農業者ギルドで初めての友達
「……う、わぁ」
私がたどり着いた場所。言わずもがな、そこは農業者ギルドなのだが……。
あまり綺麗とは言いがたいが、大きな建物。その前に建つクワと鎌の交差したオブジェが、なんともシュールだった。
出入りしているのは、やっぱり年配の方が多いらしい。私みたいな女の子が来るのが珍しいのか、通りすがりに凄く見られて居心地が悪い。
こんな所で立っていても何も始まらない。勇気を振り絞って農業者ギルドの門を潜ると、中にいた大勢の人に注目されてしまった。
やばい、やばい。
なんかめっちゃ注目されてる……!!!
「そこの、小綺麗なお嬢ちゃん。こんな所に来るなんて物好きだねぇ」
クワを背に抱えた男性。
──40代くらいだろうか。
伸びた髭をこすりながら近づいて来るが、緊張して言葉が出ない。
「あっ……あの!!農業スキル……持ってまして……」
切れ切れに紡いだ言葉に、男性は一瞬驚いた顔をしながら、盛大に笑い出した。
「だっはははは!!!農業スキル持ちか!そりゃあ良い。若えのに感心だぜ?」
笑われた理由が分からなくて、思わず黙り込む。
「いやいや、お嬢ちゃんを馬鹿にして笑ってるわけじゃねえ。近頃の若い奴は、農業スキルなんて持ってたって農業者ギルドになんて来やしねえ。やれ冒険者ギルドだやれ魔獣だ〜ってみんな走って行っちまう。だからよぉ、おじさん嬉しかったんだよ。笑っちまってすまなかったな!」
そう謝りながら、男性はさらに笑い声をあげる。機嫌が良くてどうにも笑わずにはいられない。そんな気配さえ感じ取れる。
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺の名前はダンデ。ダンデ・マックフットだ。 こう見えても農業者ギルドじゃちょいとは名が知れてるもんで、困ったときゃあ俺の名前を出したら良い。さ、お嬢ちゃんの名前を教えてくれよ」
「ラルシアです。ラルシア・フローラ。最近この辺りに引っ越してきたばかりで、余り詳しくないんです。色々と教えていただけると嬉しいです」
「ほう。フローラ。花の女神の名を持つ少女が、農業界に降臨ってわけだね?だっはははは!!!いいじゃあねぇか、面白い!!俺が特別に、色々と教えてやらぁ!」
……花の女神の名前。彼がくれた名前にそんな意味があったなんて。
少し気恥ずかしい気分になり、鼻を軽く擦る。ダンデさんは少し豪快だけど優しそうだし、良い出だしをきれたかもしれない。
「さて、そう言えばだが。ラルシア、あんた農業スキルを持ってるっつったな?どのランクの農業スキルか、教えてもらっても構わねぇかい?」
「あっ……はい。確か上級農業スキルだったので、シルバーランクです」
「…な、なんだって……!?ラルシア、あんた!!何でそれを早く言わねぇんだ!!!いいか?農業スキルってのはな、特級、上級、中級、低級の4種類にランク分けされてんだ。
上級って言うと、上から2番目のランクでよ?この数百人出入りする農業者ギルドにも、あんまり数はいねぇんだぜ?だっはは!!!これは本当に、女神が来ちまったかもしれねぇなあ!!!」
ダンデさんのその声につられてか、農業者ギルドの人はオォオオ!!!と一斉に叫び出す。
正直呆気にとられてしまって、現状が理解できない。
「さぁて、騒いで悪かったな。まずは農業者ギルドに登録してもらわなきゃいけねぇ。おい!サリサ!この子の登録頼んだぜ!!俺は畑をいじってくらぁ」
ダンデさんはカウンターの奥にいた眼鏡をかけた女性に声をかけ、私の背中をバシッと叩いて笑いながら出て行った。
結構強い力で叩かれた気がするんだけど、元々少ないHPがさらに減っていそうで怖いです。
「えっと……ラルシアさん、ですよね?私、農業者ギルドの受付をしております。サリサ・ローズウッドです。よろしくお願い致します。早速ですが、こちらの用紙に記入をお願い致します。文字が書けない場合は代筆致しますので、お気軽にお申し付けください」
サリサ・ローズウッドと名乗った受付の女性。綺麗な金髪に豊満な胸に、少し尖った耳……。
明らかに、この人普通の人間じゃないよね……?
「あっ……!申し訳ありません。私、ハーフエルフという種族なんです。ハーフと言っても、混血という意味ではありませんよ?少し耳の短いタイプのエルフって言うだけで、他は何も変わりませんからね!因みに胸はハーフサイズではなくダブルサイズです!!」
ドォン!!という効果音がなりそうなくらい胸を突き出して、ローズウッドさんがドヤ顔をしている。
そこ、大事な所なんですね……。
きっと残念な美人さんだ。そうに違いない。
「いえ、すいません。ハーフエルフの方を初めて見たもので。お綺麗だったので、つい見入ってしまいました」
「きゃああ!!やだ!!もう!!!ラルシアさんったら、お口がお上手ですね?こんな可愛い子に口説かれて、お姉ちゃんドキュンドキュンしちゃぅう〜〜っ!!!!」
うわぁ〜……。
普通にしてたら絶対モテるのに、この人。
クネクネしてるローズウッドさんを見て、農業者ギルドの人がまたやってんのかぁ!と笑っている。
いつもこんな感じだという残念証言まで頂きました。
私は気を取り直して紙に向き合う。
年齢、名前、住所に生年月日。この情報なら、身分証明書を見ながら書けば間違い無いよね?
ウエストポーチから取り出した身分証明書の内容を書き記していく。
そして、今日の日付のところで手を止めた。
「すみません。今日って何日でしたっけ?」
「あらら、ど忘れですか??今日はマルスの月の12日ですよ〜」
マルスの月。確か、私の元いた世界で言う3月を指す言葉だったはずだ。
……そうか。
1日の誤差しかないんだ。私が最後に見たカレンダーの日付は、3月11日。
「……あれ、ラルシアさん?難しい顔しちゃってどうしたんですか〜? あぁ!!ラルシアさん、明日お誕生日じゃないですか〜!もう!勿体ぶらずに教えてくれたら良かったのに!!!明日は農業者ギルドで、ラルシアさんのお誕生日パーティですね!」
完全に思考が停止しかけていたのを、ローズウッドさんに引き戻される。こんな事いちいち気にしてたらダメだ。私は、今を楽しむんだから。
「そんなそんな、悪いですよ!!お気持ちだけで十分です!皆さんお忙しいでしょうし」
「あらあら、そうですかぁ?う〜ん。でもラルシアさん、最近この街に引っ越して来たばかりなんですよね?それなら、明日私にこの辺りを案内させてください!そこで美味しいご飯でも食べませんか?」
気を使ってくれたのだろうか。もしそうだとしたら、悪いことをしてしまった。
それでも単純に〝友達〟の様なその誘いが、心の底から嬉しい。
きっと顔に出てしまっているんだろうけど、嬉しいのは仕方がない。
「ありがとうございます!!明日が楽しみです!」
「それじゃあ、明日は11時に農業者ギルドの前で待ち合わせですよ!さて、書類頂きますよ〜!お喋りばっかりしてると、ピリピリプンプン怒る人がいるんですよ〜。まったく、困っちゃう。それじゃあラルシアさん、出来たら呼びますので、良かったら向こうにあるクエストボードでも見て待っててください!それでは〜!」
ローズウッドさんは紙を持って、急いで奥へと入っていた。なにかと慌ただしい人だけど、とても良い人なんだなあ、と改めて実感した。




