不思議な青年
突き刺されたスライムは気持ちの悪い断末魔をあげ、動かなくなっていた。
よく見ると、スライムを突き刺したそれは日本刀によく似た物だった。
「おい!!大丈夫か?」
どうやら、この男の子が助けてくれたらしい。
顔周りは少し跳ねのあるクセ毛が特徴で、後ろ髪は下の方で一本に束ねている。私はこの世界で初めて、和服を着た男性と出会った。
デザインは多少違うけど、コレは間違いなく私の元いた国の民族衣装だ。
あまりの驚きに固まっていると、男の子は不機嫌そうに焦げ茶色の髪の毛を揺らした。
「……聞いてんのかよ」
「あ、あの……助けて頂いて、ありがとうございます」
「ったくよ、スライム相手に腰抜かしやがって。俺が来なかったら、今頃酸で焼かれてブッサイクな顔になってたところだぜ」
和服姿の男性は、深いため息をつく。
「あの、本当に……ごめんなさい」
「ったく。謝んなくて良いよ。いってぇな、ちょっと酸食らってるし。あんた、大丈夫なのか?スライムの酸は弱いから死ぬことはないけど、ちょっと当たっただけでも軽く火傷するから気をつけな」
男の子の腕には、しっかりと酸の跡が火傷になって残っていた。
「あ……どうしよう、火傷になって……。あの、私多分火傷治せるので、治させてください!」
「なんだよ、急に。別にこの程度の火傷くらい、痛くも痒くもねえっつーの」
「いいから見せてください!」
私は男の子の腕を軽くつかみ、状態をみる。男の子は心底嫌そうな顔をしてるけど、今はそんなの無視だ。確かに傷は酷くないし、これなら初級の魔法でいけるかも。
傷口に手が触れないように、そっと火傷を手のひらで覆う。
「──汝の傷を癒したまえ。ヒール」
呪文を唱えると、小さな光の粒子が私の手から溢れ出し、男の子の腕の傷をみるみるうちに癒していく。
「……これで、大丈夫」
なはず……。
「──ふぅん。本当に治ってやがる。お前、すげえな。回復魔法が使えるってことは、光魔法のスキル持ちか」
「あ……はい。実は、そうなんです」
「なんだよ。いいスキル持ってるくせに、スライムなんかにビビってたのか?」
クックックと笑う彼の言葉に、言葉が詰まる。
……何も言い返せない。
「まあ、なんだって良いけどよ。お前、名前なんていうの?」
「ラルシアです。ラルシア・フローラ」
「そ。俺はラルフ。ラルフ・リンドグレーンだ」
「名前……似てますね」
「……思ったけど言わなかったんだから、言うなよな。まあ、いいよ。俺のことはラルフって呼んで。どうせお前、クエスト初めてだったんだろ?」
「……はい。初めてで、想像してたスライムより何倍も気持ち悪くて、びっくりしてしまって」
ラルフは、深いため息をつく。
「ったくよ。まあ、俺も昨日冒険者になったばっかりだから、あまり偉いこと言える立場じゃないんだけどな。折角だし、このスライムの解体の仕方とか、倒し方とか教えてやるからちょっと見てろ」
私はラルフに導かれるまま、さっき倒されたスライムを見ていた。
「ラルシア。お前、解体用ナイフは持ってるのか?」
「あ、はい。持ってます」
私がそう言うと、ラルフがこっちを不思議そうな顔で見てきた。
「っていうかずっと思ってたんだけど、なんで敬語なわけ?どうせ歳近いだろうし、タメ語でいいよ。なんか敬語使われるの、好きじゃないんだよな」
「……わかった。ありがとう」
「じゃ、解体の仕方な。スライムからは、魔石とスライムゼリーが取れる。このスライムのてっぺんから3センチ下。この辺りに横にナイフを入れると、この中身はもうスライムゼリーだ。スライムゼリーは小瓶1本分しか取れないけど、ポーションの材料になったりする。これは良く売れるから絶対採取するべきだ」
ラルフは、手慣れた手つきで和服の何処からか小瓶を取り出し、スライムゼリーを小瓶に入れていく。
「詳しいんだね」
「まあ、色々と教えてくれた人がいたからな」
ラルフの顔に、一瞬の翳り。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかと焦るけど、彼は何もなかったような顔で小瓶と魔石を麻袋にしまった。
「よし、じゃあ次、お前の番な。あそこにちょうどスライムいるし、なんか攻撃してみろよ」
「え、ええ!?」
突然の指示に、私は思わず驚いてしまう。
「……何驚いてんだよ。クエスト受けてきたんだろ?倒さないと、報酬なんか貰えないぜ」
……それはそうだ。ラルフは決して間違ったことは言っていない。
「大丈夫だ。さっきみたいに腰抜かしてたら、俺が危なくなる前に助けるから」
「う、うん……。やってみるね」
私は深呼吸をしてから、スライムの前に立つ。
「ブヂュルルルアアア!!」
「うわぁ……」
気持ちの悪いスライムに怯みそうになるけど、ラルフが見ていてくれてる安心感があるお陰で、何とか先ほどの失態を取り戻せそうだ。
「ライトボール!!」
私のその言葉に、光の玉が一つ杖から放出される様に浮かび上がる。
それは勢いよくスライムにぶつかっていき、スライムは痛みからか奇声をあげた。
「ギヂィイイイ!!!」
「うわあああ!!!さっきよりも気持ち悪い声になった!!」
「焦んな!!何でこんな弱いスライム一撃で倒せねぇんだよ!!早くもう一発食らわせろ!」
「う、うわっ!!ライトボール!!気持ち悪い!!」
私が放ったライトボールは、次こそ確実にそのスライムの命を奪っていた。
「……お前、気持ち悪いとか言ってやるなよな」
ラルフが呆れた顔で私を見ている。
だって気持ち悪かったんだもん、仕方ないじゃない。
私は、スライムに向かって手を合わせる。
「あんた、何してんの?」
それをラルフは不思議そうに見ていた。
……その言葉で、もしかして日本を知っているのかも。と言う淡い期待は消えていった。
「えっと……私が生まれた場所では、命が失われた者に対して手を合わせるの。安らかに眠れますようにって、思いを届けるために。おまじないみたいなもの、なのかな」
自分で説明しながら、わからなくなって苦笑いをする。
「ふぅん。じゃ、俺の生まれた国ではこうだな」
ラルフはそう言って、平たい小石を二つ、スライムの横に積み重ねた。
「理由は知らねえけど、人やペットの愛玩魔獣が死んだときに、遺体の横に平たい石を二つ積み重ねるんだ。意味合い的には、そっちと同じ感じだと思うけどな」
……そうなんだ。お墓、みたいな感じなのかな?ちょっと違う気もするけど。
「ま、こんなこといちいちやってたらキリがねえけどな。お前のそれなら石がなくても出来るし、俺も今度からそうすっかな〜」
ラルフは笑いながらそう言う。
何だかその言葉が、少し嬉しかった。
「じゃ、解体な。ほら、やってみな」
私は腰から解体用ナイフを抜き、スライムの一番上の部分から3センチしたにナイフを入れていく。ナイフは、スーッと綺麗に通った。
ウエストポーチから大きめのケースを取り出すと、ラルフは驚いた顔をする。
「な、お前それどうやって出したんだよ」
「あ〜。えっと、これマジックアイテムなんだ。このウエストポーチよりも大きいものを入れたり出したり出来るの」
「マジックアイテムか。スライムにビビる割りに、凄いもん持ってんだな」
感心した様に頷かれてるけど、出来ればそのスライムにビビるって言うのはやめてください……
恥ずかしいですそれ……
「これで大丈夫かな?」
私はラルフがやっていたのと同じように小瓶にゼリーを入れ、魔石を麻袋にしまう。
「おう。思ったより筋がいいんだな。死んだスライムも気持ち悪がって触れないのかと思ったぜ」
「う〜ん。なんか、大丈夫だったみたい」
何だそれ、とラルフが笑う。
「ま、これも何かの縁だし、今日はこのまま一緒にクエストしようぜ。依頼受けてるのは別々だから、スライムいっぱい探さなきゃなんねぇけどな」
彼の提案は、私にとってとてもありがたいことだった。
……一人であんなスライム倒して回るの無理だからね。
「ラルフが良いなら、お願いしたいな。見ての通り私、すっごく弱いから」
「ああ、本当にな。何で冒険者目指したかわからないくらい、やばいな」
それは言い過ぎじゃ……
私達はその後しばらく、スライムの森の探索を続けた。




