ラルフ先生と魔獣討伐
「んん〜……」
大きな鐘の音が聞こえ、目が醒める。
昨日は初めてのスライム討伐の疲れもあってか、思った以上にぐっすりと眠れた。
重たい目を擦りながら、階段を降りる。
……ラルフはまだ、寝ているみたい。
私はキッチンの前に立ち、ウエストポーチから食材を出す。
朝ごはん、どうしようかなぁ。
今までは私1人だったから軽くパンで済ませたりしていたんだけど、流石にパンとチーズだけで終わらせるのも、なんかなぁ。
うん。スープとサラダも作ろうかな。後はいつも通りのパンとチーズで良いよね。
スープの具材とサラダ用の野菜を切り分け、サラダを先に盛り付ける。
……うん、見た目良し。
やっぱり誰かに出すとなると、色合いとかも気になってくるよね。
沸騰させたお湯の中に、スープの具財を入れる。前の世界で言う、コンソメスープみたいなものかな?
味付けに使う顆粒をサラサラと加えて掻き混ぜていると、ラルフが起きてきた様だ。
ボサボサの寝癖頭をかきながら、大きなあくびをしている。
「おはよう、ラルフ。よく眠れた?」
「……ああ。宿屋に泊まってる時よりも、ぐっすりだ。なんか、すげぇ良い匂いするな」
「あ、もう少しで出来るから待っててね。朝ごはん、食べるでしょ?」
「おう、そうだな。ありがとう」
スープの味をみる。これくらいでちょうどいいかな?
「……ね、ラルフ。スープの味、みて欲しいんだけど」
私がラルフにそういうと、彼はゆっくりキッチンの方へと近づいてくる。
「どれ……。おお、めっちゃ美味いじゃん。お前、スライムは倒せなくても料理は出来るんだな」
さすが女子。とでも言いたげに、ラルフは頷いている。
「……ひどい」
そんなに何回も、スライムの話しなくたって良いじゃない。と、軽く頬を膨らませる。
「ハハッ、冗談だよ。普通に美味いから拗ねんなって」
そう言ってラルフは頭をポン、と軽く叩き、テーブルの方へと戻っていく。
……なにそれ。
……頭ポンって、頭ポンって!!!
照れる方が間違っているかの如く、その仕草は自然なものだった。
……さては、慣れてるな?
私は2人分のスープとサラダをテーブルに乗せ、パンとチーズも用意する。
「ごめんね、あんまり良い物じゃないけど」
「何言ってんだよ。まさか朝飯まで作って貰えると思わなかったし、それだけで十分嬉しいよ」
私はラルフのその言葉にふふっと笑い、手を合わせる。
「いただきます」
そう言ってパンを食べようとすると、ラルフと目が合う。
「……私の生まれた国では、ご飯を食べる前に、いただきます。っていうの。ご飯を頂くという事は、命を頂くという事だから、こうやって手を合わせるんだよ」
私がそう教えると、ラルフは納得した様に頷いた。
「成る程な。昨日も思ったけど、お前のいた国は命を大事にしているんだな。良い場所に生まれたな、ラルシア。……いただきます」
元いた世界の事を褒められた事。ラルフが一緒にやってくれた事。その二つがなんとも言えないくらい嬉しくて、思わず頬が緩む。
「……何笑ってんだよ」
ちょっとだけ照れた様に、ラルフが頬をかいた。
「……ううん。嬉しくて」
私がそう言うと、彼はそうかよ。と短く終わらせて、食事を続けた。
……やっぱり、誰かと食べるご飯っていうのは格別で。いつもは味気なく感じるパンも、今日はすごく美味しく感じる。
食事を終えてカミルやエーデルの世話をしていると、寝癖を直してしっかりと和服を身につけたラルフが部屋に入ってきた。
「おい、それ終わったら行くぞ」
「……どこに?」
私のその返事に、ラルフは呆れた様に笑う。
「どこって、冒険者ギルドに決まってんだろ?お前のそのヘナチョコステータス、俺が鍛えてやるから来いよ」
……確かにヘナチョコだけど。否定はしないけど!!
「自分の身を自分で守れるだけの力は、つけといて損はしないぜ。お前、昨日特級光魔法のスキルがあるって言ってたよな?そんな恵まれたスキルを持ってんだから、もっと良い使い方でもしろよ」
「もっと良い使い方……?」
「ああ。光魔法ってのは火力も出るけど、回復魔法を使えるだろ?特級光魔法のスキルがあれば、下手したら最上級の回復魔法だって使えるようになるかも知れない。と、いう事は……だ。お前のその力で、救える命があるかもしれない。って事だよ」
ラルフのその言葉に、ハッとする。
……今まで、そんな事を考えた事は一度も無かった。
回復魔法が使える事は分かっていたけど、まさかそんなにも強い人助けの力になるなんて。
「でもよ、そんだけの事をするにはお前の基礎ステータスが低すぎる。MPが高くなけりゃでかい回復魔法なんて使えないからな。だから、俺が鍛えてやる」
「……お願いします」
ラルフがそう言うのだから、わざわざ否定する理由はない。
……魔獣討伐は気が進まないけど、そんな事を言っていたらこの世界では生きていけないんだろう。
それ程までに、〝人と魔獣〟の関わりは根深いものだった。
「じゃ、早速行くぞ。カミル、マリー。エーデルとルスワールも、良い子で留守番してるんだぞ」
そう言って彼は魔獣達を優しく撫でる。
私はローブなどを急いで身につけ、ラルフと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
「……確か、パーティを組めばそのパーティの一番上のランク。今で言えば俺のEランクのクエストが受けられることになる。って事は、必然的にDランクのクエストも受けられる様になっちゃうんだよな〜、これ」
そう言ってラルフは、三枚のクエスト用紙をボードから剥がす。
一つは、ゴブリンの討伐依頼。
二つ目は、ピンキーモンキの討伐依頼。
三つ目は、草原ラビットの討伐依頼だった。
「……ラビット」
私のその言葉の意味をとらえ、ラルフが軽く笑う。
「ラビットって言っても、カミルやマリーの様に可愛いうさぎじゃねぇよ。でかいツノと牙を持った、割と凶暴な肉食魔獣だ。見た目も全然違うから、安心しな」
「ラルフは草原ラビットを見たことがあるの?」
「……まあな。魔獣には結構詳しいから、頼りにしてくれて良いぜ」
そう言ってラルフは、受付カウンターにクエスト用紙を見せに行った。
無事にクエストの受注が出来たみたいで、ラルフはすぐに戻ってくる。
「……んで、パーティを組んだ時の依頼報酬や素材の取り分は、事前に話し合って決めておくのがルールになってる。俺と組むときは、毎回必ず半分ずつだ。いいな?」
「……ラルフはそれで良いの?きっと、一人で行った方がクエストも沢山受けられるし、その分報酬も貰えるんだよね?私は付き合って貰ってる側だから、もう少しラルフが貰ってもいいんだよ」
私のその言葉に、ラルフが深い溜息をつく。
「……お前、もう忘れたの?俺はお前を鍛えるためにこうやってパーティ組んでるんだぜ。それに、家を借りてる恩もあるし、その分を考えたらこれでチャラだぜ」
「……ラルフがそう言うなら、良いんだけど」
「まあ、あんまり気にすんなよ。俺だってお前のおかげでこれから宿代もかからなくて済むし、全く金が無いからすぐに稼がなきゃいけないわけでもねぇしな」
ラルフはゆっくりと歩き出し、冒険者ギルドを出る。
「んで、このDランクの小型魔獣が出るのはスライムの森を抜けた先にある、アルファン平野って所だ。結構ひらけた場所だから見通しも良いし、魔獣もすぐに見つけられると思うぜ」
「……スライムの森を通って行くんだね」
「ああ、勿論。昨日の復習代わりに途中でスライムも狩って行くから、そのつもりで」
……私はその言葉に、力無くうな垂れた。
どうやらラルフ先生、中々厳しい様です。




