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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter “Ⅰ” epilogue Ⅱ

お待たせ。少しだけ短いかも。そして新キャラ追加しました。




「脅威、か」


今回は侍女を供わないで一人で身を清め、濡れた髪を拭きながら充てがわれた部屋に入ると一人口籠もる。


脳裏に蘇るのは消え去るマリウスが言い残した、『アルビオン計画』について。


それが何を意味するのか、大体の予想はつくものの予想でしかないからか、もやもやした複雑な気分になる。


部屋には調度品である高そうなオーク製のテーブルに乗せられた沢山の氷が入ったガラスの容器に一本のボトルが入っている。言うまでもなく、ワインである。


「二十七年もの、か。つくづく染まってきたものだな」


手慣れた手つきでワインの蓋を開け、芳醇な香りが鼻をくすぐる。


赤ワインはいい。

成分こそ、葡萄なのだから違うが血の代わりとして飲む。少なくとも、飢えを満たすにはうってつけだ。


「アイツーー、慎也が見たら卒倒者だな」


「だがーー、もう会えない」


無性に幼馴染含む彼らに会いたくなる時がある。この自我が目覚める前から変な衝動に駆られる時があった。

この世界の文字とは違う日本語を書き殴る時もあった。

寝言で、前世の父母の名を呼ぶこともあった。


「けどーー。この世界も悪くない」


くすっ、と笑い窓から見える市街を見た。

未だ、燻る街並み。瓦礫が転がり、夜間での作業はないが、王国所属の教会関係者が夜間の炊き出しを随所で行われているのが目に入る。


奇妙な運命に囚われた感覚はあるが、それはそれ。

実の父母はあの日、あの夜に再会できた。

己を育ててくれたアーノルドら公爵家の人たちは優しかった。

ガラスの窓に手を当て、なぞるように滑らせる。

ガラスに映る自分の顔はどんな表情をしているのか。

それをなんと表現するべきなのか。


物思いに耽っていると、ドアが軽くノックされる音に現実へと帰っていく。


「どなた?」


「姫様、イザルナとイルナで御座います」


返ってきたのは、自分を主人と認め従者となったダークエルフの双子だった。

入室の許可を与えると、おずおずと入室して目線を下げ、恭しく己の足元に跪いた。


「まったく。言っただろう、私は対等に話して欲しいんだ。頭を上げろ、窮屈で仕方ないぞ?」


「お言葉ですが、姫様は我らが祖アグルのお力をお使いになられた。それだけで、いえ貴女様は私たちにとって天上の御方です故」


これだ。

キュリアとの戦いが終わり、会談が一時終わった後彼らと対話したのだがーーー、正直言わせて欲しい。むず痒くて仕方ない。


が、ここで第三の視点で言わせてもらうとワインが入ったグラスを片手に優雅に傾けて座る夜の君とそれに跪く従者という構図が出来上がる。


もし彼女にSの気があったなら歪んだ顔が拝めたろう。残念ながら?今の彼女にそんな性癖はないのだが。


「お姉様〜?私も、混ぜて、くださいませ〜?」


「ふぅーー」と耳元に息を吹きかける不埒者もとい、変た、もとい眷属にしたジェシカが音もなく忍び寄ってきた。

「はぁ」とため息一つついてグラスを持つ片手は外さず、遊んでいた手を下に下げ、「お座り」と言ってやる。


「きゃいんっ!!?」


間抜けだ声を出して、双子があっけに取られるほどの服従のポーズ。

これが吸血鬼の眷属化である。眷属は主人の言葉に縛られる。

ニンニクがダメだとか、流水が苦手だとか、聖なるシンボルに怯える、など絵に描いたような吸血鬼の弱点がこの世界での吸血鬼化した眷属が備えるのである。


逆にこの世界における吸血鬼、即ち真なる吸血鬼であるエストレアはそういった弱点はなく、寧ろ平然としている。

血が飲めなくなれば、本能のまま動くといえば弱点と言えなくはないが血さえ得られれば元に戻れるので大したことでもない。


とはいえだ。

ジェシカを眷属にしたのは、間違ってはいなかったと思う。

あのままであれば人のまま死ねたであろうが、同時に悲劇の少女にしたくはなかった。


思い出す。あの日、日の光を背後に遥か上空で彼女を抱きとめた際、エストレアか決断したエゴを。



ーーー



怯えたような声を漏らす。けれど、もう止まらない。これが彼女が決断したこと。

爛々と輝いた猛禽な眼、鋭く伸びた乱杭歯。自分が立てたエゴ。ジェシカという己を慕う彼女の生涯の最後をここにするわけにはいかないと決めつけた。


「私のーーーーモノ(眷属)になれ」


「あっ……///」



ーーー


ジュクリ、と生々しい音を立てて柔肌に牙が突き立てた。

途端に、ジェシカの体がビクン、と跳ね、全身くまなく快感が走ったと思う。

それは、ジェシカにとって一種の媚薬のようでーーー何処までも達していけそうな未知の甘さ。


そして、エストレアもまた自我が残っている状態で人の血を吸血するのはこれが初めてだった。


一番最初に血を吸ったのはーーー目覚めた時か。

私がまだエストレアだった時に、この胸に短剣を突き立て命を奪わんとした暗殺者を、逃げようとタイミングを図っていた愚者を、それの血を初めて吸った。


多分、その時が初めて生きている人の血を直に吸ったと思う。

その他は、人の血を吸うことに抵抗があって魔獣やらマリウスから貰った鮮度の高い血のボトルなどを使って誤魔化していた。


まあ、当然そんな本能に抗うような生活を続けていれば反動もある訳だ。

戦いや依頼での単独行動中、何度本能に突き動かされたことか。


それは眷属にしたジェシカも同じことだ。

人が水を飲まねば五日持たず死ぬのと同じように吸血鬼もボトルだろうが生き血だろうが血を吸わねば、本能に動く獣に成り下がる。


エストレアは牙に指を突き立て、軽く血を流す。

驚く三人をよそに、エストレアは血の流れる指をジェシカに近づける。


「ジェシカ、五日も血を吸ってないだろう。私の血を吸わせてやる。ほら」


事実、ジェシカの目はハイライトが消えて犬座りのまま近寄ってくる。

淡い、それでいて芳醇な神秘の赤。ハァ、ハァと荒く息を吐くジェシカに自分自身が重なるようだった。


「んぅ、はぅ…………、んちゅぅ………ぇさまぁ………!」


しかしだ。

なんというか、供したことは認めるが……恍惚の目で、しかも瞳のハートマークを浮かべつつ一心不乱に指をしゃぶるのだけはやめてもらえないか。


お陰で指は唾液でふやけてしまい、後でケアするのが大変だ。

でも、なんだ。前世での後輩みたいな娘を可愛がらない訳はない。


「あ…………」


指を離すと、名残惜しそうに口が追いかけてくるがもう血は止まっているのだからここまでである。

もっと、と口をパクパクさせるジェシカに雛鳥か、お前は。と苦笑い。


気を配ったイルナがおずおずとハンカチを差し出してくる。

それを受け取り、しっかりと拭き取ると反対の手でイルナの頭をわしゃわしゃと撫でる。


そこには彼らだけの世界があった。

確かな仲間と言える彼らの元にコンコン、とドアを叩きひとりの男が入り口に立っていた。


「少し、いいだろうか」


この国の王太子ジェラルドは少々悲しげな表情でエストレアを見つめていた。



●●●



夜の王都を散策する二人。しかし、そんなムードもこんな荒れ果てた惨状の前では台無し、いやそれは失礼に当たるか。


「こうして二人でゆっくりと話すのは、あの夜会以来か」


「ですね。私としてはあの時の殿下の方が可愛かったと思いますが」


今のジェラルドよりもかつてのエストレアとして交流のあった彼の方が印象が強い。

性格もだが、なんというか捻れてしまった印象を受けるだけにどうもコミュニケーションが取りにくい。


「ふはは、それは無理だ。君がいなくなって、僕はいや、俺は変わったんだ」


くるりと振り返るジェラルド。そんな彼の微笑みは月の光を受けて年に似つかない妖艶さを醸し出す。思わずドキッとすらするくらいに彼は恐ろしげだった。


「一週間後、君はこの国の戸籍を外される。無国籍というやつだ。が、君は冒険者としての身分がある。それだけの腕前があるのも知っているがーーー


正直な話、俺は納得できていない。君が魔王の娘であることも、だ。今でもあの暗殺者どもが恨めしく思う。あれさえなければーーーー」


俺は、君に告白出来たかもしれないのにーー。


「…………。お気持ちは嬉しい限りです。ですが……、今の私にとってその言葉を受けるわけにはいきません。あの夜会の時に、そうだったのであれば、もしかすればあり得たのかもしれませんが」


目をつぶって、やんわりと断る。

別に、ジェラルドが嫌いというわけではない。前世の記憶が男だったから、男に告白されてもーーというわけでもない。


【魔王の娘】


この単語こそ全ての元凶だ。

世界に。人々に。

望まなくとも厄災を振る舞う争いの火種。亡き王のご落胤。

エストレアは悩んでいる。言葉にするには難しいモノを。


「………そうか」


ジェラルドは生まれて初めて彼女の背負わされた業というものに憤慨を覚えた。

マリウスという魔法使いのあまりの言いように腹を立てた以上に彼女に対して都合の良いように振り回されるその様に何も出来ない己が憎く感じた。


しばらく歩くと人々が集まる広場に出た。

其処では既に終わった炊き出しの片付けが行われていて真冬の空の下、皆寒そうに体を震わせて器具などを片付けている。


「エストレア、戻ろう。そして、今見たことは忘れないようにしよう」


「そう、だな」


なんとなくだが自分達はここにいてはいけない。そう感じていた。

本当は行くべきなのだろうが、常に民の側にいられるわけじゃない。

してやれることはあるが、今行っても彼らはおそらく溜まりに溜まった鬱憤を自分達貴族という、支配階級に詰め寄ることが目に見えている。


「後で、各自治区毎に毛布を配るよう手配させよう。少なくとも俺たちに出来ることはこれくらいだからな」


それでも行き渡らない人はあるのだろう。王宮にも配らなければならないものもあるから彼らに行き渡る数は限られてしまう。

それでも、やらないよりはマシと思ってしまうあたり、周囲の瓦礫が全てを物語る。


来た道を戻る途中、見たことのある姿が映る。

白い甲冑を着込み、急ぎ早に走る姿。


「あれはーー」


「白薔薇の騎士か」


彼女は、こちらの姿を認めると急停止させ、地面を削りながらようやく止まる。


「だ、団長殿の命を受け、お、お迎えに参りましたっ!!!」


どうやら彼女はフローラの命令で自分達を探しに来たのだろう。

聞けば、此度の事件でフローラはレオ同様かなりの重体らしく騎士として復帰するに三ヶ月最低掛かるらしい。

使いを出さなければならない身のため、こうして自分達を迎えに行くよう指示したのだろう。


「じ、実は殿下。その………!」


「俺は何も咎めはしない。何かあったのか」


「私達の団長とレオ殿がーーー、そのーーー………」


察しである。


「また暴れたのか、アイツらは」


 どうやらあの二人、収容スペースの関係で同室になったらしく終日乱闘騒ぎが絶えなかったらしい。

で、それぞれの監視の騎士達を配属させたはいいのだが、彼らを物理的に黙らせて『また』騒いだらしい。


片や音速を超える瞬発力、脚力を持つ堅牢な騎士、片や見た目の数百倍の重さのある剣を片手で軽々と振り回す怪力の騎士。

ぶつかれば訓練所が数ヶ月間封鎖する程半壊させる化け物二人が喧嘩するのだから止められる人なんてごく僅か。


ここまで来ると喧嘩するほど仲がいいなんて言わない。いや、寧ろ喧嘩するのが彼らなりのコミュニケーションなのかも、と勘繰ったり……。


お互いに意識していると周りから言われている癖に変に拗らせて素直になれないからと絶えず乱闘トンチキ繰り返すと溜息より胃痛や頭痛に悩まされる事だろう。

事実、今エストレアは当事者ではないが頭が痛い。


「はぁ………。更に気分が変になる」


ジェラルドの呟きは夜空に消えていったが、その言葉には大いに賛同したエストレアだった。



そうして白薔薇騎士の先導の元、王宮に戻ったエストレアとジェラルドは真っ先に別々に分けられ、エストレアは充てがわれた自室へ、ジェラルドは先に医療機関へと足を運ぶことになる。


後で聞いた話では、医療機関に収容されていたレオとフローラはジェラルドが様子を見に来た時には喧嘩の末に疲れ果てて仲良く大の字で寝ていたらしく、顔に手を当てて大いに頭を悩ませたという。


その際に然りに頭を下げまくる騎士達を宥めつつ、父である国王に報告し後日、レオとフローラの二人は罰として一時的にその任を解き半年間、国境警備の一兵として配属されたとか。

怪我もあるため、回復してからの辞令ということらしい。


本来なら、もっと重い厳罰もあるのだろうがあの二人は互いが出会うと触発するだけでそれ以外は優秀な騎士である為か、一時的な降格と配属変更のみという形で処された。


事件解決の際は、ぶつかったりせず協力していたと思っていたのだが日常に戻ろうとするとこうなるのはなんでなのだろう。

ちなみに、彼らの言い分を聞いたジェラルド曰く。




『副団長がアイツと仲良く話しているのが気に食わない』


『あの筋肉馬鹿に言い寄る娘がなんかムカつく』




とジェラシー漂う、しょうもない理由だったりした。


それで言い合いになった挙句、乱闘騒ぎということらしい。

彼ら凹凸コンビが綺麗にくっつくのはいつになるのだろうか………。

余談だが、フローラの副官を務めるアンジェラはストレスの余波でメガネが勝手にひび割れ、レオの副官であるオーネットは初めて経験する胃痛に薬を飲みすぎて、倒れたという珍事もあったらしい。

まあ、其処はエストレアにとっては関わりのないことではあるが。



「では、お休みなさいませお姉様♪」


「あぁ、お休み。ーーー自分の部屋で寝てろジェシカ」


灯を落とし、ベッドに入って寝ようとすると平然とベッドに潜り込もうとするジェシカの首根っこを掴んでベッドから追い出す。


「やん♡お姉様ったらイ・ケ・ズ「イザルナ、摘み出せ」」


「御意」


変なスイッチが入ったジェシカを従者であるイザルナに命じて部屋から追い出すと今度こそ眠りに入る為、その瞼を閉じたのだった。




ーーー


ーー





目を覚ますと其処は不思議な、不思議な空間。辺りを見渡せど、どこまで行っても心安らぐ花の香り。

空は蒼天、雲ひとつなく。日差しはあれど、眩しくなく。けど、


「ははぁ……、またお前の仕業か、マリウス?」


だが今度はマリウスの気配がない。では彼の仕業ではなく、誰が夢の世界に引き摺り込んだのか。

いや、或いは己が迷い込んだか。


「?では誰が……?」


そもそもここはどこなのか。世界広しといえど、こんな世界があっただろうか。エストレアの【全と一の瞳】でもこんな世界は知らない。


「そりゃそうよ。ここは、精霊郷エヴァロン。役目を終えた幻想が、夢想が流れ着く理の届かぬ不可侵の場。ようこそ、そして■■?■■■?■■■■回ぶりかしら、どうだったかな?今度はどんな物語を紡ぐのかしらね?」


「お前はーーーー」


果たしてそこには、一人の旅人風の女がいた。年季の入った、木の杖を持って、片手に分厚い書を持っている。

水晶と樹木が絡み付いた、幻想的な椅子に座り、意地の悪そうな笑みを浮かべてーーー


「名乗らなくてもいいわ、私はあなたのことは知ってるもの。でも、あなたは私を知らない。だから、私だけ名乗るわね、私はエレイン、エレイン・カボネック・ア・ドライグ。三賢者のメンバー、精霊卿の管理人にして門番。そして、現世の色を描く画家。今後ともよろしくね、エストレア(神の器)


エストレアは二人目の賢者に出会った。





































「ニャー、エレインの奴何か悪いこと企んでいるような気がするにゃ」


「わかった分かった、キャスパリーグ。でも心配は無用さ。だって、僕らの王女殿下だ。彼女の悪戯なんて小指一つで解決できると思うよ?」


「そりゃマリウスが規格外外だから吐ける台詞ニャ。普通の感性を持つ子が相手したらーーーつぶれるんじゃにゃいかにゃ?」


「それよりも手を動かそうか。さっきから【双児】が意味深に覗き込もうとしてるよ?」

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