繋がる断片
「三葉蓮介……んん、中々出て来ないな……」
煙を吐き出しながら、君下はパソコンの画面とにらめっこしている。
「ねぇ隼人、古市秋斗さんって誰か親しい友達は居るの?」
「仮に秋斗兄ちゃんが生きてるとしても、ソイツ等と今も関わりあるかは分からんが……五人は居た。よくつるんでたのは見た記憶がある」
「名前は覚えてる?」
「あー……タツミ……何だったかな……」
煙を吸い込み、神崎は唸りながら記憶を探る。
「……そうだ、確かロクガヤタツミだ」
『はーい!殺し屋御用達、処理屋でーッす』
スピーカー越しに、軽い調子の声が響いた。
「柊紫呉です」
『柊クン?何々、情報屋が処理屋に電話とか珍しいね』
「透さん、機密事項なのは承知の上で訊きたいんですが、本名だから通じないかもしれませんが、十五年前に古市秋斗さんという男性の遺体は回収しましたか?」
『キミ、秋斗と知り合い?』
「俺は名前しか知らないですが、友人が」
その瞬間、神崎が君下の手からスマートフォンを奪い取った。
「透か。神崎隼人だ」
『隼人……!?チビ助……お前、こないだ見かけたけど、本当に裏社会の住人になってたんだな』
「189あるんだ、チビ助って言うな。……いや、そんな事どうでもいい。秋斗兄ちゃんについて何か知らないか?殺し屋の時の名前とか、友達とか」
『名前は硯崎柊。アイツは友達っていうか……悪友、ライバルみたいな奴が居たな。六ヶ屋辰巳。伊月修二って名前で動いてる』
神崎の指先に力が入る。
『秋斗の遺体は回収してねぇ。だから生きてる可能性は高い。仮に死んでても、噂くらいは流れる筈だ。殺し屋界隈じゃ有名人だからな』
「クソ……ッ。また伊月かよ!鹿島クンの時といい……あの野郎…」
握り潰した煙草の箱が歪み、そのままテーブルへ拳が叩きつけられる。
『……』
受話口の向こうで、透が一瞬言葉を飲み込んだ。
『修二と何かあった?』
「悪い、何でもない。……もう一つ訊きたい」
神崎は一度だけ息を整える。
「三葉蓮介って、聞いた事あるか?」
『……その名前、どこで聞いた?』
「九薙伊澄が、黒瀬って情報屋締め上げて聞いたって」
透が小さく笑った。
『黒瀬か……情報屋の割に口が軽いからな。三葉蓮介、それ――』
「……それ以上はいい。分かった。透ありがとう」
言葉を遮るように、神崎は通話を切った。
スマートフォンを君下に返す。その目は、薄っすらと涙で滲んでいる。
「雪都が処理屋に電話かけてくれたおかげだ。まさか秋斗兄ちゃんの知り合いに繋がるとは思わなかった」
君下の両手を取り、そのまま額に当てる。
「希望が見えた……秋斗兄ちゃん、生きてるかもしれない。もっと早く連絡取ってりゃ良かった……」
俯いたままの神崎の表情は見えないが、その声は震えていた。
「普通、処理屋って殺し屋の後処理専門だからね。俺も何で思い浮かんだのか分からないけど」
「雪都」神崎は顔を上げ、袖で目元を乱暴に拭う。「俺と伊澄──龍二は、秋斗兄ちゃんが殺し屋だったのは知ってた。だから裏社会に来れば何か分かるかもしれないって思ってた。でも、手掛かりはこの写真だけだった」
七条が残していった写真を差し出す。
「少しブレてるな……急いで撮ったのかな」
「龍二が言うには、表側のカメラマンが撮ったらしい。秋斗兄ちゃんの近くに立ってた男は後ろ姿で、顔は分からなかったって。そのカメラマン、俺と龍二が秋斗兄ちゃんとよく一緒に居るの見てたらしくてな。それで龍二に渡してきたらしい」
「表の人間なのに、よくそんな事出来たね……」
「情報屋を片っ端から当たって、やっと分かったのが一つだけだ」
神崎は皺になった写真へ視線を落とす。
「秋斗兄ちゃんを刺したのが、三葉蓮介って事だけ」ゆっくりと顔を上げる。「抜け目の無い奴だと思ってたが……処理屋を見落としてくれたおかげで、ここまで辿り着けた。秋斗兄ちゃんを捜す為だけに裏社会に来たけど……来て良かった」
一瞬だけ、表情が緩む。
「雪都に出会えたし、龍二も──」
そこで言葉が止まる。
神崎はもう一度、写真へ視線を落とした。




