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ダンジョンツインズ ~いずれ神へと至る二心同体の生存戦略~  作者: 白雲庭 まし麻呂
三章 バスガル攻略戦

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三章 〈4〉

 〈4〉


「杖を作りましょう」


 ダンジョンに帰ってくるなり、グラはそう言った。

 まぁ、ダゴベルダ氏の指摘通り、身の安全を考えれば使い勝手のいい杖はあった方が便利だという判断からだろう。

 僕の場合、運動神経は並の域をでないのは明白だ。いくら依代の性能を向上させたとて、運動部では万年補欠の僕程度では、活用にも限度がある。運動というものは、単にスペックが高ければ記録が残せるという程、単純なものではない。

 その点、【魔術】は知識と慣れがものをいう。いや、そちらも生命力から魔力を生成する速度や、効率的に魔力を操る技能が求められるが、それらは依代の性能をいじればなんとでもなる。

 その点、僕には戦士よりも魔術師の方が、性に合っているといえるだろう。グラもまた、そう感じているようで、剣の素振りよりも幻術の勉強を優先する方がいいと言っていた。

 とはいえ、二度死んだ事もあって、いざというときに剣を振れた方がいいという考えから、素振りは続けている。おかげで、少しはまともに剣を振れるようになってきたと思う。


「それを踏まえて、ショーンの近接戦闘技能として、これからは剣術ではなく杖術をメインにしていこうと思います。異論はありますか?」

「あ、ないです……」


 どうやら、これまでの努力は、グラ視点からすればあまり実りがあるものではなかったようだ。いやまぁ、僕自身わかっていた事ではあるが……。


「……? ……っ! いえ、なにも剣術をやめる必要はありません。以前に比べれば、ショーンの腕は間違いなくあがっています。それは今日、確認したので間違いありません!」


 肩を落とす僕に気付いたのか、一度首を傾げてから僕の内心を察したのか、すかさずグラがフォローを入れてくれる。でもなぁ、それってつまり、あの初戦闘に比べればマシって事だよね? あれから進歩がなかったら、グラに言われる前に辞めてる自信がある。


「ショーン、別に我慢する必要はありませんよ? やりたい事は、私やあのローブ男に気兼ねせず、あなたが決めていいのです。私はあくまでも、提案をしているだけなのですから」

「ああ、うん。わかってるわかってる。グラやダゴベルダ氏が言ったのは、僕の戦闘スタイルから一番合っているものを提案しただけで、強制されているわけじゃない」


 やるもやらないも自由だし、杖を作ったあとでもしっくりこなければやめればいい。最終的には僕自身の身の安全につながる事だし、その分武器選びというのは自己責任だ。

 単に、うすうす感じていた自分の才能のなさを目の当たりにして、ちょっと気落ちしただけだ。そんな事で、気を使われるというのも情けない。気を取り直して、僕はグラに笑いかける。


「じゃあ、どんな杖にしようか?」

「……本当に大丈夫ですか? 強がってませんか?」

「ちょっとは強がってるかもね。でもまぁ、ちょっと強がらせてよ」

「……わかりました。杖についてですが、短杖と長杖のどちらにするか。また、長杖にするにしても、ロッドにするのかステッキにするのかですね」

短杖ワンドはもうあるじゃん。それなら別に、新たに作る必要はないよ」

「そうですね。ですので今回は、長杖を作りましょう」


 短杖と長杖のなにが違うのかといえば、それは術式を刻み込めるリソースだ。木材や、モンスターの骨などで作った杖は、理を刻む為のリソースが大きい。まぁ、そうでなければわざわざ戦闘時に杖を装備する意味なんて、ほとんどない。

 理由はたぶん、どちらも生物の一部だからだ。石や金属、その他の無機物はあまり杖には向かないらしい。それは、魔力と親和性の高いものであってもそうらしい。

 勿論、リソースの多いものを選ばねばならず、木や骨ならなんでもいいなどという事はない。また、加工にも結構手間がかかる。

 まぁ、その辺はグラがやってくれるらしいので、僕はいまはノータッチ。いずれは、自分の杖くらいは自分で作れるようになっておきたい。


「ロッドかステッキって言われてもなぁ。どう違うの?」

「ロッドは、かなり元の素材のままです。勿論、使い勝手のいい形に整形や加工も施しますが、できるだけ木材本来の形を維持する為、加工してもあまりリソースが減りません」


 要は、わかりやすい魔法使いの杖って感じか。節くれだった大きな木の杖。

 ああ、さっきダゴベルダ氏が持っていたものと、ほぼ同じものだと思っておけばいいだろう。


「ほう。そう言うって事は、ステッキはそうではないと?」


 ロッドがなにかを理解してから、僕はグラにステッキについて聞く。久しぶりにグラが、教師らしく胸を張って教えてくる。


「はい。ステッキは取り回しのしやすさを優先する為、使いやすいようにだいぶ加工します。いい素材を無駄なく加工すれば、短杖よりはリソースは多いでしょう」


 ふむ。たぶん、僕が知ってる老人用の杖とか、あとは昔の映画なんかで紳士が持っているようなものを、ステッキというのだろう。

 つまり、リソースは多いが使い勝手の悪いロッドか、取り回しはしやすいがリソースが削られるステッキか、という選択だろう。


「じゃあ、一択だね」

「どちらです?」

「ロッドだね」

「まぁ、そうだろうと思いました」


 ぶっちゃけ、ステッキを選ぶなら、いまも使っている短杖でいい。まぁ、短杖は杖術には使えないだろうが……。


 そんなわけで、僕の新しい武器は、魔法使いっぽい杖になった。ちょっとだけ、紳士っぽい杖にも惹かれてるのは秘密だ。いずれ、自分の杖が作れるようになったら、そっちも作ろう。


「木材は、幻覚作用のある実をつけるケシファナの枝がいいでしょう。ジーガに取り寄せさせます。あとは、タイマ油とカコインコのくちばし……は、たぶん取り寄せに何日もかかるでしょうね……。仕方がありません。ダンジョンで作って、嘴だけ受肉させてから潰しましょう」


 忙しそうに、グラが僕の杖に必要なものをリストアップしていく。僕もまた、どの素材にどういう効果があって、どういう加工をするのかを、資料に目を通して勉強しつつ、グラの手際を観察する。


「いつもみたいに、光の糸に変えてから再構築ってできないの?」


 ふと疑問に思って聞いてみると、グラはゆるゆると首を振ってから答えた。


「ステッキならばそれでもいいのですが、ロッドではやらない方がいいですね。徒にリソースを削ぎ落としてしまうだけです」

「なるほど」


 生物本来の形を変えすぎるのは、リソースを削ってしまうという事だろうか。でも、だったら、ステッキというのは、杖としては完全に悪手ではないのだろうか。

 その辺もグラに訊ねてみると、彼女はまたも首を振った。


「ロッドとステッキを製作する際に用いられる技術というのは、根本からして種類の違うものになります。ロッドは生命体本来の、魔力に適した体組織を最大限残しつつ利用するのに対し、ステッキは魔力に適応する形に加工するのです。だからステッキにしたからといっても、そこまでロッドに劣る代物にはなりませんよ」


 ふぅむ。まぁ、ダゴベルダ氏が持っていたような杖では、たしかに取り回しは悪そうだし、あれで戦うというのはなかなか想像できない。その点、ステッキならある程度は戦うビジョンも見えやすい。


「そこまで加工するのであっても、木材や骨材ってのは、無機物に勝るのかい?」

「そうですね。費用と手間に目を瞑れば、木材や骨材を用いたステッキと同レベルの金属ステッキを作る事はできるかも知れません。ですが、どう考えても費用対効果は良くありません。同レベルでいいのなら、わざわざ金属で作るメリットはない、といったところでしょうか」

「なるほど。でも、近接戦闘用と思えば、木材よりも金属とかの方が安心なんじゃない?」

「気休め程度にはそうですね。鈍器として用いるなら、どのみちステッキは重量不足であまりダメージを見込めるものではありません。それはロッドも同様でしょう。ですのでショーンには、己の身を守る事を主眼においた闘い方を身に付けてもらいます」

「なるほど。了解した」


 あくまでも、戦士が応援に駆け付けるまで、防御に徹する為の杖術という事だろう。ネットゲームはあまりやらなかったけど、僕に求められているのは、そこでの後衛職のような立ち回りなのだ。

 要は、チョロチョロせず、後ろから飛び道具を放ってろという。とはいえ、幻術ってのは、そういうゲームでありがちな、ドカンと一発系の【魔術】じゃないんだよなぁ……。モンスターに対しても、あまり効果が見込めるものじゃないし。

 このままだと、単にグラに守られるだけのお荷物になりかねない。己の身を守る事は了承したが、さりとて優先順位が変わったわけでもない。僕は僕の命よりも、グラの身の安全を優先する。

 だがこれでは、本末転倒だ。なんとかして、僕自身戦える手段を模索しないと……。


「ふむ……。どうしましょうか……」


 僕が自分のこれからの戦闘スタイルに悩んでいると、グラもまたなにかを考えているようだった。


「どうしたの?」

「我々の属性を考えて、ロッドの先に地に属す触媒を取り付けたいのですが、あまり良いものは手元になかったと思いまして……」

「触媒? どんなの?」

「宝石です。できれば金剛石ダイヤモンドがいいのですが、触媒にするならそれなりの大きさが必要です。流石にハリュー家の財政状況では手がだせない代物でしょう。鉄電気石ショール黒玉ジェット、いえ、それでは流石に格が低すぎますね。できれば水晶クリスタル電気石トルマリンの大きなものを取り寄せましょ——……な、にを、してるんです……?」

「え? ダイヤ作ってただけだけど?」


 グラが恐る恐る見つめる先は、僕の手のひらのうえ。そこには、これまで貯めに貯めてきた土砂から抽出した炭素を光の糸に変えてから、カットするまでもなくブリリアントカットに整形されるダイヤモンドが、半ばまで作られていた。

 ぶっちゃけ、ダンジョンコアの力があれば、ダイヤを作るのなど造作もない。なにせ、単一元素の宝石であるのに加え、その元素もそこらじゅうに転がっている炭素である。にわか知識しかない僕にだって、酸化還元反応を使って炭素を抽出するくらいは簡単だ。

 多少構造に気を配る必要こそあるものの、それだって僕にとっては布の方が余程難易度が高く思える。

 そうこうしている間に、不純物の一切ない拳大のラウンドブリリアントカットのダイヤが……。うん? ちょっと違うか? ああ、違うんじゃない。カット面が不揃いで、輝きがいまいちなのか。その辺、あまり意識しないで編みあげちゃったからなぁ。

 もう一回やろう。


「ああ……っ!?」


 もう一回光の糸に解いたところ、どうしたのかグラがお気におりのおもちゃでも壊されたかのような、切なげな悲鳴をあげた。


「どうしたの?」

「い、いえ……。ショーン、ダイヤを作れるのですか?」

「え? うん。っていうか、たぶんグラも作れるよ。超簡単だから」


 あくまでも、ダンジョンコアとしてならという注釈は付くが、間違いなくグラにだって作れるだろう。もしかしたら、属性術での応用もできるかも知れないが、僕はまだそちらの造詣には深くない。


「も、もしかして他の宝石も?」

「うーん……。たぶん無理、かなぁ。あ、でも水晶は、石英の単一元素だっけ。だったら、もしかしたらいけるかも知れない。でも、その他の宝石類は、構成元素や構造をあまり覚えてない。その他は……」


 たしか青玉サファイア紅玉ルビーがコランダムなんだっけ? 青玉サファイアがクロムや鉄、紅玉ルビーが三価クロムなんだよな。なお、コランダムは勿論、クロムだって抽出法がわからないので、僕にこの二つを作るのは不可能だ。

 もしかしたら、グラならいずれ他の宝石を作る事もできるかも知れないが、僕にはもうこれ以上の引き出しはない。

 できれば、掘削した土砂類を元素別に分けたいんだけど、僕にはどう抽出すればいいのかもわからない。グラと一緒に、分類法法を考えておこう。

 そんな事を考えているうちに、この世界初の人工ダイヤモンドが完成した。うーんブリリアント!


 なお、僕作ったダイヤはグラに没収されたうえ、その後彼女が簡単に作ってみせた、トリリアントカットのブルーダイヤが僕の杖に使われる事になった。

 どこからホウ素取ってきた?




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