Chapter9-10 Chapter end
過ぎたる力は身を滅ぼす。一体誰が言ったんでしょうね……。
「馬鹿なっ!!!ありえんっ!!」
現魔王ヴォルバートの叫びだけが、この場に響く。
皆、口をアングリと開けて何も言わなくなってしまった。それもそうだ、今映像に映ってある存在がありえないものだからだ。
「あれは、神の被造物だぞ!?天上の神々が!古において超自然現象の化身である十二種族『龍』を滅ぼすために地上に送り込んだ殲滅機構、撃滅システムだ!ただの小娘が、代償もなしに、いや代償があったとしても召喚できるわけがない!!」
そこに待ったとかけたのが不可の魔法使い、マリウスである。
「いや、あれは本物の巨神兵ではないよ。多分、ゴーレムだろうね。けど、器はゴーレムだけど降ろされた魂は巨神兵そのものなんだろう。それならば、可能性としてはありえなくはない。けど、持って数分間しか起動できないだろうね」
「それでも、可能性としては何億分の1という確率でしょう?降霊術であれば確かに神の魂の一部を降ろすことは可能です。しかし、神の魂というものは、我々が認識する以上に重みが違う」
ジュダがマリウスの言葉に疑問と同時に補足を入れてくる。
そうなのだ、巨神兵という魂を入れたゴーレムを召喚し、使役する。それは、彼ら六闘将らですらやれたとしても成功するかは天文学的確率なのだ。
それ程に神の魂を召喚し、作り上げた器に入れる、ましてやそれが齢12の少女が成功させたなど一体どれほどの困難なのか想像がつかない。
投影された現場には、竜頭に巻きつかれながらも渾身の力で引きちぎっていく大いなる兵の神があった。
その肩に、主人と認める少女が大きく肩を揺らしながらメラメラと敵意を燃やすのが分かるほどに。
「(意外な子がいたものだ。僕の知っている未来じゃこんな展開は無かったはずだけど……。さて、どう転ぶのかな?)」
誰も彼もが巨神兵という存在に目を奪われる中、マリウスだけは予想外な展開になったことに感心しつつ、己が真に導いていく姫君のことを考えるだけで抑えているはずの頬が緩んでいく。
肝心の姫君は食われたというのに、何ともないという余裕がマリウスにあった。
「(せいぜい頑張りたまえ、ジェシカ君。君の敬愛する人はもうすぐだよ)」
●●●
ーーー降臨!
暗黒の空を背にして大いなる兵は降り立つ。
少女の慟哭に応えるべく、空を陣取るヒュドラと対を成して人々の希望となるために煌めきを纏う。
崩れる王都が震撼する。
少女は高らかに、その尊き名を叫ぶのだ!
「起動せよ、巨神兵ッ!!汝の名は、【撃滅せし黒曜の模造巨兵】!!!!」
錆び付いた、大型の機械、その歯車が回り出すような壮大な音を立てながら立ち上がる巨神兵。
その体は人に作られた紛い物、けれど身に宿す魂は正真正銘の巨神兵の魂だ。
怒りに、悲しみに身を任せて起動させたこの大魔法。器を錬成し、術式に封印、術陣の起動と同時に神の扉にアクセス。
そして、求める魂を降ろし術者が強き楔となることで世に定着させ晴れて起動となる。
全ては、ジェシカの祖先たるサリヴァーンが己の領地で巨神兵の完全な状態での亡骸、いや機能停止状態で発見され何代に渡って人の力で御すべく研究された傑作魔法。
「けほっ、けほっ………、ハァーーー、ハァーーー………!行きなさい、ぶちのめして!!!」
黒曜石色の巨大な手が握りしめられ、拳を作る。そして、そのままヒュドラの竜頭にその巨大な拳をぶち当てた!
グチャァっ!と肉と肉が弾ける音を立てて、千切られた竜頭が泥に変換されて王都に落ちていく。
流石のヒュドラとて、天敵の存在を感じ取ったのか今まで以上に苛烈に攻撃を仕掛けてくる。
巨神兵の体に無数の触手や竜頭を巻き付け、噛みつき、光線を放つ。
しかし!
煙が晴れるとそこには黒い雨の中、傷一つない艶めいた黒色の巨兵がそこにいる。
咳き込みながら、ジェシカは己の使役する巨神兵に傷ひとつつかないことを見せつけた。
「巨神兵………、ですって!?嘘でしょ。あんな小さな餓鬼が……神話の機動兵器を!?」
初めて、驚愕の顔を見せたキュリアにジェシカはギラついた敵意を薄させず、なおかつドヤ顔を披露する。
「その通りですわ、貴方を、お姉様を奪った貴方をぶちのめす最終魔導兵器、ですわ!!神造兵装、限定解除!!!顕現せよ【巨剣ラハール】!!」
ーー承認、ラハール抜剣
機械音声じみた応答と機械特有の稼働音を持って光の粒子が剣の形を取り始める。
片手大上段に構えた巨神兵の身の丈に匹敵する剣がキュリアとヒュドラ目掛けて振り下ろされる。
「くっ………」
今の一撃は、王都全体を二つに裂くほどの威力を見せつけ、その振動は世界中に響き渡ったという。
「(回避しなければ……。流石にアレを受け止めるのは無謀だわ)」
しかし、そこに待ったをかけたのもジェシカだ。
「逃がしませんわよ、奥の手ですけれど……出し惜しみは致しません!!」
そう叫ぶと、ジェシカの手にはたくさんの宝石が握られている。錬金術師であるジェシカは、鉱石を消費する事で魔法を発動できる。その代わりに、宝石の消費量が半端ではない。
「出ませい、我が守護騎士!『零白の天騎士』よ!!」
氷のような白銀の鎧、顔のほとんどを覆うバイザー付きヘルメットを身につけた銀色の戦乙女。
あっという間に、有り得ない機動を取るヴァルキリー達。すぐさまキュリアに追いつくとその槍を突きつける。
交差する大鎌と槍。お互いに長物の武器。
リーチ面で言えばジェシカの槍が、範囲とテクニックで言えばキュリアが有利。
「………!それは、ゴーレム。あの戦乙女のゴーレムを改良したかっ!?」
「ご名答、ですわよ!!そして!!私は魔法使いでもありますっ!!!ハァァァァーーーっ!!!」
感情剥き出しにして殴りかかるように槍を振り回すゴーレムに指示を飛ばす。ゴーレムであるが故、その槍捌きはお世辞にも上手いとは言えない。
片手に宝石を握り締め、砕くと同時に魔法陣が空に描かれる。
「舐めるな、小娘っ!」
「此方のセリフですわ、覚悟なさいっ!!」
暗雲を突き抜けて、光の軌道を描きつつキュリアとゴーレムの騎士は激しい空中戦を繰り広げる。
先にニアスとの空中戦が行われたが、あれは魔法メインとする撃ち合いだった。
だが、今度は殴り合いだ。巨神兵、天騎士、宝石を用いた魔法砲撃。暗雲の下、城下に爆発と重厚な轟音が響く。
「はああぁぁあーっっっ!!!」
貴族令嬢にあるまじき気迫を出しながら崩壊した街並みを駆けながら魔女を追う。
「こそこそと逃げてばかり!惨たらしく殺すのではなかったのですの?!」
「あらあら、私が貴方と戦う意味はないからよ。それに逃げなきゃいけないのは貴方じゃないの?こんなに使役して、魔力砲撃を繰り返してたら、時間の余裕ないんじゃないかしら?」
「っ!ーーー黙れっ!!!」
それは真実。時間の余裕がないと言われたジェシカは一喝するとさらに距離を詰めて槍を振るう。
一方、巨神兵とヒュドラの戦いも変化が起きた。
空中を浮かぶようにして活動していたヒュドラの体が変異を起こした。
浮かぶだけだったのが、暗黒の翼を六枚展開、それぞれの翼に苦悶を浮かべた人の顔とギョロリと開く真紅の眼。その目から赤い光線を縦横無尽に放ち始める。
無論、竜頭からも光線や本体の女神像からの高周波攻撃もある。
なにより、移動しながら攻撃を開始したことがヒュドラの変化だった。
そこへ巨神兵だ。
巨神兵は巨剣ラハールを消すと足元が変形、いや一部が解放されてそこから魔力によるブースト、即ち空中へ上昇した。
そして再び巨剣ラハールを構える巨神兵は足元のジェット機能から魔力を放出しヒュドラへと迫る。
そんな一連の戦いを見た冒険者達はーーー
「総員、今のうちに退避だ!王宮のほうへ走るぞ!!ここにいたら巻き添えになる!」
「「「了解!!!」」」
「アナト枢機卿、ご一緒していただけますね?」
「え、ええ、お二人も大丈夫ですか?」
うなずくアナト枢機卿。彼女も後ろにいたフローラ、レオも同じように賛同した。
既に、リムはニアスによって運び出されあとはオルストとネロ、この三人だけだ。
レンヤは生き残りの騎士団達に退避を促すように出発したあとだ。
「それにしても、なんだよあの巨人はよ……」
「おそらくは、伝説における兵器、巨神兵だと思います。実際に見るのは初めて……いえ、我が国の地下にも先盟歴時代の黎明期とされ巨兵の骨格とされるものがありますが、それにしてもこれほどとは……」
「巨神兵……」
「な、なぁ…….今とんでもねえ現実思い当たったんだけど……、あいつ魔力消費大丈夫か?」
ネロがポツリと漏らした言葉。
巨神兵という神の名を冠するゴーレム、そして召喚時の膨大な魔力と魔法文字。
あれだけの魔力が見えたのだ。己の魔剣なんかよりもずっとずっと魔力消費が激しいはず。
それに、と付け加えるネロ。
「素人の戦いというより焦ってねえか?強引に勝利、いやそれに近い形に持ち込もうとしてるみたいだぜ?」
そう言うと、ネロは「悪い、あいつんとこ行くわ」と魔剣を手に駆け出していった。誰かが、声をかけるもその時には既にその背はとうに見えなかった。
●●●
早く、早く、早く……!
焦りと緊張から槍を手落としそうになるのは何度目か。
魔女は自分とまともに戦う気は一切なく、余裕淡々とのらりくらりと逃げ、撃ち合ってもむしろ此方がやられそうになる。
勢いに任せて大規模な大魔法を二つ同時発動。
今思えば。
不相応なことをしたと思うことがある。
パリンとこれで7個めの予備魔力源であるアメジストが砕け散る。
残りは僅か三つ。早い事決着をつけないといけないのに相手はそれを見抜いているのか、全く相手にしない。
ギリッ、と口を噛む。舐めたことを、と。
しかし、相手からすれば逃げ続ければ此方が魔力不足で落ちることをわかっている筈なのだ。
ーーーパリン………!
「くぅ………!」
キラキラと砕け散るアメジスト。
全てのアメジストが砕け散れば、巨神兵とこの形態を維持できる時間は僅か二分。
浮遊しながら、遊ぶように笑う魔女。そんな魔女は砕け散るたび、空中に散らばるアメジストを細目でみていた。
「ふふふ、詠唱速度が落ちたわね?そろそろ終わりかしら?」
「うるさい!大人しくぶん殴られなさいなっ!!」
「あらあら、ごめん遊ばせ」
頭に血が上り、詠唱速度、精度が欠けたジェシカの魔法やゴーレムの騎士の攻撃を軽く避けて、大鎌の柄でゴーレムの騎士のその無防備な背中を押す。
凄まじい勢いで地面に激突し、とんぼ返りに復帰してきたが、先ほどと違って外装が修復されていない。
興が乗ったのか、キュリアは痛ぶるようにあえて手抜いて反撃する。
最初こそどんなものかわからなかったが、大体分かったのか手毬で遊ぶように乱舞する。
そしてーーーー
パリン……!とアメジストが砕け散る音と共に………
「っ………?ガハッ!!?」
ジェシカは詠唱の途中で突然吐血する。
そのまま、悶え苦しむように地面を転がり始めた。
その原因は、巨神兵、ゴーレムの騎士にあった。
最後のアメジストが砕けた時、巨神兵はヒュドラから猛攻を受けており、最初こそ傷一つなかったのが、時間経つごとに傷の数が大きくなっていたのだった。
それを修復することを繰り返すーーー、そうジェシカの見立てていた予想を超えた魔力を一気に持っていかれたのだ。
「がっーーー!あ“、ア“ぁ“、ヴアアアアアアアァァァァァァァっ!!!?」
目から、耳から、口から、皮膚の毛穴から、秘部から。ありとあらゆる場所から血を垂れ流し、地面を転がる少女。
もはやそれは獣の雄叫びだ。幼い少女の出す声ではない。
爪は裏返るような痛み、頭は頭蓋が弾け散るほどの激痛。足をピンっと伸ばして身体をガクガクと痙攣させている。
「あら、もうなの?呆気ないわねぇ?」
確かに脅威な、そうでいて天賦の才能に恵まれた人間だった。
時代が時代なら、それこそバモレッド帝などが活躍した頃の時代ならまさしく英雄に名を連ねるほどの才能の卵だ。
低級とはいえ戦乙女という神の魂を複数召喚し、作り上げた器に入れて使役することが出来ていた。
恐らく、歳も10を数えてそれ程経ってない幼子がだ。
ヒュドラも巨神兵という天敵が相手だったが、召喚者の魔力限界により機能停止し、その際に一撃を入れて沈黙させた。
キュリアはヒュドラのことを見届けると空中から地面に降り立ち、コツコツとゆっくり近づいていく。
時間があれば、こちら側に連れて行き仲間にしたのだが。
「さようなら」
無慈悲に首目掛けて大鎌を振るう。たが、またしてもそれは止められてしまう。
「させっかよッッッ!!!」
「!」
ガァンッ!と横合から剣による薙ぎ払いがくる。キュリアはそれを目で見て、大鎌の刃の部分で受け止める。
バリバリ!と放電するかのような魔力。魔剣ズツァニッグからはまるで生きているかのような竜の形をした雷が迸る。
けれど、その程度だとキュリアは一蹴する。
大鎌を軽く振るい、鍔迫りを弾く。
「(やっぱこいつ強え……!白亜の上位竜と対峙しているみてえだ)」
ネロは竜種の中で、最強のランクである白亜級を幻視した。無論そうなんだろうというイメージに過ぎないのだが、間違ってはいないのである。
現在、ネロとキュリアはのたうちまわるジェシカを挟んで睨み合っており、どちらかが動けば全てが決まると過言ではない状況である。
状況的に追い込まれているのはネロだ。先ず戦闘力との差が開きすぎている。
なんとか戦いに喰らいつけているのは魔剣による恩恵があるからだろう。
それ程までに戦役に暴れた魔族というのは脅威なのだ。今の時代においての英雄、竜殺しの称号を持つ冒険者とでは開いた差を埋めるには心細い。
だが、天はネロを味方にしたのだろうかは不明だがこの状況を脱することが起きたのは事実である。
キュリアが背後に誰かいると悟り振り向いた瞬間だった。
ゴガァン!!とそれまでの音が弱々しい程の轟音を轟かせてキュリアが吹っ飛んでいく。
「お前、なんでここにいる?」
「反逆の徒め……!」
黒い雨が降り頻る中、犯人は暗闇のような存在だった。
濡羽色の黒髪に、褐色の肌、エルフや妖精などに見られる尖った耳を持つ、双子。
ネロは知る由もないが、ダークエルフのイルナとイザルナが介入したのだ。
そこへ呆然と立ちすくんでいたネロに話しかけた存在がいた。
「ネロ、無事っ!!?」
「あ?お前アグニルか!?」
駆け寄ってきた兎人アグニルが息を切らせながらやってくる。
アグニルは、ネロと再会できたことに喜びを感じていたのだがジェシカの姿を見ると顔色を変えていく。
「ち、ちょっと、ジェシカちゃん!?何やったのよ!!?魔力はゼロ、なのにまだ絞りつくされてる………!」
「う、うあ………」
苦しげに悶えるジェシカを介抱し、ネロに向き直ると
事の経緯を話すネロ。エストレアのことはショックを隠せなかったが、だが巨神兵を呼び出したとは驚きを隠せない。
今まで地下にいたので、地上の出来事は分からなかったがこの街の惨状を見れば納得がいくというもの。
「とにかく、ここを離れるわよ。この子は私が背負う。貴方は露払いお願い」
「お、おい、あの二人は?」
「大丈夫、ここにくる前に心強い援軍頼んでおいたもの。あの子たちも引き際を弁えているわよ」
援軍と言われ、首を傾げるネロ。
思い当たる人物といえば、この王都だと騎士団ぐらいだが団長二人があの状態だ。
その疑問にアグニルは少しだけ補足した。
「ーーーただ正気かどうかは不明だけどね……」
は?とネロが言う前にズドンっ!!と何かが落下する音がする。
全身の肌という肌がゾワッとする感覚。あの魔女もサブイボが出そうなくらいだったがこれは度を越している。
「イルナ君、イザルナちゃん、退くわよっ!!!」
アグニルの上擦った声で二人を呼ぶ。
即座に此方に寄ってくる二人。
「逃げるわよ。今のあの人、正気じゃないから……!
ーー化け物には化け物をぶつけるの」
『“ガアアアアアァァァァァァァっ!!!!!”』
ネロが振り向いたときに見たのは白い疾風の風。
それが双子と戦っていたキュリアに一目散に向かっていった。
「ギュリ“ア“ア“ァァァァァァァーーーーっ!!!」
白い一陣の風は通り過ぎるたびに赤雷が降り注ぎ、地面は砕け散る。
そして、激突し、受け止めたときその全貌を見た。
「嘘だろっ??!」
全身真っ白な、体というか輪郭、全体像。瞳は赤く、動くたびに残光を残し、腰?にある獣尾は天高く、その先は宇宙色。それだけなら誰かはわからなかったが、その手に握るものを見て、ネロは一瞬頭が真っ白になった。
「陥斧ルディス、だとぉっ!?って、ことは………あれ、ギルマス!?」
「振り返っちゃダメっ!!!オルストの奴はどこ!!そこまで逃げないと巻き込まれるわ!!」
降り注ぐ戦闘の余波、瓦礫の雨。
地面に落ちてくる瓦礫は自分たちの進路を妨害するばかりか、阻もうとする屍者、獣共も巻き添えにして見境なく被害が拡大していく。
「おい、ギルマスはどうしてああなったんだよ!!?」
「知らないわよっ!!けど、あの形態は実家のお父さんから聞いたことある!!獣人だけが持つ禁断の力、『壊獣』!!!誰もそれにあたる術を知らないから眉唾物だと思ってたけど……」
チラリと横目で戦闘の様子を見る。
そこでは白い獣と化したギルドマスター、ルディナがあらゆる建物の瓦礫を投げつけてはそれを足場にして一気に接近、ルディスをあらん限りの力で振り下ろし、大地震に匹敵する衝撃を何度も撒き散らす。
キュリアも、突然乱入してきたそれに困惑しながらもあまりの威力にタジタジになりながらどうにか躱し続けている。
『ヴヴヴぅゥ………オ”オ”オ”……!!!』
地面を殴りつけて何かを握り込める仕草をしたかと思えば、建物含めた地面そのものを引っこ抜いた
途端に周りに瓦礫、土砂が降り注ぎ、なぎ倒される家屋。
手にしたそれを、渾身の力で握り潰すと、形が変わる。膨大な魔力に当てられたそれは巨大な槍のように変化し、獣の咆哮が暗雲に響くとキュリア目掛けて投擲する。
物体が 音速を超えた証として置かれてソニックブームを発生させた後、空気が破裂する、いや爆発音を轟かせた。
「くっ、ヒュドラ!!」
制御を離れたとはいえ、完全に自分の意思に反したとは言えず、こうして叫べばヒュドラは自動で迎撃を開始する。
何せ、相手が壊獣化したギルドマスター、ルディナだ。戦役時にはこちら側の陣営に被害を与えた連中の一人。つまり、己らと同じ領域の実力者。
そんな彼女が壊獣化し、己に牙を剥いている。
ヒュドラの女神像からの音波攻撃も、獣の咆哮で打ち消され、竜頭からの光線で体がズタズタに引き裂かれても瞬く間に再生してしまう。
反撃のために、鎌を払うが腕を切り落としても勢いが止まることはなく、落ちた腕を傷口に当てるだけで簡単にくっついてしまう。
「オオオォォォっ!!!」
舌打ちをしつつ、心の中で悪態をつく。
膂力は完全にあっちが上。
ヒュドラに取り込ませた【深遠の神鉱】も完全に吸収させ、システム化させるにはまだまだ時間がかかる。
「くそっ!」
厄介な奴が最悪なタイミングで割り込んできたとキュリアは一人愚痴たのだった。
「あぁ、もうっ!!鬱陶しい!!!」
「ちぃっ!!」
アグニル、ネロは戦闘不能に陥ったジェシカを庇いながらダークエルフの双子の前衛を頼もしく思いながら、オルスト達がいるはずの王宮へ急ぎ足で向かっていた。
しかし、物事というものはこういう時ままならぬもので行く手行く手すべて屍者の群れがいるのだ。
双子とネロの魔剣、アグニルの短剣を駆使してどうにかくぐり抜けられるのだがあまりにも多すぎる数に、先に疲弊で倒れそうになっていた。
既に未曽有の惨事と化したあの周辺から距離は離れた筈だが今なお衝撃は地震と見間違うほどに。
アグニルはしきりに背中のジェシカを気にしながら駆け抜けていく。
巨神兵を呼び出した、とは言っていたが……
「あの大きな巨人がそうなのよね……」
普通、呼び出した存在はゴーレムであろうと何であろうと術者が維持できなくなった時点で自壊するのが当たり前なのだが……
「(壊れない、ということはまだ現世に繋がりが維持されていることか。こんな体になってまで……….!)」
ジェシカに再会した時、その姿に息を呑んだものだ。
魔力切れは魔法を扱うものにおいてごく身近なものだが、ああなるには普通起きないのだ。
急ぎながらも思案していると、背中のジェシカは何やらぶつぶつと呟いている。
「ごめんな、さい、ぉ、ね……様ぁ…、お姉さまぁ……!ヒ、ヒク、ひっく……」
「(とにかくどこかで休ませないと。今のままでは召喚解除もままならないし、下手したら死んじゃうわよ……)」
黒い雨の中、終わりが見えない戦いが続く。
前話で1日に閲覧1000件。今までで初めてです。
読んでくださる方に感謝です。
次回もお楽しみに




