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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
90/229

Chapter 10-7

お待たせ、一万超えた……。大部分が中二詠唱で埋めたけど。


おすすめbgm.コーラス着いた【敗者】のサビがあるといい感じではないかな。




光の中で、エストレアは考えていた。その刹那とも言える一瞬の中で、膨大にも感じられる時間に、溢れるように流れてくる情報量。


(あぁ、私は………だからなのか)


内側から眠っていたものが溢れ、血潮へ、内臓へ、皮膚へ。そしてエストレアの目に映るのは遥かなる時の果て、己を抱きしめる全能にして全知の存在(アカシック・ホールド)の女神。姿形は、その目には映らず。

彼女は今、すべてを垣間見た。


御子の意味を。

己の役割を。

泡沫の夢に、喝采を。


(行きなさい、鎖を解き放つのです)





















燃える王都アントン、その宮殿にも火の手は迫り生き残った市民は神に祈りを捧げる。

生き絶えた、我が子を抱き抱え悲劇に慟哭する。


「だが、悲劇は必要ない」


真っ黒なローブを着込んだマリウス・シオンが手にした水晶を弄びながらその向こうにいる本物へ今見ている光景に歓喜の声を乗せて呟き、そして水晶の中で映る本物もそれに同意だと返事が返ってくる。


「ダークエルフの双子よ、君の祝詞がジェシカ君が導いた彼女を現界せしめる鍵となる。けど、僕もこの感情を抑えきれそうもない」


大勢の市民の前で、マリウス・シオンの分身は手を大きく広げ高らかに叫ぶ。


「さあーーー、目覚めの時だ!」



讃えよ、讃えるのだ。

数万年の長きに渡り、繋いだ血は今結ばれる時を祝えと。

彼方で見つめている我らの母よ。母より与えられた肉と、人を律するために送りたもうた神の皇子の血は今、混沌と混ざり一つになる。


魅せよ、観せよ、見せよ

御子よ、未来を、現在を、過去を、ありえた可能性さえも見渡す万里の瞳を開き給え


その力に導くままに力を振るうがいい。

それは、覇者の証。

それは、神の言葉。

それは、我らが求めた御子の証明。


天地を、宇宙を、概念を従えて

審判者は天より罪過を糾す。

ーー今、君は殻を破る。



そう、君こそが運命の御子なのだと高らかに。



ーーー


ーー


ー




「姉さん」


「イルナ……、うん。分かってる、姫さまをお迎えしないと」


炎の中、獣を素手で引き千切り、返り血を浴びたダークエルフのイルナとイザルナの二人。

黄金の光がヒュドラの亀裂より生じて、今にも生まれようとする我が君を迎えるために駆け出した。

二人が、オルストらの前に立つとフードが外れて、その外見が露わになり、人間達が騒ぎ出すがそんなことは今はどうでもいいことだ。


「ダークエルフ………?」


敵であるキュリアが怪訝そうな顔で二人を見つめ、しかしすぐに暴れるヒュドラを抑えようと意識を向ける。


二人は互いに片手を合わせ、残る手をヒュドラに向けて祝詞を紡ぐ。



    ーー何故奪い、何故殺し、何故傷つけるーー



         ーー無力ではないーー



        ーーもう悲劇はいらないーー



ーー抑止の使命を放り投げ、同じ血の同胞を汝は何故傷つける。

故にその傲慢に罰を与えなければ。天より呼び地に増え、舞い踊る虫の如き暴虐を見よ


ーー雄獅子の牙、駱駝の蹄、大鷲の如く翼を広げ、イチジクの木を手折るように貪り、食らう魂の暴食者よ


ーーお前は日輪から恵を取り上げる者。

故に汝、平伏するのだと、罪なき者の魂を弄び、神の尊き名を穢した罪人に裁きを与えるのだと。



ダークエルフの双子が紡ぐと同時に亀裂の黄金光は更に光を増し、遂に天を衝く光がヒュドラの腹を突き破り、暗雲を裂いて月の光が垣間見えた夜は瞬く間に夜が明けた。

また、天には魔法文字が刻まれた紋章が展開され、なお埋め尽くさんとする暗雲を縫いとめる。




ーー汝の罪、許され難し。比較司る我らが神、天と地を照らす熱の支配者にして創造者、狩りと裁定の名の下にーーー!


「「照らせ!!!アールヴ・アグルッッッ!!!!」」










「ねぇ、あれ何……?」


二人が紡ぎ終える。市民の一人が空に向かって指差す。

天に向かって高く伸びていく光の柱。空は、いつしか宇宙を映し出し、黄金色の陣が空一面を覆う。

その宇宙から伸びていく光とは反対にそこを目指して落ちていく直視できない光と衝突する。その光の中心に、黄金の体に目を閉じて、溢れる魔力の本流に紅い髪をたなびかせた少女の姿、エストレアがいた。


光に包まれてはいるが服らしきものは纏わず、宙に浮く魔王の娘。落ちた太陽をその身で受け止め、その背中に刻まれた聖痕(スティグマ)は黄金の光を伴い、蒼みを帯びた七色の透明な翼を展開する。


「そんな、あ、ありえない………!」 


叫ぶのはアナト枢機卿。結界を維持するリムもまた驚きの表情を隠せそうもない。

変化はまだ終わりではない。蒼みを帯びた七色の透明な翼に変化した聖痕は空に、地面に翼の先を突き刺し、結界を更に覆うように包み込む。


「規格外の魔力増幅、エーテルの活性化、まさかーーー聖痕(スティグマ)ではなく、聖帝痕(アストラル)?」


「そんなまさかーー!?でも、空間具象化展開は聖痕では…………!」


「もし、もし聖帝痕だとしたら大変なことになるわ……!!リム、あの子は……何者?」


聖帝痕とは。聖痕の上位に位置する特別な証。それは神の血を色濃く受け継ぐ聖なる者の証明。

聖痕は個人に対して影響を及ぼすが、聖帝痕は世界に対して影響を与える。世界の変革を齎す力、それが聖帝痕であり、つまりはーーー聖帝、教皇(・・)の血を引く証明に他ならぬ。


教皇の血を引いている。それ即ちアナスタシアの素性もここで大分明らかになったということだ。




地上の人々の喧騒など他所に、天に坐する魔王の娘の目蓋が動く。

今更だが、キュリアもまた有り得ない現象の前に立ち尽くすしかなかった。

それを裂いたのは一重に彼女宛に届いた通信だ。


『キュリア、聞こえるか。今すぐ撤退しろ、今のアレに我々に出来ることは何もない!!!』


声の主は同僚のジュダだ。彼の声からしても焦っているのは明白だった。けど、キュリアは別の事実を理解してしまった。通信の向こうにいる、愛する男のかつてないほどの警戒もこちらにひしひしと伝わってくるようだ。


「そうしたいのは山々よ。けど、出来ない」


『なんだって?!』


『捉えられた。奴がーーー見てる」


うずくまる姿から立ち上がり、眼下を見下ろすソレ。

その視線の先にはヒュドラとーーー己だ。

万華鏡の如く、常に同じ色は存在せず、代わる代わる瞳。

その目が映すのは、特に冒涜された肉親の成れの果てであるヒュドラを。


ヒュドラを見た、光の体を持つ御子はその神威に相応しい姿を王都全域に晒していた。両の肩に巨大な肩鎧を身につけて、頭につけたティアラは亡き母が身につけたものにそっくりで。


黄金に輝く籠手鎧、露出しているはずの肌は宇宙の神秘を宿す色で満ちて、どんなに腕の良い職人がいても再現できぬであろう、精密な模様が描かれたサイドマントを翻し、もも当こそないが、膝当、脛当、鉄靴は白を基調とし、黄金のラインが美しく装飾する。


その姿は神話で語られる聖騎士を彷彿させるが、だが彼女に力を与えた存在は太陽神。

日輪の光が具象化させ、彼女の魂の形に合わせて変化した姿である。

神々しい姿に、その背に聖帝痕(アストラル)を光背のごとく背負えば誰が見ても『神』のように見えたであろう。



「くそっ!ヒュドラのエネルギーを根こそぎ奪って行きやがったわね!?これじゃぁ……回収できてもーーーーっ!?」


大鎌を構え、ヒュドラと共に天に立つ神を迎え撃つ。たとえそれが不遜な行いでも。

何故なら、我ら六闘将は悠久に継いだ誓いよりも主人と仰いだヴォルバートに全てを捧げたのだから。


そう奮い立たせたキュリアは次の瞬間、身体が穴あきチーズのように抉られる姿を幻視した。

我に帰ったキュリアは急いで空間を歪め、その中に逃げる。だが、キュリアと違ってヒュドラは逃げられない。


「Gloria(貴方を)、Hiren(救います)」


一条の光がヒュドラを穿つ。







●●●









光から解放された時、エストレアの意識は雲に最も近い場所、王都上空にて目を覚ました。

暖かいものが身体を包む。

抱きしめられている感覚。それは、生まれた赤子を抱き抱える母親の暖かさだ。


(あぁ、お母様……いいえ、お母さん。ありがとう。そして、お父さんもありがとう)


産んでくれてありがとう、自分は今貴方達を救う力を使うことが出来る。



「星よ、泡沫の底より祝福せよ。栄華は落日を迎え、終末の時は奈落より来たる。森羅万象は燃え去りて月と太陽は深淵へと堕ち果てるのみ」



「いざ来れり怒りの日、天地に住むあらゆるもの、罪深き者達よ、審判者たる竜の吐息で塵となれ」



紡ぐ詠唱(オルーラ)。器をそれにふさわしい形に昇華させる。

想像するのは、父と母が荒廃しながらも支え合い、幸せだったパンドラの大地。戦役によって、バラバラになったエストレアの本当の故郷。

お互いの立場の隔たりがなければ、訪れなかった悲劇。されど、それがあったから自分がここにいる。


「悲しみを背負い、頭を垂れ跪き、積み上げた汝らの屍よ、いずれ来る勝利に勝鬨を」



「王命の名の下に正しき声に導かれ、地の底から湧き出る槍群にその歌声よ、響き渡るべし」



背中に刻まれた聖痕が大きく巨大化し、王都全域を包むようにして翼の如く飛翔する。

何より感じられるのはこの地奥深くにある龍脈の結晶、【深遠の神鉱】が聖痕越しに己の体へと流れ込む。

一つの神話世界を容易く創造可能な莫大な魔力の塊が己の体に流れ込み位階をさらに高めていく。




「輪廻を回す九番目の星の弓よ、祈りにより顕現し、罪過を洗い流せ。星の安息となるために原罪を浄化せよ。

神罰たる降り注ぐ硫黄の火よ、例えどれ程の苦しみがあろうとも我に従わぬ者ある限り、審判は終わらず大地は毒で満ちる」




自分の体の半分はあろうかという巨大な黄金の肩鎧、母が被っていたものに似た頭冠(ティアラ)。同じく黄金に包まれた籠手、露出する肌が多めのヒマティオンに似た純白の服に古代インドのアンタリヤに似たズボンの上に黄金の脛当て、鉄靴。

黄金に輝く籠手鎧を右手につけ、花嫁が身につけるような白い、純白な手袋が左手に現れる。精密な模様が描かれたサイドマントを翻し、もも当こそないが、膝当、脛当、鉄靴は白を基調とし、黄金のラインが美しく装飾する。



流れ込む莫大な魔力の奔流に晒され、己のイメージに沿って武装が具現化する。

頭上には無機質で鋭利な天の輪が広がり、また目に映るすべてのものを識った。

感覚的に、自分の目からも【深遠の神鉱】にも劣らぬ魔力が絶えず生み出されているのが分かる。




「来れ、終末。汝、黄金の戦車で稲妻を纏い、天を裂いて新たなる光を眼下に遣わす使命を与える。

汝が我等に、そして汝の足元、灰を被りし聖女の慟哭を奈落の底へと届かせよ」

 


「星の先触れの矛先に、もっとも穢れた麗しき貴女にヴァルハラへの道を捧げよう。

創世(つくりよ)たるリリスよ、今情けを与え給え………!!!


ペンドラゴンを継ぎし者のその名においてーー


我が身に宿れ、日輪の威光(アールヴ・アグル)!!!」


宣誓により、遥か頭上にて太陽は現れ、暗雲を消し飛ばし黄金の風が吹き荒れる。

黄金の風は火の手をかき消し、傷ついたものを癒した。

そして、一番に感じたのが己の体と同化した目に宿る力。それは聖遺物にも並ぶとも劣らぬ、いや凌駕する代物だ。


「創世器起動、【深淵の(ルーライラ)粘土板(レコード)】。接触(アクセス)、開放(コネクト)ーーーー『全と一の瞳』緋門天、開眼」



発動する。

神威により、赤い瞳から金色になってはいたが今は赤を基調とした虹色に変わり、血のような紫電が溢れる魔力により一層激しさを増す。

『緋門天』とは、太陽がこの世界を照らす軌道のこと。天より睥睨する視点、即ちこの世の現在(いま)を見通す目だ。


見下ろすはヒュドラ。己を産んでくれた母の残骸。罪なき子供達、実験台とされた哀れな人々達の残骸によって作られた化外。

それを生み出した、憎き魔女。


(お前は何故、そのようなことをした)


自分の位階を高めるためか。更なる叡智のためか。

己を高みへと至るために他者を犠牲にしたのなら、共感はできないが納得した。


人間達に憎悪したというのなら、神々に反抗する気概があるというのなら共感は出来た。まぁ、自分は人間として育ったから彼らを憎悪するという感情はない。


なら己が魔王を超える、つまり古の誓約を砕いて唯一無二にするというなら敵対するだけだった。


分からない。エストレアはあの魔女が何故このようなことをしたのか理解出来ない。

母の眠りを、安息を妨げ辱めたことがエストレアには理解できない。いや、理解する意義がない。


けれど。

これだけは言える。あのヒュドラはなんとしても倒さねばならない。いつまでも骸をこの世に晒していいわけがない。

だからーー。


魔力を編む。目に力が駆け巡る。


「Gloria(貴方を) hiren(救います)、Ehre(どうか) sei(永遠(とわ)なる) dir(平穏を). 射貫け、創世の欠片。熱を帯び、我が敵を穿つ也」


空間が歪む。右眼から溢れんばかりの魔力の奔流に。もし数値化できるというのなら、溢れ出た魔力はどれ程になるのか。言っておくが、溢れ出た魔力は余分な排出分として出た余り物。つまりは涙か、言い方は汚いが目糞と一緒だ。



それだけでーーー水爆の(ツァーリ)皇帝(ボンバ)数十発あっても足りぬエネルギーに満ちている。


規格外なエネルギーは大気さえ巻き込んで、その眼光は眼下にあるヒュドラと魔女に向けられている。


「創世(Fragment)の(der)欠片よ、(Schöpfung,)熱と(wird)なれ(Hitze)」


それは放たれた。


ーー起きよ、光を放て。あなたの光が臨み、主の栄光があなたの上に輝いたから。見よ、深みは地をおおい、 闇はもろもろの民をおおう。


ーーしかし、あなたの上には主が朝日のごとくのぼられ、主の栄光があなたの上に あらわれる。もろもろの国は、あなたの光に来、何れは来たる朝日にのぼるあなたの輝きに来るのだから。


ーーそのようにして光は放たれた。闇を蠢き、恵を喰らう雄獅子の牙持つ悪なる蟲を払われる。明けない夜は決してない故に。


瞳から放たれた光は一条の槍となってヒュドラを穿つ。

一切の抵抗を許さず、その体に大きな風穴を開け焼き尽くす。


「亜空間に逃げたか」


ヒュドラには直撃したがキュリアには夢魔の能力で躱されてしまった。

しかし、逃しはしない。聖痕、いない聖帝痕によって王都全域には自分の領域、いや神域を被せてある。どこに隠れようとも、この領域ある限り王都からは逃げることも隠れ続けることもできはしない。


「お前を、私は許さない」


怒りが込み上げる。この眼に埋め込められている【深淵の粘土板】によってキュリアが犯した罪を識った今、家族を貶めた魔女だけではなく死霊術師としても最低な行いをしたあの魔女は絶対に許さないと決めた。

不意にヒュドラの物陰から空間が歪むのを察知した。


「そこか」


空間を切り取り、キュリアの目の前と入れ替える。

驚きの顔をするキュリアをその目に収めつつ、拳を突き出す。

直後、壊獣化したルディナの一撃に炎を纏ったような衝撃がキュリアを吹き飛ばした。












「きゃあアアアアアアアアアアアアぁーーーー!!!?」


「ぐ、ぐおおおっーーー!??」


パキィ………!!


着弾と同時に、轟音がなる。

天を衝く火柱、雲を引き裂く光。あたり一面に吹き荒れる衝撃波はそこにいた屍者(グール)や合成獣(キメラ)どもを容赦なく細胞ごと消しとばす。

同時に王都を覆う【白護の聖盾】の結界がささくれ立つ。


「なんて威力だよ………!!」


率直な感想をネロが呟く。事実衝撃波だけで剣を地面に突き刺し、耐えねば吹き飛ばされていたかもしれないのだ。


「つーか、あれエレン、だよな?見間違いじゃねえよな?生きてたのかよ………!」


「間違い無いわ、でもなんであいつあそこにいるのよ………!?」


立ち直った冒険者は、既知であったエストレアの姿を見て驚きを隠せない。それもアグニルを除いて他はエストレアがヒュドラに喰われた瞬間を見ている。


「皆さん、まだです!警戒してください!!!」


アナトが叫ぶ。それの意味を理解した兵士たち、冒険者、騎士達は武器を握り込み光の向こうにいる化け物がまだ生きていることを悟る。

光が晴れると身体を大きく損傷させながらもヒュドラはまだその異様な姿を残している。


「ったく、くそったれな耐久力しやがって………!!」


思わず口愚痴る。散々、攻撃してなお健在とかまじふざけてるのかと。

今まで高ランクの冒険者として数多くの魔物を倒してきた実績を持つ竜殺しの冒険者達。


でもその自信は今日砕かれまくって、一周してしまった。

今なら上位竜の最高位《白亜》を相手にしてもヒュドラよりマシと言えるぐらいに。


「お前ら、さっきみたいな攻撃の余波が来る前に市民を誘導しろ!!これ以上被害を市民に向けさせるな!!」


『了解ッッッ!!!』


騎士達も騎士達で、己の使命を全うするべく行動を開始する。

しかし誘導させるにしてもどこへ、なのか。


「フローラ様、市民を誘導させるにあたって何処へ向かわせれば………!」


「恐れながら申し上げます、仮に王都郊外に誘導させても、あれらが再び交戦すれば郊外とて安全ではありません!!」


「一番手っ取り早いのは王宮内部ですが市民を入れるのは貴族方や貴賓の方々の顰蹙を買いかねません。今後の影響的に……」


「……………。郊外が危険なのは私も分かっていたことだ。レオもそこは理解しているはず。ーーーやはり、王宮内に受け入れさせるしかあるまい」


白薔薇騎士団の生き残り達は受け入れ先に難儀していた。郊外では危険が伴う。市民の中には老人など移動に難がある人もいるのだ。何より、騎士団長のフローラは結界維持のため、怪我のため彼女らと行動を共にすることが出来ないのも拍車をかけている。



ーーーズガァァン!!!


「うわっ!!」


地面を揺るがす轟音。

宙を舞い、バウンドし転がる魔女の姿が冒険者、騎士団、兵士たちの目に映る。


「貴方は一体、何者なのだ………?」




●●●




「ぐっ、うぅ……!!」


大鎌キリエライトを杖代わりに立ち上がるキュリア。

その目には憤怒の表情を浮かべ、魔力を集め魔法を行使しようと大鎌を構える。


「なんで生きてるかは知らないけど………!よくも、よくも、よくも、よくもやってくれたわね……!!!」


ヒュドラのエネルギーを根こそぎ持っていかれた上、一番大事な部品を破壊された。

これでは、あの方を変生させることが出来なくなってしまう。


「神だか、御子だか知らないけどーーー、その憎たらしい面を穢れで汚してやる……!!来い、冒涜の叡智!!大地蝕む巨躯なる影!!!」



大鎌の石突を地面に突き刺す。彼女本来の魔力を注ぎ込み、更には霧散させられた黒い雨を再び呼び出す。

結界があるために浄化させられてしまうが、結界の外に降らせて地面に染み込ませ、地下を通ってこの足元に集中させる。


すると地面を突き破り、泥で覆われた巨人が姿を表す。それも一体ではない。

思い出して欲しい、悪徳都市クライアで目撃された巨人のことを。


子供達の無垢なる魂、その残りカスを使って生まれた、屍者、獣に次ぐキュリアの三番目の眷属。

巨神兵に届きそうな巨躯を誇るそれが15体。巨人と言っても、流体の泥を無理やり人型にしたナニカで、常に泥が流動しており、ビチャビチャと泥が滴る。

その泥はよくよく見れば苦悶を浮かべる人の顔に見えなくもなく。


「そこから引き摺り下ろせぇぇ!!!」


伸ばされる泥の巨手。だが、エストレアはそれでは動じない。動じる必要もない。

時間稼ぎのつもりなのか、巨人を呼び出すとキュリアはヒュドラの元へ向かう。


「無意味」


指先を一体の巨人に向ける。そのまま弾くようにしてやると触れてもいないのに巨人の体が爆ける。

弾けた巨人から、半透明の光の粒子が立ち上りエストレアの中へ吸収されていく。


ーーあぁ、これで楽になった


そんな声が聞こえた気がした。

やはり、これも無残に利用された人たちの残骸なのか。



両の手を胸元に優しく交差し、静かに開く。

その間に金属製の小さな円盤が姿を現した。エストレアはそれを掴み取ると己の頭上に放り、回転させた。

次いで詠唱を紡ぐ。


「私は【比較】する」


「時よ止まれ、そう願えど理は静かに針を刻む者。過去は戻らない、だから進むのだ」


「すべてを知り、すべてを得る。その先に望んだものが希望が食い潰されると知っていても私は刹那を愛している」


金属製の小さな円盤が回転を始める。

己の魔力を喰いながら、回転は勢いを増し、光を放つ。


「かつての失敗はしない。その先を目指すため。たった一度だけ与えてくれた貴女の愛に応えるため、我は稲妻となり、永劫の星の海を駆け抜けよう」


魔力が極大に膨れ上がり、回転に紫電と稲妻が絶えず吹き荒れる。


「ならば照らして欲しい。暗闇を進む為に、生きる意味を貴方方に与える。だから、もう一度生まれ変わってきて。輪廻を廻せ、地を埋め尽くせ。響け、天を衝く聖なる槍群(総軍)よ!!!!!!」


回転が今最大限に高まる。そして、地面から生えるように黄金の槍が幾つも、幾つも姿を表す。

これは、これらは、否。

彼らは、黒い雨に溶け込んだ哀れな魂達。


呪いから解き放たれる、そう信じ、エストレアを信じ恵の光を受け魂達は進んでその姿を変える。そして、エストレアの呼びかけに応じ、【深遠の神鉱】の魔力を受けて幾重の槍となって飛翔する。


その光景を見た人々は。


「神よ…………」


騎士達の呼びかけを無視して皆跪き、この地獄を終わらせて欲しいを祈る。

まかせてほしい、この地獄は私が終わらせる。貴方達の未来は私が照らすから。



「我らが敵を打ち砕く時は来た、開戦の狼煙を上げよ、我が呼び声に応じここに集え」



ギラリ、と無数の槍群は日輪の光を受けて黄金色に煌く。その穂先は、弄んだ怨敵へと。

吹き荒れる雷、黄金の槍、エストレアの周りだけが超常現象としてこの世界に顕現する。


一方、キュリアもヒュドラの元に辿り着くとアナスタシアという核を、その子宮を食いちぎられたのを見ると大鎌でヒュドラの肉体を突き刺す。

大鎌に吸収されるヒュドラ。肥大化するキリエライト。


移動中、あの槍の軍勢は目の当たりにしている。あの眷属如きでは足止めにもならないだろう。


「これを使う時が来るなんてね………!」


本当ならば、いずれ決着をつける筈だった神聖国の英雄の一人、剣聖の右腕、現皇太子のために使うとっておきだった。

だが機密保持のため、なにより己の矜持としてヒュドラに埋め込んだ因子だけは守り通さねばならないのだ。子宮を奪われたのは痛手だったが因子があればそれでよし。


その因子を己の中へ取り込む。こうすればいざという時、奪われずに済む。


「あの小娘と、マリウスにはしてやられたけどーーー。これなら、確実にっーーー!!」


蝕んでいく感触にキュリアは臆せず詠唱する。

すでに破られたものではあるが、手がないわけじゃない。


「幻暗誘繭ーーー、暴走覚醒!!!!」


キュリアは15年前の戦役から考えていたことがある。夢魔の強化形態は夢を介して敵の精神を砕くことに特化したもの。だから夢を突破されることで極端に弱くなってしまうことを早めてしまう。

それでは、いざという時に何もできない。


だから、逆のことをした。本来の形態は自分の肉体を夢と同期し、触媒を介して現世に干渉するのだが夢世界そのものを触媒に移し、それを肉体の内部に収納する。

当然、触媒の力が巨大であればあるほどキュリアの体を侵食する度合いは高い。


「ア”ァ”ッッッ!!?」


肌も、髪も、何もかもが真っ黒になる。背中が裂け、血飛沫が舞う。その血飛沫は硬質化し、一対の翼のように。

突き刺した大鎌はより鋭利に、おぞましく、闇夜を切り取った形から深淵から鍛えたという方が似合うほど変質しーーーなにより壊獣と化したルディナと同じように立つだけで大地が砕け、己の足元から無数の影が触手のように蠢く。


「ひっ!?」


その光景を見た市民らはあまりのおぞましさから発狂寸前。

触手のように蠢く影は飲み込まれたヒュドラとまだ彷徨っていた屍者、獣を取り込み、キュリアの背後に硬質化したものを一体化する。

その様はーーーー、


「闇のーーーー、翼………!!」



戦役を生きた歴戦の魔女は、自らの産物を取り込み魔を超え、怪物に成り果てる。

その姿を表すと同時にーーー


「接触(アクセス)、実行(コマンド)。『響け(Echo)我が(meine)総軍(Legion)、太陽の(Solis)光(Hastam)の(de)槍(lumine)』。行こう皆。ーーー掃射せよ」



「ぐ、ウ”オ”ァッッッ!!!」


黄金の槍の群れが天より雨の如く降り注ぎ、キュリアもまた湧き立つ影を束ね、向かい撃つ。


「私も久々に全力で戦うことが出来るわ!!!跪かせて、その顔を深みの底へ叩き落としてやる!!!」



この日、新たなる神話が1ページ記される。平和な国を襲った未曾有の災害を新たな神が深みより蘇る。そう、後世に伝わって。




残念ながらイラスト間に合わなかったよ。後々載せるから許してほしい。

ようやく覚醒シーン入りました。こっからは火力が違いますよ。


8月3日 修正加筆


なお、Chapter10-5も加筆修正しました。

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