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11,高い所の馬鹿は厄介

「ここまで徒歩で来たんですか。てっきり何か乗り物に乗って来たのかと思いました」

「そうした方が対外的に良いとは分かっているんですけどね。馬車とかに乗るとどうしても迂回してこなければいけないんですよ。倍近い時間がかかってしまうので、なるべく乗らないようにしているんです。健康にも悪いですし」

「それにしたって、巫女様って結構偉い感じの立場なんじゃないんですか? 本当はもっと護衛を固めなくちゃいけないような」

「私は別にそんな大それたものではありません。ただ単に、私の先祖が特別だっただけの話です。その血を受け継ぐ私が、今も尚、特別扱いされているという、それだけの話です」

「……代々『鎮魂の社』の長、っていうことですか。……『鎮魂の社』って何年前からあるんですか?」

「私が四十二代目だと聞いています。大体そろそろ千年目に突入する頃かと」

「…………千」


 城から出るために廊下を歩いている私達は、そんな風に雑談をしていた。雑談と言っても情報収集が主な目的なのは間違いないんだけど、それを理解しているからか、巫女様はまあすんなりと何でも話してくれる。

 隠すことなんてないという疚しさの無さが、その素直さを生んでいるのか。あるいは、この正直さの裏にはなにかしらの企みがあるのか。

 まあ、護衛の一人もいない、たった三人で歩いている現状で、そこまで何かを企む必要もないとは思うのだけれど。現状、私達は共犯者なわけで、そういう意味では『鎮魂の社』に所属している人員とかよりも、ある意味では深い関係性になっている。

 初対面からまだ二時間も経っていないとはいえ。

 私は元から他人の懐に入っていくのが上手いタイプだけれど、どうも巫女様はそういう感じではない。壁がないのだ。誰に対しても。招かれている気さえする。こっちが入り込んでやったぞと言っていても実は、最初から拒む気などなかったみたいな感じ。

 誰に対しても一人相撲をさせる性格というと、少し人聞きが悪いかな。

 それにしても千年とは。鶴が死ぬくらいの長さだ。私たちなんて三代も遡れば何をしてたかなんて知らないというのに、この巫女様ときたら四十一代前の職業まで遡れるのだ。凄い。

 宗教団体の長を職業と言えるのかは謎だけど。


「歴史あるというか由緒正しきというか……、私みたいな小市民からするともう凄いっていう言葉しか出ないです。語彙力が死にます」

「ご、語彙力が……? ……ですが、そこまで立派なものではありません。今でこそ、女神様の存在は確かな保証と共に浸透していますが、二百年ほど前までは『鎮魂の社』は崩壊寸前でしたから」

「崩壊って、穏やかじゃないですね。女神様がいるなら、皆さんこぞって『鎮魂の社』に入りたがったのでは?」

「二百年前は、戦争と強奪の時代でした。今とは違い、様々な場所に国が乱立し、資源や労働力を得るために他国に攻めいるということが日常的に起こっていた。誰もがその日生きるのに精一杯で、なにかを信じることなど忘れてしまう。そんな時代だったそうです」

「……今は、平和なんですか?」

「平和……、争う相手が変わったことを平和と呼ぶなら、平和なのでしょうね」


 そんな風に皮肉の効いた言葉を口にする巫女様は、どこか悲しげではあった。それは多分、心の底から戦争というものを忌避しているゆえだったと思う。

 さっき、城の兵士さんは、事実をただ話すように女神様の存在を語った。浸透したのだ。二百年で、女神様の存在は確実なものとなった。

 それが今、戦争のためにお姫様に利用されている。異世界から私達三十二名を呼び出し、女神様の力を削ぎ落とした。

 ……まさか、そっちが狙い?

 お姫様の本当の目的は私達三十二名ではなく、王家と関係なく、巨大な組織に育ちつつある『鎮魂の社』の力を削ることにあった?

 あり得なくは、ない。ただでさえ、現状の城内は一枚岩でなくなっている。何回か『交信』を使って兵士さんの会話を盗聴しているけれど、それは明らかだ。

 お姫様が何を考えているのか、何故そんなことを命令するのかが分かっていない大多数は、その不信感を徐々に抑えきれなくなってきている。

 軍師が自分の考えを漏らすわけに行かないのは理解するけど、その結果信用を失ったんじゃ本末転倒もいいところだ。恐らく本人もそれは理解している。

 でも、じゃあ何故、十六名を見殺しにしたのか。

 あの一件で兵士さん方の疑心は膨れ上がっているし、あの軍師姫は、信頼をかつてないほどに失っている。理由があるはずなのだ。多くの信頼と僅かな実益を天秤にかけ、後者を選びとった理由が。


「……お姫様との交渉は、どんな感じでしたか?」

「……言い難いですが、非常に簡単に済みました。私からお二人のスキルに対する保証があるとはいえ、あそこまで興味も執着もないというのは、薄情を通り越しているように感じます」


 まあ、私と多救はその会話をがっつり聞いていたから全部知ってるけど。


『疑っていらしたお二人のスキルに関しては私が保証します。虚偽はありませんでした。それを信じるか、信じないかはエトランゼル様に任せますが』

『疑いませんよ。貴女の言葉を疑えば、指標が崩れてしまいます。信用のおける言葉には、それに匹敵する無条件の信頼が不可欠です』

『ありがたきお言葉、慎んでお受け取りします。そんなエトランゼル様に、一つお願い事があるのです』

『お願い? なんですか?』

『不和多救様と行末葉雪様を、「鎮魂の社」に迎え入れたいのです』

『……何故です? 何か言われましたか?』

『ええ。戦うことの出来ない、ただ城に籠るしか出来ない立場は嫌だと。ただここにいるくらいならば、何らかの形で誰かの役に立ちたいと言われました。ですから、私の方からお二人に提案したのです。「鎮魂の社」に来ないかと。戦うことが出来なくとも、誰かの役に立ちたいと思うのであれば、「鎮魂の社」への加入条件は十分に満たしていますので』

『二人がその誘いを快諾したと?』

『はい。エトランゼル様としても、悪い話ではないでしょう?』

『ええ。悪い話ではありません。人数が減れば、その分、他の方に様々な労力を割くことができます。ですが、私一人の意見では──』

『貴女一人の意見で十分でしょう? 私達が何も知らないと思ったら大間違いですよ?』

『……貴女があの二人にそこまで執心する理由は分かりませんが、分かりました。エトランゼル・デレ・ジャムクラウンの名に於いて、不和多救と行末葉雪の管理に関する全権を、シャン・ジューン・フロストメイデンに譲渡します。……これでよろしいですか?』

『はい、ありがとうございます。では、あの二人は連れて帰りますので。構いませんよね?』

『お好きになさってください。私にはもう、あの二人を拘束する権限はありませんので』

『元々無かったのでは?』

『…………』

『ふふ、それでは、また今度お茶でもしましょうね、エトちゃん』

『……またいつか、ね』


 どうやら交渉とか駆け引きとかの分野では、巫女様の方が一枚上手らしい。最終的にエトちゃんとかいう気安いにも限度がある呼び方してたし。

 なに、友達なの? お姫様もまた今度とか言ってるし。

 城の人達と『鎮魂の社』の仲が良くないのはもうどこを見ても明らかなのに、なんでトップ同士は仲が良いの。めちゃくちゃだよ。

 別に仲が良くて悪いことはないけど、友好な関係を築いている割には、組織同士の仲を改善する気が無さすぎる。巫女様がもう少し以前から頑張ってくれてれば十六人の犠牲を出さずに済んだのではとすら思ってしまう。

 それにどのくらいの努力が必要かを考えれば、軽々しく巫女様にそんなこと言えるわけもないけど。

 ただ、仲良しだとさっきの話に途端に信憑性がなくなる。『鎮魂の社』の力を削ぐのが目的という仮説。

 さっきの会話だと話題逸らされちゃったけど、そもそも何で私達三十二名を呼んだのかは未だ不明のままなんだよね。

 その辺、あえて伏せられてる気がする。言いたくない理由があるのかもね。疑問が多すぎる。大渋滞だよ。

 多救がどう考えてるのかと思って後ろ見てみれば、いかにも何も聞いてなかったみたいな顔してるし。


「そういえば、さっきお姫様のこと、戦うために育てられたって言ってましたよね? それってどういうことですか?」

「魔族──という呼び名は好きじゃありませんが、彼らとの戦争は六十六年前に始まりました。そしてそれから二十年が経ち、終わらず、進まない戦況に業を煮やした方々は、自分の子供達に戦争に特化した教育を受けさせる方針を固めたのです。それから四十六年が経っても、未だにその方針は続いている」

「お姫様は、その教育方針で育てられたっていうことですか。軍師という指向性をもって」

「はい。エトランゼル様の軍師としての才能は、間違いなく六十六年の中で随一です。現に彼女は、十歳からの七年間で、二十五名の魔族を最小限の犠牲で屠っています」

「……六十六年間戦争が続いてるということは、魔族の人達はこちら側に害を及ぼすことが少ないんですか? それとも、なんとか凌いでいるということですか?」

「直接的な戦闘に発展することは限りなく少ないです。ただ、お互いに和解が出来ない関係性になってしまった。その状況を、便宜上戦争と呼称しているのです」

「……あんまり言いたくないんですけど、それお姫様が向こうに喧嘩売ってるだけなのでは?」

「かも、しれません。誰も指摘できない。誰も止められない。彼女の歩き方は、そういうものです」


 そりゃあ王様がお姫様の傀儡になってるし、実質この国の最高権力者だもんね。止められるわけない。例え向こうに戦争の意思がなくとも、開戦の火蓋を切ったのはこちら側だ。

 私達までこの国と一括りにされるのは大変不本意だけれど、召喚されてしまったものは仕方ない。

 本当は余計な返事を教室でしてくれやがったクラスメイト達に拳の一つでも入れてきたかったのだけれど、城を出ていくという報告もしたくなかったし、怒りはなんとか押し殺した。

 というかお姫様十七歳だったんだ。私と一歳しか変わらないよ。ちなみに私の誕生日は八月二日です。誰にも教えないから毎年多救と身内からしか祝ってもらってない。

 クラスメイトからのおめでとうなんていらないけどね。

 というか。


「あの、いつになったら城の外に出れるんですか? もうかれこれ十分くらい歩いてません? 階段を十回くらい降りた気がするんですけど?」

「まだ後十分くらい歩きますよ。このお城、頭悪いくらい広いですから。エトランゼル様のお父様、頭悪かったんです」


 魔法で洗脳されても仕方無いかなと思った。

 え、私達さっきまで何階にいたの?

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