自分の畑
私は気品溢れる薄桃色のベリーキャルトにエーデルと名前をつけた。色の濃い方のベリーキャルトには、ルスワールという名を。
ゲージから出された2匹は窓際の暖かいところで横になったりしているけど、どうも雄のルスワールはエーデルに頭が上がらないらしく、せっせと毛繕いをしたり、なにかと世話を焼いてる。
……完全に、尻に敷かれている。
「魔獣の世界も大変なんだね」
ルスワールを撫でてやると、みゃあ。と力なく鳴いた。
ベリーキャルトの飼育書には、雌は雄よりもプライドが高く、力を持つとしっかり書かれていた。雌に気に入ってもらえる様に、雄は必死らしい。
私はカミルとマリーのゲージと、エーデルとルスワールのゲージを部屋の隅に分けて置いておいた。
相性がいいと言っても、流石に違う魔獣同士を隣に置いておくのには気が引けたのだ。
基本、この部屋は今後魔獣部屋として使おうと思う。この部屋の中では放し飼いにして、後は庭も少しお散歩させたりしたいな。
私はモチラピィ用の餌と、ベリーキャルト用の餌を分けて置いておく。
モチラピィが間違ってベリー入りペレットを食べてしまわないか不安だったけど、しっかりと自分の分を食べているので、その心配は杞憂だったらしい。
「それにしても、本当にモチモチだね。なんでこんなに可愛いのかな〜」
はぐはぐとペレットを食べるカミルの頬をつつくと、なあに?と言った顔でこちらを見てくる。
「モチモチふわふわ、モチふわ天使!!大人でも15cmくらいしかないんだから、本当に小さいよね」
カミルはこちらをジーっと見ながら、ペレットを食べ続けている。上手に両手でペレットを持って食べるその姿は、神々しくてあまり見ていられなかった。
一方マリーの方は眠たいらしく、私の方に寄ってきて丸くなっている。
時々鼻をヒクヒクさせているけど、完全に寝ているときはこのヒクヒクが止まるらしい。
そんな可愛らしい2匹を眺めていると、ドン、ドン!と、玄関をノックされている様な音が響く。
慌てて玄関を開けると、そこにはダンデさんの姿があった。
「よう、お嬢ちゃん。家庭菜園サイズの畑を作るんだったよな?いい人材を連れてきてやったから、今から作ってやるよ。場所はどこがいいんだ?」
「ダンデさん……!!ありがとうございます!!」
私が慌てて外に出ると、他にも二人程見知らぬ人がたっていた。
「ああ、この二人がスルトとルックだ!!スルトは土魔法の使い手で、畑作りの名人なんだぜ?ルックは土の状態なんかを見るのが得意でね。今回はこの二人がメインで畑を作ってくれるぜ。挨拶でもしときな!!」
だっはっは、と楽しそうにダンデさんが笑う。
「スルトさんにルックさんですね!私、ラルシア・フローラです。今日はよろしくお願いします!」
「こんにちは。僕はスルトです。畑作りはもう何度もしているので、任せてくださいね!」
「よう!俺はルック!!俺もよ、土の状態を見る目だけはあるから、心配しないでラルシアちゃんはそこで見ててくれよな!すぐ終わらせてみせるぜ!」
スルトさんは髪が長くて、賢そうな印象を受ける。それとは反対に、ルックさんは元気いっぱいな感じだ。
「はあ。ルック、可愛い女性の前だからって気合い入れすぎて失敗しないでくださいね?」
「なな、何言ってやがる!!俺が失敗なんてするわけないだろ!?」
「……さ、畑作りを始めましょうか」
「おいおいおい!!!なんだよその間は!!」
ルックさんがスルトさんに対して焦って声をあげても、スルトさんは半笑いでそれを見つめているだけだった。
「ふふ……。仲良しなんですね、二人とも」
「まあ、腐れ縁と言いますか、なんと言いますか。お恥ずかしい限りです」
スルトさんがやれやれ、と笑うと、ルックさんはそれに抗議する。
「なんだよ!!十分仲良しな幼馴染みだろうが!!」
「だっはははは!!相変わらず賑やかな野郎どもだなぁ!!スルトにルックも、農業者ギルドに加入してる奴らだ。歳も近いし、二人と仲良くしてやってくれよ、ラルシア」
「は、はい!!勿論です!!」
私がそう返事をすると、ダンデさんとルックさんは嬉しそうに笑う。
「ところでラルシアさん。畑を作る場所は決まってますか?」
「あぁ、はい!この左側の場所を畑にしたいな、と思っていたんですが、どうでしょう?」
「そうですね、ここなら日当たりもいいし、大丈夫だと思います!それと……、ダンデさん、もう一つはこっちでいいですか?」
「ん?おお、そうだな。日陰でしか育たない野菜もあるから、もう一つはその畑の隣に作ろう。ちょうど木の陰になっていて、日当たりも少ないみたいだしな」
……もう一つ?
確か私が農業者ギルドで購入したのは、家庭菜園サイズの畑1個だったはず。
「なぁに不思議そうな顔してんだい、お嬢ちゃん。もう一個は、才能溢れるお嬢ちゃんへの農業者ギルド登録祝いで、俺からのプレゼントだ!!しかも、あんた今日誕生日なんだろう?丁度いいプレゼントになったな!!!だっははは!!」
「そんな……!!ダンデさん、ありがとうございます!!頂いてしまっていいんですか?」
このサイズの畑の値段は、金貨1枚。決して安い買い物ではないはずだ。
「ああ、大丈夫だ。これから期待してるぜ、ラルシア!!」
ダンデさんがニカっと豪快に笑顔を見せる。
「ありがとうございます!!」
「それでは、そろそろ始めますよ。危ないのでラルシアさんは少し離れていてくださいね」
スルトさんにそう言われ、私はその場から三歩下がる。
何やら難しい顔で、スルトさんは呪文の様な言葉を唱え始めていた。
畑を作ると言っていた場所に、少しずつ変化が現れ始める。生い茂っていた草が除去され、ふかふかの土が姿を見せる。一度下の方まで掘り起こされたその土は、少し湿っている感じがした。
そしてスルトさんが最後の呪文を唱え終わると、その場には二つの畑が出来上がっていた。ルックさんが畑に近寄り、じっくりと土を眺めながら、スルトさんと何かを話している。
ルックさんが畑に白い粉を撒くと、スルトさんがもう一度呪文を唱え、その粉を畑に混ぜ込んでいく。
「ダンデさん、あれは何をしてるんですか?」
「おう。あれはな、恐らくこの土は酸性度が高かったんだろう。苦土石灰と呼ばれる肥料を撒いて、土の酸性濃度を中和させてるんだ。作物の種類によって、好む酸性度は違うもんだ。今は、ある程度どんな野菜でも育てやすい濃度に整えてるところだな」
成る程、奥が深い様だ。
「さて!ダンデさん、ラルシアさん、お待たせしました。もういつでも種を撒いて育てられる状態にしておいたので、これで完成です」
「スルトさん、ルックさん、ありがとうございます!ダンデさんも、本当にありがとうございました」
ゆっくり頭を下げると、ダンデさんは笑いながら例なんて要らねぇよ。と言ってくれた。
「じゃ、これな。クワにカマ、ジョウロとかある程度の農具はここに置いておくぜ。この木箱はそのまま農具入れに使ってくれて構わない。いずれ倉庫なんかも建てたほうが便利かもしれんな!!
あと、これも初心者セットの内容の作物の種だ。カカイモという芋の一種で、種を撒いて毎日水をやれば、対して世話をしなくてもちゃんと育ってくれる。病気なんかも掛かりづらいから、初心者向けの作物だぜ」
そう言って、種の入った麻袋をぽん、と渡してくる。
「カカイモの種は朝に撒くといい。これから撒くんじゃ夜になっちまうから、明日の朝にでも撒いてみるといい。あとこれ、カカイモの育て方が書いてある本だ。
病気についても色々書いてあるから、時間があるときにでも読んでみるといい。ま、何か分からないことがあればギルドへ来な。みんな手を貸してくれるだろうよ」
その後も少し彼らと話を弾ませ、もう遅いからと3人は帰っていった。




