ピンキーモンキと草原ラビット
「来るぞ。構えろ、ラルシア!」
ラルフのその声に、サッと杖を構える。
「捕らえろ!!ダズル・パイソン!!」
そして、無意識のうちに私は呪文を唱えていた。現れたのは光り輝く眩しい大きな蛇。
蛇はその口を大きく開け、1匹のピンキーモンキを噛み砕いた。そして、尻尾でもう1匹を弾き飛ばし、さらにもう1匹を身体で締め上げる。
締められたピンキーモンキは、泡を吹きながら絶命した。
「やるじゃねぇか!!見直したぜ、ラルシア!!」
ラルフはそう叫び、嬉しそうに刀を振るう。
あっという間に、決着がついた。
ラルフは3匹のピンキーモンキを斬り伏せ、ニヤリと笑っている。
私の出した光の蛇は、一度に3匹も殺してしまったのだ。尻尾で弾かれたピンキーモンキは少し離れたところで、お腹に火傷を負って絶命していた。
「いまの、初級魔法じゃねえな。いつの間に中級魔法を覚えてたんだ?」
「……わからないの。凄く無意識で」
「ハハッ、無意識で呪文まで出てくるってか?そうか、これが特級光魔法の才能ってやつか。随分面白いものを見せてくれるじゃねぇか」
私はラルフのその言葉を聞きながら、小さく微笑む。
──正確には。
微笑もうとしたんだけど、身体にうまく力が入らなくて、倒れ込んでしまった。
「っと、危ねぇ!!!」
すんでの所でラルフに抱きかかえられ、草原との熱い抱擁を避けることが出来た。
「……ごめ、力、入らなくて」
「ったくよ、無理しやがって。ほら、口開けな」
そう言ってラルフが、和服の裾から青い瓶を取り出す。私はラルフに従い、小さく口をあけた。
「魔力切れの一歩手前だぞ、馬鹿。あれだけちゃんと把握してから慎重にって言ったのによ。まあ、今回は大活躍だったから、説教はあんまりしないでやるよ」
ラルフの手によってゆっくりと流し込まれたそれを、なんとか飲み込む。
ほろ苦くて、ほろ甘い。
まるで、子どもの時に飲んだ子ども用の液状飲み薬の様な味だった。
「……ありがとう、ラルフ」
「ああ。あとは5分くらい休めば本調子に戻るさ。俺は魔石でも拾って来るから、そこで休んでな」
ラルフに言われた通り、私は草原に座り込む。揺れる草花の香りが、心地良かった。
「……そうやって花に囲まれて座ってると、人間じゃないみたいだな」
魔石を拾い終わったラルフに、とんでも無いことを言われる。
「……に、人間じゃないってどういうこと!?」
「いや、ちげえよ、そう言う意味じゃ無いって!!悪い意味じゃなく、なんつうか、神さまみてぇだなって。……綺麗だなっつう意味だよ。わかれ、ばーか」
ラルフが、頬を赤くしながら顔を背ける。
「な……、えっ……と、ありがとう」
「うるせえ、黙れ」
……自分で言ってそんなに照れるくらいなら、言わなきゃいいのに。
「何はともあれ、ラルフのおかげで助かったよ。ありがとう」
スッと立ち上がり、お礼を言う。
「もう身体はいいのか?ったく、もう無理すんじゃねえぞ」
「うん、わかってるよ」
口は悪いけど、その不器用なラルフの優しさを受け取り、心が温かくなる。
「……頼もしいなぁ」
「あ?当たり前だろ。俺がいるんだから」
ラルフは、そう言ってニヤリと笑った。
その後も私達は順調に魔物討伐を繰り返した。何度も魔物と遭遇するうちに、私も怯まずに攻撃を仕掛けられるようになった。これは、大きな成長だと思う。
もう、前ほどの失態はしなくて済みそうだ。今回の魔物討伐でかなりレベルも上がったらしく、MP量にも少しだが余裕が出て来たように感じる。
「……あ、あそこ!角の生えた兎……みたいなのが……」
いる。
そう言おうとした瞬間、私はその衝撃的な顔につい言葉を失ってしまう。
「お。やっと草原ラビットのお出ましか?ってお前、何呆然としてんだよ」
「……凄い、顔だなぁと思って」
「だから言っただろ?同じ兎でも、カミルやマリーみたいに可愛いもんじゃねえぞって。あんな前歯をむき出しにした兎を可愛がってる奴がいるなら、一度くらい拝んでみてぇな」
ラルフは呆れたように、刀に手をかける。
「草原ラビットは、基本的にはあの鋭い角で突進し、攻撃を仕掛けて来る。だから、まずはあの角を切り落とすと戦うのが楽だぜ。ま、お前の魔法だとちょっと厳しいかもしれないから、普通にやっていいと思うぜ?」
ラルフはそう言葉を続け、一気に草原ラビットとの間合いを詰める。
豪快で、大胆で、それでいて繊細な刀捌き。
「……まずは角を落とすんじゃなかったの?」
ラルフの刀は草原ラビットの胴を捉え、それを真っ二つに斬り捨てていた。
「……おう。そのつもりだったんだけどな」
こっちの方が早い気がして。
なんて言いながら、ラルフは草原ラビットの角を、解体用ナイフで切り取っている。どうやら草原ラビットの角と毛皮は、買い取ってもらえるらしい。
「ま、お前も割と魔法使えるようになって来たし、適当にやってみろよ。って言うか、なんかレベルアップするの早くねぇか?多少の個人差はあるもんだけど、お前の成長スピードの速さは中々珍しいぞ」
「……そうかな?」
確か、取得経験値を増やすと言うスキルを持っていた記憶がある。多分……と言うか、絶対そのスキルのせいだと思う。
「ああ。まあ、良い事なんだけどよ。元々才能があったのかもしれねぇな」
「才能……ね。それはわかんないけど、MP量が増えるのはありがたいね。撃てる魔法の数も増えるし、もっとMP量が増えていけば出来ることも増えそうだから」
「ああ、そうだな。まあ、まずはCランクの冒険者にならなきゃな?俺らはこんな低ランクで止まるべきじゃないと思うぜ。特に、お前は貴重な光魔法持ちだからなぁ」
「何言ってるの?ラルフこそ、凄く強いし絶対にみんなから必要とされるに決まってるよ」
……ラルフなら、あっと言う間にCランクに上がってしまうかもしれない。
私は……
例えCランクの冒険者になったとしても、大型の魔獣とまともに戦える気がしなかった。
その後も、ラルフと会話をしながら、草原ラビットを探し続けた。
結果的に今回の魔物討伐数はかなりの物になった。私がまともに戦える様になり、ラルフが自由に動けることで討伐効率がグンと上がったのが、その理由の一つだろう。
ゴブリンを12体と、ピンキーモンキを28体。そして、草原ラビットの討伐数は32体にもなった。
「ふぅ……結構な数になったな」
「うん。ラルフが頑張ってくれたおかげだよ」
「何言ってんだよ。お前がちゃんと動けるようになったから、スムーズに討伐が出来たんだろ?少しは自信持てよ」
ラルフが、呆れたように笑う。
「うん……。色々教えてくれてありがとう。またよろしくね」
「おうよ。んじゃ、ギルドに戻ろうぜ。さっさと報酬でも貰って、たまには飯でも食いに行くか〜」
私達は魔獣討伐を終えて、ギルドへと帰った。ラルフのランクは変わらなかったけど、私のランクはFランクからEランクへと上がった。
これで、ラルフがいなくてもDランクのクエストを受ける事が出来るようになったんだ。
やっぱり、ランクが上がると言う事は嬉しいものだった。私達はランクアップ祝いと称し、ファミリーポリーで少しお高めの料理を堪能する。
今回はDランク依頼である小型魔獣の討伐クエストを複数クリアした為、お財布にも多少の余裕があったのだ。
この世界に来て2度目の外食。ラルフは美味しいご飯に感動した様で、かなりの量を平らげていた。




