く速い足音が背後で追う。路地に差し掛かり、壁沿いの狭間を利用して前進する。

 角を曲がる——目の前に黒い影が立ちはだかる。

「……鬼ごっこは仕舞いだ」

 進路は前後ともに閉じられている。三剣はそこで初めて足を止める。

「珍しいな。お前がこんなミスするなんて」

 返答はしない。三剣は状況の組み替えに意識を割く。

「まあいい。その分、楽しめる」

 均衡が崩れる。背後の人数配置に綻びが生じる。

(来たか)

 何かが崩れる音。振り向く前に一人が倒れる。唯一つ確かなこと——“何か”がいる。

 三剣は振り返らない。

「……遅い」

 それが誰に向けた言葉か、理解できた者は、この場にはまだいなかった。



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