表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
85/213

Chapter 10-2





「其方の牙で、跡形もなく消し去ってほしい」


何を言っているのか、父である彼の言葉を理解することは出来なかった。


「な、何を言っているのですか………?」


「………。頼む」


困惑するエストレアをただ、悲しげに見つめる彼。


出来るわけがない。というか、初めて肉親と出会った(精神の状態)というのに、娘である己の手で葬ってくれとは。


「我らには時間がないのだ。こうして、思念体として其方と話ができるのは今だけなのだ」


「我が妻、アナスタシアも既に死した身でありながら、僅かに残された想いが己の体を蝕むヒュドラの力を抑えておる。だが、もう抑える力が弱まっている。【深遠の神鉱】を取り込み、古の魔剣の雷を喰い、其方の肉体を喰らったヒュドラを我らで抑えることはもう無理なのだ」


その顔には、頬を伝う涙。握り締められた拳はブルブルと震え、無力さに打ちひしがれているようだった。


かつて魔王としてパンドラにありし君主ではなく、愛する人を想い、残された一つの願いに託す父として。既に死した身であるからこそ、託すために娘であるエストレアに願うのだ。


自分たちが始めた戦争。そして己が死に、月日が経ちこうしてかつての戦役の残滓が牙を向く。

己の手で終わらせなければならないのに、それを娘に押し付ける無責任さがあることは重々承知である。


しかし、精神体とはいえ元は死人である自分たちに何ができようか。


エストレアは、己の体を抱くようにして苦悩する。

本当の父と母であろうこの二人は、父はともかくまだ母と話もしていない。

けど、母は既に冥府に旅立った。生き返ることはない。15年前に、養父アーノルドに生まれたばかりの赤子である自分を託し息絶えたからだ。


こうして、形だけでも出会えたことが奇跡なのだと頭では分かっていても心がーーー追いつかない。


あぁ、いや。この感情はーー今のエストレアではない。私を作る際の、彼女エストレアの意思か。

彼女は優しい子だ。あの日、賊が襲うことがなければ彼女はあの王太子と婚約をあの場で誓い合っていたかもしれない。少なくとも、彼女は彼を好いていた節があったのは事実だろう。だから、庇って(諸葉)と融合した。

いずれにせよ、何処かでこうした真実を目の当たりにしたはずだ。


「その前にお父様、教えてください。お母様はどういう人だったのでしょうか?」


「どこまで、話を聞いた?」


マリウスから大方を聞いたことを伝える。その答えに「そうか」と言うとエストレアに背を向け、仰ぎ見るように真っ暗な空間を見つめる。


「すまぬ、余の口からは言えぬ。だが、其方の牙が妻の頸を穿てば分かるだろう」


「だが、これだけは言える。聡い其方なら分かるはずだ。……お前の信じる道を歩け、たとえどちらに味方としようともきっと支えてくれる人がいる」




エストレアはアレクサンドルから目を離すと今なお括り付けられた母アナスタシアを見やる。

生気のない、虚の目。病的なまでの青白い、死人の肌。それでも、その美しさは損なわれはしない。


望みがあるとすればアレクサンドルと同じように声が聞きたかった。


「お母さん………、ごめん」


頬にそっとキスをする。

その頬は冷たくはなく何故か生身のようにほのかに熱を灯していた。

エストレアはアナスタシアの首筋を横目で見る。

絡めとられたツタのようなものは首筋にも及んでいてまるで血管のようだと思った。


スーハーと息を吸って、吐いてを軽く繰り返してようやく決心を固めたエストレア。

彼女の口からは八重歯ではなく純粋な牙が唇から覗いており、また目は爛々と紅く輝き始める。


「ごめんなさい、神よ許したまえ……」


牙は突き立てられた。

そしてーーー



エストレアは、真っ暗な世界ではなく今度は白く光る世界へ意識を飛ばした。






●●●








「門を閉じて、侵入経路をしぼれ!王宮内部へけが人を優先して誘導させろ!!戦える奴は武器を取れ!!」



剣を横一振り一閃。

ネロの怒号一喝が如き声により、近隣の兵士達はハッと今し方置かれた状況を理解すると互いに声を掛けて慌ただしく動き出す。


兵士達が王宮医師達を真っ先に逃がそうとするが当の医師達は「ふざけるな!我々が真っ先に逃げてどうする!!いなくなれば誰が患者を救うのだ!?」と言い放ち、言いくるめられた兵士達は患者特に重篤な者たちを中心に爆発と爆炎の中を突き進み、王宮内部へ搬送させていく。


「横三時方向、屍者多数出現!仮説テントに押し寄せようとしてます!!応援を誰か!!」


「任せな」


シュババババ、と矢の雨が降り注ぎ屍者がハリネズミにみたいになって倒れていく。

瓦礫の上に立ち、膝立ちの状態で矢を番え放つ。口に咥えた矢を再び弓に番えて引く。そのまま流れるように腰の矢筒に手を伸ばして複数本持つ。


障害物越しだろうが、人が押し倒されようが、正確無比に屍者を屠っていくオルストは契約する風精霊にため息と同時に次の敵を教えてもらう。


あっという間だった。結界がまるで飴細工のように砕け、ヒュドラの攻撃により王宮は火の海。

結界が破られたことで、抑えられていた屍者の発生が再び起き、今や大混乱だ。


「うわあああっ!!?」


「くそっ!」


矢を番え、放つが既に遅く組み付かれた兵士は屍者に首筋を噛みちぎられた。

そうこうしているうちに、オルストの近くにも屍者共が血肉を求め近寄ってくる。


「あーー、もう!!風精霊、頼むわ!!」


願いを聞き、風を発生させ吹き飛ばす。

複数の竜巻が生まれ、屍者達を飲み込むと炎燃え盛る市街方面へと投げ飛ばしていく。


「くそ、マジでしんどい……!」


玉のような冷や汗が顔や背を伝うのが感じる。

どうすれば、この終わらない地獄が収束するのか朧げながらもイメージを働かせるのだった。



一方、ネロは。


「薙ぎ払え、ズツァニッグっ!!」


魔剣を横薙ぎに払うと雷が横走りに突き抜けてそのいく先にいた屍者を焼き払う。

それでも。


「数が多い……なっ!」


右手で挟めるだけナイフを取り出すと振り払うように投擲。投げられたナイフは屍者の眉間に突き刺さり倒れる。

それでも、群がるように集まるのだからたちが悪い。


「クソが!だったら、碧雷よっ!!」


魔剣を地面に突き刺し、魔力を注ぐ。

するとネロの魔剣を中心にドーム状の紫電迸るエネルギーが生まれ炸裂する。

この一撃でネロを取り囲む敵は一時的に一掃され、ネロは安堵する様に呼吸を整えると魔剣を肩に担ぐ。


「兄貴んとこ、大丈夫か………?」


兄と慕う彼を心配するネロを他所に、その彼はと言うとーーー






「ぐううううーーー!!?」


「レンヤッ!?」


アグニルが悲鳴を上げる。

市民の避難誘導、受入れをしている最中結界の崩落とヒュドラの猛攻により再び発生した屍者の群れ、その中で最も大きな群れに晒された二人のいる場所。


すなわち正門付近にて、レンヤは屍者に右腕を噛みつかれた。

押し倒されあちこちに咬傷をつけられるレンヤ。しかし、曲がりにも彼は竜殺しの冒険者。


「離せこの、野郎っ」



魔力を魔法に変換し彼の身体から衝撃波が発生し、組みついていた屍者を吹き飛ばす。

そこにアグニルが駆け寄り急いでその場を離れると物陰にレンヤを座らせると包帯を巻く。


「心配させないでよ……!」


「悪い……、恩に着る」


「取り敢えず、応急処置はしたわ。まだ仮設テントに医師がいるはずだからここを切り抜けたら見てもらって」


「ああ、分かった」


ゆっくりと立つレンヤに本当に大丈夫か、という目で見つめるアグニル。

けれど、二人とも優先しないといけないことがありここを切り抜けたら合流しようと考えていた。


アグニルは双子、イルナとイザルナと合流。レンヤはネロとの合流。

ついでになってしまうが、アグニルは双子と合流したらリムとジェシカとの安否の確認に行くつもりである。


「囲まれたな」


「えぇ、やるわよ。背中任せたわよ?」


背中合わせになってお互いに武器を構える。アグニルは短剣の二刀流、レンヤは杖。

レンヤが得意の付与系魔法をかけてお互いの敏捷性と筋力を底上げしいつでも撃って出られる状態になる。


「いくぞっ!!」



レンヤの掛け声で駆け出す二人。

だが、アグニルが合流しようとする双子は今ピンチになっていた。






 

ーーー


ーー






「く、くそっ!!」


「イルナ、下がるっ!」


「■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!」


白い獣が見境なく暴れている。

双子のイルナとイザルナはまさに標的となっていた。

理由は至ってシンプル。


二人は幻影デコイを被せられたのだ。あの、魔女に。


魔女の誘導にまんまと引っかかった白い獣、ルディナは結界を破壊した後、その勢いのまま市民らが避難する場所へ突っ込んでしまった。

そこからはこの流れから分かる通り、魔女キュリアは手当たり次第に自身のデコイを被せまくって王宮の宮殿方面へと進んでいった。


デコイを被せられた者達を待っていたのは理性を失い、本能のまま暴れる壊獣に襲われた。そこには子供だからと半端強制的に入れられたイルナとイザルナも含まれていたのだ。


二人は、怪力を生かしてルディナを羽交い締めにするがあまりにも強すぎる膂力の前に、いかに怪力で名を馳せたダークエルフと言えども非力そのもの。


地面を殴って、即席の盾を作りつつ逃げることしかできなかった。


「どこもかしこも混沌としてる……!」


「とにかく、あいつ探して……ぶん殴る」


「姉さん、避ける!!」


イルナの叫びで横に飛び退くイザルナ。

今までいたところに、ルディスをぶん投げるルディナの姿。

豆腐のように砕け散る王宮の宮殿、その一郭。見事な大理石は金平糖のようにバラバラになり、幽鬼のように歩み寄ってくる獣の姿は輪郭そのものが朧げになっている。


「■■■■■■■………!」


「臨界寸前……!もう、ヤバイかも」


臨界とは、壊獣となった獣人の末路。

神話に語られし壊獣の姿。存在消滅の代わりに、絶対破壊の力が発現する。

神話においては、文明一つを海の底へ沈めるほどの力だ。



「なんじゃ、情けない。それでもダークエルフかいの?」


そんな好々爺な声が聞こえたかと思えばルディナに向かってどでかい氷塊がぶち当たり吹き飛んでいく。


「ーーーーー?!!!」


「お前さんもお前さんじゃて。勝手に暴走して、この国吹っ飛ばすつもりか、ん?」


物語に出てきそうな魔法使いの老人。胸元に下げた勲章が名誉辺境伯の称号であり、同時に宮廷魔導師であることの証。


「可愛い、可愛いニアスちゃんの頼みで来てみればこの有様。さて、少ーーーしお話しようかの?の?」


イザルナとイルナはこの老人を知っている。

十二種族であれば、人間最高峰の魔法使いの一人。かのマリウス・シオンに比べれば見劣りしてしまうが、大魔導の二つ名を持つこの人物の名はーーー


「ズオー・マクレイン……!」


シェードリンド王国最強の一角、大魔導ズオー。


「さて、ダークエルフの坊ちゃん共。主らは行くところがあるのじゃろ?ここはわしに任せい」


礼は言わなかったが、互いに頷き合うとズオーの背を一度だけ見るとそのまま走り出す。

それを気配で感じたズオーは蓄えた髭を撫でながら「ホッホッホ」と笑う。


「うむうむ。泥事件を独自に調べていたら、神体顕現の知らせを受けて飛び出して。いやぁ、陛下の前でものの見事に大遅刻じゃ」


今まで介入してこなかった理由を一人言するズオーは目の前で氷塊を砕いて現れたルディナを一瞬で険しい目つきに変えて杖を構える。


「さてさて、少しきつめに灸を据えるとしようかの、かかってこい、小娘」


●●●





「んぅ…………、ここ、は……?痛っ!?」


ジェシカは爆炎と轟音の最中、見慣れぬ天井を見て目を覚ました。隣では静かに息をするリムの姿があり、自分とは雲泥の差がある巨塊を憎しげに見るがその前に自身の体中に走る痛みに顔を顰めた。


「何が、起こったのですの?う……!」


フラッシュバックする記憶。

敬愛するエストレアが喰われて、激情のまま未完成のゴーレム、巨神兵を起動させたことを思い出す。


「そう、ですわ……。私、魔力を一気に吸い尽くされて………。でも、巨神兵の繋がりはまだあるのはなんでですの?」



普通術者の魔力が尽き、戦闘不能に陥ったならば召喚した存在は霧散するはずだ。

巨神兵も元を辿れば瓦礫で足りないものを補って構築したゴーレム。だから、バラバラになる、はずなのに。


「く、うぅ………!」


ベッドから降り、部屋から出ようとすれば身体中に我慢ならないほどの激痛に襲われる。

立てずにへたり込み、咳き込むと血が混じっているのが分かった。


ドォン!とこの部屋の外から大きな爆発音が聞こえ、そして逃げ惑う悲鳴が。


外では何が、と壁を手に当てながら壁を伝って出入り口へ向かう。


「はぁ………、はぁ………」


出入り口である天幕を出て、その光景を見た時ジェシカは地獄を見た。


地獄を見た。


自分でも真似できない、高度な結界に守られた王宮の宮殿は瓦礫と化し、兵士たちの亡骸がそこかしこに転がっている。

火の粉が舞い、生焼けた肉の燻った煙の匂いが鼻をつく。


地獄を見た。


誰も己を見ていない。

誰もが自分たちで精一杯で隔離された過去を抜け出しても誰も気づかない。

忌々しいヒュドラは上空を陣取り、竜頭からは熱線を吐き出し、薙ぎ払い壊していく。


戦場となった王宮の正門方面からは絶えず雷が見え、地を舐め尽くす矢が降り注ぐのが見えた。


疲労困憊、いつ傷が開いてもおかしくないジェシカは体を押して歩く。

何の為に?自分が行ったところで何になる?そんな悪魔の声の囁きが聞こえた気がした。


「ジェシカちゃん?どこへいくの?」


出てきた天幕から声が聞こえた。

リムが目を覚ましたらしい。こんな状況なら、いずれは目を覚ますだろうと思っていたが……。


「行かないと、行かないといけませんの。私にはまだ、やるべきことが残ってる」


天幕から出てくるボロボロの修道服を纏ったリムが出てくる。所々の包帯が痛々しい。

けれど、リムは何も咎めなかった。


「そう。私が言っても無駄かしら。後一回だけど貴方に渡すわ。奇跡で貴方の体を一時的に鈍感にしてあげる。けど、鈍くさせただけ。あまり、無理しないで」


そう言うとリムは顔を青くさせて膝をつく。慌てて近づくと静止させられ「大丈夫、貴方は行きなさい」と言われた。


「ありがとうございます。どうか貴方に神の御加護があります様に‥……」


痛覚を鈍くさせ、走れるようになったジェシカは火の粉の舞う王宮の道を突き進む。

手にはまだ残っていた宝石を握りしめて。


突風を閉じ込めたトルマリンを砕いて障害物を飛び越え。

道を阻む炎は、流水を閉じ込めたルビーを砕き。己を喰らおうとする屍は隆起を起こすペリドットを。


門を抜け。一目散に駆け出すジェシカ。背後から「ジェシカちゃん!?どこ行くの!?」とアグニルの声が聞こえる。けど、そんな声に耳を傾ける余裕はない。


小さな体で屋根から屋根へ伝ってショートカットを繰り返し。やっとのことで辿り着いた場所は。

損傷し、機能停止した巨神兵。


「大丈夫、ですわ。私は、まだ…………戦える!!」


膝をつき、項垂れる巨神兵の足からよじ登るジェシカ。足から太もも、腕を上って背中へ辿り着くと残りわずかな魔力を注いで塞がっていた入り口が顔を出す。


それはコクピット。何故、こんなものを自分は取り付けたのかは分からなかったがきっと運命なのだろうと結論づけた。狭い通路のようなものを這って進み辿り着くは巨神兵のコア。その内部。


「お姉様、どうかこの私めに………力をっ!!!」


今持っているすべての宝石を砕き魔力を注ぎ込む。

ギュイイイイイインと音を立てるが程なくしてエンストを起こすように停止してしまう。


「そんな…………!やっぱり私ではダメなんですの?

ここまで来たのに………!」


万全の自分ならきっと出来たのだろうか。

いや。このゴーレムそのものがまだ未完成。なら、自分には過ぎた玩具だったのか。自分の自己満足だけの?


「いいえ、いいえ!!!私は、この国の貴族!王家から任されたオルステッド家の淑女!私は、この国を導く貴き人!民を正しく導く力を持った………人。お姉様に憧れた小さな道化ですけれど………」


「けど、この国が滅びるのは見過ごせない。この国を率いる貴き華の都が、滅びようとしているのにーーー私が立たないと!いけませんの!!!」


自己満足ではない。戦える力がある。


「歴代きっての天才、ジェシカ・オルステッドですわ!だから、だから………」


「私の、命を捧げます!!それでも足りないならば私の来世の命まで!!!巨神兵、貴方と私が一つになってこの厄災を食い止める!だから……………グス、だからぁ…………動いて、動いてよぉっ!!!!!」


頬から流れた涙が、巨神兵のコアを濡らす。

その瞬間、ドクン、と波打ちジェシカの脳裏にただ機械的な音声が聞こえた気がした。


ーー魂魄契約、完了。これより、再起動に移ります



「あ…………」


真っ暗な空間が魔力に満ち溢れ淡い青が照らし出す。

ジェシカは涙に濡れた顔を上げると己の動きと巨神兵が同調シンクロするのが考えるまでもなく理解した。



ーー再起動完了。メインフレーム、再構築開始。損傷箇所復元開始。不要フレームパージ開始。高機動バーニア構築開始。


ーー魔力、規定値突破。術者マスターとの心体同調ユニゾン・シンクロン完了。

戦闘態勢、完了。




「っ!行きますわよ、我が巨神兵。いえ、貴方の名前はディアス!ディアス、出ますわよっ!!!」


赤い眼光を灯し、巨神兵【撃滅せし(オプシディアン)黒曜の(・ギガス・)模造巨兵(ゴレムナセル)】はディアスの名を与えられ立ち上がる。

それはヒュドラが背後を向いているときに立ち上がる。


ディアス。それは古い言葉で不屈、情熱の意味。

召喚した時はずんぐりとした、80メートル近くあった巨大ではなく、いくらか不要なものを取り除き兵士に近いフォルム。背中の光背はジェシカのカラーを表すように淡い青色に輝き、ボディの溝にも同じように淡い青が走る。


ーー了解ダー


術者ジェシカの言葉に了承の言葉で返す。

全てはこの国を、お姉さまと呼び慕う敬愛するエストレアが愛したこの国を守る為に。

















「ゲームオーバー。詰みよ、貴方達」



ヒュドラは王宮の宮殿深部まで侵入してくる。

疲労困憊な二人の騎士団長は守るべき主君達を庇い体を押してヒュドラと対峙する。

当然、そこにはあの魔女もいるわけで。




堂々とアグラエィンとジェラルドらがいるこの場所にやってくるは屍山血河の魔女。

二人を庇うように立つフローラとレオ。敵意を隠さないアナト枢機卿。


しかし、レオたちは疲労に加えて聖堂付近で魔女と戦い、勝てないと分かっていた。

それでも退くわけにはいかないと己に鼓舞して武器を構える。


キュリアが手をかざす。

それを合図に、ヒュドラは竜頭をアグラエィンらがいる場所をぶち壊し、その一室は吹き抜けと化した。


そして、竜頭はその大きな顎門から光を集めている。


「「う、うおおおおおおおおおおっ!!!」」


ヒュドラの口から熱線が吐き出されるのとフローラとレオが駆け出すのは同時でそして、無意味に散る、はずだった。


だが、運命はそれを否定する。


『ハアァァァァァァっ!!!!』


気合のこもった声と共にヒュドラは横に吹き飛ぶ。


「な、何が………!?」


ヒュドラを吹き飛ばしたものは、黒曜石色に艶めいた巨人。無機質な物質で作られた人型。

それに驚愕していたのは、他ならないキュリアだ。


「な、巨神兵、ですって?!術者、あの小娘は死んだはず!!」


『だぁれが、勝手にくたばったですって!?おあいにく様、私は生きてますわよ!!』


「その、声は………、オルステッドの?」


ジェラルドが真っ先にその声が誰なのかを理解する。自分が愛した女性を敬愛し、愛国心溢れる才女。


ズン!と大きく踏み込み、巨神兵ディアスは大きく吠える。

向かう先は、復帰したヒュドラ。竜頭を掴み、中央の女神像を同じように掴むと足元のバーニアを噴出させる。

ヒュドラがあまりにも大きいからか、地面を引きずるように押し出していく。


『さぁ、私たちのふさわしい場所に向かいましょう!』


最終的に止まったのは互いがぶつかった聖堂付近。

キュリアも、流石に止まるのはまずいと理解し、巨神兵とヒュドラを追って飛翔する。


再起動した巨神兵と才女、キュリアとヒュドラは今再び互いの矛を黒い雨の中で突きつける。

黒い雨の中、王都を、王宮を背後にして立つその姿は、人々に一縷の希望のように写っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ