表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
92/213

Chapter10-9


待たせたなッ!!!(遅くなりました



それは人が唯一御せる力。聖遺物という力。謎は多かれ、聖遺物は人が手にした力であろう。


それは例えば【深遠の神鉱】のようなただの力の塊。

的確に用いれば、文字通り世界を創り、人が造物主となるだけの力を秘めた物。


二つ目は、権能の具現化。

多くの聖遺物はリリス然り、悪魔神と呼ばれた概念神然り、アマデウスら神々が産み落とした超絶とした存在の力が宿った物。


だが、それらを超えるものが一つだけある。

それは神が、神をたらしめるもの。神々が持つ唯一無二のアイテム。いわば専用アイテム。


それがーーー【創世器レコード・オリジン】。



聖遺物とは異なる、新たなるカテゴリー。しかし、人の手には、否アマデウスら神々でさえその本質は到底理解の及ばぬ埒外の代物。

何故ならば。


創世器は歴史を紐解いても、最初期の神々が持っていたものをそう呼び指すのだと。

最初期の神とは原初の女神リリスより生まれた概念の造神12柱の事だ。



「そうか、あれがーーー【創世器】か。いや、厳密には大本となったものの一部を依代に降ろし、型落ちさせ、この世の現界を可能にさせたか」


「【創世器】………、神代の黎明期において天地を造った概念の結晶。驚きも一周回って頭が冴えてきますね」


映像を眺めるヴォルバートは腕を組み指を交差させてその本質の一部を理解した。

次点でジュダが納得の表情で、頷いている。

それを見たマリウスは、つくづく恐ろしい男だと心の中で呟く。

だが、ヴォルバートの考えはどこまでも的を射ておりそれが正しいのだと実感せざるを得ない。



【天穿ガラティーン】


存在すると言われるであろう、埒外の存在である創世器の一振り。比較を生み出し、光と影を司る神アグルが所有する、見上げる陽射しにして陽炎の剣。

陽射しが武器としての形をとったものでその姿形は、語り部なしでは見ること能わず。


映像の向こうではその【天穿ガラティーン】の形はただの光の形をした剣というものでしか見ることができなかった。

しかし、その光はまさしく剣戟によって振り払われキュリアの片腕を消し飛ばした瞬間が彼らの目に焼き付いた。


「ジュダ」


「はっ」


ヴォルバートはそばに立つジュダに声をかける。ジュダも何を言われるのか分かっているのか、その言葉の決断を待つ。


「もう、この作戦は切り上げとする。キュリアを転送せよ。さもなくば因子だけでも、だ」


「かしこまりました。仰せのままに」


ーーー


ーー










「ぐあっ…………!!?」


ボタボタとドス黒い血のような泥を切断された傷口から垂れ流し腕を抱え蹲る。





一瞬だった。


見たことのない、畏怖さえ感じ取れる異様な剣を取り出した、次の瞬間には易々とキュリアの腕を斬り飛ばした。

その後、バランスを崩して墜落。痛みに耐えながら、なんとか立ち上がろうとしたときにスッ、とその首に当てられた熱をキュリアは感じていた。

見ることさえ躊躇う、黄金の光の刃が柄の両端に取り付けられた異様な剣。その刃がキュリアの首に添えられ今にも首を撥ねる勢いだ。


ーーどうして。


ーーどうしてこうなったのだ。


キュリアは切り落とされた片腕を押さえ、己の首に添えられた刃を持つ、女神の顔を見た。

爛々と輝き、絶えず真紅の紫電が両の目より迸る。


「言い残すことはあるか」


どこまでもこの女は舐めたことを言う。

だから、次にいう言葉はーーー


「喰らえ、顎門!!!」


闇の翼と化したヒュドラの顎門をこの女を飲み込めと命じ、開く。


「そうか」


一条の黄金が閃くと思えば、飲み込まんとした闇を無慈悲に切り裂き、大地を蜘蛛の巣状に割砕き、隆起させ、直後に爆発を生む。何の抵抗を許さず、無様に転がるキュリアは、もはや闇の翼は焼き尽くされ、煤と化しそれはまるで神話の蝋翼のように。

今、キュリアはヒュドラの因子のほとんどを焼失した。


「ア“ア“ア“ッーーーー!!!!!」


振り絞るように立ち上がるキュリアは目を限界まで見開き、残った左手にありったけの魔力を集める。

おそらく彼女の限界ギリギリまで集めたのだろう。その規模は今までよりも濃密で、禍々しい。それを一瞬でやってのけるその技量、まさに戦役を生き残った魔女にふさわしい。

傷ついてなお、それだけ力を行使できるのならば全快かつ全力の彼女に敵う相手など片手で足りるのではないか、そう思わせるだけの圧倒的な差が今、エストレアを除く彼らの胸に今更ながら抱いた感想だった。


小規模ながら足元を砕いて、距離を詰める。

おそらく、今の彼女は正気ではないのだろう。ほぼ無意識な筈だ。


「砕けろーーっ」


ヒュンーーー


「浅いか」


エストレアの口元がそう動いたかと思った矢先、集めた魔力を持っていた指先に冷たい感触と熱を感じる。

次いで右目にも何かが潰れる感触が。

それを何かと確かめる前に再び爆発がキュリアを包む。


「あ、………ぐ、ぐ」


ガシャ、ガシャと鉄靴の地面を鳴らす音がこちらに近づいてくる。

人差し指と中指を含めた指先がない、痛みがないということは切られた後焼かれたということか。

右目にも違和感がある。いや、間違いなく切られ、潰れている。


今更ながらキュリアの歯がガチガチと震え始めた。

これが恐怖というものなのか。


少し離れた場所に模造聖遺物である大鎌キリエライトが転がっている。

それを震える手で、欠けた指先を伸ばし掴もうとするキュリア。

流しすぎた血のせいで意識が朦朧とする中、鉄靴の足音はどんどん近づいてくる。


せめて杖だけは確実に手元になければならない。この大鎌は杖でもあり、これを手にしているからこそ体に取り込んだ因子を自在に取り出せるのだ。


「はっ……………は、は」


ガシッと無機質な感触を感じとる。グイ、と引き寄せ大鎌を支えに体を起こす。


「まだ立ち向かうか」


聖なる炎に包まれた王都の大地に、神はこちらへ近寄ってくる。一歩、一歩踏み締める度に真紅の髪が蛇のように逆立ち、殺気を隠す気もない。


当然だ、彼女はこの魔女を確実に倒すと決めたのだから。父を、母を取り戻し、多くの命を弄んだこの魔女を倒すのだと決意した故に。


「これで終わりだ!」


【天穿ガラティーン】を握りしめてキャリアに向けて突撃する。その際の軌跡が炎を生む。

片腕、欠損した指、軽くない火傷を負ったキュリアは初めて『逃走しよう』と飛ぶ。


しかし、僅かにエストレアの方が早い。

両刃剣の切っ先が振り下ろされ、その身が両断される、その瞬間だった。




『キュリア、君を転移させるよ』


「っ、遅いのよジュダ……!!」


「っ!!?」


キュリアの体が球体の魔法陣に包まれ、その体が湾曲した空間の向こうへと消えようとしている。

万事うまく行ったわけではないが、成果としては上々。

スカッと抜けていく白刃にニヤリと笑う。


「ふ、ふふ、さようなら。残念ねぇ、後一歩だったのにね」


徐々に消えゆく体は上昇していき一際大きな光を放つと思えばキュリアは魔法陣ごといなくなってーーー



接触アクセス開放コネクト



見上げていたエストレアは万色に変わる瞳を輝かせて、自身の持つもう一つの【創世器】、【深遠の粘土板】、否【全と一の瞳】に接続する。


我が意(Anhalten)のままに(und)時の流れ(zurück)を定める(spulen)



次の瞬間世界が白黒に染まり、停止して、そして砕け散った。そしてーーー、時が巻き戻った。





●●●






「おいおい、あっちじゃ何が起きてんだ?」


城塞都市シェアト。その城壁に登って、王都方面にてその異常な光景を見る一人の男ドランは遠眼鏡から目を離して近くの壁に寄りかかる。


「まったく、宿じゃあいつらが盛りやがるから嫌になって出てくれば。地鳴りはするし、空気はやけに嫌に騒ぎやがる。確かめに行きてえが…………。…………、フンッ!!!」


今頃、愛を確かめ合っているジッドとアンナのバカップルを想像しそうになって思わず「煩悩退散ッ!!」とグーで頬を殴る。そんなところへ「何してんだい、ドラン」と声をかけてくる人がいる。


「何やってんだか。やめときな、今行ったところで何も変わりはしないよ」


嘆息していたところに、一人の女性が近づいてくる。

今までどこにいたのか、少し泥だらけな姿になっていたフレニアだ。


「姐さん、帰ってきてたのか」


「まあね、長い任務だったさ。それよりも、私の長年の経験上言わせてもらうけどね、ああいう時は動かない方がいい。行ったところで何の進展にはならないんだからさ。待つのも仕事だよ」


「そういうもんかな。そうだ、姐さんこの後飲まねえか?俺の知り合いは寝込んでるか、盛ってるか、王都に出ちまってるから話せる知人がいねえんだわ」


「お、いいねぇ。サシで飲むってかい?潰れた方が代金肩代わりでいいなら付き合うよ?」


「勘弁してくれよ「冗談だよ」」


ハハハ、と笑う彼らは遠く離れた王都での空気を意識しないようにとしていたのかもしれない。


「嫌な空気だね。私が冒険者になる前の頃、上位竜の黒が私の故郷を襲ってきた頃を思い出すよ。井戸の中に隠れてろ、と両親に投げ込まれたのを今でも思い出せる」


色ごとに強さが変わる竜種。下から数えた方が早い黒とはいえ上位竜は村人如きが束になったって敵いっこない絶対者だ。


「だから、そういう雰囲気ってのは否応にも感じるのさ。それは距離が離れていても分かるんだから」


「そういうもんかね」


「あぁ」


そう言うなり、二人は何も言わなくなった。

ただ、沈黙が辛くなったかは知らないが、ドランはポツリと溢す。



「絶対、帰ってこいよ。死んだら許さねえぞ」




ーーー


ーー





時が停まる。


時が、『巻き戻る』。


神の権能に等しきその力はエストレアの瞳、即ち常に変わり続ける色彩の眼にこそ宿る彼女だけの唯一無二の【創世器(専用武器)】。


【全と一の瞳】。緋門天含め、この世界に魅了や未来視と言った魔眼は数あれど、神の権能そのものというに相応しいものはただ此れ一つのみ。


これは魔眼の王。ありとあらゆる魔眼の頂点。

本来であれば、単独での時間ときの旅行を可能とし、並列する世界の事象を己の世界側に呼び寄せることを可能とする。


つまりだ。

つまりは事象の書き換え、時間遡行を含む天体運営の行使。そこから応用させることで単独であらゆる時間軸に短時間ではあるものの介入出来、やろうと思えばその時間軸にいながら事象の改変やイフの世界を改竄し己の世界に引き込み己にとっての不可能を可能にさせることも可能である。


その過程で、過去、現在、未来において事象そのものに対して覗き見することも可能でそこから時間の巻き戻しなど行うことができる。



「小癪な真似を………。だが、無意味だ。この周囲の魔力量では流石に足りないがその直前までならーーー」


「時を巻き戻し、その転移、なかったことにしよう」


消えたはずの魔法陣とキュリアはまるで逆巻になってこの世界に戻ってくる。

そして、転移したというその先の未来を抹消した。


だがその直後ーーー


「ぐっーーー!」


強烈な渇き。鬱陶しいほどに、狂わしいほどに、愛おしいほどに喉を焼く渇きが襲う。


「ははっ、これがそうか。あまり酷使したくないな。誰彼構わずに襲いたくなる。皮さえ残さず、な」


僅か数秒間の時間を巻き戻しただけだというのにこれほどのバックデメリットが発生したことに驚きを超えて呆れてしまう。


【全と一の瞳】。そんなチートじみた力が制限なしに使えるわけがない。

反動として、激しい吸血衝動に駆られるのである。


今すぐにでも鎧を脱ぎ捨て、誰かの首筋にその乱杭歯を突き立てたい。

だが、それを強い意志で捻じ伏せる。まだ終わってないのだから狂気に飲まれるわけにはいかないのだと。


「え?なんで、なんで転移されてないのよ?!」


時間が巻き戻されたことを知らないまま、キュリアは

困惑を露わにする。

その周りをぐるりと取り囲む黄金の切っ先達。


エストレアの号令を今か今かと待ち望み、小刻みに震えだす。

更に逃げられないように武器と武器の間を縫うように雷撃が走り、さながら檻のようにキュリアを取り囲む。


「あ、あぁ…………」


絶望に取り憑かれたような顔をして、体を縮み込ませる彼女はもはや屍山血河の魔女としての威厳はないに等しく。


「終わりだ」


今度こそ。

今度こそとどめを刺す。


片手を掲げ、振り下ろす、ただそれだけのこと。

敵は既に満身創痍。逃げ場はなく、魔力を練り上げ、反撃するだけの魔法は撃たせない。


彼女が今まで行ってきた数々の罪。温情の余地はなく、慈悲などありはしない。

背中の聖帝痕アストラルが眩く輝き、回転を始める。


「裁定は下った。死を賜わそう。砕け散れーーーー不敬者めっ!!!」


振り下ろす、その時だった。

不意にその指令を止め、強い気配を感じ取った。

その先、己をジッと見つめる黒い騎士。いや、そこにいるのかさえ曖昧な不気味な騎士。

全身を闇よりも深い艶黒のフルプレートで覆い、先端が大きく欠けた、ボロボロの大剣を手にした死の騎士が。


だが、その霊体?を維持できないのか割とすぐにモヤとなって消えてしまう。

だが。エストレアは、その黒い騎士に妙な既視感を覚えた。

この世界に生まれ落ちた時ではない、前世でのどこかでみた懐かしさを。


そして、緋門天の視点として消えゆく騎士がノイズ混じりに呟いた言葉をエストレアは聞き逃さなかった。


ーーー『今度こそ、間に合った』、と。



「お前は一体ーーー、なっ、しまった!!」


黒い騎士に気を取られたそのわずかな隙をキュリアは見逃さなかった。

包囲を潜り抜け、結界の外へ逃げようと飛翔するキュリアはただ、前へ前へと体を押して逃げる。


「しまった、あいつ逃げるぞ!」


「逃すか!!!」


「ここまでやって逃げられるとでも思ってんのか!!あぁ!?」


キュリアが逃げ出したことを理解して即座に行動に移したのはオルスト、ネロ、レオの三人。


オルストが弓を構え、矢を番い。

ネロが残り少ないにも関わらず、魔力を練り上げ魔剣はその意思に応える。

レオは凄まじい重さを持つ硬剣ヴァルナを片手持ちにしてハンマー投げのように構えた。


しかし。


オルストの風を纏う螺旋の矢はキュリアに届く前に失速し、魔剣による雷撃は逃げることだけに専念したキュリアの妄執の前に掻き消えてしまった。

レオの剣は投げる前に、間合いから離れてしまったことを理解してやめてしまう。


「おのれ!!」


エストレアが黄金の切っ先をマシンガンのように連射し、逃げるキュリアを執拗に追尾するが、その前に結界の外へ逃げる方が早いかもしれない。今の彼女なら、無理やりにでも神の領域を強引に突破するだろう。


今の彼女は、巨神兵を稼働させたジェシカと同じように、わずかな魔力と生命力を魔力ジェットに使い、それが僅かな差となってエストレアの猛攻を凌いでいる。


「致し方なし。我が【天穿ガラティーン】よ、我が意思に応え、宇宙を殺める威光をーーー示せ」



カアアーーーと光を放ち、【天穿ガラティーン】は形を変えた。

正確に言えば両刃剣の姿からパーツが分離し、くっついたりして“槍”の形をとった。


「我は履行する、これなるは破滅の銀ーーうん?」


絶対破壊の神威を奮うべく、構えたエストレアは最後に間抜けだ声を漏らした。


正確にいうと、キュリアの真下にあるものに。

飛行して、ただ逃げるだけのキュリアが真下を疎かにしたがゆえにそれに気づかなかった。


今まで沈黙していたが故に誰からにも忘れられていたソレ。

キュリアがそこを通過する時、見計らうようにその双眸に光が灯る。

地響きと、瓦礫、砂塵を巻き上げて傷ついた巨大な片腕がキュリアの真下から迫りくる。


そして。



ガシィィィィィィィっ!!!!!



「「「「なぁっ!!?」」」」


「ジェシカ…………!」


驚きを隠せない皆々。同じように驚きを呟きながら静止したエストレア。


「う、ぐう、あ……!?こ、これは………!!!こ、小娘かぁぁぁぁっ!!!」



巨大な手がキュリアの体をしっかりと握りしめ、万力のように締め上げる。

締め上げる度に、その腕は黒い欠片が錆のようにボロボロと崩れていくがそれでもお構いなしに魔女を逃がさないように固定する。


「……………に、逃しませんわよ、私の、私の意志が砕け散るその瞬間まで、絶対に逃しません!!!」


ブルブルと痙攣を続ける体で、なおその瞳に風前の灯とは言え燃える意思。

崩れ続ける巨神兵。それでも、彼女はキュリアを握りしめたまま脚部に備わったブースターを回し、空へと上昇する。


「待て、ジェシカ!どこへ行くつもりだ!!!」


エストレアが叫ぶ。

それが聞こえたのか、ジェシカから声が届く。


「お姉様、お姉さまのそのお力は地上にもたらしてはいけないもの。けれど、この魔女を倒すためにはその力が必要です。地上を火の海に沈めない為にも、ガハッ!!」


「くぅ……、私はこの魔女を宇宙へと放逐いたします!私はもう長くありません、ですから!!お姉様、どうかディアスと私もろともこの魔女をーーーー貴方のお力で焼き払ってくださいまし!!!!」


覚悟を持った声が地上に届く。

あんな幼い家族の娘だというのに。きっと大きくなれば有望株な人になったであろうに。

なおも上昇する巨神兵。それに握りしめられたキュリアはもがき、叫ぶ。


「くそ、離せ、離せ小娘!!!」


「死ねば諸共ですわ。往生際が悪いですわね」


口から絶えず血を流すジェシカ。もう視界などモヤのように見えづらい。

けれど、ここで力尽きればここまできた意味がなくなる。


「お前はーー!正気か!?ここで私と心中するつもり、か!?」


「正気も何も、初めから私は本気ですわ。身の丈に合わない力を無理やり操り、体はボロボロですけれど………ここで、あなたを野放しにすれば世の中は悲惨極まりないこと目に見えてますの。それに、お姉様の手で死ねるのならば、これほど嬉しいものはありません」


「狂っているーー!私なんかより、小娘の方がよほど狂ってる!!!」


本当に焦るようにキュリアは声を荒げる。

対して、ジェシカはこんな時に笑っていた。


にこやかに笑っていた。巨神兵の内側にある彼女の顔をイメージしたキュリアは彼女の狂気じみた表情を理解できないでいた。


あちこちから部品やらが燃え尽きるようにしてこぼれ落ちていく。

拘束する手もボロボロと落ちていくがそれでもキュリアを握りしめる力は変わらない。


やがて、雲を超え、世界の境界が一望できる領域にまで到達する。


「綺麗ーー。世界はーーー、丸いのですのね………」


ここならば、いかな力を振るっても地上を焼き払われることはない。

故にジェシカは大きな声で求める。


「お姉様………お姉様ーーーーーー!!!!」












●●●







「わかった。だが!!!お前は、決して死なせはしない!!必ず、生きて連れて帰る!!!これは!!決定事項だ!!!!」


エストレアは【天穿ガラティーン】を通常の両刃剣に変形させジェシカの後を追うように飛翔を開始する。


黄金の飛行痕を描き、雲を突き抜ける。その遥か先、目視にてジェシカ達を捕らえる。


「大いなる神、アグルよ。我が願いを聞き届けたたまえ……!」


【天穿ガラティーン】を眼前に呼び出す。

そして、キーワードを唱える。



接触アクセス開放コネクト


眼前にある【天穿ガラティーン】は再度変形を行う。

柄は一回り長くなり、また彼女の体を覆う鎧、パーツは分離、【天穿ガラティーン】に集まって合体を行う。

それは超巨大な弦を持った『砲』。


「【天穿ガラティーン】、最終変形完了!!!


目標確認、宇宙演算アカシックキャリア並列処理、ならびに天体事象、パスルート検索!これを受理完了!!概念神権能、【比較】を装填完了。弾数『1』!」


「全工程、骨子定着。空間固定、弾着、及び弾速最適化、目標へのカウントダウン開始。テンカウント、秒読み始めっ!!!」


工程が終了する。最後に、祝詞を用いるのみ。


ーー灰の雲より明けの明星は來れり。

過去、現在、未来の地上の星はまた等しく輝く。

地を塗りつぶすあらゆる苦しみは、夜明けの日差しの如く絶望の中から希望を見出そう。


ーー嘆くな、震えることはない。紅き王は高らかに明日への礼讃を。天に輝く斜陽の星、神たるアグルに御子たる我が告げる。


ーー汝、そして汝らの歩みに施しを。貴方方の罪は泡沫の如く浮き上がる。

我が身はアグルの審判者なり。時は来た、厳しく糾され、一人余さず恵みの刑罰と灼熱の抱擁を与えよう。


ーー来たる滅びの日、闇の汚れに黄昏が新たな神を生む。さすれば汝、深みの底より息吹を吹き込まん。



ーー「神たるアグルに告げる」


ーー【承認、安全装置権限により解除する】


銃口に黄金の光が収束し、圧縮し、集まる。

それは地上からすればいきなり太陽が生まれたと思うくらいに眩く、そして白く視界を塗りつぶす。


神威による熱で発生した超電荷プラズマが自身の鎧と一体化したパーツ一つ一つに行き渡り、一点に集約することで生まれた魔法文字で刻まれた光の輪のようなフィールドが一つ、二つ、三つと発生すると銃口の黄金の光に向かって収束していく。


最後に一際大きな光輪がエストレアの虹色の眼より生まれると、それさえも取り込んで煌々と輝いたオレンジ色のボール状になる。

それは小さくとも遥か高高度下にある地上でさえ上位竜並みの息吹の直撃を感じられる程の熱量があり、植物は自然発火し始め、川の水位がみるみる減っていく。

聖遺物、【白護の聖盾】による防御結界により王都近隣は最小限に収まったがーーー



『ジュダ、もう一度だ、もう一度転移を行え!!』


『ダメです、空間が湾曲しすぎていて転移の魔力がーーー伝わりません!!!』


『なんでもいい!!あれを直撃させるな!!成果諸共消し飛ぶぞ!!!』


『間に合えばいいのですが………!術式展開………!!』




閉じていた瞳がゆっくりと開く。

その目は金色に輝いている。

その背にある聖帝痕アストラルが光を放つ。


「森羅万象、憑依拝聴」


「権能、【全と一の瞳】第一段階、解除セット


カチッとエストレアの目にある【全と一の瞳】が切り替わるのが理解した。

超越者の視点。始まりの神アグルが世界を照らすという概念を植え付けた時の再現。

世に光が照らされたことで光と影が生まれ、互いに比べ、強くなる理をアグルは齎した。


「神罰執行」


始まりの光。その熱量は原初であるが故にもっとも『強く』て、『熱い』。

遥か上空であった為にその凄まじい熱さが地上が齎されたが、もし地上により近ければどうなってたか。


ーー言うまでもない。消し炭ですらない、全てが焦土となる。直撃ともなれば、この辺り一面が気体になった岩石に包まれるだろう。


「熱を帯びろ、『比較』の太陽ーー【仰ぎ見た(アヴァーハン・)蒼天を抱く(マハー・)原初の熱焔(パーシュアストラ)】!!!!!」



そしてエストレアでさえ顔を顰めるほどのバックファイアと共に、その銃口から魔女とそれを拘束した巨神兵に向けて、太陽が放たれた。





















「これで、私も終わり、ですわね」


なんと短い生涯か。

けど、巨神兵という身に余る存在を顕現させ、オルステッド家の研鑽は間違いではなかったのだと思っていた。


もうすぐ地獄の火よりも劫い光がこの身を貫くのだろう。そう考えるだけで、体が今更ながらに恐怖に包まれそうになる。

さっきまでの威勢はなんだったのか。


いいえ。


「違いますわね、これはーーー未練だったのですわ」


ひび割れた頬に一つの滴が流れ、そして止め処なく溢れ出る。


「もっと、お姉様と一緒に、いたかったですわ……!」


コクピットの中でうずくまる彼女。内部は赤く点滅し、危険のアラームが鳴りっぱなしだ。

だが。


いきなり機能停止した。


「え?」


そして、赤から青へ内部が変化した。

困惑するその前に。

気がつけば、ジェシカは巨神兵の中から外へ投げ出されていた。


「え、ぇ、え?き、きゃあああああーーーーー!!!!?」


ジェシカを投げ出したコクピットの内部では。


ーーーさようなら、マイ、マスター


コアに刻まれたメッセージ。

この世に再び生を与えてくれた幼いマスターに感謝した巨神兵の自我。


マスターを排出した巨神兵、ディアスは自らの意思でキュリアを拘束する。もはや腕の崩壊は止まらず、あと少しで逃げられる寸前でディアスは自らの胸元に引き寄せ、体のあちこちからアンカーを取り出して身体中に巻きつけた。


「くそ、くそ、くそおおおおおお、離せ、離せぇぇぇ!!!!」


再び強く拘束されたキュリアは焦るように、焦燥しきった声で暴れるもびくともしない。


まもなく火は放たれる。

これを回避する術はあらず。


キュリアの目には迫りくる太陽の灼熱が。

そして、脳裏には愛するヴォルバートの記憶が走馬灯のように駆け抜ける。


『キュリアよ、余はこのアルビオン計画を成就させる。その時、お前に無理をさせてしまうがーーー期待しているぞ』



ーー『ジュダァァァァッッッ!!』


ーー『転移、発動させます!!!間に合え!!!』


「ヴォ、ヴォルバート、様………」


そう呟くと同時にキュリアの意識は灼熱の奔流に飲み込まれてかき消えていった。


ーーー《オオオオオオオオオオォォォォォォォォ………》


キュリアに取り込まれたヒュドラもまた小さな咆哮をあげて飲み込まれた。


打ち出された太陽。それはキュリアと巨神兵を貫通し、宇宙の彼方へ消えていった。











ーー続く


キュリア戦決着。長くなった上、ギルドマスターが途中でフェードアウトしたり、レンヤが空気化したりしましたが。次回は一章エピローグとわずかな日常パートをいくつか挟んで次章となります。




※イラストはちゃんと進めてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ