モチラピィとベリーキャルト
ベリーの香りが部屋の中に広がり、心地いい。
「ベリーキャルトとモチラピィは相性が良い。同じ部屋に置いておいても問題はないだろう。次に、餌だな。持ってくるから、少し待ってろ」
スピルバさんはそう言うと、大きめの袋を沢山運び込んでくる。
……こ、こんなに種類あるんだ
「……ふぅ。じゃあ、まずはモチラピィの方からだ。モチラピィの主食は、基本的にこのペレットで賄える。牧草などの栄養価の詰まった草や野菜を、乾燥させて固形状に加工したものだ。ペレットにも何種類かあるが、今回は栄養価の高めな物を持ってきたから、好きなものを選ぶと良い」
袋にモチラピィのデザインが描かれたペレットは3種類あった。
「それと、野菜だな。モチラピィは生の野菜が好きだから、3日に一回くらいのペースであげると良い。あげすぎは消化が追いつかなくなるので注意が必要だ。それと、生後6ヶ月未満の個体には生野菜は禁止だからな。こいつらはもう成体だから、関係はないが」
スピルバさんは、ニンジンの様な野菜と、キャベツの様な野菜を取り出す。
「こっちの細長い方がエレジン。味はあんまりしないが栄養価が豊富で、モチラピィの好物だ。こっちの丸いのがキャベッサ。こちらは水分量が多いのであげすぎに注意しろ」
エレジンとキャベッサと呼ばれた野菜を、まじまじと見る。似ているけど、やっぱり前の世界のものとは少し違う様だ。
私はプレミアムペレットを3ヶ月分と、エレジンとキャベッサの購入を決めた。
「まいど。3ヶ月分なら今日持ってきたもので足りるから、後でまた降ろすぞ。次に、ベリーキャルトだ。基本的にこいつらは、ベリーの香りがするものならば何でも食う。だが、逆を言えばベリーの香りがしない物は一切口にしないのが特徴だ」
ベリーキャルトは、長くて上品な毛をペロペロと舐めながら、澄ました顔をしている。
「だから、こいつらにはベリーが一緒に加工されたペレットをやるといい。他にもドライベリーや、採れたてのベリーなんかもおやつにやると喜ぶぞ」
「本当にベリーが好きなんですね、この子達」
「ああ。ベリーキャルトはこの甘酸っぱい香りのお陰で、貴族のご令嬢にも愛される種だ。質の良いベリーキャルトを育てたら、そう言った顧客もつく様になるだろうな」
……貴族。
とんでもない言葉を聞いてしまった気がするけど、気にしない方向でいこう。
私はスピルバさんにおススメされたベリーキャルトの餌を同じく3ヶ月分購入した。勿論、おやつとしてドライベリーも一緒に。
スピルバさんがペレットを全て運び終わると、それなりの量になっていた。部屋は広めなので、多少場所を取っても保管しておけそうで安心。
スピルバさんは他にもベリーキャルトとモチラピィの生態や飼育方法、繁殖方法が詳しく書いてある飼育書を渡してくれた。この本は、後でしっかりと読ませてもらう事にしよう。
「……アグドウルだ」
「……え?」
帰り際、ポツリとスピルバさんがそう溢した。
「……俺の名前だ。身内はこの世界にいないと言っていたな。ベリーキャルトもモチラピィも、飼育が簡単な愛玩魔獣ではある。だけど、何かわからない事や困った事があれば何でも聞きにくると良い」
クールな表情は崩さずに、スピルバさんは軽く微笑んだ。
「あ……ありがとう、ございます」
その言葉が、素直に嬉しかった。
この世界で出会う人達の温かさに、感動すら覚えてしまうくらいだ。
「それじゃ、俺はこれで。……頑張れよ」
そう言い残して、アグドウルさんは帰って行った。
彼に感謝の念を唱えながら、新しくきた家族の側に近づいていく。
白いモチラピィを1匹ゲージからだし、ゆっくりと腕の中に抱いてみる。温かい体は小さくても元気に生きている。ピンッと立った耳をちょこちょこと動かしながら、つぶらなその瞳は私の目を捉えている。
「……あ。この子、冒険者ギルドで触れ合った時のモチラピィだ!!」
私がそう言うと、モチラピィは良くわかったね!とでも言いたげに、嬉しそうに前足をパタパタさせている。
「ふふっ、あなた、私の言葉がわかるんだね?愛玩化されてると言えど、流石は魔獣って事かな?」
私はモチラピィを抱っこしながら、モチラピィの飼育書を開こうとする。
すると、もう1匹のモチラピィが出して出して〜!とゲージの隙間から手を出して、パタパタと上下に動かしていた。
「か、可愛すぎる……!!天使すぎる!!」
私が冒険者ギルドで触れ合った子は真っ白だけど、この子は背中に薄く灰色の線が3本入っていた。
ゲージの扉を開けると、モチラピィは凄い勢いで私に飛んでくる。
「ちょ、まっ、うわああ!!」
なんとかその子を受け止めると、モチラピィは嬉しそうに頬を擦り寄せてくる。
ま、魔獣ってこんなに人懐こいものなの……?
それとも、伝説のブリーダーと言うスキルの効果なのかな?
私は2匹のモチラピィを抱きながら、改めてモチラピィの飼育書を開く。
「えーっと、なになに?モチラピィは比較的臆病な性格で、群れで暮らす習性がある。とても賢く、人間の言葉を理解する個体もいる。一度人に慣れた個体は物凄く懐くが、寂しがりで屋で1匹で飼うと飼い主がいない間に体調を崩してしまう場合がある……。なかなか繊細な魔獣なんだね、君たち」
くすくすと笑うと、モチラピィは笑わないでよ〜!と、抗議の視線を向けてくる。
「ごめんごめん、可愛いんだもん。バカにしてるわけじゃないよ。……あ、雄と雌の見分け方、だって!君たちはどっちが男の子で、どっちが女の子なのかな〜?」
私がモチラピィを床に降ろすと、2匹はそわそわとしながら横一列に並ぶ。
「え〜っと。男の子は尻尾の先端が少し尖っていて、……え?」
私が男の子は〜〜と話し出すと、冒険者ギルドで触れ合った事のあるモチラピィがさっと右手を挙げていた。
……右手と言うべきなのか、前足というべきなのかはわからないけど。
短い手を懸命に挙げている姿は愛くるしく、その姿を見ているだけでも胸がはち切れそうだった。
「え〜っと、君が男の子なのかな?」
そう聞くと、モチラピィはきゅい!と小さく鳴きながら、ぴょんぴょんと床の上で跳ねだした。
その姿はまるで、そうだよ〜〜!とでも言っているかの様だ。
「え〜と、じゃあ女の子……は、うん。聞くまでもないね」
私が女の子という単語を出した瞬間、待ってました!!とばかりに背中に灰色の線が入ったモチラピィがプルプルと右手を挙げていた。
「うぅ〜〜ん。可愛すぎる!!!可愛すぎるぞ!!おいで〜〜!!」
私が両手をバーッと広げると、2匹のモチラピィは一目散に私の腕の中に飛び込んでくる。
「あぁ……天使。これぞ天使……。私は今ここに、モチラピィの為に生きると誓います……」
なんて、馬鹿な独り言は置いておいて。
「君たちには名前をつけないとね。そうだなぁ。うん、決めた。君はカミル。私のお母さんが大好きだったハーブの、カモミールから取ったんだ。どうかな?」
私が真っ白な毛並みのモチラピィを撫でると、嬉しそうに鼻を鳴らしながら擦り寄ってくる。
どうやら、気に入ってくれたらしい。
「あなたはマリー。これもお母さんが育てていたハーブの名前から取ったんだ。ローズマリーっていうハーブなんだけどね、一年中緑を絶やさない、沢山の人に愛されているハーブだよ」
背中に灰色の線が入ったモチラピィは、私の話を聞いて感動した様に目を潤ませている。きゅい、きゅい!と鼻を鳴らしながら、喜んでくれているみたい。
私と魔獣との出会いは、物凄く素敵な物になった。これからも沢山の魔獣と心を交わしていけると思うと、胸が踊る。
「よし!!カミル、マリー!!このお部屋の中を冒険者しておいで!」
私がそう声をかけると、カミルとマリーは仲良く二人で駆け出して行った。二人の相性はとても良く、これは近いうちに可愛い顔が拝めるかもしれない。
私はモチラピィの飼育書を一旦閉じ、薄桃色の綺麗な毛を毛繕いしていたベリーキャルトのゲージを開ける。
「……みゃおん」
小さくそう鳴いて、ベリーキャルトはゆっくりとゲージから出てくる。モチラピィの様に元気にはしゃぎ回る感じではなく、ゆったりとした雰囲気が特徴だ。
思わず気品を感じてしまう様な立ち振る舞いも、貴族に人気な理由の一つなんだろう。
顔も整っているし、何せ香りがとても
「……」
思わず顔を近づけてしまっていた様で、ベリーキャルトの可愛い前足が、私を制する様におでこに置かれていた。
「……ごめんなさい」
私が謝ると、わかればいいのよ。とでも言いたげに、毛繕いを開始した。
この薄桃色のベリーキャルトは、尻尾の毛が少し長い。もう1匹の、色の濃いベリーキャルトとも比べると、その違いは一目瞭然だ。
飼育書を開くと、そこには確かに雌は尻尾の毛が長い。と書かれていた。




