温度差
街は同じ顔をしていた。ネオンは変わらず、人は欲望を売り買いする。
違うのは、狩る側の温度だけだ。三剣龍之介はバーの奥でグラスを傾ける。意識は外へ張り巡らされている。
(来る)
あまりにも静かすぎる入店。カウンター越しに手が止まる。
(当たりか)
遅れて空気が変わる。複数の気配が同時に流れ込み、ためらいなく配置を取る。
「……鹿島政宗」
背後から声が届く。
「人違いだ」
三剣は儀式のような否定した。
「一週間、好きに動いたな」
三剣は立ち上がり、そのまま向き直る。視界に収まるのは処理役が三人。
「で。確認できたか」
「“存在しない形式”だとな」
事実が表面へ押し出される。
判断は速い。床を蹴り、椅子を跳ね上げて視界を遮る。その隙に出口へ向かう。
「逃がすか」
横合いから手が差し伸べられ、瞬間的に流れを切られる。三剣は反応と同時に体勢をずらし、闇へ滑り込む。重く速い足音が背後で追う。路地に差し掛かり、壁沿いの狭間を利用して前進する。
角を曲がる——目の前に黒い影が立ちはだかる。
「……鬼ごっこは仕舞いだ」
進路は前後ともに閉じられている。三剣はそこで初めて足を止める。
「珍しいな。お前がこんなミスするなんて」
返答はしない。三剣は状況の組み替えに意識を割く。
「まあいい。その分、楽しめる」
均衡が崩れる。背後の人数配置に綻びが生じる。
(来たか)
何かが崩れる音。振り向く前に一人が倒れる。唯一つ確かなこと——“何か”がいる。
三剣は振り返らない。
「……遅い」
それが誰に向けた言葉か、理解できた者は、この場にはまだいなかった。




