Chapter9-8
黒い雨が降る中、消えることなく燃え盛るニアスの合成魔法。
ウルマトでも発揮されたこの魔法、ニアスの持つ魔法の中でも一、二を争う高威力の魔法だった。
「………」
けれどニアスはとっておきの魔法を使ったというのにその顔は優れない。
「オルスト。弓構えて」
「あ?」
「あいつ、まだ生きてる」
オルストはニアスが告げた言葉を密かに反芻するとあり得ねえと心の中で思った。
しかし、風精霊が仕切りに唸るので弓を構えいつでも矢を放てる用意をしておく。
「っていうか、今ので生きてたんじゃ俺らじゃ勝ち目ねえじゃん」
「ネロ、あの蛇野郎は?」
「くたばったさ。今でもあそ、こ…………に?あれ?」
ゴウ!と熱風が吹き飛ばされ、周囲に炎がまかれていく。
その中心に立つのは、ローブを吹き飛ばされてその下のピチピチな黒タイツを着込んだ角を生やした魔女。
その周囲に、ネロが倒したと言っていたはずのヒュドラが蜷局を巻くように魔女、キュリアを守るように囲み、吹き荒れる炎の嵐は彼女らを引き立てさせる風景と化す。
「ウッソだろ、おい………!」
「ッ………!化け物め……」
妖艶な、それでいて突き刺す冷気に似た殺気がまるで見えない矢のようにニアス達を射抜く。
「なかなかやるじゃない、人間の癖に。本当に腹ただしいくらい。あの女といい、あのシオンの型落ちな魔法使いの弟子といい………こんな寂しい戦場じゃなくてあの戦争中ならもっと……………
ーーーー泣き喚きながら、絶望した顔で死ぬ貴方達を見れたのに」
端正な顔が捻れるぐらいに歪んだ笑みを浮かべ、金色の瞳が濁った輝きを放つ。
正直言って、今のメンバーでは勝てる気がしない。
ツーー、と冷や汗が頬を伝い手に握る武器には手汗で滑りそうだ。
「そんなの、させない」
ボ、ボと炎の玉がニアスの周りを複数飛び、宙に浮く。
杖をキュリアに向けて魔力を集中させる。
「オルスト、ネロ。エレン達をお願い。もうすぐ師匠が来る、はずだから」
「一人でやる気か!?死ぬぞ!!?あれは、あいつはウルマトの上位竜なんかよりずっと強い!!お互い協力してーーー」
「誰かがあいつを引きつけないといけないの!!分かれ!!アホっ!!」
ニアスとキュリアはお互いに目を合わせると次の瞬間には空中へ急上昇。
ニアスは赤い光に、キュリアは闇色の光になって王都上空を交差しながら互いに魔法をぶつけあう空中戦へと移行する。
時に並行して飛行し、交わり、別れ、爆発を起こす。
ヒュドラの周りをぐるぐると回りつつ両者ともに魔法が衝突し相殺される。
「くっ……!」
「あははっ!!!」
苦悶を漏らすニアス。笑う魔女。
ヒュドラの竜頭から光弾か撃ち込まれ、回避すればキュリアの魔法が直撃する。
「はあっ!!」
落下するニアスは魔力を下へと放出し、再度上昇。
杖に魔力を込め、魔力でできた剣を生成するとキュリアの大鎌である、キリエライトと激しくぶつかって交差する。
激しく散る火花、大鎌と杖が素材特有の乾いた音を立て、なお止むことのない黒い雨をバックに二人は宙を舞う。しかし、実力差は明白で、小柄なニアスは苦虫を噛んだような顔を浮かべておりキュリアは獰猛な、狂った目をして笑いながら大鎌を振るう。
「ハァァァァーーー、えいやぁっ!!!!!!」
「ふっ」
両者は再び距離を取り、ニアスは杖に力を込めると先ほどとは打って変わって百を越え、千の数ほどの魔力弾を周囲に作り出し、杖を振るって弾幕として打ち出した。
「返してあげるわ」
「っっっ!?」
キュリアは雨霰と迫る弾幕を潜り抜けて回避、回避すると、今度はキュリアも黒い魔力弾を同じくらいの数を両手から投げつけるように撃ち出す。
カウンターとして放たれたキュリアからの弾幕をニアスは同じように弾幕と弾幕を潜り抜けて回避、時には相殺させていく。
「なら、これならどうっ!?」
キュリアは少し大きめな魔力弾を生成するとキリエライトを振るって投げつける。それはニアスに追尾する形で迫り、程なくしてニアスの背後で弾ける。
「っ!?」
弾けた魔力弾はニアスを取り囲む形で周囲に漂う。状況を瞬時に理解すると同時に連鎖的に爆発が発生、飛び越えるように爆発を避け、魔力放出による推進力を活かして次に起爆する魔力を予測、ジクザクに、戦闘機ばりの軌道飛行して回避。
「もう、怒ったっ!!」
歯軋りにしながら、向き直ると被弾することを無視して魔力を編み込む。
六芒星型の魔法陣がニアスの前方に描かれると小さく収縮。
「連鎖波動弾・炎矢!!!」
一つの魔力弾から無数の光弾に変化。弾着から周囲の魔力を取り込んで次の弾へと変化して次々と爆発を相殺していく。
「くそ、魔力が………!!」
彼方は汗一つかいてないのに、此方は息切れ寸前。実力差がここまであるとは想定外ではあったが、ニアスはそれでも杖を手放すことはなかった。
●●●
ネロとオルストは元聖堂のあった場所の舞台近くで黒い馬のような魔獣に寄り添われていたエストレア達を発見した。
当然、幻影魔馬という危険度の高い魔獣故に警戒したが、かの魔獣は物理攻撃が効かないという厄介な能力を持つ。それに探していたエストレア達のそばにいるので戦闘になれば巻き込んでしまうかもしれない、という懸念故に警戒しつつもゆっくりと近づく。
「大丈夫かっ!?」
「オルスト、か。あ、あぁ、私は大丈夫だ」
ただ、と横に横たわるリムの姿を見やる。高濃度の呪いの塊をモロに受けたのだ。
加えて、黒い雨に晒されてその顔は真っ青を通り越して真っ白に燃え尽きたかのようだ。
そんな彼女をジェシカは懸命に魔力を込めたペリドッドをリムに持たせて回復を促している。
「き、傷を見せなさい……」
同じくいつのまにか目を覚ましたアナト枢機卿がリムの横に立ち、戦闘の疲労を推して奇跡を行使しリムの呪いを解呪せんとしていた。
「後は任せたぜ」
ズボ、と魔剣を回収したネロは見張ってくる、といいレンヤが後を追う。
聖堂のホール付近で屍者や獣達が侵入してこないように崩壊した柱に背中を預けながら上空のニアスを心配そうに見ていた。
参戦してやりたいが、生憎自分はあんな航空戦などできない。すると背後から恭しく控える、エストレア達に見せる姿とは違う態度で接するーーレンヤの姿が。
「なぁ、兄貴。俺さぁ、こんな戦いになったの初めてなんだ。親父も、あの戦争でこんなバケモンみたいな連中とやり合ってたのかな?」
「………」
「なんか言えよ………。なぁ、“従者”にならないでくれよ」
「申し訳ありません、御身に対して今の俺には「やめろよっ!!」」
「俺は、俺は!!全て捨ててきたんだ!地位も何もかも!今は、ネロなんだ……!本当は、こんな魔剣とか捨ててぇよ。でも、さ」
「捨てないでください。その剣は、紛れもなく建国王バモレッド帝が神話に語られし魔竜を討ち取った証。その剣を握る貴方は、亡き皇后陛下より使命を受け取ったのでしょう?」
「なあ、レンヤ。今だけは、この国にいる間だけはまだネロでいたいんだよ」
それに、とネロは天に浮かぶヒュドラを見上げ手に握る魔剣か震えているのを必死に抑える。
「魔剣が泣いている。誇りある竜王が、解放を望んでる。レンヤ、魔力を回せ!もう一度、撃ち堕とす!!」
ニアスが何度かの激突でふらふらな状態だ。もう、一人で戦うのは無理だ。
「魔剣炉心解放」
言霊を唱え、魔剣が振動する。
レンヤが魔法を唱え、魔剣に注がれる魔力が増える。
暗雲に稲妻が迸り、一時的に黒い雨を塗りつぶす。
「黎明回帰開始。天地は反転し、我が一撃は大地を穿つ竜巻の爪!!」
「大いなる竜を討しバモレッドの末裔、ラグオル帝が最後の孫娘ネレウスが願い奉る!」
大きく上段に構えて、さらに魔力を注ぎ込む。
手は尋常ではない電流により焦げ付き、感覚は失われる。しかし、それでも握りしめる力は変わらない。
「吠えろ竜の顎門!暗き空に虹を描け!!どけ、ニアス!!ぶちかます!!」
天から稲妻が魔剣に向かって落ち、若葉色の放電が周囲を焼き尽くす。
地に落ちた誘導雷はこちらに近寄ってきた屍者や獣共を一斉に貫き、絶命させる。
身分も、魔剣の力も今まで隠してきたが、この際どうでもいい。
なんでもいいから起死回生の一手が必要だ。
「嘘…、でしょ?あれを放つ気?」
「ッ………!!!魔剣使い!!」
上空で、魔法戦を繰り広げていたニアスとキュリアは地上から尋常ならざる力を感じとり、互いに見やるとそこは魔剣から膨大な雷が蓄えられ、今にも放たれようとする光景。ネロが、地上からニアスに退避を呼びかけ、さらに輝きが増す。
その輝きを見たヒュドラは再びネロに向かって竜頭を差し向ける。
「(くそ、やっぱ俺の全力でも二割引き出すのがやっとだぜ……!)へへ、受けやがれ!!」
「これが俺の、『震えよ神代、咆哮する竜鳴』だぁっ!!!」
一気に振り下ろす。
地から天へ一条の光となった嵐の竜王由来の黎明の雷はヒュドラの結界をいともたやすくぶち抜き、十字状の火柱は天高く突き破り、周囲を衝撃波を伴った雷撃が王都全体に響せ、街並みを巻き込んで屍者の群れを焼き払う。
その轟きは遠く離れた神聖国にまで届き、神聖国の臣民達が見晴らしの良い場所から見た光景は神が裁きを下したのだという。
その光景を知る人がいるとすれば、そう。
マラカイボの灯台、『カタトゥンボの雷』だ。
ーーー
ーー
ー
「今のは……!」
「間違いあるまい、正真正銘の魔剣ズツァニッグによる剣光よ」
ヴォルバートら六闘将は、今の光景を見て驚きの声が出てくる。
何より驚いていたのはジュダであり、それ以外は興味深けにみるか、どうでもいいか、闘争心が芽生えて素振りをする鬼がいるか、だ。
「けど、本人も全力での放出はしてないみたいだね。まあ今の時代の人間だと、全力放出なんてそれこそ【深遠の神鉱】使わないととても出来ないけど。あれの全力知っているかい?文字通り冥界と地上を反転させた挙句、空が落ちてくるんだよ?」
「流石は、神代の最強と言われし竜。その身から出でし魔剣か」
ヴォルバートは映像を見てその真相を見抜いたマリウスに満足げに相槌をうち、そして全力を知るマリウスの知見に舌を巻くのだった。
彼らはいつのまにか姿を消したメドラウトの事を記憶からすっぱり抜け落ちてしまったことを指摘する者はいない。
ーーー
ーー
ー
●●●
「はぁっ………-、はぁっ………!」
ネロの周辺は今なお、パリィ………と紫電が放出しており、ネロ自身も膨大な電流を放った際の反動で剣を杖がわりにして何とか立っている。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ」
先程の表情や仕草をしないレンヤを見てネロは嬉しそうにするがレンヤからすれば彼女の姿は痛々しいの一言だ。
「す、すごい………!」
誰がそう漏らしたか。
実際凄まじい光景ではあった。
あれほどの一撃ならば、たとえ倒せなくても深傷を負わせたはすだ。
黒い雨が降る最中、砂埃の嵐が舞う。それを吹き飛ばして現れたのは。
まず最初はニアスだ。ローブが雷によって焼け落ちてしまい、白いワンピースのような服だけの姿でネロの近くに降りてくる。
何やら文句を言いながら杖でネロの頭をポカポカと殴っていた。
そして、次に片目を押さえ、ふらふらと立つ魔女キュリアの姿。
全身が焼き焦げて、顔面には手で押さえているあたりが大きく火傷が見て取れる。
だがしかし、キュリアが姿を現したと同時にその向こうから大きな影が顕になる。
「や、やってくれたわね。けど、貴方は奇しくもヒュドラに餌を与えたのよ。同じ起源の雷を叩き込んだおかげでこの子はもう、私の制御を離れてしまった」
閉じられた目蓋が花弁のように開き、その中央からまるで生えてくるように大理石に似た白い女神像じみた上半身の女性体が形成された。
「けどいいの!!本来なら聖遺物取り込んでからがこの形態になることを想定していたから!!早まっても構わないわ、アハハハハッ!!!」
それと同時に、ブヨブヨとした体表に黒曜石に似た鱗が生えてきてそれぞれの竜頭に王冠のように雄々しい三本の角が形成される。
そして、口には二重の牙が生え、絶えず青白い息を吐き、無数の触手が大地に突き刺していく。
もはやそれは蛇ではなく、竜そのものだ。
「っ!避けろ!!!」
オルストが叫び、ネロをレンヤが担ぎ、幻影魔馬がエストレアとジェシカ、リム、フローラを瞬時に背に乗せて退避する。
無数の触手は傷ひとつつくことなく、安置されていた【深遠の神鉱】を余すことなく巻きついていく。
返せ
返せ
返せ
我が誇り、我が力、その剣を返せ
この身は大帝に砕かれ、勝利の報酬に我が心臓は持ち去られた
永き時を経て、同胞は我が身を五つに分け、産み与えた
おお、許さぬ、決して許すことはなく。
我は竜の王、嵐を統べる者、空を支配せし者
忌まわしき大帝の娘、その身を我が顎門にて食らい尽くしてくれる………!
たとえこの体が混ざり物だとしても、母胎たる揺籠に落ちても、その剣返してもらおう………!!
そのときヒュドラは、否かつては最強を欲しいままにした竜の落とし子は【深遠の神鉱】を台座から引きちぎるように持ち上げた。それにより、龍脈を介して繋がっていた地下深くある地下回廊にまで影響を及ぼすことになる。
ーーー
ーー
ー
「「拉致があかないね」」
「どうしたものかしら……」
困惑した表情をする三人。ダークエルフのイルナとイザルナ、兎人のアグニル。
既に何時間過ぎたか分からずじまいで心身ともに疲れ果てていた。
喉が乾いても、魔力に富んだ地下水があるから良いものの、水だけでは腹は膨れない。
ランタンもそろそろ燃料が切れそうではある。
実際、この【深遠の神鉱】本体が安置されている?地下回廊はランタンなくとも明るいのだが、いざというとき機能しないのはよろしくない。
【深遠の神鉱】から魔力を貰い、魔法を使おうとしたのだが、元来魔法を使うことを苦手とするダークエルフだ。
ただでさえ、難しいというか使い手すら限れるとされる空間転移。【深遠の神鉱】から魔力を借りたとしてもイメージが固まらなければ意味がない。
はぁ、とため息ひとつ。ため息つくたびに幸せが逃げるというがこうなってはどうしようもないのも事実なので是非もなし。
だが事態は刻々と変化するもので。
「きゃっ!?じ、地震?!」
「これは………!」
さっきも同じように揺れたが、今度は規模が違う。
大きな破片が次々と落下し始め、三人とも徐々に後ろへと下がっていく。
ドォン!とアグニルが一歩後ろに下がると同時に背後で巨大な岩が落ちてきて振り返ったアグニルが腰を抜かす。
そして、彼女達の真上に瓦礫が落下してきてーーー
「(あ、死んだ………!)」
「まったく、世話が焼けるな……」
アグニルの耳にはイルナとイザルナとは違う声が聞こえてきた。
おかしいはずだ、ここには自分たち以外いない筈なのに。
バン、と破裂するような音を立てて砕ける瓦礫。小石程度に砕かれ、あられのように降ってくる。
「貴方、誰………?」
イルナとイザルナも反射的に拳を構え、臨戦状態だ。
アグニルも持ち前のナイフを持って、いつでも望めるよう構えている。
そこには赤いローブを纏った、フードから覗く薄い桃色のような白髪で、青白い肌が見える女性だった。
そして、その奥から覗く冷徹な瞳はアグニルに恐怖を覚えさせるものだった。
「誰、か………か。誰でもないさ。それより、ここから出たいのだろう?なら、手を貸してやってもいいぞ」
「質問に答えて!」
声を荒げるアグニル。ダークエルフの双子も目を細め、筋肉を軋ませいつでも躍り出られる状態だ。
「やれやれ。人が親切にしているのに……。まぁ、出たくないなら構わんがな。どのみち、この地下回廊は崩落するし巻き込まれ願望があるなら手を差し伸べる必要はなかったか?」
「ッ……」
「どうする?このままなら崩落に巻き込まれて死ぬぞ?まぁ、拒否権はないがな」
フードの女は片手を掲げるとアグニルら三人が光に包まれる。
「見届け人がいるだろう、歴史は繰り返されるからな」
「待って、貴方は………!!」
「今のお前達に名乗るようなものじゃぁない。さっさと行け」
そういうと女は掲げた手を下ろす。瞬間、アグニル達はこの地下回廊から姿を消し女だけが崩れゆく回廊に残される。
「せいぜいアイツを足掻くように補佐していくがいいケイ、ブルーノよ。あぁ、いけないな。イルナとイザルナか、まだそんな名前じゃなかったか」
手を顔に押し当て、小さく笑う女。
やがて大きく笑い出し、崩れていく中で笑う声が絶えることはなかった。
●●●
一連の騒ぎの中、王宮内部では騎士団以外の騎士達が慌ただしく動き、文官達があーでもない、こーでもないと議論を投げ合っていた。
「領外に駐屯する兵達を呼び戻すべきです!」
「いや、それよりも市民らの安全の完全確認が先だ!!」
「報告!聖堂エリアが壊滅!!事態鎮圧に向かった白薔薇騎士団約七割が殉職!竜蘭騎士団、騎士団長及び主要メンバー全員が意識不明です!!」
「「「「「ッッッ!!!??」」」」」
「アイアノス元帥が抱える兵を動員し、市街地の約四割の鎮圧に成功!その際に、市民らの安全を同時に進行させたのこと!!」
次から次へと舞い込んでくる事態の数々。
幸い、王都は広い。王宮と聖堂は距離が離れており、領事館にいる来賓以外には王宮の一室に避難してきた両帝国の来賓がいる。
また、王命によりアイアノスが鎮圧目的に市街地に出向いており着々と進んでいるのだが………
「聖堂方面に出動していたフローラ殿の安否は!?」
「不明とのこと!それと聖堂方面での映像が届きましたので確認の程を!!」
報告に来た騎士が会議室に映像が記録された水晶を持ち込み、魔力を注いで起動させた。その記録された映像に誰もが息を呑み、戦慄を覚えた。
「これはっ!」
「なんだ、この化け物は……!」
「待て、この人物は……シェアトの竜殺し達か!?」
「それだけじゃない、これを見ろ!」
「「「屍山血河のキュリアだとっ!?」」」
戦役で、人類側に多大な被害を与えた魔族の一人。歴戦の猛者であり、当時を知る官僚らはサブイボの出る肌をしきりに摩っていた。
また、この会議室だけではなく国王が立ち合いのもとに行われる最重要御前会議では宰相らが近衛らに指示を飛ばしていた。
「白薔薇騎士団が壊滅!?生き残りはどれほどだ!」
「白薔薇騎士団動員された総名、七割を喪失!市街地に展開していた隊歴3年未満の若い騎士のみで残り30も満たない!後は、各国境に配備している中隊のみです」
「若くても構わん!中隊規模で後宮の警備に呼び戻せ!アイアノスに連絡して、緊急配備だ!」
「はっ!」
「ジェラルド殿下、エストレア嬢を探そうとしないでください。ここにいれば確実に安全なのですから」
宰相の目を盗んで武装し、退室しようとしていたジェラルドは宰相に咎められ悲痛そうに顔を歪める。
だが同席する父、国王もそれはいけないという表情をして無言でジェラルドを見つめる。
「くっ!」
壁に拳を当てて八つ当たりするジェラルド。
彼は窓から見える燃え盛る街並みを歯痒い思いで見つめるのだった。
「アイアノス将軍!王宮より伝令!白薔薇騎士団の生き残りから中隊規模を緊急で編成し、後宮に警備に就けとのこと!」
「あぁっ!?そうか!この雨か!」
伝達に来た兵により意図を汲んだアイアノスは奮戦する白薔薇騎士団の一人に声をかける。言うまでもなく、フローラの信頼厚い部下の一人、マリコナだ。
「マリコナ、今王宮から緊急連絡だ。中隊規模で後宮の警備にあたれ!この雨だ、後宮内部に化け物が侵入しねえと言う確証がない。なにより、王妃陛下と側室の身柄に被害が及ぶことは許されん!」
「了解いたしました。拝命します!ガーネット、ヘレナちょっと来て!」
マリコナは向こうにいる同僚に声をかけるべく、駆け出していく。その姿を目を焼きつけたアイアノスは背後から近づく獣を裏拳を叩き込む。
「野暮な事すんじゃねえ。どけ」
裏拳をもろに受けた獣はドパァンと破裂する音を立てて、崩れ落ちる。
その頭はすでになく、そのまま体は泥のように溶けていく。
そして、マリコナが走ったところを見やると既に馬にまたがり十人規模で王宮に向け走る姿が。
「市街地鎮圧はまだまだかかりそうだ」
アイアノスはのちにこの事を後世に伝える際、こういったと言う。
ーーーあの戦役を思い出すくらい地獄が現れた、と。
ヒュドラ第二形態移行。
事態収束は近い………




