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13,六人寄れば頭痛の種

 当然の流れとして、あの後多救に頭を叩かれた私は意識を取り戻していた。別に気絶していたわけではないけど、周りの声が届かなくなるほどの精神的トリップだ。気絶していたのと大して変わらない。

 いや、変わるな。気絶の方が静かなだけまだましだ。クネクネニヤニヤはない。女子としてない。

 多救が普段全くデレてくれないからどうも私はそういう成分に餓えている気がする。他の人からお似合いですねと言われることもないし。

 多救は見た目的には一般的だ。多少髪が長くてお洒落に興味がないが、まあ一般的。磨けばそれなりに光るとは思うけど、多救はそれを許さない。

 服に金? 髪に金? そんなことより本屋行こうぜ──笑うしかなかった。まあ、そんな多救も嫌いではない。というか、それこそが不和多救なのだろう。

 ある日急にお洒落に目覚め、陽キャになったら私は多救と距離を置くと思う。

 今みたいな多救だから、きっと私は一緒にいるのだ。誰に対しても平等で、内的な要素でしか人を判断しない多救だから。

 まあ、整ってるはずの私の外見が一切考慮されないのも少し悔しいけど。何のための自分磨きなのか。


「行末葉雪です。多救とは幼馴染みで、ついさっきのは浮かれてしまったゆえの醜態というか……忘れてください。何はともあれ、宜しくお願いします、ギルさん」

「あれを忘れろってのは結構無茶だと思うんだがなあ。ま、仲の良さと人の良さは十二分に伝わったから、宜しくすることに異論はないさ。宜しくな、葉雪ちゃん」

「ギルセット、そう簡単に許してしまうのは感心しません。以前から何事もまず疑って入れと言っているはずです。もしこの二人が突然暴れだしたらお前はどう責任を取るつもりなんですか」

「あ? ああ、そんときゃあお前と結婚でもなんでもしてやるよ」

「何の責任の話をしているんですかお前は! 脈絡も無ければ何の事実もないでしょうが! というかその言い方だと私との結婚が罰じゃないですか! そもそも責任を取るような事態にするなと言っているんですよ! 分かってるんですかお前は!」

「あー、うるせえうるせえ。年下の子供二人くらいなら暴れられても俺一人でどうにかできるっつうの。女神さんのスキル持ってるとはいえ、さっきこっちに来たばっかなんだろ?」

「そうですよ、ハル。そもそもお二人がそんな性格だったら私はここまで連れてきていません。エトランゼル様の説得大変だったんですから。お小言より、まず私を労ってください」

「はいはいお疲れ様でした巫女様! 貴女は本当に厄介を抱え込むのが大好きですね!」

「あ、あの、ハル。その辺にしておいた方がいいですよぅ。後で我に帰って頭抱えるほど後悔するのは自分なんですからぁ……」

「私を心配してくれるなら少しは巫女様の制御を頑張ってくださいよお前も! いつもいつもその場の雰囲気に流されてれば良いと思ってたら大間違いですからね!」

「うぅ……、巫女様ぁ……」

「おー、よしよし、大丈夫ですからねー。こら、ハル。レナが泣いちゃったじゃないですか。どうするんですか責任とってくださいよー」

「そうだぞー、責任取れー」

「うっさい!」


 なんと言うか、カオスだった。黙って立ってれば絵画のようにすら見える四人だから、それはなおさらだ。人の印象は見た目じゃ判断できないなあとあらためて思う。

 多救は橋の方からこちらを眺めている兵士さん達を見て苦い顔をしている。まあ多分恥ずかしいんだろう。多救で目立つの尋常じゃないくらい嫌いだから。

 恥ずかしい人を見るのも恥ずかしいという筋金入りの恥ずかしがりやだ。アニメやら漫画やらドラマやらも、恥ずかしい感じのシーンはスキップするのだから。

 ただ、その兵士さん達の表情は、呆れてしまっているというよりはまたかというような微笑ましい感じの苦笑だ。本当に城内の意思って統一されてないんだなって感じ。

 『鎮魂の社』に悪印象を持ってる人の方が少ない。比べ物にならない。

 お姫様に最初に報告した兵士さんも、三本柱の横暴な振る舞いとか言ってたけど、そんなこと考えてる兵士さんは私が盗聴してる限り一人もいない。

 ああ、あれもしかして、お姫様の機嫌を損ねないように言っただけか?

 というか今更だけど城の上層部の人達って馬鹿なのかな。今のところ私が持ってる情報で判断するなら、どう考えたって『鎮魂の社』と仲良くした方が良いと思うんだけど。

 何か、仲良く出来ない理由があるのはなんとなく察せるけど、国の危機に変なプライドを大事にしてるからいつまで経っても価値も負けもしない不毛な争いが続いているのではなかろうかと思ってしまう。

 まあ、別に戦争があと六十六年続こうが、私達には一切関係のない話だけれど。


「あのー、できればお二人の名前もお聞きしたいんですけどー……」

「……こほん。変な所をお見せしました。私はハルデ・マーチ・スクリーンクリアです。聞いていたでしょうが、基本的にハルと呼ばれています。まあ、好きに呼んでください」

「そこでもうちょい積極的に行けば少しは可愛げあるのになあ」

「余計な口を開くな。お前は自己紹介が既に終わっているのだから黙っていなさい」

「あはは……、宜しくお願いします、ハルさん」

「……え、ええ。宜しく、葉雪」

「うふふぅ、ハルちゃん照れてますねぇ。ハルさんなんて呼んでくれる人いないですもんねぇ」

「お前たちは私をどういうキャラにしたいのですか。いい加減にしておいた方が身のためですよ」

「うぅ……、ハルちゃんが怖いので次は私が名乗りますぅ……。初めましてぇ、葉雪さん、多救さん。私はレナトリウム・エイプリル・テキストデックスと言います。主に巫女様の付添人をしています……、とは言っても、今日みたいにおいて行かれること多いんですけどねぇ……」

「今日はしょうがねえだろうが。下手に俺たち四人で入って行ったりしたら、また何言われるか分かったもんじゃねえんだから」

「ギルセットの味方というわけではありませんが、私もそれには同意です。少なくとも、エトランゼル様が城内にいるときは私達はここに待機すべきです」

「分かってはいるんです……、ですけどぉ……」

「ま、まあ、何はともあれ、宜しくお願いします、レナさん」

「はい、宜しくお願いしますねぇ。……多救さん?」

「え? あ、は、はい。なんでしょうか?」


 急に話しかけられた多救がコミュ障のようにどもる。どうせいつもみたいに勝手に自分を蚊帳の外に置いてたんだろうけど、今回ばかりはそうはいかないのだ。いつもみたいな普通の人付き合いだったら私に任せてもらっても構わなかったけど、これはそうではない。

 私達はこれからこの人達にお世話になるのだ。短期にしても長期にしても。

 であるなら、ここで少しでも交流して仲を深めて欲しい。幸いなことに多救は人と話すのが苦手ではない。むしろ得意分野に入るだろう。ただ少し口調が素っ気ないから、会話が長続きしないだけだ。

 今の会話から得た印象からして、この三人は少し返答が素っ気ないからと言ってすぐに会話を止めるような人間ではない。もちろん、数分前に合ったばかりの人達の性格など分かるはずも無いけど、少なくとも今私達に見せている性格ならば、そこまで冷たくあしらうこともないだろう。

 多救が私に助けを求めるような視線を向けるけれど、私はそれに太陽のような笑顔を返した。

 ちなみにこの笑顔は私達の間では、手が届かないほど遠い距離にある笑顔、つまり、助けられないよ、ということを伝える笑顔として使われていた。

 愛情は込めたから、それで我慢して。


「いえ、先程から静かだったので……大丈夫ですか?」

「す、すみません。少し呆けてて。いや、こっちの世界に来た疲れが出ちゃったのかなーなんて……」

「――た、大変です! 巫女様! 早く帰りましょう! 多救さんに温かい布団とお食事をぉ!」

「ま、待って! 大袈裟! 大袈裟ですから! ちょっ、ギルさん!? この人いつもこんな感じですか!?」

「あぁ、まあ、良い奴なんだが……、少し善意が暴走しがちというか、自己完結型と言うか……」

「最高に厄介なんですけど!?」

「心配しないでください多救さん! 困っている人を助けることこそが、私達『鎮魂の社』の本懐です! 添い寝と膝枕どっちがいいですか!」

「なんで!? なんでいきなりそんな話に!?」

「疲れたときは人肌に触れるのが一番です! 私知ってるんですから! 多救さんはどっちの方が気持ちよく寝れますか!?」

「どっちとも寝れないと思うんですけど!? 睨むな葉雪! 俺が何した!」

「ご安心ください! これでも私は最高の抱き心地だと二日に一回は褒められているのです! 身体の柔らかさに関しては自信があります! なんて言ったってハルちゃんのお墨付きですから!」

「黙りなさい! なぜこんなところで私まで恥を晒されないといけないんですか! それだと私が夜な夜なお前の布団に潜り込んでいるようではないですか!」

「巫女様、皆さん仲睦まじいですね」

「はい、喜ばしいことです。とはいえ、まさか同衾までしていたとは知りませんでしたが……」

「いかがわしい誤解をしないでくれますか!? 二日に一回潜り込んでくるのはレナの方です! そして抱き着いてくるのもレナです! 暑くて苦しい思いをしているのは私です!」

「遠慮なんて必要ありません! 皆仲良く一緒の布団で寝る! そして皆が健全に健康になる! これこそが真の世界平和なのですから!」

「それ健康かもしれねえけど健全じゃなくねえか?」

「素晴らしいですレナさん! 私もお布団大好きです! 早速今日から一緒に寝ましょう!」

「はい! 葉雪さんと一緒に寝れば明日には世界が平和になってるかもしれません! さあ寝ましょう!」

「あー、もう! 俺そんなに変なこと言ったかなあ!? これ何の話してんの!?」

「……多救さん、多救さん」

「え、巫女様? なんでしょう……?」

「レナも葉雪さんも取られちゃったことですし、私が添い寝してあげましょうか? 身長は低くて、肉もあまりないですが、抱き枕くらいにはなれますよ?」

「は?」

「巫女様!? いきなり何を仰ってるんですか!? 正気ですか!? 多救さんまさか了承しませんよね!?」

「うええ!? しませんしません! だからそんなに睨まないでください!」

「そんなに心配するなよハル。お前があぶれることはないぜ。何故なら俺がいるからな」

「黙っていなさい軟派男! 巫女様の貞操の危機ですよ! あとお前と同じ布団で寝るくらいなら私は野宿します!」

「――俺が悪かったから早く城出よおぉーーー!?」


 多救の絶叫が城門に響き渡る。

 うん、ちょっと悪乗りが過ぎたかもしれない。

 何はともあれ、多救と添い寝するのは私である。

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