Chapter9-6
前回の説明。
ルディナ氏、理性捨ててバーサーカー化。
「はぁ………、はぁ……!!」
肩を大きく揺らして、息切れ切れに白銀の騎士フローラは手に持つ盾をドカッ、と下ろす。
先程の上空に居座る蛇のような怪物、奴の口から無数の光弾が降り注いだ時、ありったけの魔力を注ぎ込み、今までより最大級の防御結界を展開したのだ。
その威力は凄まじく、威力もそうだがあらゆる悪意、呪詛を含む攻撃を寄せ付けない聖遺物である【白護の聖盾】の展開越しに呪いをこちらにふりつけてきたのである。
「ぐっ…….!」
膝をつき、倒れようとする体を必死に支える。
これが呪いの影響だろうか、それともあまりの威力ゆえに体を大きく消耗させたか。
「無理をなさらないで」
「お気遣いありがとうございます枢機卿閣下。大丈夫です、我が白薔薇はこの程度耐えられてこそです」
精一杯に微笑むと白銀の槍を持つ。
彼方はおそらく接近戦に持ち込むつもりだ。
此方にはあの怪物の攻撃を受けれる盾がある上に、魔道通信によりズオー魔導元帥閣下、アイアノス軍務元帥閣下が来ると連絡があった。両名とも戦役を体験し、生き延びた強者。
あの魔女も、それに気付いているはずだ。
本来なら、効かないと分かっていても無差別にあの怪物の攻撃を繰り返せば此方が疲弊するだけでただそれだけで勝てるはずだ。
そうしないのは、自分たちの背後にある聖遺物【深遠の神鉱】を手に入れるためだろう。
魔女が地上に降りてくる。
漆黒の大鎌を弄びながら、不敵に、見下すように見ている。
フローラは手に持った槍に一瞥すると、意志を込めるように握りしめ、盾を構えて槍を引く。
基本に忠実な槍と盾の防御体制をとったフローラは全神経を張り巡らせるべく目を瞑り、何も構えもせずこちらに近付く魔女を感じ取る。
カッと目を見開き、駆け出すとキュリアとの間合いを瞬時に詰める。
キュリアは間合いをすぐに詰められたことに驚き、そしてニヤリと笑う。
交差する槍と鎌。時速500kmという半分音速に突っ込んでいる、ありえない超スピードが乗った槍の叩きつけはキュリアに対して大きな陥没を生み、周囲に衝撃波を撒き散らす。
時に鍔迫り合いながら互いに武器を振るう両者。その一撃一撃は先ず見えない。お互いの攻撃の振るうスピードが早すぎて目に写らない。
鍔迫り合いから大きく弾かれ、大きく後退したフローラは最大の一撃を決めるべく、その体を大きく沈ませる。
その姿勢はまるでクラウチングスタートに似て、いつでも駆け出せる体勢。盾を背中に背負い、盾を持っていた手で標的を見定める。
やろうとしているのは馬上槍による突撃。しかし、超人の一人として数えられるフローラの突撃は現代のスポーツマンの全力ダッシュなどとは次元が違う。
彼女の周りから魔力が帯電するようにスパークし、髪の毛一つ一つに至るまで青白い光が包む。生まれつき、人を超えた瞬発力を持つフローラ。それに加えて聖遺物の加護による耐久力含めた能力の向上に加え、十分な距離、ヒュドラにより拓けた街。数多くの条件が揃ったことで彼女の本気の一撃が、いや誰も超えられない異次元の領域がここにある。
魔女、キュリアは一歩踏み込むのをワザとやめ間合いギリギリに立っていた。
その一歩こそがその先を変える標なのはわかりきっていた。
故に。
「やってみろ」
キュリアはそう言い捨てて領域に足を踏み入れる。
踏み入れられた、その瞬間にはフローラは体をバネにして前方に走り、いや一息で領域の外に飛び出せるほどの瞬発力を見せた。
彼女が立っていた地面は、瞬時に加速させたことにより陥没し砂煙と煉瓦、土が舞う。
全ての条件を満たし、突撃を行うフローラの現時点のスピードは常軌を逸している。ソニックブームを撒き散らし、キュリアの目から消失したフローラ。
「地を走る稲妻………?」
それを遠目で見ていた市民がそうこぼす。彼女の二つ名、それは【神速の騎士】、或いは【稲妻の騎士】。正式に言われてはいないが、王家よりそう呼ばれることがある。
「オオオォォォッッッ!!!!!」
女性しからぬ雄叫びをあげ、突撃するフローラ。全ての条件がクリアされたこの時、彼女の今のスピードを数値化した時、このような結果が出るだろう。
「(これが、私の本気っ!!!)【地を駆ける疾風怒涛の白雷】!!!!」
ーーー【マッハ440】という時速換算528,000kmの落雷の瞬間と同じ超スピードが。しかも、ただ直線に駆けるのではなく自在に向きを変えられることも考慮するべきだ。
「速いっ!!?」
一秒、いやコンマ数秒さえ満たない時間の後、ヒュドラがくの字に折れ曲がり、その体の大部分が吹き飛ぶ。減衰した勢いを利用し、気配を感じて上を見上げるキュリアに向かって空を蹴って音速の壁を超えて頭上から槍を突き立てる!
大きくクレーターを作られたが、キュリアは間一髪かわすこと成功、一気に間合いを詰めたフローラは槍を逆手に切り替える。
瞬発力に秀でた彼女だけのもう一つの必殺技。
零距離からのマッハ突きならぬ音速超える投擲。
キャリアはフローラの動作を見て即座に反転し距離を取り、再生を終えた上空に居座るヒュドラに迎撃を命じた。
「逃すかぁっ!!」
フローラの投擲とヒュドラの攻撃はほぼ同じだった。
叫びと共に投げられる寸前の白銀の槍は音の壁を容易にぶち抜き、フローラの咄嗟の方向変換によりアーチを描いて魔女に向かって投擲する。
しかし先程のヒュドラの攻撃は盾を構えていても立つのがやっとになるほどの威力を秘めている故に白銀の槍の投擲とそれとでは拮抗することはない。
それは間違いなく予想がつく。
一瞬の拮抗の後、白銀の槍は赤い光弾に飲み込まれ、やや威力と速度を落としながらこちら側に落下してくる。
「ハァッ!!」
【白護の聖盾】を前にして構え、魔力を注ぎ込み白い薔薇の花弁が宙に舞う。
花弁一つ一つを起点にして術陣が展開されると光弾が着弾、爆発を起こし周囲に呪いを振りまいていく。
「くぅ………!!」
頬に鎌鼬による切り傷が走り、また破けた服から見えた柔肌からも風圧による鎌鼬が切り刻む。
「アナト枢機卿、お下がりを!!」
フローラは叫ぶと腰に帯剣している曲剣を引き抜く。本来はもう一振りあり、一対の双剣として存在する業物だが、盾を片手に持つためにこうせざるを得なかった。
盾を構えながら、少しずつ駆けていきトップに登る頃には一陣の風、いや稲妻。
相対するキュリアでも、目に捉えきれない速度に初めてこの女騎士を警戒すべき敵であると認識するほどだ。
敏捷に特化したフローラは、普段は盾に馬上槍を携える重騎士だが、己より強い敵や窮地に陥る可能性がある戦いではそれを捨て軽戦士として戦う。
事実、ヒュドラの光弾による攻撃は全て当たる前に起こし通り過ぎており、予測発射するも盾による直受けではなく弾くことにしたフローラにより当たらない。受け流された光弾は、周囲を黒煙と炎に変えながら黒い雨と共に呪いを振り撒くのだが………
「主よ、我が身にその御技を!」
奇跡『浄化』。
一般に知られる奇跡の一つ。魔法にある浄化と被るが、意味合いが異なる。
奇跡と魔法の、どちらも良くないものを取り除くことは同じなものの、奇跡は文字通り呪いや魂の苦痛を取り除くことであり。魔法の奇跡は汚れや精神的な苦痛を取り除くことが目的である。
消えかかっていた右腕を振るい、周囲に光が満ち溢れ大地にとどまっていた呪いの塊は煙となって消え失せる。
火災や、崩落こそ防げないが呪いを蔓延させることは防げる。
アナトは右腕の消耗から彼女を支援することしか出来ない。
そんなアナトの視線の向こうではフローラとキュリアの剣戟が激しさを増す。
「オオオォォォっ!!!」
「チィィィッ!!」
大鎌と曲剣が斬り結ばれ、盾で弾き、盾を掻い潜ってはその首を狙わんとする。
鎌と曲剣。
リーチでは大鎌が、手数では曲剣が有利。しかし、鎌という武器はもともと白兵戦には向いてない武器種だ。
農耕用具である筈の鎌を無理やり武器に改造したのが戦鎌。鎌を持つ姿はまさに死神の姿にふさわしいが、いざ近接格闘交えた戦いとなると、鎌のリーチと独特な形状は曲剣と比較するとクセが強く出過ぎてしまう。
故に実戦では役に立たない。武器としての鎌はその形状から突く、切る、と言った攻撃が一部を除き、薙ぐ場合も手前に引く動作が必要となるために、手の届く距離の半分程度しか有効間合いにならない、突き立てるように使う場合も射程が致命的に短いことが欠点としてあげられてしまう。
いくら、模造聖遺物であるにしろ、元々の武器としての起源が日常の道具として生まれた鎌では戦闘のためだけに特化された剣や槍には相性が不利だ。
だからこそ、素早さにおいて現人間社会において最速を誇るフローラの連撃はキュリアの反撃を許すことなく防御だけに専念させていた。
これが盾なしで、二刀流だけであったならばまず間違いなくキュリアを倒せたことだろう。二刀流も癖が強いが、鎌ほどではない。
「調子に、乗るなっ!!」
「ふっ、はぁあっ!!」
黒い大鎌を大きく横薙ぎに振るい、飛び退いたフローラに対し大きく踏み込むと石突きでフローラの爪先を突いて動きを封じ、右足で大きな下上げ蹴り。
「がっ!?」
蹴りは見事にフローラは頬を捉え、少々の歯と血を撒き散らす。
体勢が大きく崩れたところを見逃すキュリアではなく、素早く手を回してその首に鎌の切っ先を突きつける!
首に冷たい感触を覚えたフローラは石突を倒れる勢いを利用し、遠心力を利用して鎌の軌道に沿って体を動かす。手元に引き寄せなければならない武器故に、これが一番ではないが、曲剣の特性上最適な回避だ。
鎌の柄を倒れ込むその勢いを利用して蹴り飛ばし、前に転がるとそのままキャリアを突き飛ばして組み伏せる。
「捉えたぞ、魔女めっ……!」
「っ……」
勝利を確信したフローラ。魔法使いだから、魔法を封じる拘束具を使ってこの事件は解決だ。
だがフローラはキュリアが笑うのを見て、何故この期に及んで余裕を見せるのか分からなかった。
「何がおかしいっ!!!」
「だって、貴方。ヒュドラを忘れているじゃない」
「っ!!」
「上よ!!」
ハッ、と上を見上げるフローラは遥か上空で無数の竜頭より光弾を吐き出すヒュドラを見た。
しかもこのタイミングでは盾を構え、能力を解放する時間は皆無。
たとえ、盾を構える事に成功しても拘束したキュリアを逃してしまう。
「しまった!」
「消し炭になりなさいな」
どうするかなど、フローラには決まっている。そう決意したときには周囲は爆発と衝撃波に包まれ、大きなクレーターが生まれたのだった。
●●●
「う、うぅん……。こ、こは……」
暗闇の中、水が天井から滴る音を聞きアグニルが目を覚ます。
次いで地震を思わせるような衝撃が今彼女のいる空間をビリビリと揺らす。
どうやら自分は地下通路にダークエルフの双子と一緒に市民らに紛れて逃げている最中に気絶したらしい。
「っ………!イルナちゃん、イザルナちゃん、どこなの、返事してっ!!」
「ここにいる」
「ん、同じく」
状況を把握するべく双子の姿を探そうと声を張るがわりとすぐ近くで声がした。
二人は崩れた地下通路の入り口、だった瓦礫に腰を下ろしていた。
「地上はかなり破壊されてるね」
ダークエルフの二人は長い耳をピクピクと動かしてまるでソナーのように周りの状況を観測している。
アグニルも、特徴的なウサギ耳を動かして地上の音を聞く。
人々の逃げ惑う喧騒はすでになく、かわりに凄まじい轟音が聞こえるのみ。
それに自分たちが今いる場所も地下通路ではなくまるで洞窟のような空間が広がっていた。
チロチロと水が流れており、天井からポタポタと垂れている。
「どうなってるのよ……、地下通路が崩れて真下は謎の空間?」
彼女達がここにいる訳は、地上で暴れていたルディナとメドラウトとの戦いの余波だ。かなりの力を込めて地面を叩きつけたルディスは地下水を噴出させたが、それは地下通路を破壊してしまうほどだったのだ。
「ん、同胞こっち来て」
「何よ、どうしたの?」
「強い感じ、聖堂にあるアレよりもっと強い………!」
「聖堂にあるアレって………」
【深遠の神鉱】以外ないではないか。それより強いものとは一体なんだろうか。アグニルは暗闇の中、ダークエルフの双子を見失わないようについて行く。
ーーー
ーー
ー
「どこまで続いているのかしら…」
目を覚ました時、不意に装備を確認した際ランタンが奇跡的に無事だったので火を灯した後双子の背を追いかけてどれほどか。
多分、それほど時間は経ってない。
こうして歩いていくうちに景色が変わっていくのを感じたアグニル。壁に手をやると僅かに魔力が流れている。
「うそっ………、この水自体が魔力を含んでいるのっ!?」
「多分、龍脈。この街は龍脈のすぐ真上に建てられてる。この国が豊かなのも、ここが龍脈の源泉だから」
「間違いない。この国の秘宝を聞いたとき、なんとなくわかった。おそらく【深遠の神鉱】は龍脈の結晶。その一部があの聖堂に置かれている」
【深遠の神鉱】はその魔力を使えば、一つの神話世界を創造できると言われている。例えるならば、エジプト、インダス、メソポタミア、黄河と言われた世界四大文明に新たな文明とその世界観、宇宙観を対価なくポン、と作るようなもの。
風水に則り、この国は【深遠の神鉱】の恩恵を受けて発展してきた。恩恵の代わりに魔獣といったものも他国のものと比べて頑強な種が多いのもその影響のせいだ。
「この先にあるものを使って地上に出よう」
「うん。私達、使える魔力が少ないからね」
「いやいや。ここかなりの下層よ?魔法使えないわよ私」
「「同胞は黙ってて」」「はい」
そこから先は何もないので省かせてもらうが、行き着いた先は幻想的な世界。青を中心にした虹色に輝いていて水晶のようなものが鍾乳洞のようにあちらこちらにある。
「綺麗……!」
ランタンなくとも明るく輝く空間は、ここが地下であることも忘れてアグニルは目を輝かせた。
「この王都にこんなところが………!」
むせかえるような濃厚な魔力。この空間に魔力が大気のように溶け込んでこの場を満たしているのだろう。
魔力切れなんて、この場にいれば呼吸するだけで回復するレベルだ。
最深部まで来たらしい。
鍾乳洞のような空間はなお一層規模を増し、自然の造形を超えたナニカと化す空間になっている。
その中央。そこに座するものこそ本物の【深遠の神鉱】。
ドクンドクンと心臓みたいに鼓動しており血液の流れのように魔力が大地に流れている。
二人のダークエルフはなんら警戒もせず【深遠の神鉱】に進み、その真前まで接近する。
徐に手をかざし魔力を吸収し、彼らの体はゆっくりと浮かび上がる。
おお、とアグニルは声を漏らしたが途端にペタン、と地面に落ちてしまう。
「駄目か」
「うん、駄目」
残念そうにする二人。地上に帰還する方法がこれである。
諦めて別の方法を探そうとアグニルが二人に近づくと。
「え?地震?」
周囲がカタカタと揺れ、終いには大きな揺れに変わる。
水晶は落下し、割れ、ビキビキとヒビが入る。
そして、ズゥゥゥゥゥゥゥン!と天井が凹むような衝撃が起き、そして沈黙した。
●●●
「流石に死んだかしら?」
キュリアは浮遊しながら眼下に見える爆発跡を見つめる。
組み付かれ、押し倒されたのは少々驚いたが、まぁ驚いただけだ。
ヒュドラの光弾は着弾するなり凄まじい破壊と衝撃をうみ、爆心地にはクレーターが形成されたほど。
聖堂などほぼ形が保っておらず、かろうじて舞台周辺が形を保っているようなものだ。
煙が晴れて黒い雨の中、倒れ伏す人物がいたことをキュリアはほくそ笑み、ケラケラと笑う。
「ぷっ、あはははっ!!!折角騎士様が逃したというのに、魔力切れの光腕で相殺狙うなんて………なんて無謀なのかしら!!」
枢機卿アナトにより、誓約を超えた使用によって本来の被害より大幅に抑えることが出来たようだがその代わりに本人はもはや守るだけの加護はなく、光の腕は消失し、鎖と布が巻かれた封印状態にまで戻されていた。
限界を超えてまでその腕を行使したせいで立ち上がることもなく倒れ、黒い雨にその体を打ちつけていた。
反対に、アナトによって守られたフローラは瓦礫に背中を預ける形で意識を喪失しており、どう見ても戦闘不能な状態だ。
そしてこのままならいずれやってくる獣共や屍者に食い尽くされる。
「さて、頂く物を頂いてしまいましょう」
そう呟くとヒュドラに命じようとするその時ーー。
「おい、誰かいないかっ!?」
瓦礫を押し除けて、生存者を探す赤毛の少女がこちらにやってくるのが見えた。
煤と埃、擦り傷が目立つがそれ以上に気高さを感じられる雰囲気は見覚えのある感覚だ。
やがて、倒れ伏すアナトを介抱するとこちらに視線を向けてくる。
エメラルドグリーンな瞳が、鋭くも美しく正確に射抜いてくる。
そういえば、奇襲する時一番最初に蹴り飛ばした塵がいたがたしか彼女のような気がする。
「あらあら。お客さんよヒュドラ、吹き飛ばせ」
ただ冷淡に。一人増えたとしても、ありうる脅威は排除する。せっかく上空を陣取っているのだ、これを生かさぬ理由はない。
さっきの歌詞のように機動力が秀でているわけでもないから自分が出ることもないだろう。
それにしても、これだけのから破壊をもたらしても【深遠の神鉱】は傷一つない。これならあの騎士が来ていても雨あられとヒュドラに攻撃させれば良かったか。
命令に忠実に攻撃したヒュドラ。その光弾は見事に着弾し、融解した地面と黒煙を上げながら地獄の底から響くような唸り声を鳴らす。
「っ!」
光が煙を貫いてこちらに飛んでくるのが見える。今のは奇跡による『光の矢』か?だがあの枢機卿はもはや戦える状態ではなかったはずだ。
それを大鎌、キリエライトを振るい弾く。
続いて、雷鳴。ヒュドラの攻撃とは違う自然界の雷に酷似した雷光がヒュドラの体表面を打ち、血と一緒に肉が飛び散る。
「つぅ……!」
上空に浮かぶ魔女とヒュドラ。
エストレアはヒュドラの攻撃を躱すべく倒れていた枢機卿アナトとフローラを脇に抱えたはいいものの、間に合わないと判断していた。
そこへあの怪物の光弾だ。
「ちぃい……!」
せっかくここまで来たのに、ここまでか。と思っていたところに響く声あり。
「お姉様ァァァァ「エレン、どいてろおおおおおおおおおっ!!!」ちょっと遮らないでくださいます!?」
「怪我人は黙ってろっ?!」
喧しいのはジェシカ。それを黙殺したのがネロ。一体全体何がどうなっているのかは全く分からないが、援軍?のようだ。
彼女らの背後には満身創痍だが、リムやオルスト、レンヤの姿もある。
ギルドマスター、ルディナの姿はないがどうしたのだろうか。
ジェシカは指を虚空に切って術式を起動させ、周囲の瓦礫を集め固めていき2メートル超えの無骨なゴーレム五体を瞬時に錬成。
ネロは魔剣を天に掲げて雷を集め、パリパリと音を立てながら大きく振りかぶる。
瞬間、衝撃と衝撃がぶつかりエストレアですら思わずこけそうになるような感覚に陥った。
「よくも、お姉さまに、お姉さまにぃぃ!!穢らわしい汚物をぶつけようとしてくれましたわね!!」
「ったく!リムも、オルストも兄貴も!!無茶しやがって!!」
「面目ねえ……」
「すまん」
「ごめんなさい」
憤怒の表情を浮かべ、瓦礫で作られた五体のゴーレムを引き連れた貴族の少女ジェシカが指先をこちらに突きつけて叫ぶ姿があった。
同じく煤だらけで、振りかぶった魔剣を肩に担いで呆れたようにぼやくネロ。
負傷しながらも、オルストとレンヤ、さらには銀槍を杖にして立つリムの姿もあった。
キュリアは上空から新たに出現した敵を見て、ネロの持つ魔剣を二度見した。そう、問題なのは、あの“魔剣”。あの魔剣は“本物”だ。
その事実を裏付けるようにヒュドラの行動に変化が生じた。
「な、勝手に動くなヒュドラ………!」
「Ahaaaaaaaaaaaaaaaaaaaーーー!!!!」
我先にと竜頭が魔剣を持つネロへと殺到したのだった。
「くそ、予想外すぎるわっ!なんで、一介の冒険者が、いえ、あの大騎士の血統がここにいて、なんで“本物”を持ってるのよ……!?」
魔剣ズツァニッグ、その多くはレプリカ。見た目だけを忠実に再現しただけの偽物が多い中、本物は雷を呼び込み、嵐を従えるという。そして、それは史上最強と言われた魔竜ズツァニッグの心臓より取り出され、バモレッドの手に渡ったのち、後の長子のみに伝承され長き時の中で紛失したという。
つまり、本物がここにあるということは。ヒュドラが取る行動は一つだけだ。ほぼ意思無き傀儡と化してもなお、己の“心臓”、霊核を取り戻さんとするのは残された魔竜の本能ゆえか。
「ちぃぃっ!!」
ヒュドラはあの魔剣使いを執拗に追いかけていてこちらの指示などお構いなしだ。
鬱陶しいほどにオルストによる魔法の矢が雨あられと殺到してくるから宙から降り、屋根へと降りる。
キュリアが屋根へと降り立つと同時に市街地より気配が強まる。
横目に見れば、王国の軍隊が警戒しているうちの一人であるアイアノスに率いられ市街地を徘徊している屍者や獣達を蹴散らしているではないか。
「(時間をかけすぎた………!)」
同時に市街地より大きな爆発音。
そちらにも目をやると空中で一撃一撃が大爆発を伴う剣戟を交えるのが見える。
いうまでもない、メドラウトだ。それにーーー
「あの獣人、壊獣化したですって!?」
(もはや人間だからって甘くしすぎましたわね。手を抜くのもここまで)
キュリアは大鎌を上へと放り投げ、魔力を開放する。
キュリアの体を包み込み、彼女の立つ屋根が圧力に耐えきれず崩れ、瞬時に瓦礫を吹き飛ばして現れたのは、大鎌のパーツがそのまま鎧になったかのように身を纏うキュリア。大鎌は長い柄が消え、獣の爪のようなものが三つ並んだ細身の剣が握られている。黒いフードは切り裂かれ、狂気を孕んだ金色の目が炎と黒い雨に照らされる。
「遊びはここまでよ、もう手加減はしないわ。屍山血河の魔女の名の下に惨たらしく死ね、人間っ!!」
今回もなしです。
プロットある程度できていても、詰めるときに悩む………,




