第5話 まさかまさかの貧弱ステータス
玄関の横には大きなサイズの全身鏡が嵌め込まれていた。隣にある棚には、フレームだけの写真たてが1つ置いてある。その下には本棚として使えそうなスペースも見受けられた。
やっぱり、全身鏡は女の子としては嬉しいよね。あるのとないのとじゃ、全然気分が違うもん。
鏡の前に立つと、ふわふわで癖のある髪の毛が、胸のあたりまで伸びていた。
「何この色……」
私の目に飛び込んできたのは、透き通るような淡い水色の髪の毛。瞳は丸く少し垂れており、深く吸い込まれそうなほど綺麗な碧色がこちらを見ている。
小さな唇は薄くピンク色を帯びており、肌は白くきめ細かい。
……少し、整いすぎじゃないかな。
鏡の中に見える知らない自分が、顔を引きつらせながら笑っていた。
……それもこれも、全て彼の心遣いなのかも知れない。この世界の平均もわからないし、今は気にしないでおこう。
服装は白い半袖のシャツに、茶色のスカート。靴は玄関の隅に歩きやすそうなショートブーツが置かれていた。全体的に見ても若干地味な印象を受けるけど、目立たなくて良いかもしれない。
そして、首元には繊細な細工を施されたペンダント。
私の瞳と同じ碧色のそのペンダントは小さくも力強く、輝きを放っている。丸い碧色の石を囲む様に、花柄の細工が丁寧に施されていた。
これは……金で出来ているのだろうか。高級感はあるけど、嫌味のないその繊細な細工に暫し見とれてしまう。
首に馴染むペンダントに触れ、親指の腹でペンダントを撫でる。クルッと裏返すと、小さく【親愛なるラルシアへ ──より。】と彫り込まれていた。
──の部分は、だいぶ掠れてしまって読むことは出来ない。そんなに昔からある物なのかな?
……小さな疑問を胸にしまい、軽く身だしなみを整える。何故か、深く考えてはいけないような気がしたのだ。
近くにあった椅子に腰掛け、ウエストポーチからエステルの書を取り出して軽く目を通す。
この本には、この国の基本的な情報が載っているみたいだった。
ある程度の常識は彼に教わってはいるけど、その情報と噛み合わせながら少しずつ本を読んでいく。
地図を見る限り、エステル王国はかなり広い様だった。私のいる場所らしき所に、赤い点が付いている。
どうやらここはエステル王国の中の、リーゼルハイド領に当たる場所らしい。この世界にはまだまだ力のある貴族様がいるらしいけど、きっとこの領主もそうなのだろう。
冒険者ギルドも近くにあるみたいなので、一安心。何かと戦ったりなんかはしたくないけど、この世界の風習的にも冒険者ギルドへの登録は必須だろう。
この世界での移動は基本的に馬車や徒歩。車や飛行機などといった物は無いみたい。移動が不便そうに感じるけど、転移と言う魔法がこの世界には存在しているらしく、その魔法があれば一瞬で移動することは可能らしい。
その事も踏まえて、冒険者ギルドが近いのは好都合だ。
ただ、皆が皆転移魔法を使えるわけでは無い。そこで、1人の職人によって作られた転移石と言うアイテムが高値で取り引きされているらしく、これを使用することで転移魔法と同じ効果が得られると言う。転移ブックという本にはめ込んで使うらしい。
転移石1つに付き、登録できる場所は1箇所のみ。
高値でも便利なものは飛ぶ様に売れるらしく、生産が追いついていないのが現状みたい。
プティエンジュ。近くにある冒険者ギルドの名前をスゥッと指でなぞり、エステルの書を閉じる。
時間は沢山ある。
だから、やりたい事を少しずつやっていこう。
エステルの書をウエストポーチにしまい、ハッとする。
一番大事なものを確認し忘れていた。
「ステータスオープン」
小さな声でそう呟くと、彼が見せてくれた時と同じように半透明のスクリーンが浮かび上がる。
────────
ラルシア・フローラ
ヒューマン
女性
15歳
Lv.1
────
HP15
MP120
攻撃力3
防御力10
魔法攻撃力6
魔法防御力12
────
力3
俊敏18
器用65
運90
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「……」
あの時しっかり見ていなかった自分が悪いのか。開いた口が塞がらないとは、まさにこの事。
攻撃力3って……力3って何……?
確かに力はないかもしれないけど、もしかして。もしかしてだけど、このステータス……凄い弱かったり、する……?
冷や汗がツゥっと流れていく。
……いやいや。
レベル1の一般庶民なんて、みんなこんな感じだよ。そうに決まってる。
私はステータス画面から、スキル表示画面に切り替えた。
ステータスが低い分、絶対スキルが良いものなんだと思う。っていうか、そうであってください。
こんな貧弱ステータスじゃ、デコピンされただけで死んじゃいそうだよ!!!




