はじめての冒険者ギルド
ローズウッドさんの言っていたクエストボードを確認してみると、沢山のクエストが貼り出してあった。
雑草抜きと言った簡単な仕事から、収穫の手伝い等幅広く農業関係に関わる依頼が見える。
……聞いたことのない名前ばっかり。
野菜なのか、果物なのか。それさえもわからないけど、この未知の農業に惹かれているのは、紛れもない事実だった。
「ラルシアさ〜ん!!お待たせいたしました!こちらが農業者ギルドのカードになります!うちは冒険者ギルドと違ってランク分けとかは無いので、受けたいクエストは何でも受けられますよ〜!
時々冒険者ギルドの方にも同じ依頼が出されていたりするので、早い者勝ちになってしまう時もあるんですけどね〜。さて、ラルシアさん。今日はこれからどうします??クエスト受注されますか?」
「ん〜……。実は私、自分の畑とか持っていないんです。畑を作るか借りるかしなきゃいけないんですけど、その初期費用の見積もりをして頂きたいなと思いまして」
「ふむふむ。因みに、畑のサイズはどれくらいをご希望ですか?大規模なサイズの畑から家庭農園サイズの畑まで色々とご相談に乗れますよ。お家の近くに作るのであれば土の状態なども見て、それでお値段も多少前後するかと思われます」
サイズ……か。家庭菜園サイズの畑だったら、あの庭に1個あっても邪魔にはならないよね。知識や資金もないうちに大きな畑を持つのも怖いし、まずは家庭菜園サイズの畑で色々と試していかないと……
「家庭菜園サイズの畑が嬉しいのですが、お金はどれくらいかかりますか?」
「そうですね。家庭菜園サイズなら、初心者セット込みで金貨1枚で手配出来ますよ。初心者セットとは、農業に必要な道具一式、育てやすい野菜の種などが付いた超お得商品です。道具を持っていないなら、ご一緒に揃えて見てはいかがですか?」
金貨1枚。これで1ヶ月分の生活費が飛ぶと考えると正直懐が痛いけど、初期投資にお金がかかるのはわかっていた。
むしろ、金貨1枚でここまでしてもらえるなら十分なのかも知れない。
「ありがとうございます。それじゃあ、家庭菜園サイズの畑を一つと初心者セット、お願いします」
「かしこまりました!畑にする場所は先程書かれていた住所の一角でお間違い無いでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「それでは後日人を手配しますね。代金はその時にお支払いください!また、何かわからないこと等があればいつでも農業者ギルドへお立ち寄りくださいね。ここでは育てた野菜などの買取も行っております。ぜひご利用ください!」
少ない数でも買い取ってもらえるのは嬉しいなあ。最初は大量生産できないし、少しでもお金になるのは有難い。
「ありがとうございます。……ちなみに、なんですけど」
私は、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「はい!如何されました?」
「実はですね、冒険者ギルドにも登録しておきたかったんですけど、ギルドの掛け持ち禁止とかっていうルールはありますか?」
「ああ!なるほど!二つまでなら掛け持ちは自由ですよ。ただ、それ以上の掛け持ちも出来なくはないのですが、少し制限をかけられたりしてしまいます。
ギルドはこの国には冒険者ギルドを始めとして、農業者ギルド、商人ギルド、錬金術ギルドの4つが存在します。商人や錬金術のスキルがない場合、冒険者ギルドに登録するのが無難だと思いますよ!」
最初の二つは掛け持ち自由なんだ。商人や錬金術師になるつもりはないし、一安心。
「ありがとうございます!これで安心して登録に行けます」
「いえいえ。他にも何か気になることがあればいつでも聞いてくださいね!それでは、私はカウンターの方に戻ろうと思います。明日、楽しみにしてますよ〜!」
ローズウッドさんは、そう言って手を振りながら受付カウンターの中へ戻っていく。挨拶をしながら、私は農業者ギルドを出た。
雲ひとつない青い空が、太陽をより一層際立たせている。
時折吹く涼しい風は、春の訪れを知らせているようだった。
ウエストポーチからエステルの書を取り出し、冒険者ギルドの場所を再度確認する。農業者ギルドからはそう離れていないので、通いやすい。
私は、冒険者ギルドに向かって歩き出した。
これから行く冒険者ギルドの名前は
【エステル・プティ・エンジュ】
最初のエステルという文字は国に所属していることを表す意味合いがあるらしく、正規冒険者ギルドには必ず国の名前が入れられている。
逆を言ってしまえば、正規冒険者ギルド以外がこの国の名前を語るのは、大変な罰の対象になるという事だ。
色々と冒険者ギルドについて考えているうちに、目的の場所に到達した様だ。
農業者ギルドよりも大きな建物に、豪華な外観。対になった二つの大きな天使像が、剣と杖を持ち静かに瞼を閉じている。
他にも至る所に天使のレリーフが組み込まれているのを見るあたり、この冒険者ギルドの象徴は天使なんだと思う。
深く深呼吸をして、ドアを開ける。農業者ギルドよりも入るのに緊張するのは、何故だろう。
ドアを開けると、まず目に入ってきたのは大きなロビー。壁際にはソファやテーブルが並べられ、目の前には複数のカウンターが並んでいる。農業者ギルドよりも人の数が多く、屈強な身体を持ち大剣を背中に抱える戦士や、深いローブに身を包んだ魔法使いの様な人など、本当に様々な人がいた。
「いらっしゃいませ。こちらは冒険者ギルド、エステル・プティ・エンジュでございます。見かけない方ですが、冒険者ギルドをご利用になるのは初めてですか?」
入口の近くにいた、黒いスーツを着た小柄な男性が話しかけてくる。60代くらいだろうか。穏やかな顔つきをしており、とても優しそうな人だ。
「はい。ギルドに登録したくて来たのですが……」
「畏まりました。私、プティ・エンジュ案内役のゴゴット・フォータスと申します。何かお困りのことがあれば、何なりとお申し付けください。冒険者受付カウンターは、向かって左側のカウンターになります」
ゴゴットさんが示した先は、栗色の髪の毛の女性が立っているカウンターだった。
「ありがとうございます。早速登録してこようと思います」
ゴゴットさんに挨拶をして、受付カウンターへ向かう。幸い人は並んでいないので、待ち時間もなさそうだ。
「いらっしゃいませ。こちらはプティ・エンジュ冒険者登録カウンターになります。本日は新規登録でお間違い無いでしょうか?」
「はい。新規登録でお願いします」
「畏まりました。それでは、アナスタンシア・マクシブが責任を持ってご案内致します。まずはこちらの用紙にご記入をお願い致します。代筆が必要な場合こちらで行うことも出来ますので、お申し付けください」
農業者ギルドのローズウッドさんと違い、淡々とした話し方をする女性だった。受付のお姉さんと言うのは、本来こちらの方が正しいのかもしれない。
ローズウッドさんが砕けすぎ……というのは、なんとなく察しました。
記入欄を、農業者ギルドで書いた様な個人情報等で埋めていく。
「できました」
「はい。それでは確認致しますので、身分証明書をお預かり致します。他にもギルドに所属している場合、そちらのギルドカードも提出してください」
ウエストポーチから、身分証明書と真新しい農業者ギルドのカードを手渡す。
「はい、お預かり致します。ありがとうございます。記入漏れなどもありませんので、次の手続きに移らせて頂きます。こちら、お返し致します」
すぐに帰ってきた二つのカードを、ウエストポーチにしまう。カードホルダーみたいなものはこの世界にないのだろうか。身分証明書、農業者ギルドカード、冒険者ギルドカード。今の時点で三つもカードがあると考えると、正直大事なものは纏めて保管しておきたい。
……ウエストポーチに入れてる時点で、無くすことはないんだけどね。
「それでは、ステータスとスキルの確認です。新規冒険者の方の実力をある程度把握しておく為、冒険者ギルドでは全てのステータス・スキルの開示をお願いしております。尚、こちらは個人情報にあたりますのでギルドから外部に公表する事は一切ございませんので、ご安心ください。それでは、ステータス・スキルの鑑定に移らせて頂きます。何か間違いがあれば訂正をお願いします」
そうか。初期登録時には鑑定を行ない、無謀なクエストを受注しないようにギルド側で管理されているんだ。
額に冷や汗が浮かぶ。私の最弱ステータスを見られるのは何も問題はない。むしろ優しい初心者用クエストを紹介してもらえそうで喜ばしい。
……でも。
あのスキルを見られるのは中々やばいんじゃないですか……?




