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五月二十日。
大学一年生の山代奏は、いつものように同居人に叩き起こされていた。
「奏、起きろ」
鋭い目付き、肩まで伸びた黒髪のポニーテール。モデル並みの体型。
そして、組まれた腕に乗る豊満な胸。
だが、その風貌は、完全に元ヤンである。
山代楓。奏の姉である。
元ヤンと誤解されるほど口が悪く、学生時代は週に何度も県下で呼び出されていた。
だが、イラストの才能があり、数々のコンテストで入賞。
現在、二十五歳。
本業イラストレーター、副業小説家。
問題は、怒らせるとシャレにならない。
奏は布団を被り呟く。
「あと二分……」
「あまり手を煩わせるな」
粗い口調。だが、怒りはない。
酷い日は、真剣が首に添えられたまま起こされる。
実際に振り下ろされたこともある。
ベッドの無数の穴がその証拠。
「寝かして……」
「私にも仕事がある。一度で起きろ、ゴミ童貞」
「だから彼氏できないんだ」
「ほう……。起きないなら爪を?いで関節ごとに追ってやる。三──」
カウントが始まると、奏は飛び起きた。
「あ、おはざます」
「おそよう、体のタンパク質を精子製造にしか使えない弟よ」
「朝からひどい言われようだな」
「的確だろ?」
「イカれてんだろうが!」
「馬鹿のように“ケモミミ少女”がどうとか騒いでいたやつが言える立場か。さっさと大学行け。学生の本文は勉強だ」
勉強などしてこなかった人の言葉を「はいはい」と流す。
「いつも何かしら罵倒しないと死ぬ呪いでもあんのか!」
「いつから楯突くようになった、奏?」
じりじりと近づく楓の手には、いつの間にか包丁が握られていた。
「あ、さーせん……」
「それでいい」
「性格以外は完璧なんだよなぁ……」
「……」
聞こえないふりをしているが、楓の頬は赤く染まっていた。
「楓、朝食はいいや。時間がヤバい」
家を出ないといけない時計は七時半を過ぎていた。
「なら、カロリーブロック持ってけ。玄関の段ボールの中にある」
「うっす」
これが山代奏のモーニングルーティン。




