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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter 10-1






見渡す限りの白い、どこまでも白い空間がそこにあった。

シミひとつない、真っ白で音さえない無音の世界が。


「ここ、は……?」


そもそも、この世界は世界と呼べるのかどうかも怪しい。

地面と思われる足元は継ぎ目など一切なく、壁は見る範囲では存在せず、落ちているのか、踏ん張れているのか定かではないのだ。


そもそも。


何故己はここにいるのだろうか。


「知りたいかい?」


疑問はすぐ返ってきた。

振り返るとそこには。


「マリウス?」


不可の魔法使いマリウス・シオンがそこにいた。

見事な刺繍が施された装衣に、年代を感じる単眼鏡モノクル

神秘的さえ感じられる杖を持つ、いけすかない、胡散臭い魔法使いは一人だけだ。


いや、マリウスの姿を模しているだけだ。


だって


「お前は誰だ」


そうドスを聞かせてやれば


「く、くくく、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


煙のように消え失せて、黒い煙のような捉え所のないものに変わったからだ。

その姿は見覚えがある。あの魔女だ。


けたましい笑い声と共に、それは消えていくと周りの空間も真っ白な空間から、黒が所々に混じるようになった。


黒はどんどん浸食していき、最終的には何もかもが黒く塗りつぶされた後だった。

その中に、エストレアは漂うように存在していた。

立っているのか、沈んでいるのか、落ちているのか、昇っているのか、全てがありうることであり得ない方だった。


「こっちへ来るがいい」


そんなところに聞き覚えのある声が聞こえる。

言葉に威厳を含ませた、男の声。マリウスのようなどこか小馬鹿にしたような声ではなく、重みを感じる声だ。


声がした方へ向けば、やはり黒い影のようなモヤがそこにいる。

でも。その影というかモヤはどこか見覚えがあるというか懐かしさを感じるものだった。


「………」


エストレアが黙っていると、それも黙っている。こちらが動くのをずっと待っているように。

私がそちらに踏み込もうとすれば、それは問いを投げた。


「お前は何のために戦う?」


仲間のために、とそれまでのエストレアなら答えただろう。しかし、その問いにその答えは正しくないと直感で悟った。


「それでいい」


それだけいうと、ソレは奥へ奥へ行ってしまう。

歩いているのか、分からないがそれの後をついていくように進んでいく。歩いているつもりだが、まるで底へ向かって泳いでいるようでもあった。


「“余”はあまりにも非力であった。愛する女を助けたつもりが最終的に子の成長を見ることもなく余の後をついてきてしまった」


「え?」


「今ここにいる余はかつての余の残滓、その残り滓よ。妻は、死後心良き人の手によって眠りにつき、魂は冥界に旅立った」


まるで、語りかけるようにソレはエストレアに告げる。告解のように話すそれは何処か悲しげだった。


「今の余では彼女を、解き放つことができない。魂は冥界に旅立ったが、肉体に残った思念はこびり付いたまま。そのまま、キュリア……いやヴォルバートめらの手によって悪しき姿へ変えられてしまった。余が生きていた時代より遠い、竜王の肉体さえ利用した、な」


「もし余がアーサーと戦うことなく、妻と逃げることが出来たらこうならなかったろう。まだ妻の胎の中だった、娘の顔を見ることだって出来た」


その言葉をひとつひとつ紐解き、理解した時エストレアは顔色が青ざめていくのが分かった。

そして、目の前にいるソレも誰なのかも。


「まさか、貴方は………!!」


両手で口を押さえ、驚愕の表情が明らかになる。

それは確かにこちらに振り返り、その手と思われるものをエストレアの肩に乗せた。


「大きくなったな、我が娘よ」


それの姿がモヤのようなものではなく人の姿をとる。褐色の肌に真紅の双眸を持ち、赤みのある茶髪とよく蓄えられた顎髭、がっしりとした体格で、目元はエストレアそっくりだ。


「貴方が、私の本当のお父様……?」


「うむ、こうして話すのも顔を合わせるのも初めてだな、娘よ。余こそ、魔王アレクサンドル・ラティス・アルシャインである」





●●●





「鬱陶しいっ!!穢らわしい、獣風情がぁっ!!!」


「GuAAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAAっ!!!」



キュリアとルディナとの戦いはなお激しく、止まることを知らずにぶつかり合う。


キュリアの回し蹴りがルディナの頬を穿つと空中を回転しながら吹き飛び、一際立派な煉瓦造りの塔を巻き込んでその下敷きになると間髪入れずに瓦礫さえ吹き飛ばしてキュリアの元に追いつくとルディスを振り下ろす!!


大鎌キリエライトを咄嗟に盾代わりにして受け止めると地上に向かって落ちていき、浮遊の魔法で落下を防ぐとすぐさまその場を離れる。

離れると同時にさっきまでいたところをルディナの拳が振り下ろされドーム状の衝撃波を発生させ、空気を震わせる。

ただでさえ、脆くなった地盤はさらに崩壊し地下から噴き出した魔力に富んだ地下水が噴き出す。


「AH AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA aaaa aaaaーーーーー!!!!」


赤雷を身体中から迸らせて、赤い眼光の軌跡を描く白き獣。

唸り声さえ、風を放つ魔法の威力に匹敵し、口から漏れる息は黒い雨さえ蒸発させる。


もはや今の彼女を一言で表すならば、化け物だ。誰にも押さえられない、制御不能の存在。


それこそ、壊獣と言われる所以。

一度駆け出せば大地が砕け、その拳は空から降る流星に喩えられた。


「来い、冒涜の杯よっ!!!呪いに蝕め、そして沈めェェェェェェェェェェェェ!!!」


黒い塊を生成するキュリア。

それを解放リリース。解放された呪いはルディナを捕らえようと迫るがルディナはそれを喰らっていく。

飢えた猛獣のように、真正面から呪いの塊ーーー青白い手を噛み付いて引き千切っていく。


「Giーー、GAOOOOOOOOOOOOOOooooyAAAA AAAA AAAA!!!!」


咆哮、そして、拳を弓形に絞って前方に絞る。

流星に喩えられたその拳はなお迫る呪いを吹き飛ばす!!

吹き飛んだ冒涜は、ちぎれた飴のようにバラバラになり、その衝撃波はキュリアを大きくぶっ飛ばして瓦礫の下敷きにした上、ヒュドラの女神像からの高周波攻撃さえ相殺して見せた。


ガラッと瓦礫を押しのける音と共にキュリアが姿を表すと再度飛びかかるルディナ。

それを受け止めるキュリア。しかし、圧倒的な膂力の前にキュリアの筋組織はあちこちがちぎれかけており、受け止めるたび鮮血が飛ぶ。


「化け物、めぇぇ……!!」


歯を食いしばりながら、愚痴をこぼすが如くなお力任せに沈めようとするルディナに対しそう言葉を漏らす。

化け物、という意味では受け止められているキュリア自身も十分化け物の範疇だが、実際どちらが化け物に見えるか、といえばルディナだろう。


キュリアは半端強引に引き剥がすと空中に浮かび、飛行を開始する。

目的は撤退の許可だ。【深遠の神鉱】を手に入れて、システム化も大幅に進んでいる。


懐から水晶を取り出すと、飛びかかってくるルディナを躱しながら同じ六闘将であるジュダに連絡を入れる。

ヒュドラを盾にすることで、ルディナはヒュドラと戦うざるを得ない。


「ちょっと!ジュダ、いつになったら撤退できるのよ!?」


『済まないキュリア。実は………、転送させた殿部隊軒並み殺害されていてね……。追加の増援を送ろうにも、何者かに妨害を受けているんだ。そしてーーー『ここからは余が貴様に直接言い渡すとしよう。キュリアよ、追加の増援を送ろうにも出来ないと聞いたな?ならば、今の事態を己の力で切り開け』』


「なっ!?ヴォルバート様、それ、は余りにも……!!」


『こちらも何者かによる妨害で戦力を送ることが出来ない。マリウスに緊急の調査に向かわせたが……それまで貴様自身でどうにかして欲しい。決して貴様を見捨てたわけではない』


「それは、わかっておりますが!」


『頼むぞ、キュリアよ』







ーーー


「ふん、嫌がらせもこのぐらいにしておくか」


王都からかなり離れた場所で、幾つもの死骸の山を築き上げたその人物は、燃え盛る王都の様を笑いを噛み潰したような顔で見つめていた。


しかし、その人物は地下回廊の崩壊の際、それに巻き込まれたはずなのだがどうやって地上に出てきたのか。

薄い桃色に似た白髪に青ざめた肌、赤い外套を纏い血の滴る少し反り返った片刃の剣を握りしめて。


「どうだ、『寅丸』?久しぶりの血は美味いか?」


剣は何も答えない。それを見て、その人物はなにか懐かしいようなものを見ながら、その空に浮かぶ異形を見る。


「ふん、結局はこの結末は変わらんか。あの小娘が介入したのは知らなかったがな」


そう言うと、体をポリゴンのように分解させてその場を去る。

やがて、少し間を置いて新たなポリゴンが発生。そこから息を切らせたマリウスが出現する。


「逃げられたか、僕がここにくるのを知ってて……。うーん、僕の目で見たあの子が何者なのかを知らないと……」


王都全体を見渡せるその場所でマリウスは王都を見下ろす。

当分、この国は建て直しにかなりの時間を強いられるだろう。おそらく、援助を打ち切られることもある。


「ま、いいか。あの子の魔力の匂いは覚えた。けど、似てるんだよね……」


何故、姫殿下と同じ魔力の匂いがするのか。全く同じではないが共通項が多すぎるのだ。


「いかんいかん。それは後回しだ。今は、君の道行きを信じるのみだ。さぁ、見せておくれよ。我が導く愛しのエストレアよ」



ーーー




キュリアとルディナの戦いが激化する中、王宮にたどり着いたアグニル、ネロ、担がれたジェシカの三人は既に先に着いていたオルストらと合流するとジェシカをリムと同じ部屋へ移された。


仮設されたテントに運び込まれたジェシカはこの時点で急激に魔力を失う、いわゆる急性魔力欠乏症を発症しており、この世界の医療技術では死に関わる重大な状態だった。

それは、高濃度の呪いに触れたリムなんかよりもずっと重いのだった。


あの時、誰かが止めていれば、知る人がいればこうならなかったかもしれない。

普通のゴーレムの何倍の巨大さに加え、神代の魂を入れて一時的に本物の神として扱うその魔法はたった一人の術者では不相応。

いや、急性魔力欠乏症程度で済んだのが奇跡かもしれない。


そう思えるほどに酷かったのだ。


「神経系、筋系、リンパ系、全て断裂確認!!」


「魔力が足りないから、神経系等を魔力パスとして使った反動よ!エーテル液取って!」


「奇跡使用しますっ!」


大声で、ジェシカの治療にあたる王宮医師達。

彼らとて、やらなければならない仕事があるだろうにそれらを後回しにして治療に当たっている。

それからジェシカの呻き声が静かになると、医師達が安堵の表情で出てくる。

微かに覗くカーテンの向こうではジェシカはゆっくりと胸を上下させて眠っていた。


オルストらはそんな声を背後に弓を背負ってテントが集まる広場を出る。

相変わらず黒い雨が降っており、ついさっきまで自分たちがいた聖堂あたりは今なお地震に近しい轟音が響き、オルストのその視力の良さで見てみればあの魔女とギルドマスターのルディナが激突を繰り返していた。


正直言って、あの場に乱入する気は起きない。

行っても巻き込まれるだけだし、最悪死ぬ可能性もある。


とはいえなにもしないわけにはいかない。あの二人の実力はほぼ同じくらい、な気がする。暴走状態でなければもっと軽快に立ち回っていたはずだ。

それに、いつ飛び火するかわかったものではないからだ。


「と、いいつつ早速かい」


愚痴りつつ、早速飛んできた瓦礫やら侵入しようとする屍者の群れ。

それらを弓矢で一掃していくが、数が少々……多い。


「やれやれ………ウルマトと同じかよ」


「全くだ、気が滅入るぜ」


撃ち漏らしたものを天を射抜く放電が打ち砕く。

ザスッと地面に魔剣を突き刺すネロがぼやくオルストに同調する。ヒュドラに対し、大技を放った際の手の大火傷は治療の甲斐があってか元の白い肌を取り戻している。


「結局、王宮敷地内が安全なんだってんで防衛か……」


「とはいえお偉いさんの盗み聞きによれば【深遠の神鉱】奪われたから自動発動のこの結界長くともたねえってさ」


「俺ら以外でまともに戦えるのは……?」


「騎士団長二人とも疲労困憊でこれ以上は無理、あの枢機卿は生き残ってた聖騎士さん達に回収されて王宮内部に連れられたぜ。お嬢様は……あの状態だしなぁ。レンヤとアグニルは逃げてきた市民らの受け入れに駆り出されたし……、無理じゃね?」


「ダークエルフの双子がいるけど……、俺らの頼み聞いてくれそうもねえしな……」


なんということだろう。あの化け物と魔女にこれだけの被害を受けたのだ。

街は壊滅状態、人々は恐怖に怯え、かつての賑わいは炎の中。


一方、王宮内部では。


「今、なんと申した……?」


「エレンさん……、いえ、エストレア公爵子女、でしたか。彼女は……その、ジェシカ侯爵令嬢を庇い上空にいるヒュドラの顎門の犠牲に……」


国王の二度めの問いに答えたアナト枢機卿の答えにガクリと膝をつく二人が。

言うまでもなく、国の王太子ジェラルドと軍務卿アーノルドである。

特にこの二人の絶望に染まった顔は人一倍であった。


この二人は、二度失ったと同じ意味を持つのだから。

それがアナト枢機卿でなければ、嘘を言うなと掴みかかっただろう。だが、相手は枢機卿である。言葉の重みも違う。決して嘘は言わない。


「何故だ、何故……神よ、何故一度のみならず二度までも……!」


アーノルドの悲痛な言葉が辺りを包み、誰も言葉をかけるものはいなかった。

たとえ、どんな言葉があろうとも今のアーノルドには届きはしないだろう。


つい先ほどまで再会を喜んだのも束の間に離れてしまった。

同じように沈んでいたジェラルドは、アーノルドに対しなんと声をかければ良いか分からず、窓を見て己が好いていた女性を奪ったあの異形の存在に敵意の炎を灯していた。

腰に帯剣した剣を握りしめて。




ーーー




白い獣が吠える。

雄叫びが大気を震わし、相対するキュリアの体をビリビリと痺れさせる。

四つん這いになり、四肢に力を込めて駆け出すと、大きく弓形に逸らして躍り出る。

体を回転させ、落下の勢いを利用して殴りかかる。


キュリアはそれを間一髪避けると、後方に下がり距離を取る。

瞬時に落ちてくる圧倒的な力。もはや、この市街地にかつての原型を止める場所はなく、あちこちにクレーターを作り、間欠泉の如く地下水があちらこちらに吹き出している。


避けられたと理解するとルディナは当たりもしないのにその場で低い唸り声を発しながら回転蹴りを放つ。


「どこを狙って……っ!?」


ハッと意図を理解したキュリアはバッ、と鎌を盾がわりに、両足で踏ん張り衝撃に備える。

振り切ったルディナの脚は、遅れて音が発生し赤い稲妻を纏った衝撃波が鎌鼬のように放たれる。


着弾。踏ん張ったキュリアの足元をのぞいて、その周囲が扇状に衝撃波によって削り取られ、まるでそこだけなにもなかったかのように無に帰した。

そのキュリアとて、頬など皮膚が見える場所に裂傷が見え隠れしている。


「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」


何度も言うようだが壊獣という存在の出鱈目さに驚きを感じ得ない。

強いとか、弱いとかそういう物差しで測れるものではない。神話に語られるだけあって、一つの文明と神を滅ぼしたその力は一寸の疑いの余地もない。


なにより、聖遺物である陥斧ルディスを持っていることが厄介さを底上げしている。


「くっ……(私も、夢幻を発動させるべきか……!?)」


内心、夢魔としての強化形態を発動させるべきか迷う。

しかし、ここでルディスの特性が引っかかる。ルディスはその破壊能力より、空間無効化が強力なのだ。

結界を張ろうと、異次元空間だろうと、その斧の一撃の前では紙切れ同然。

夢魔の強化形態は異次元空間を自在に操る能力なのだが、ルディスを持ち出されると弱いのだ。

反面、そうだとしても対象を悪夢に引き摺り込むことが出来ればルディスを振るわすことなく勝利できる、はずだが……。


「(そんな隙与えてくれそうもないわね……、ヒュドラに囮になっても人間どもが邪魔しないと限らないし……)」


今は自分と相対した人間どもは王宮方面に凝り固まっているようだ。

更に、強力な結界が張り巡らされていて流石の自分でも突破するには火力が足りない。

共倒れでも狙っているのかは分からないが、そんなことより、だ。


鎌を振るい、ルディスをいなし、星に例えられし拳を避け、至近距離で黒弾を放ち。

大きく鎌を振るい、足を切断し機動力を奪い。

即座に再生されるが、今度は腕を落としていく。


「(不死身ね、外界から魔力を再現なく吸ってるから魔力切れもない。【深遠の神鉱】の残り香でもここまでとは……)」


ヴォルバートからは殲滅を言い渡されたが、このルディナをどうにかしないと二進も三進もいかないのだ。ましてや相手は壊獣。臨界こそしてないようだが、もう理性のかけらも感じられない。

自滅狙いで、時間を稼ごうにもこちらが先に根負けしそうである。


「(やはり………)ッッッ」


急に後ろを向いて転進する。目標は、王都の王宮結界方面。

やはりと言うか案の定ついてくるルディナを確認するとほくそ笑みながら、王宮の結界に手を当てる。

ざわめく兵士たち。

相対した冒険者どもが駆けつけてくるがもう遅い。


タイミングを測り、即座に上昇。


「■■■■■■■■■■■■っっっ!!!」


大きく振りかぶったルディスを持ったルディナが結界にぶち当てる。

パリン、と床に落とした陶磁器のように軽やかな音を立てて崩壊する結界。

そして、ルディスの力で、地盤沈下していく王宮の敷地内。


「アッハッハハハハっ!!!ーーーヒュドラ!!!」


笑いながら、ヒュドラに命ずる。制御しにくくなったが、どうにか聞き届けたヒュドラは竜頭と、女神像より高周波と光線が破れた結界に向けて放たれる。


大きな火柱を立てて、燃える王宮。

騒めく、悲鳴が上がる。

精霊の力が宿った矢が飛んでくるが鎌を払って撃ち落とす。


今、地獄は王宮へ持ち込まれた。




●●●




「あなたが………私の……、お父様なのですね」


「うむ、こうしてみると其方は、母親によく似たのだな。余に似ているところは目つきぐらいか。若き頃の余にそっくりだ」


晴天の霹靂ここに極まれり。

ヒュドラに食われ、おそらく今の己はヒュドラの中の精神世界に意識が飛んだのだろう。

それだけでも驚きだがまさかこんな場所で、実の父親に会えるとは思いもしなかった。


もっと話したい、もっとあなたのことを聞きたい。

言いたいことがたくさんありすぎて、逆になにをいえばいいのか、分からなくなるくらい。


「………、今の余は残留思念に過ぎん。ここの、奥底に囚われた妻の安寧に願うほんの少しの残滓なのだ。だが、余の役目はそこだ。其方をそこへ連れて行き、しかるべきことを為させる道標」


しばらくエストレアを見つめていたアレクサンドル王はくるりと翻して付いてこい、と再び深部へ向かって進んでいく。

相変わらず、暗闇ばかりだがなにも感じない闇のような空間からまるで深海のようなーー、いや赤子が眠る羊室のような心地よい闇に変わっていく。


そして。


最深部に到達したのか、アレクサンドル王はゆっくりと降り立った。

続いたエストレアもゆっくりとその足をつける。


そこには、暗闇でなにも見えなかったが、目の前に無数に絡みつくツタのようなものがあり、それらが束になって一つの大樹のようになっていた。


それは、波打っていた。そう、心臓のように。

その中心に、ツタに絡められた人型のようなものがあった。


「おぉ、アナスタシア(・・・・・・)よ、我が妻よ。ようやく、ようやくだ。お前を解放できる時が来た。俺たちの、娘がここにいる」


すがるようにそれに抱きつくアレクサンドル。しかし、その人物は眼は焦点があっておらず虚空を見つめ、要所だけツタによって隠された、実に扇情な姿だった。

だが、アレクサンドルは彼女をアナスタシアと呼んだ。


そして以前マリウスが言った、自分の母親のことを思い出す。



ーー「彼女は、聖女と呼ばれていた。しかし、そう呼ばれても民衆は誰も彼女を崇めたりしなかった。彼女の名前は『アナスタシア』。灰を被った修道女ナターシャなんて呼ばれていたかな。


そして、父親の若い頃に一度きりの過ちで生まれた子こそが彼女『アナスタシア』なんだよ」ーー


では、この絡められた女性こそがエストレアにとっての実の……母親、アナスタシアなのか。


銀色の長髪、正位置にないティアラ 、そこに生気はないがエメラルドを思わせる瞳。


まじまじと見ていたエストレアにアレクサンドルが突然こう言い出した。


「我が娘、エストレアよ。其方にしかできぬことだ。我が妻を、そして余を解放してほしい。故にーーー





其方の牙で、跡形もなく吸い尽くしてほしい」









次回もお楽しみに!



PVアクセス10万ありがとうございます!拙い小説ですが、今後とも応援よろしくお願いします!

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