ラルフ先生とゴブリン討伐
「……さて、着いたぞ。ここがアルファン平野だ」
目の前には、大きな草原が広がっていた。所々生えた木々は青々しく成長し、太陽を浴びて気持ちよさそうに風に揺られている。
足元に生えた草は結構長く、軽くふくらはぎ辺りまでは伸びている様だ。
「スライムも一撃で狩れる様になってたし、昨日ほどはびびってなかったみたいだから、大丈夫そうだな。魔獣もチラホラいるけど、あいつを狙おう。ラルシア、ちょっと見とけ」
ラルフはそう言って、一体のゴブリンに近づいて行く。
手足は細く、ボテッとした下っ腹。尖った鼻と耳に、口元にはギラギラとした歯が並んでいる。
……気持ち悪いね。
緑色のその体をちょこちょこと動かしながら、ゴブリンは棍棒を握りしめて歩いている。
「ゴブリンって言うのは基本、群れで暮らしている。でもたまにこうやって、逸れてるのか偵察に来てるのか、1体でうろついてるゴブリンがいるんだ。まずは、こういったゴブリンを討伐する」
ラルフは腰に刺さっていた刀を構え、勢いよくゴブリンに斬りかかった。
……居合技、と言うんだろうか?
刀を抜きながら攻撃に入り、そのまま一、二と合計3回ほどゴブリンを斬りつけた様に見えた。
ゴブリンは断末魔を上げることなく草原に倒れ、哀れな骸と化していた。
「……速すぎて、全然見えなかった」
「……まあ、ゴブリン相手だから、な。こいつらは集団でいる時はかなり厄介だけど、1体だとかなり楽に殺せるぜ。ちなみにゴブリンから取れる素材は、魔石と耳だな。棍棒も売れるっちゃ売れるが、大した額にならない。正直耳もそこまでだから、わざわざ切り取る必要もないんだけどな」
そう言いながら、ラルフは魔石と耳を回収する。私はそれを受け取り、ウエストポーチに入れた。
「いやぁ、ラルシアがいると良いな。素材がかさばらないから思いっきり動けるぜ」
そう言ってラルフは紙のような物で刀を拭き、鞘に納める。
「ほら、あそこにもう1体いるぜ。次はラルシア、あんたの番だ」
ラルフが指差すその先には、確かに緑色のゴブリンが1対、のそのそと歩いていた。
「……ほら、肩の力を抜いて。お前なら出来るよ」
ラルフにそう言われ、小さく深呼吸をする。
結構距離はあるし、一撃で倒せなくても二発目を打つ時間は十分あるだろう。
「グロウライト!」
私の声に反応し、白熱をまとった光が、ゴブリンを包み込む。
「グギャッ!!ギャッ!!!」
ゴブリンは訳もわからずその場で暴れ、光が収まる頃には既にその姿を消していた。
「……お前、案外酷い殺し方するんだな」
ラルフはそう言って、高熱で溶かされたゴブリンだった筈の魔石を拾い上げる。
「初級の光魔法でここまでの火力が出るとはな。相手がゴブリンと言えど、さすがだな」
「……私もびっくり。ライトボールとグロウライトで、ここまで威力が違うなんて」
「……お前、レベルアップしたんじゃねぇの?流石にあれだけスライムを倒したんだし、多少は上がってると思うけどな。ステータスでも見てみたら?」
ラルフに言われ、ハッとする。
確かに一番ステータスを確認して以降、全くもってステータスの確認はしてなかった。
「うん。ちょっと確認してみるね。──ステータスオープン」
────────
ラルシア・フローラ
ヒューマン
女性
16歳
Lv.8
────
HP32
MP300/340 +10
攻撃力4
防御力16
魔法攻撃力30 + 20
魔法防御力22 + 15
────
力4
俊敏22
器用71
運90
────────
「わあ……」
私のそのなんとも言えない声を聞いて、ラルフが私をみる。
ステータスは、自分でしかみることができない。なのでこのステータスは、ラルフには見えていないのだ。
「どうだった?」
「あ……うん。レベルはちゃんと上がってるよ。体力とかもちょっと増えてるし、何よりMP量がすごい増えてるかなぁ。……と言っても、初期値が全部低いからなんとも言えないけど」
「そうか?なら良い。ラルシアは完全に魔法に依存した戦いがメインになるだろうから、魔法攻撃力やMPはきちんと見ておいたほうがいい。特に、どの魔法を使ったらどれだけMPを消費するか。これだけは、必ず把握しておくべきだ」
ラルフに言われて、MPをもう一度見る。
「340が300になってる。横にプラスマークもついてるけど、なんだろう?」
「ああ、それは防具や武器によって与えられてるプラス効果だ。左側に表示されてる数字と、プラスされてる数字を足した数が合計のステータスになる。さっきのグロウライト1回で、MPは40減ってるみたいだな」
「あ……そっか。ミーアさんから買った武器と防具のおかげなんだね」
「……所でラルシア、お前MP回復薬は持ってるのか?」
「……MP回復薬?」
ラルフは少しだけ、呆れたような顔をする。
「その名前の通り、MPを回復する薬だよ。普通にこのまま戦ってたら、グロウライトはあと7回分しか撃てないことになるぞ。いくらMP自動回復スキルがあるとは言え、ちょっと不用心すぎだな」
「……ごめんなさい」
「いいや、先に説明しなかった俺が悪い。MPが切れると、俺たち人間は魔力枯渇状態に陥る。初期に対処したらまだなんとかなる可能性はあるが、最悪死に至る。だから、MP回復薬は多めに持っておくといい。ほら、これをやるから今日はそれを使いな」
そう言って、ラルフが3本の瓶を取り出した。
青く光るこの綺麗な液体が、MP回復薬なんだろう。
「……ありがとう。今度ちゃんと、返すから」
「気にすんじゃねぇよ。とりあえず、今渡したのはMP回復薬(中)だ。回復薬にも、小、中、大、最っていうランクがつけられてるんだ。そのランクによって回復できる量が違うから、気をつけろよ。因みに今渡した(中)は、MPを500回復する効果がある。今のお前なら、小でも足りそうだな。小はMPを200回復してくれるからな」
私は、ラルフに貰ったMP回復薬をウエストポーチの中にしまう。
「ギルドの中にある道具屋にも回復薬系の物は売ってるから、あとで買いに行こう。よし、じゃあ引き続きゴブリンの討伐を続けるぞ。あそこに3体固まってるな……。ラルシア、1体やれるか?残りは俺がやる」
私はラルフのその言葉に、大きく頷く。
ゴブリンの1体めがけ、先程と同じように魔法をぶつける。
「グロウライト!!」
ゴブリンは悲鳴のような鳴き声をあげ、それを近くで見ていたゴブリンの1体がギャギャッ!!と声をあげる。
もう1体は、既にラルフの居合技に倒れていた。
そして、流れるようにラルフの刀は最後に残るゴブリンを捉え、その命を刈り取った。
──なんて綺麗なんだろう。
不覚にも、彼の刀捌きに見惚れてしまう。
「……ふう。やっぱりゴブリン相手じゃ手応えねぇな。って、何ぼーっと見てんだよ。早く魔石回収して、次を探すぞ」
「あ……!うん、ごめん!!」
私は急いで魔石を回収して、それをしまう。
「よし、じゃあ……って、ん?あれ、ピンキーモンキの群れだな。小指サイズの小さい猿って名前をつけられてはいるが、中々素早い動きをする連中でな。……って、説明してる暇もなさそうだぜ」
ラルフの視線の先には、甲高い声を上げながら近づいて来る、ピンキーモンキの群れ。その数はおよそ6匹ほどいる様に見えた。




