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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter10-4

お待たせ。



エストレアの目の前には俯いたまま立つ女性、銀色の髪にティアラをつけたエストレアの母親アナスタシアの姿があった。


精神世界で、アレクサンドルの願いを受けて磔られたアナスタシアの首に牙を突き立てたのは覚えている。


ではこの空間はなんなのだろうか。精神世界の中の精神世界といえばいいのか?


とりあえずただ立つだけでは何も始まらないとエストレアはアナスタシアの方へ歩みを進めていく。

一歩歩くたびに地面は波紋を呼び、白い花が咲く。


いや、あの黒い世界がヒュドラの世界だとすれば。これこそが彼女の、亡き母アナスタシアの心象風景なのだろう。

ザアーーーーと花弁が風も吹いてないのに舞い上がる。


そうして、一歩一歩歩み寄っていき。

気づけば、腕を伸ばせば手と手が触れ合う距離まで近づいてきた。


「お母さん?」


そう呼ぶと、アナスタシアはピクッと体を揺らしたように見えた。

閉じ目な目尻が薄らと開き、顔をこちらに向けて互いに顔を見る。


「ーーーー」


口を開けど、その声はエストレアに届くことはなかった。

悲しいかな、目の前の彼女はほんの僅かな残滓でしかない。

既に魂は冥府に旅立ち、僅かに残った想いだけがこうして我が子を向かい入れた。

アレクサンドルは死者であって思念体であったが、人間であったアナスタシアは残留思念であるが故、言葉を交わすことはない。


手を伸ばし、触れようとするエストレア。

同じようにアナスタシアも手を伸ばして指と指が触れ合う。

互いを確かめるように指を絡ませて、エストレアはアナスタシアを徐に抱きしめる。


なんと細い体だろう。下手に力を込めればガラスのように砕けてしまうくらいに脆く、儚い。

アナスタシアは最初こそ驚いたような表情をしていたが、次第にエストレアを愛おしげに頭を抱き撫でながらその頬に軽く唇を落とした。


「ーーーー」


変わらず何を言っているのか分からないが、でも口の動きからある程度は読み取れるだろうか。

愛おしげにエストレアを見つめ、微笑むその姿は可憐にしてまさしく聖女。


だが、次の瞬間。

エストレアの脳裏に走馬灯のように様々な出来事が再生された。



ーーー

ーー



『なんということを、なんということをしたのですかっ!?』


『□□たる貴方が酒に酔った挙句、このようなことを………!』



灰色の景色に言い争う二人。聖職者らしき服装をした人物と顔は分からないがそれ以上に絢爛と着飾る人物。

おそらくリスペリアン神聖国の何処か、そのやりとりだろうか。


それは記憶だろうか。

誰の記憶かはどうかは分からないが少なくともアナスタシアに対して関わりのある記憶なのだと理解できた。


『すまない、許されぬことをした……』


『もう、過ぎてしまったことは致し方ありますまい。トーマス殿下には内密にしておきますが…、彼女は追放するしかありますまい』


『しかし、それでは子供はどうするのだ。私の愚かさはいずれ神に裁かれるだろう。しかし、子には罪はないだろう』


『それも仕方ありません。この○都からは追い出し、しばらくは我々の監視下に置くしかないでしょう』


『なんということだ、このようなことをしでかした我が身が憎い。主よ、この身に罰の雷を落としたまえ……』


『我々枢機卿(・・・)一同としても御身の不祥事は公にするわけにもいきません』


枢機卿。そう言ったか。

ならば、間違いなく神聖国の上層部の人間たちだ。彼らが見ているのは彼らに跪き、何も変化のない腹を抱きながら震える、彼らより少し見劣りのする上質な着物を着た女性だった。


『貴方の処遇が決まりました。同じ女性として同情はします。本来なら逆の立場のはず。ですが、十二種族の活発化に伴い貴方の悲運はどうしようもないものだと理解してください』


処罰を言い渡したのは見覚えがある。あれはーーアナト枢機卿だ。

聖騎士たちに連れられて、その場を退出させられた女性は最後まで頭を抱え、苦悩する□□を涙が伝う目で見ていた。


そして視野が変わる。


ーーー


ーー



今度は、なんだろうか。

何処か孤児院に似た施設が見えて来る。いや、どう見ても修道院だろう。リムが纏う服に似たものをそこにいるものたちーーまぁ女性だが。纏っている。


そんなところに、元気いっぱいに走り回る少女が一人。


『あはは、先生!これ、綺麗ね!!』


『これ、ア□□タスアや。あまり遠くへ行ってはいけませんよ』


『平気、平気ーー!』


和やかな雰囲気。

だが、それも終わりを告げた。

それはある日の昼頃だろうか。


『ア□スタシア、今日より教□庁に来てもらう』


『おじさん、だぁれ?』


『全く、教育がなってないな。私を見て誰かも分からないとは。貴様には聖女としての役目をまっとうしてもらうのだ』


『え、え?』


そこからは倍速再生する様に景色が変わった。

半端強引に馬車に乗せられて、たどり着いたは超巨大な教会というべきもの。見た限り、サクラダ=ファミリア教会に城下町を合わせたような外観の作り。


そこへ、幼い彼女は監視という名の付き人と共に教会の一画にある白い塔に軟禁されることになった。

外に出る時は、祈りの祭事のみ。食生活は最悪で、掃除は行き渡っておらず、付き人は殺気に似たものを少女に突きつけて何もしない。


景色は相変わらず灰色で、ボロボロの服を着てただ塔の窓から見える街並みを眺めるだけの日々。


なんということか。エストレアは怒りに震えた。こんな仕打ちがあっていいのか。これが聖女だと?ふざけるな、と。

だが、これは一部の人間の独断先行であるらしかった。軟禁こそ、縛りつける理由ではあるがそれ以外の待遇に関しては催事の際、出会う人によって違うためおそらく………。


この少女にとって祭事だけが外の知る唯一の機会。田舎溢れるあの施設が恋しそうに夜にすすり泣く。何度も言うが、これはエストレアの母であるアナスタシアの記憶に相違ない。


年月が経ち、今の境遇を諦めていつしか『灰被りの聖女』と呼ばれるようになった。

この際、彼女は自分と同じ15歳。雑な手入れだというのに色あせることを知らない艶めいた銀髪とエメラルドの瞳がまるで吹き溜りのなかの宝石のようだった。それはエストレアにして綺麗という他の言葉が見つからないくらいに。


聖書を読み、解し、良い声で、神都の民達に聞かせ、そして聖なる神を奉ずる。

しかし、何故だろう。祈りと信仰を捧げる彼らに彼女に対して何ら誠意というかそういうものが何にも感じられない。

同じ聖職者で聖女を務めたことのあるリムと比べれば本当に何もないのだ。







祈り、捧げるだけの人生。初めは塔の窓は手を伸ばして体を持ち上げねば見れなかった景色も今は眼下を見下ろせるほどに成長して、外に出る以外は聖書をただ読み返すだけ。

神に問うても問いに投げ帰ってくるわけでもなく、ただ今の人生を捧げるだけの惰性で生きている。

また時が過ぎたある日のことだ。

ここにきてから初めて彼女は地方に派遣されることになった。


しかし、彼女が乗る荷台は何処ぞのお約束通り、軍崩れの野党の奇襲を受け、抵抗虚しく彼女残して全滅した。


品定めするように、野党らは最後残ったアナスタシアを下卑た目で見る。

幾ら、灰被りとはいえその美貌は隠せそうもない。

その汚れた手が伸ばされーーー野党の胸元から血に濡れた手が生えた。


困惑する野党共。その背後に逆光で顔がわからなかったが、けれどエストレアには誰なのか確信していた。


『王よ、勝手に動かないで欲しいニャ』


『何を言う、キャスパリーグ。複数の男共が、一人の女を嬲ろうとしていたのだぞ?しかも、まだ生娘ではないか。“余”の矜持として許すわけにはいかん』


『あー、はいはい。計画総崩れじゃニャいか。ど腐れマリウスに何言われるかわかったもんじゃないニャ』


何やら言い合っていたが、二足歩行する?猫が杖を持って喋っている。獣人としての猫人なら分かるが、あれでは完全に猫だ。

少し、逸れたがもう一人は間違いなく若い頃の父アレクサンドルだ。


『ふむ、立てるかね?』


『は、はい………』


その瞬間、景色が灰色から鮮やかに色を取り戻していった。

ーーそう、これがアナスタシアとアレクサンドル王との運命の出会いだった。







●●●








巨剣とヒュドラの束ねた竜頭がぶつかり合う。

しかし、これまでと違うのは巨剣ラハールが赤熱を帯び、燻るように燃えていることだろう。

そして巨神兵の体にも同じように燻るように燃えていた。


「まだ、まだ終わりませんわよ!!!」


吠えるジェシカ。

だが、今の彼女はーーー普通の状態ではなかった。

輪郭は薄く、ほのかに緋色に染まり。体の至る所にひび割れるような線が混じり、そこから緋色の光が漏れる。

明らかに、踏み越えてはいけない領域に足を突っ込んでいる。


雄叫びを上げ、ラハールを振るう。

振るう度、ラハールから滾る灼熱が滴りヒュドラの体表を融解させていく。

あまりの熱に、顔を顰めるキュリアをよそに羅刹のような表情を浮かべ顔に亀裂を増やすジェシカ。


大きく踏み込み、全身を低くするように構え、ラハールを下から上へ掬いあげるように切り上げる。

途端に火柱がヒュドラに向かって走り、まるで火山の噴火の如き勢いで天に向かって火が上る。


ヒュドラの悲鳴、黒く硬い竜麟がグズグズに融解し体の水分が熱により蒸発してボコボコと破裂する。


『オオオォォォォォォォォォォォ!!!!』


ジェシカの雄叫びに呼応して、巨神兵も吠える。

今まで開かなかった口が開き、ヒュドラの女神像からの叫びに匹敵する咆哮が衝撃波を伴って前方へ瓦礫を巻き上げて進んでいく。


右手にラハール、左手にディカルナ。赤熱したラハールを片手持ちにし、獣が飛びかかるような跳躍を披露しヒュドラの竜頭の一つを串刺しにする。突き刺すと同時に瓦礫を巻き上げ、炎の柱がヒュドラを焼く。


「こ、の!!死に損ないの小娘ぇっ!!!」


キュリアが怒号と共に大鎌を振るってくる。巨神兵、即ちジェシカはキュリアの攻撃を認めると後ろに向かってバックステップし、それを回避。

剣を垂直に立て、左腕を水平に構え、所謂陰の構えを取る。巨剣ラハールはグツグツと煮えたぎる溶岩のような燻りを発生させ、その剣から発する火柱は暗雲に届こうかというほどだ。


「燃えろぉっ、魔女めぇっ!!」


巨神兵、ジェシカの叫びが重なり縦横無尽に燃えるラハールを振るう。

建築物をバターのように両断し、発する熱は熱刃となって振るわれるたびにヒュドラを、キュリアを切り裂いていかんと向かう。





「おわっ!?ちょ、ちょっ!!熱、熱い!?」


市街地の残骸が転がる道路では、然りに飛んでくる瓦礫やら、熱弾やらを焦るように逃げるネロがおり、極醒魔法を放ったズオーは最初こそ飛行しながら戻ろうとしていたが、三度目の再起動した巨神兵とヒュドラの激突のせいでゼエゼエと荒い息をして今ではネロに担がれて王宮方面へ逃げていた。


「いくらなんでも、やりすぎだろっ!?し、死ぬ!!」


「も、もっと早く走らんかい、若いの「うるせえ!これでも全力だ、だったら手前一人で走れよ!!」出来たら苦労せんわい!!」


「だったら、せめて道中湧いてくるあいつらの一匹くらい片付けくれよっ!?」


そうなのだ、こんな状況だと言うのに黒い雨による屍者共はウジャウジャと湧いてくる。

老人一人抱えて、魔剣を振るっては全力で走るネロの悪態というか愚痴に対してとやかく言える人がいればそれは相当な自己中心的な人であろう。


「わかっとるわい!とはいえワシの魔力はあの大魔法つかってほぼ空じゃ。敵意の感知ならいけるが………大丈夫かの?」


「それでも構わねえ!!あぁ、もう鬱陶しい!!」


「ほれ、そこの曲がり角から5じゃ。前方15メートルほどかの?そこに大柄な奴が3。右の角を曲がって屋根に登れ」


「あいよ!って、マジだ」


「ワシを誰だと思っとる。こう見てもこの国の宮廷魔導師筆頭じゃぞ?こんなの朝飯前どころか昨日の晩飯前じゃ」


「……………知ってた」


「おい、その間はなんじゃっ!?」





そんなやりとりがあったが、視点変わって王宮敷地内では。

「結界を貼れ!!【白護の聖盾】を起点に王宮敷地内要点を白薔薇の盾で結界を構築しろ!!!王家の結界が壊れた今、まともに機能するのはそれしかないぞ!!」


「しかし、生き残りの白薔薇は後宮防衛に半分削ってます!人数が足りません!!」



兵士の叫びにより、同意と言わんばかりにここにいた白薔薇の騎士はうなずく。

今から呼び戻そうとしても王妃とまだ社交界に出たばかりの王女と乳幼児である第二王子がいる後宮の護衛を疎かには出来ない。



「ならーーー!「であれば私が楔になります」むっ?」


そこへ自ら志願するものが一人。土塗れで、汚れているが銀色が眩い十字槍を杖の代わりにして歩いてくる。


「ちょっと!リム、アンタその体でどうするのよ!?」


「そこの兎人の言う通りリム殿、その、言いにくいのですがその怪我では………」


修道服を纏うリムは、キュリアとの戦いでジェシカを庇った際呪いの魔法をモロに受け心身共にボロボロだった。

見た目、男子を刺激する過剰な格好とも言えなくもないがこんな状況化で致すほどこの国の兵士達はアホではない。

そもそも白薔薇騎士団で慣れている。


「大丈夫です。幸い、十字銀槍は手元にあります。これを起点にして楔にすることで結界の助けになるはず。曲にも私は聖職者。結界の楔には十分でしょう」


一度は手放したこの槍。聖銀の十字槍はこの戦火でも眩く輝いていた。

しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。不意に周囲を揺るがす振動が襲い、そちらに向けてみれば体を赤く滾らせた、まるで熱せられた炭のように燻る巨神兵。

白い息を吐き、大敵を見据え、背中の光背が大気を焼く。


「それに、ジェシカちゃんがたった一人で戦ってるのに、冒険者である私たちがここで体を張らねば誰がやるのでしょう?」


「………」



黙る兵士。ここで、否と言えるほど強くはない。

ようやく折れる形でうなずいたのだった。


「だったら、私もやる。師匠が、どうにかするだろうしね」


「あら、貴方も?ニアス」


「当然。私たちの攻撃はあいつらに効かないし、こっちがダメージ大きすぎるもん。しかもまともに戦えているかは知らないけどあのデカブツしか効いてないし。だったら私たちはより強い陣地を敷いて、耐えて、あの子の支援に回る。それが最適でしょ?」


そう。自分たちは竜殺しとしての矜恃プライドがあったが相手していた魔女はおろか、あのでかい蛇の化け物にもろくにダメージを与えられなかった。

こちらの損害がデカすぎる上に、自分たちは体力的にもキツいものがある。


はっきり言って負け戦もいいところだ。


「だな。俺も支援に回るとしよう。結界維持には風精霊シルフにお願いするとすっか。お前らに近づく連中は皆一つ残らず射抜いてやるから安心しな」


「ん、頼むね。オルスト」


ギルド本部があるシェアト誇る竜殺しの称号を持つ冒険者が互いの拳を合わせ、鼓舞し合う。

お互いに微笑み、決意は新たに。


負け戦がどうした。相手は強大で、攻撃は楽に与えられない。兵士達は、この王宮に入ろうとする屍者を相手にこちらに人員を割く余裕はない。


「白薔薇のーーええと?」


「はい、ディアナです」


薄い青色の髪を揺らし、白い甲冑を纏った女騎士。ディアナと名乗る彼女は、聖堂突入時生き残った騎士の一人だ。


「私たちが結界の起点になります。連れて行ってくれませんか?」


「分かりました、ですがリム殿無茶はなさらぬよう」



リムとオルストの風精霊はディアナの乗る馬に相乗りし、ニアスはゆっくりと別の方角へ飛行し向かって行った。

その間にも、巨神兵とヒュドラの激突は未だ激しく続いていた。





●●●







迫りくる、ヒュドラの無数の竜頭。各々が大地を抉り、城塞を砕く顎門を備え黒鱗は鉄より硬い。

それを巨神兵、ジェシカは燻るように赤く赤熱させた体を動かし、同じように燃え盛るラハールを振い続ける。

この熱はただの熱ではない。大地の怒りである溶岩の如き熱でもなければ、燦々と照らす日輪の陽でもない。ましてや魔法による火でもない。


ジェシカの体を見ればその正体は、一級の魔法使いであれば見抜けるソレ。


「ハァ………ハァ……!まだ、まだ…です、わ」


体を動かす度、軋むように亀裂が増え、そこから緋色の光が漏れる。

魂魄契約は魂を無理やり接続して魔力を動かせるものだが、これは“生命の熱”である。


ジェシカは二度も渡って敗北した。怒りによって起動させ、魔力不足で倒れ、魂を捧げて無理やり動かしまた倒れた。だが、彼女は折れなかった。

誰よりも、エストレアを愛したから。幼いながらも、敬愛と恋をしたジェシカ。天才と呼ばれても、あの人には到底届かない。


いつかあの人に、褒めて貰って同じ場所に立ちたい。ただそれだけの渇望を抱いて。

だが、その夢は砕け散った。

ジェシカの目の前で、己を庇ってその顎門の向こうへ消えたから。


ーー負けるわけにはいかない。あんな、命をおもちゃみたいに弄び、お姉さまを愚弄したアイツを。


だから、「まだだ」と己を奮わせることが出来る。


まだ戦える、と!!!


「うおおおおおおぉおおッッッ!!!!」


鬼気迫る勢いで、巨神兵を駆る。揚げ足取るような言い方をするが生命を燃やし、覚悟が熱を生む。全てはあの大敵を討つが為にーーー!!!



「しぶとい、餓鬼め……!」


キュリアは苦々しい顔を何度浮かべただろう。手にした大鎌を弄んで目の前の巨兵を見やる。

いくら、斬りつけても怯みもしない。それどころか、近づくことが難しいくらいの熱が熱波となって体をジリジリと焼いていく。


その状態をキュリアは知っている。歴戦の猛者である彼女だからこそだ。


「生命の炎に、死地を顧みない不退転の覚悟……」


こんな状態になった敵など絶対に倒れない。退くことを前提としない上に、命を、精神を薪にしている。こうなったら相手が心折れる(燃え尽きる)まで倒すのは不可能に近いだろう。


「く、ヴォルバート様に殲滅を言い渡さなければとっとと撤退できたのに。仕方ない、もう一度連絡をーーーぐっ!?」


即座に退避する。さっきまでいた場所に炎纏った剣が素通りして行ったからだ。

キュリアの頬に一筋の赤が走る。


手を当て、ヌチャァと手についた血を見るキュリア。

体をワナワナと震わせ、膨大な魔力が膨れ上がるように上昇する。


「ふ、ふふ、ふふふ………」


おそらく初めてだろう。この戦いで、痛いと思える血を流したのは。明確に、傷を与えられたのは。

そして、その傷を与えたのは竜殺しの冒険者でもなく王国の誇る騎士団でもない。ただ才能ある、幼い貴族の娘が、だ。


だから許さない。


「深遠の向こう、夢魔たる我が願い奉る。狭間を揺蕩い、夢幻と無限を支配す【解明】と対となる時の創造神【巡回】クヌィスリオよ」


獣人ルディナと同じ、十二種族の強化形態の詠唱オルーラ

膨れ上がる魔力は背後のヒュドラさえ巻き込み、暗黒の霧が噴き上がる。

暗雲と黒い雨と合わさり、この世とは思えない暗黒の繭が生まれる。


「我が血を飲み干し、汝が血を受け入れん。しからば、我が爪と牙に深みの夢を与え給えらんかし。胎児の揺籠の如く、ことごとく全てを飲み深みの底へと誘わんとせよ」


「させーーー!!」


巨神兵が、ラハールを振るって迫りくる。しかしーーー


「遅い」


暗黒の霧がこの王都全体を包み込む。その霧の向こうから今なお詠唱が続く。


「森羅拝聴」


締め括りの言葉。この言葉の完成と共にただでさえ強大だったキュリアがより強くなる。

がむしゃらにジェシカは巨神兵と共にラハールを振るう。それが無意味な行為であったとしても。


「全て飲み込み、深みへと堕ちろーーー幻暗誘繭インキュリー・アルベルド!!!!」


暗黒の霧が晴れるとそこには。


ヒュドラと一体化し、女神像があった場所にキュリアが歪んだ表情で狂気に笑う。大鎌はヒュドラの約2倍の大きさに達し、竜頭は天使の輪のようなもながそれぞれに浮かぶ。

そして、元のヒュドラにはなかった巨大な黄金に輝く腕が大鎌を握っていて大鎌には暗黒の霧のようなものが付与エンチャントのように纏っている。その霧に触れた屍者や獣達は皆人形のように崩れ落ち、やがて黒い空間のようなものに沈むように落ちて行った。


「どうやらーー、決着の時……ですわね。燃え滓寸前でも、お前を倒す!それが私ですわッッッ!!!」






駆け出す。

巨神兵は走る。

ヒュドラも光線やら噛みつき、体当たり、キュリアの黒弾など雨霰と降り注ぐ。




しかし、ジェシカの脳裏に聞いたことのない声が聞こえた。

















ーーーいいかい?その剣で、胎籠を切るといい。大事な人を助けたいならね……

現在、イラストを作成中。

しかし、素人だから資料とか見ながら書いてもなかなか……


ともかく、今後ともこの作品をよろしくお願いします。

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