外食と来訪者
「みてくださいラルシアさん!!本日のデザート、ラブベリーシフォンのホイップ添えですって!!絶対美味しいじゃないですかこんなの〜!!く、悔しい!!!」
場所は変わり、私たちは今サリサさんオススメのレストラン〝ファミリーポリー〟に来ている。
「ここって、デザートが日替わりで毎日必ず変わるんですよね〜。それが美味しいのなんのって、この辺りに住んでる女性の間で今凄いブームなんですよ!」
サリサさんはメニューを握りしめ、興奮したように語りだす。
「もちろん普通のご飯も美味しいですよ!!まあ、ちょっとお値段は他のお店より高めかもしれませんが……でも!絶対に、絶対に味はここが一番ですからね!」
「その日その日でデザートが変わるって、毎日来たくなっちゃいますよね。ふふ、サリサさんのオススメ、楽しみにしています」
サリサさんの勢いに、思わず笑みがこぼれてしまう。
サリサさんも私もやっぱり女の子なので、美味しいもの。特にデザートには、目がないのだ。
「あ!ほら、来ましたよ〜!ガークブルの角切りステーキ〜!!ああ、見ただけでヨダレが止まりません……!!」
目の前に現れたのは、ガークブルと呼ばれる魔獣の角切りステーキ。クセのない濃厚な旨味と肉汁がたまらなく美味しいと、サリサさんに教えてもらった料理だ。
「すっごく豪華ですね……。良いんですか、本当に。まだあって間もないのに、ここまでして頂いちゃって」
「何言ってるんですか〜!誕生日のお祝いなので、これくらいさせてくださいよ!ご飯の後は特注の誕生日ケーキも用意してあるので、ステーキだけでお腹いっぱいにしちゃダメですよ?」
「ケーキまで!!?わぁあ、本当にありがとうございます!!とっても嬉しいです!!」
「さてさて!それでは待ちに待ったステーキ、堪能しちゃいましょう!!んんん〜〜!!!ジューシー!!」
サリサさんは次から次へと、豪快にガークブルのステーキを口の中へ運んでいく。それはそれは美味しそうに食べるサリサさんの姿を見ていると、余計に食欲が湧いてくる。
私は使い慣れないナイフとフォークを見様見真似でなんとか使い、ステーキを口の中に入れた。
「〜〜っ!!!」
── 一体、何年振りだろうか。
闘病生活を余儀なくされていた私には、様々な食事制限がかけられていた。勿論、こんなに肉汁たっぷりの歯ごたえ抜群ステーキが病院食のメニューとして出てくるわけがない。
「お、美味しすぎます……!!」
感動のあまりに肩を震わせていると、サリサさんがしたり顔でニヤッと笑う。
「そうでしょう、そうでしょう〜!?ここのお肉、本当に美味しいんですよ!!素材の味を十分に活かしながら、ここまで完璧に旨味を引き出すなんて……!!ただお肉を焼いただけとは思えませんね、これ!!」
この、お肉の上に乗っている草のようなものは何だろう?前の世界のハーブによく似ている。
「サリサさん、これって何ですか?凄くいい香りがしますよね。余計お肉の美味しさを引き出してくれてるみたいです」
「あぁ、これは香草ですね〜!ハーブとも呼ばれていて、香り付けに使用されたりしているんですよ!まだ一般家庭には流通していないので、知らなくても無理はないですよ〜」
やっぱり、ハーブだったんだ!!
前の世界と全く同じものかどうかはわからないけど、共通して存在する事に対して喜びを感じてしまう。
決して前の世界に未練があると言うわけでは無い。……いや、言い切ってしまうと嘘になってしまう。けれど、何も知らない世界で共通の発見があるというのは、嬉しいものなのだ。
「ハーブは基本的に、上流階級や高級レストランでのみ流通しているんです。生産者がもう少し多くなれば、もっと多くの人にハーブの良さを知ってもらえるんですけどね〜。
因みにこれ、うちのギルドでも取り扱ってますので、種や苗の紹介もできますよ!料金はかかりますが、収穫後の買い取りなどもやってるので是非見てみてください〜!」
ハーブ……か。
確かお母さんが、家庭菜園でハーブを育てていたっけ。今でも育てているかどうかはわからないけど、確かハーブは比較的育てやすいと言っていたはず。
収穫したハーブを使って、よくハーブティーなどを作っていたのを思い出す。
うん、悪くないなぁ。
「ありがとうございます。ハーブ、良いですね!育ててみようと思います」
「わあ!本当ですか!?生産者が増えるのはこちらとしても嬉しいです〜!!全力でサポートさせて頂きますので、全てこのサリサ・ローズウッドにお任せください!!」
胸を張り、どんっと叩くサリサさん。
……口元に肉汁がついているのが、本当に勿体ない。
「サリサさん、口元汚れていますよ……」
「はっ!!なん、たる……」
不覚だ!!!とでも言いたげに、サリサさんは口元を一瞬で綺麗にした。
その後も楽しく食事は続き、出てきた食後のデザートには心底驚かされる事になった。
何と、ホールで出てきたのだ。
丸く焼かれたスポンジはとてもふわふわで、周りは綺麗にクリームが塗られている。
それはまるで、前の世界のショートケーキの様だった。カットされたスポンジの間にはベリー系のクリームと実が挟まっていて、程よい酸味が甘さと混ざり合い、絶妙なハーモニーを奏でていた。
残念ながら全て食べることはできなかったので、お土産として残りは包んでもらう事になった。
この世界の食文化は、思った以上に進んでいるみたいだ。サリサさんが言うには、一般の家庭や食事屋ではここまでの料理を作ることは出来ないらしいけど……。
その後も何だかんだと買い物を続け、私はサリサさんにお礼を言って家に帰ってきた。
まさかここに来て2日目で、こんなに充実した食事や買い物が出来るとは思っても見なかった。そこは素直に、誘ってくれたサリサさんに感謝だ。
ファミリーテーブルに座ってエステルの書を何の気なしに読んでいると、玄関をノックされる音が響いた。
突然の事に少しビクッとなるけど、この家を訪ねてくる人の正体に、思わず頬を緩めてしまう。
「はーい!今開けます!!」
玄関の前に立っていたのは、スピルバさんだった。確か、ソフィーナさんに説明を受ける時に、カウンターを変わってくれていた男性だ。
その時に感じたクールな印象をぶら下げたまま、彼は口を開いた。
「冒険者ギルドのブリーダーエリアを担当している、スピルバだ。モチラピィの番とベリーキャルトの番を連れてきた。中に入ってもいいか?」
「は、はい!!どうぞ遠慮なくお入りください!」
「失礼する」
スピルバさんはまず、庭に停めてあった馬車の中からモチラビィの入ったゲージを二つ持ってきた。
「こいつらを飼育する部屋は決めているのか?」
「あ、はい!!こっちの部屋でお願いします」
私は、いくつかある部屋の中でも広めの部屋に案内をする。一階の右側にある部屋で、ここは日当たりも良く風通しも最高の部屋だった。
「ふむ。広さ的にも問題はないな。その歳でこんな豪邸に住めると言う事は、余程裕福な家庭に育ったのか」
スピルバさんのその言葉に、ウッと言葉が詰まる。神さまが用意してくれました。なんて、口が裂けても言えない。
「えっと……知り合いに譲っていただいた家でして。両親や身内はもうこの世界にいないので、特別裕福なわけではありません」
私のその言葉に、スピルバさんがチラリと私の目を見る。
「そうか、悪かったな。モチラピィ、ここに置くぞ」
この世界にいない。なんて言い方をしてしまったけれど、勿論亡くなった訳ではない。むしろ亡くなったのは、私の方だったりする。
スピルバさんは部屋を出て、ベリーキャルトの入ったゲージを二つモチラピィの隣に置いた。




