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哲生の秘密

 哲生の希望で朔耶にも来てもらった。巻き込んでしまった以上、朔耶には聞く権利があるのだが何故か廃工場に赴いた時から意気投合したらしい純平までついて来た。


「なんで純平がいんのよ。」


 紫苑が不満気に漏らす。


「俺、生きてたら朔耶と同い年みたいでさぁ。色々話してたら気が合っちゃって。今、朔耶んとこにお世話になってんの。」

「朔耶さん。友達は選んだ方がいいよ。」


 朔耶はふふっ。と笑みを浮かべる。


「そうだ、紹介するね。うちのお母さん。ママ、朔耶さんだよ。」


 初めましてと挨拶を交わす。桜子はまじまじと朔耶を見ると、先見の時に倒れていたのは彼だったような気がすると言うので、先に桜子の視た未来の話をした。朔耶は眉間を挟むように両手を当てると『そうですか。』と小さく囁いた。純平の顔が歪む。


「……決して気分のいい話ではないが、覚悟して聞いて欲しい。特に桜子、お前にとっても辛い話になるだろうから。」

「あんなもの視せられてこれ以上辛い事なんてある? そう思わない!?」

「うぇ!? そ、そうですね!」


 急に話を振られて挙動がおかしくなる菜々子。存在を認めてもらえたのはありがたいが、今じゃない感が半端じゃない。


「まずは【神の(ほむら)】について話そう。」


【神の焔】は哲生が43歳の時、一回り下の遠見 静乃と再婚した後、教祖として運営していた宗教団体だった。先代の静乃の叔母は子供を出産した後、産後の肥立ちが悪く他界した。しばらくは叔母の夫が運営していたが、その夫も病に倒れ静乃が引継いだ。哲生と結婚するまで静乃は教祖代理として、神の子と呼ばれる静乃よりも5歳年上の従姉妹の(しおり)と2人で暮らしていた。


 元々、【神の焔】は遠見家の直系の娘が継承し、その伴侶となった夫が教祖として運営して来た。そして代々(まつ)ってきたのが金眼の子供だった。遠見の直系の女は必ず1人、金色の眼を持つ子供を産む。静乃の話では初代当主の時代、姉と共に強力な怨念の塊の浄化を請け負った。しかし怨念の塊は既に魔物となっており初代の霊力でも浄化する事が難しかった。厳しい戦いの末、初代の姉が身の内に魔物を取り込み何とか封印に成功したのだがその時、姉は妊娠している事に気づいていなかった。産まれた子供は金色の眼をしていた。姉ではなく魔物は子に封印されてしまったのだ。母となった姉は祀り立てる事で魔物を鎮め、金眼の子供を守り育てるために【神の焔】という宗教団体を立ち上げ、山中に施設を建設した。


 施設では金眼の子供と両親が暮らし、信者は通いで訪ねて来た。金眼の子供は施設の地下で隠すように育てられた。それ以外は大切に扱われ、信者達には神の子として信仰の対象とされた。栞も地下にある自室から出てくる事は少なく、時折姿を見せる程度だったが不自由のない暮らしをしていた。元来、感情の起伏の薄い質だったが不満はなさそうだった。魔物を宿した肉体はあくまで人間のそれであるため、器となってしまった者達の寿命はそう長くない事が多かった。金眼の子供が天寿を全うすると同時に、新たな金眼の子供が誕生するというサイクルが出来ていた。


 結婚して数年後、静乃が懐妊した。哲生は前妻の元に残して来た子供達や封印の器となる事を思うと子供を作る事に迷いがあったが、遠見の女として魔物を鎮める子を生す事に、大義を抱いている静乃を無下にも出来なかった。いよいよ出産が近づいて来ると静乃は体調を崩す事が増え始めた。すると静乃の兄が実家で面倒を見ると迎えに来た。静乃の母親は既に亡くなっているが、出産経験のある兄嫁が近くにいた方がいいだろうという言葉に納得してしまった事を、哲生はすぐに後悔する事になった。

 予定日まで1ヶ月程を残したある日、突然静乃が産れたばかりの赤ん坊を連れ帰って来た。顔色が悪く疲弊している静乃を抱き止める。


「騙されてた……。」


 静乃の掠れた声に心臓が脈打つ。


「騙された?」

「父も兄も私を。みんな騙されてた……。金眼の子供は、違ったの。魔物を鎮めるためじゃなかった。なんて恐ろしい事を。あれは魔物そのものなのよ。封印じゃなかった。子供は当主が魔物を使役するために差し出された生贄だった。遠見家は呪詛師の家系だったのよ! この子も魔物になってしまった!!」


 慟哭する静乃が語った真実に哲生は吐き気を覚えた。我が子が生贄にされた。しかも呪詛を仕掛けるための道具にされるなど、到底受け入れられない。真相を知った静乃は魔物となった我が子が次代の当主に使役されてしまう前に隙を突いて逃げて来た。


「あなた……。お願いよ。兄にこの子を、道具になんてさせないで。」


 真っ直ぐに哲生を射抜く静乃の瞳には、はっきりと覚悟の色が浮いていた。腹を括らねばならない。

 哲生は静乃と赤ん坊を連れて地下へと向かった。当代の金眼の子供である栞の様子も確認しておきたかった。地下にある部屋の扉を開けると栞が床に倒れているのが見えた。駆け寄って抱き起すと既に息絶えていた。静乃の兄が子供を奪いに来るのも時間の問題だろう。哲生が魔物を浄化しようと振り返った時だった。赤ん坊が激しく泣き声を上げた。静乃の肩が跳ね上がる。哲生は視線を泳がせながらも揺らぐ決意を何とか押し留めた。謡うように呪文を唱える。赤ん坊の泣き声が更に激しく響く。


 ほんの一瞬。


 静乃が戸惑いを見せた瞬間、赤ん坊の目が大きく見開き金色の眼がギラリと光った。静乃が離れた場所で横たわっているのが視界の端に映る。魔物の放った霊力で吹き飛ばされた。小さな呻き声が聞こえ哲生が安堵したのも束の間、目の前には金眼の赤ん坊が哲生を威嚇するように宙に浮かんでいた。『おぉぉ』と低い唸り声を上げるそれは凄まじい殺気を放っている。霊圧で肌が引き裂かれ血が流れる。流れ落ちた血が目に入り隙が出来た瞬間を魔物は見逃さなかった。


「不味い!!」


 魔物の前に飛び出したのは静乃だった。抱きかかえ霊力で必死に魔物を抑え込む。静乃の体が赤く染まって行く。


「早く!!」


 静乃が叫ぶ。哲生は手印(しゅいん)を組むとありったけの霊力を放った。大きな唸り声を上げ抵抗する魔物を静乃は決して離さなかった。どれ程の時間が経っただろうか。魔物の声が止むと、赤ん坊の体は真っ黒に焼け焦げ胎児に戻ったかのような恰好をしていた。封印するだけで精一杯だった。


「静乃!」


 駆け寄ると静乃の体を抱き起す。静乃の息は浅く哲生が見えていないようだった。『すまない』と耳元で呟く哲生に小さく『ありがとう』と告げると、そのまま息を引き取った。

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