14,冷えゆく温もり
今更ながら、ここで『鎮魂の社』の四人の紹介をしておこうと思う。詳細な個人情報は分からないけど、それでも私から説明しないと、この四人の容姿は一生伝わらないだろうから、まあ聞いてほしい。
まず巫女様。修道服を着てるっていうのはさっき言ったと思うけど、特筆するとしたら身長が低い。会話の落ち着き方からして、年齢的には私達とそこまで変わらないと思うんだけど、ぱっと見小学生にしか見えない。私の身長から推測すると、大体百四十くらいかな。
そんな幼女が、とびっきり可愛らしい幼女が、修道服を着て訪ねてきたのだ。面食らうのも当然だし、むしろこれを愛でないわけにはいかないという義務感すら私の中に生まれかけたけれど、鋼の精神力で欲望を抑え込んだ私だった。これ私偉すぎるのでは?
髪の毛とかはベールの内側にしまってあるので、どのくらい長くてどんな色なのかは分からないけど、まさか坊主ということも無いと思う。まあ、今夜のお風呂をご一緒させてもらおう。そこで全ては丸裸になる。二重の意味で。上手い。
で、そんな幼女様――じゃなくて、巫女様と対照的に身長が高いのがハルさん。多分百七十くらいある。多救とほとんど同じくらい。モデル体型って言葉がしっくりくる感じのスタイルで、凄い美人。外見だけ見ればね。性格がちょっと荒いね。
多分慣れると面白い性格なんだろうけど、男受けはしないと思う。髪の毛は濃い青色とかいうファンタジー全開色。首に掛かる程度のショートヘアなのと、服装がかなりきちんとしたスーツなので、凄い優秀なキャリアウーマンみたいな感じ。
で、さらに身長が高いのがギルさん。百八十超えてるんじゃないかな。服の上からでもかなり筋肉質なのが分かるくらいには鍛えられてる。軽装だから目立つって言うのもあるだろうけど。七分袖に七分丈だから、なんか全体的にさっきの軟派男って言うのがぴったりくる感じ。悪口じゃないよ。
髪は金髪じゃなくて黄色。うん、黄色。セットしてるんだか癖毛なのかは分からないけどツンツンしてて、その髪型もまたチャラさに拍車を掛けているというか。一部の女子には凄いモテそう。悪口じゃないよ。
で、そんな二人と一緒にいると不協和音感が溢れているのがレナさん。身長は私より少し低い百五十五くらいかな。ジャンル的にはゆるふわ系。服の上からでもスタイルの良さがわかる。出るとこ出てる。正直ここまでだと嫉妬心も湧かない。
髪色は白っぽい桃色っていう表現で想像つくかな。それがこう、もさーっという腰くらいのロングヘアになっている。服は、なんて言えばいいのかな。限りなく学校の制服に見えるけど絶対に違うなって思うようなデザインの服。上品なワンピースにも見えるけど、どことなく制服感がある。
『鎮魂の社』のトップ四人だというのがいまいち信じられないくらいには、普通の人間だった。別にどういう集団かを知っているわけじゃないけど、何処にでもいそうというのが私が受けた印象。もちろんこんなに強烈なキャラの人達が何処にでもいるわけないんだけど、いても不思議じゃないって思わせる雰囲気があった。
それは多分、親しみ易さ。
近しい者の喪失、そういったことを経験した人達を救済するのが『鎮魂の社』だとお姫様は言っていた。だからだと思う。そんな人達でも、誰でも話しかけることが出来るような気安さを、この四人は纏っている。
だから私はこの段階で、この四人を信用できると結論付けた。信用できると信用するはまた別の話だけど、信用しても大丈夫だと判断した。
「おー、結構高い建物多いですね。まあ城があれだけ高く積みあがってたから、そういう技術はあるんだろうなーとは思ってましたけど。どういう風に建築してるんですか?」
「基本的には魔法ですよ。建材を浮かし、組み立て、接合する。そこまで労力の必要なものではありません。そちらの世界には、確か、機械、というものがあるのでしたか?」
「……はい、そうですね。私達の世界では、鉄でできた機械を使って、建築を行うのが一般的です。で、ハルさんはなんでそんなことを知ってるんですか? 私達の世界に行ったことがあるとか?」
「まさか。ただ、昔この世界にやってきた、恐らくは葉雪たちと同じ世界の住人が、そんなことを語っていたという話が残っているだけです。偶然こちらに飛ばされてしまったその人物は、自分の世界のことを一通り話し終わると、どこかへと消えていったとか」
「どこかへ、ですか。元の世界に帰ったとかだったらハッピーエンドなんですけどね……。というか、昔ってどのくらい昔ですか?」
「ええと、確かあの本は大体……、五百年ほど前だったかと思いましたが。『鎮魂の社』の教会に置いてありますので、向こうに着いたら貸しましょうか?」
「読みたいです読みたいです! こっちの世界の本! 私達の世界のことがどんな風にこっちに伝わってるのかも興味ありますし!」
五百年前と来たか。露骨に反応はしないようにしたけどそんなに昔なことある? 五百年前って機械無いよね? せいぜいが鉄砲くらいだったはず。ってことは、別に時間軸とかって関係ないのかな、この召喚。
こっちの世界の五百年前に、二千年代の私達の世界から人が来たってことになるのかな。千九百年代でもありえるけど、まあ些事でしょ。
私達六人は現在、城から出て町中を歩いていた。絶叫した多救が一人で城から出ていってしまったので焦って追いかけたという小話もあるけど、現在精神的に疲労困憊の多救をあんまりつつくのも可哀想だし割愛で。
それでまあ、振り返ると、っていうか、この町のどこからでも見えそうなんだけど、城が大きい。
うんざりするほど巨大。私達さっきまであの城のほぼ最上階にいたのかと思うとうんざりする。
城内を歩いてる最中に色々と感覚が狂ってしまったので、どのくらいの高さを下ってきたのかはいまいち判然としないけど、少なくとも地上十五階はある。内部がほとんど迷路みたいに入り組んでたからどういう道順を辿ったのかも想像がつかない。
むしろここまでの建築物だと、有事の際に逃げられないのではないだろうかという懸念が真っ先に出そうなものだけど、出なかったんだろうなあ。だって外観も頭悪いもんなあ。数百年で最高の愚王という呼び名は伊達ではない。
まあ何かしらの脱出手段くらいは用意してそうだけど、だから良いという話にはならない。
こんなのが国の中枢だったらクーデターが起こりそうだよ。日本って平和なんだなあ。
異世界に来て初めて日本の平和を噛み締めた高校生の私だった。
「戦争とかってお姫様が言ってたんで、もっと悲惨な状態なのかと思ったんですけど、全然そんなことないですね。むしろ活気に満ちてるというか、普通に平和です」
「国の最端でもない限りは、基本的にこの国は平和ですよ。エトランゼル様はかなり強引に国の面積を広げようとしているので、その影響を受けやすい端の方がその煽りを受けているんです。結果として、私達が魔族と呼んでいる彼らと衝突し、争いが発生してしまう」
「……やっぱりそれ、お姫様が喧嘩売ってるだけなのでは?」
「その通りです。誰も止められないだけで、全員それは思っています」
「ハル、あまり堂々と肯定しないでください。どこかでエトランゼル様が聞いていたらどうするんですか」
「こんな所にあの軍師様がいるわけないでしょう。兵士の方々も、今更こんな陰口報告しませんよ」
「……なんでそんな風に思われるのが分かってるのに、思われてるのが分かってるのに、意味の分からない無茶を止めないんでしょうか。何かその先の目的があっての行動、なんでしょうか?」
「軍師だから、で片付けるのもあれですが、確かにエトランゼル様は先々を見据えて行動するところはあります。それも、誰にも理解できないような未来を。今の急な国土拡大も、何か目的はあるのかもしれません。ですが、それを正しく理解しているのはエトランゼル様だけでしょう。……以前は、もう少し周りに頼ってくれてたんですけどね」
大体の場合、愚かな王って言うのは身近な人間の裏切りに合う。上に立つ者には、それだけの能力と人柄が求められるからだ。部下の期待に応えられない愚王についていくことほど、先が不透明なこともない。
けれど、先代の王――まだ正式な世代交代をしたわけではないんだろうけど、先代でいいや――は、愚かにも関わらず生きながらえてしまった。先が不透明な状態で、国は進むことも戻ることも出来なくなってしまった。
そんな国を見たお姫様が、かなり乱暴な手段に出るのは回避できない未来だったのかもしれない。
たぶん彼女の頭の中では、ある程度、国の状況がよくなった未来が想像されているのだろうと思う。それに向かって、部下からも民衆からも不信感を抱かれても進み続けているとしたら。
誰にも頼れなくなるのは、当然だ。不安定な足場の上で、助けてくれる者はいない。
正しさも間違いも、彼女は全てを理解したうえで進んでいる。勿論それが免罪符になるわけではないけれど、お姫様なりの正義が、大義があるのだと信じたい。
もしそんな彼女を支えられるとしたら、きっとここにいる巫女様なのだろうと、なんとなく思う。
根拠も何もない、ただの勘だけど。
お姫様の為に寂しそうな顔を浮かべることのできる彼女ならと。
「巫女様とお姫様って、昔から知り合いなんですか? どことなーく、言葉の端々から親しみが見える気がするんですけど」
「鋭いですね、葉雪さんは。……私とエトちゃんは同じ学校に通っていたんです。十二年間、ほとんど毎日顔を合わせていました。今はもう、ろくに会話もできない関係になってしまいましたけれど」
「……エトちゃんて。友達だったん――」
「――葉雪!!」
「ふぇ?」
脈絡もなく、多救が私を抱きしめる。いやいやいやいや、愛情表現を直接的に示してくれるのは嬉しい限りだけど、もう少し周りの視線を気にしてほしい――とか、悠長なことは言わない。
恥ずかしがりやな多救が周囲の注目を集めるにも関わらず、大声で叫んで私を抱きしめたのには、絶対に理由がある。
たとえば、そう。
私を守るためとか――。
「──っ! うっ……、ぐぅ……」
「……多救?」
力の抜けた多救の身体が地面に崩れ落ちる。私の全身に僅かな温もりを残して。
制服に鮮やかな赤色が滲む。多救の背中には、まるでハリネズミの様に尖った針が――氷でできた刃が突き刺さっていた。




