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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter9-4

複数視点の戦闘描写って難しいね。やりたいこといっぱい………。



フローラ率いる白薔薇騎士団第一分隊、第二分隊が聖堂に駆けつけたときには入り口は瓦礫で覆い尽くされ、あたりは屍者と獣が徘徊している。

そこまでならまだいい。問題はーー数だ。


「だ、……団長。こ、この数は……!」


「なんという………!」


第三、第四分隊が先に聖堂周辺の屍者達を一掃すべく戦闘を開始していたが、無制限に増え続ける屍者、獣達を相手に苦戦を強いられており、少し目を向ければ『単独戦闘が起きかねない』程だ。


「団長、ここは私達に任せて突入してください!ここで足止め食らって要人が保護できなければ作戦は無意味になります!」


「な!だが、それではお前達がっ」


フローラは隣にいた女騎士に小数人で聖堂内に突入してほしいと言われ絶句する。

しかし、彼女の言うことも一理ある。自分たちは屍者達を倒すことではなく、要人の保護だ。

既に帝国関係者は自力で脱出に成功し、アイアノスの元に避難している。

残る要人は、神聖国の幹部である枢機卿アナト・ティンベル氏で、他の要人はまだ合唱会には顔を出しておらず王都にある外交館に滞在している状態だ。


「団長、私たちは白薔薇騎士団です。我ら騎士団はフローラ様の元で鍛え上げられた精鋭。アイアノス様の扱きに耐え切った“超”精鋭なんですよ?別働隊として貴方を送り出せるだけの力はあるつもりです」


「///まったく!頼り甲斐のある部下に恵まれたものだ!



ーーーよぅし、ディアナ、ヘル、ガーネット!それからマリコナ!!」


『ハッ!!』


自分の隊の中で自身に届きうる実力者4人の名を呼ぶと勇ましく答える女騎士達。

彼女らに視線を向けて槍を頭上に掲げ高らかに叫ぶ。


「私に続け!聖堂内に突入するぞ!」


「団長!御武運を!!ここは我らに!」


「団長の進む道を開けろ!!」


女騎士達によって、切り開かれていく活路。

フローラとその部下は白馬を駆け、聖堂内を突き進む。

その進軍を止めようと獣が、屍者が馬の足を掴もうとしても彼女らを止めることはあたわず。


「どけっ!!」


フローラは横薙ぎに槍を振るい、衝撃波により前方約数十メートルにいた屍者達は地に倒れ伏せる。


「はあっ!!」


同じように背後からついてくる部下達も槍を、旗槍を、直剣を振るって横合から来る敵を倒す。


「瓦礫は私が吹き飛ばす!!巻き込まれるなよ!」


「団長ならポカしません!やっちゃってください!!」


フローラは左手で綱を握って馬を制御し、右手の白銀の馬上槍を前方の瓦礫に向けて速度を上げる。

旗槍を持った部下ーーマリコナの祝福によって速度と威力が上がり、ソニックブームを伴いながら突撃する。


「オオオオオオオオオオォォォォォォォォっ!!!」


瓦礫は見事に吹き飛び、塵と化して残った吹き飛んだ瓦礫は辺り一面に転がり巻き込まれる形で屍者、獣が下敷きになる。

無論、背後にも瓦礫の一部が飛んできたが一瞬だけ綱を離し、背後に背負っていた“聖遺物“『白護の聖盾』を取り出し、その加護で部下を守る。

持ち主に治癒と強靭を与えるこの盾は、他にも能力があるがただ盾として使うだけでもこのような自分の何倍もある瓦礫の塊を最も簡単に防ぐ。


盾を掲げると盾の前方に一瞬だけ白薔薇の紋様が出現し、この花弁一つ一つが盾の役割を持つのだ。

完全に力を解放すればもっと強力になるが一瞬だけでいいのでこのようになった。

瓦礫が吹き飛んだことで聖堂内に入れるようになり、フローラ達はその聖堂内部に突入した。


「白薔薇騎士団、騎士団長フローラだ!救援間に合わず、申し訳………






ーー総員、防御態勢を取れっ!!!」


フローラが一番に聖堂内に踏み入ったとき、直後に天井の遥か上、頭上を見上げて背後から来る部下に命を下す。

そして、盾を取り出して魔力を注ぎ込み先程より大きな白薔薇の紋様が展開され、その直後に。



聖堂は白い光に包まれて爆散した。




●●●





雨が降っていた。

自分の意識は、雨に打たれている感触から感じ取れた。


「うぅ………っ」


一体何があったのか。

意識の主ーーエストレアは瓦礫の下から這い出るように体を引き摺り周囲を見渡す。


「これはーーー」


意識を失ってから何があったのだろうか。

聖堂内は今や天井が完全に崩落しており吹き抜けどころか、あの質素にしても美しかった大理石の形はなく完全に廃墟になっていた。

その景観は、黒い雨に合わせて前世でも写真等に残っていた原爆ドームのようだった。


「ジェシカ……!リム……!!返事をしろ!!」


声をかけども返事はなく。

瓦礫のせいでボロボロになった服のまま辺りを捜索した。

喧騒も、屍者、獣どもの呻き声もなく、ただ黒い雨が降る音だけがある。


「そうだ、私はーーー」


謎の声を認識する前、腹部に強烈な一撃を喰らい、瓦礫に押し込められて意識を失ったのだ。

その後の出来事は、わからなかったが全て解決したのだろうか。

いや、その考えは否だ。解決したのであれば、この黒い雨など既に止んでいる。

瓦礫を押しのけて、ホールに当たる位置まで来たが、そこでエストレアは見た。

雨に打たれて、地に伏している人物。白く、聖職者が着る法衣が黒い雨に打たれ、右腕の輝きが失せている人を。

その顔から誰かであることはエストレアには分かっていた。


「ーーアナト枢機卿っ!?」


エストレアの言葉を聞いたのか、ピクリと体を震わせて、指先が泥を引っ掻く。

エストレアは瓦礫だらけの場所を飛び越え、彼女のもとへ走り寄る。

抱き寄せ、抱え起こすと薄らと目を開ける彼女はエストレアの姿を見るとカッと目を見開いた。


「無事ですか!?一体何が!?」


「に、に………げな、さい!こ……こ…からーーかはっ!!」


本当に一体何が起きたのか。

いや、そんなことはわかり切っている。

エストレアは頭上を見上げる。遙か頭上に暗雲から首を長くしてとぐろを巻く蛇とも竜とも言えない怪物を。

それを従える魔女を、見た。アレらが、やったのだ。この、惨劇を。


血を吐き、咳き込む彼女。エストレアが意識を失っていた間、何が起きたのか。それは意外にも短く、数時間前の事だった。



ーーーー


ーー


ー



「我が輝ける腕にかけて、貴方を打ち倒す!!」


「へぇ………」


神聖国からの招待客、枢機卿アナト・ティンベルはジェシカを窮地から救い、リム曰く自身が封じている右腕の枷を外した。


彼女の腕は己がまだ若かった時、魔族の襲撃を受けたときに逃げ遅れた人を庇い右腕を消失する重傷を負った。

だが、奇跡が起きた。庇った人が神に祈り、また彼女も神に助けた人が逃げられるよう祈ったとき、天より天使は舞い降り失われた右腕に宿り『光り輝く腕』になった。

その腕で振り下ろせば雲を吹き飛ばし、地を穿つ様は神が彼女に贈りたもうた奇跡であったという。


だがあまりの力故に彼女は右腕を封力の帯と呼ばれる魔導具で拘束し、祖国と教皇、危機が迫った時のみ己に五分の時間制限を課しそれ以外は神への祈りによる浄化だけに留めることを神に誓ったという。


その証にして、彼女の右腕は包帯のように白く、手首に巻かれた鎖が拘束することを周囲の皆は知られ渡ることになる。


実際にして、彼女の右腕は千の松明より明るい輝きがガラスのように美しい光り輝く腕から発せられており、それは黒い雨が降る暗雲の下でもはっきりとわかるほどだ。


しかし、目の前の敵であるキュリアは目を細めるだけでありそこまで驚いた様子はない。

ふわふわと大鎌の柄に腰掛けて宙に浮かび、面白そうなおもちゃを見つけたかのような顔でアナトを見下ろしている。


その後、クスクスと笑い大鎌を振るう。

途端にキュリアの周りに百を超える屍者、獣が現れ、アナトの周りを囲み始める。

ジリジリと追い詰めるように狭めてくる怪物ども。


「これがーーー


リムから聞いた連れ去られた子供達、実験台にされた人たちの………。憐れなる、罪無き子供達の魂に我が腕を持って救いを与えましょう………!」


キュリアが大鎌を振り下ろす。それが指示となって躍りかかる獣達。


だが。


アナトは動じることはなかった。しかと敵に向けて視線は外さず、光り輝く右腕を頭上に掲げ、高らかに、けれど語りかけるように言葉が紡がれた。


「主よ」




言葉は彼女の祖国であるリスペリアン神聖国の主神アマデウスに救済と恩赦を願う奇跡の言葉。

リムも聖職者である故に奇跡を行使できるが、彼女が紡ぐ言葉は最高位にしか行使できない魂の救済。



ーー【私は貴方になる。貴方が私になる】


【貴方の元へ鈴の音を届け】


【私は清めた水に、その手を浸し貴方の罪を洗い落とす】



厳粛に、一切の邪念を切り捨てて紡がれる言葉。言葉が紡がれるたびに掲げた右腕の輝きが大きくなる。

言葉と右腕の輝きを見るなり、余裕そうに見つめるキュリアに初めて警戒の表情が浮かぶ。


魔法とは違う、奇跡由来の文字列が幾何学的に弧を描き、掲げた右腕に集うようにして収束する。


「洗礼、詠唱………!聖句かっ!(私の魔法や呪術、傀儡供には天敵だわ……)」


キュリアの焦りに呼応するように、屍者の群れは茫然とし、獣はその光に近づけない。なおも、詠唱は続き、右腕の輝きは失せることなくさらに強く光る。


ーー【私の命は主の御技に寄り添い】


【主は朝に大空を飛び、昼は慈しみを与え、夜は知識として巡る。祈りを忘れず、愛を捨てず、ただ私に委ね、学び、従わんことを】


【心忘れた者、心捨てた者を見捨てることはなく。貴方方によって打ち倒された者も私が拾う】


【立ちなさい、誇らしくあれと勇ましく胸に誓い】


【祝いの宣誓を此処に示そう】


【罰には赦しを与え、裏切りには施し、逃げるものには抱擁し、眠るものには雨を降らせ、死した者には救いの手を差し伸べる】



掲げた右腕を前方に突きつけると、光る右腕はポリゴンのように分解して魔力の奔流、その塊へと変化する。

その様を見たジェシカはただ一言、述べた。


「綺麗……」



ーー【主は貴方の罪に血の印を記し、永遠の安らぎを刻む】


【我が内に見える熱は、貴方を照らす灯火になり、彷徨える貴方に贈る巡礼を此処に】


【この言葉を楔とし、貴方に打ち付け、貴方は約束の日に許される】



「詠唱の完唱はさせると思って?」


下僕が動かないというのなら、キュリアは大鎌を構えながら魔力を推進力にして突撃する。突撃の体制のまま、左手からは呪詛を含んだ光弾を発射。しかしーーー



ーー【遥かなる道の果て、貴方の魂は主の導きの地へ至らん】


爆発はあれど、アナト枢機卿には傷はおろか詠唱が止まるそぶりも見えない。

放たれる光の奔流、その魔力量のせいで最低威力まで減衰しているが故。


そして詠唱もまもなく唱え終わる。

魂を救う言葉が最後に紡がれる。


ーー【祈りと誓約に従い、私が誓う】


誓いを此処に。嗚呼、主よ哀れな子羊達にどうかーー


ーーー【“この魂に憐みを”】



【この魂に憐みを】が紡がれると同時に聖堂屋上にある大鐘が黒い雨の中、響く。

此処は聖堂、聖鐘が鳴り、祈りを捧げ、人々の心の在りどころたる場所。

その言葉の力は、本来よりもより強く作用し、解き放たれる瞬間を待っていた光の奔流の塊は実体を持たない光に変わり屍者、獣を覆い尽くしこの場全てが光に包まれる。


『白薔薇騎士団、騎士団長フローラだ!救援にーーー』


「来なさい、ヒュドラ!!!」


キュリアが何かを叫ぶ。

同時に、救出に来た白薔薇騎士団が突入に成功したらしく瓦礫を吹き飛ばして入場する。



ーーー

ーー

ー


キュリアの叫びに、外の暗雲に変化が生じた。

雷鳴がより強く、風が吹き荒れ、頭上の雲は渦を描く。

大きな雲の渦は赤い雷を生じ、辺り一面に着弾しては中規模のクレーターを作っていく。


《オオオォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!》


その中から這い出るように、異形が姿を現した。

それは無数の首を持つ蛇とも竜とも言えるナニカで、中心部には閉じた目蓋があり、竜頭には鱗が一切なく、ブヨブヨとした血管のようなもので覆われている。

八目鰻のような複数の目を持ち、その目に生気はなく、淀んだホウズキの赤色をしている。


「な、何アレ………!」


外で獣を、屍者を一掃していた白薔薇騎士団の第三、第四分隊の面々はその手を止め、頭上にいる異形を見つめるだけ。

その無数の竜頭からは赤色の光球が円盤を描きながら収束し、聖堂とその周辺一帯を中心にレーザーの如く放たれる。

また聖堂からも十字架に似た光の奔流が溢れて、互いの奔流がぶつかり、辺り一面が光に包まれ、あらゆる音が消えた。



●●●




時間を少し遡ること数刻前。

黒い雨が降り、屍が歩く廃都と化して暫くのこと。

この王都ではなく遙か海を超えた先、パンドラと言われる地において崩落した白亜城の地下で彼らはいた。


真ん中をくりぬいた丸テーブルに既に4名座っており、主人を迎えに行ったジュダ・ツアルキオンを除いた六闘将はつまらなそうに待っていた。


「ねぇ、もう帰っていい?」

「ねぇ、かえっていいよね」


六闘将の一人、双児ベリルとベリオットは大きなあくびをかまして席を立とうとする。

しかし、それに待ったをかけたのが誠盾ボルテ・アルキオネ。


「待て。もうじき来るだろう。我らの主人の前でだらしなくするな」


「「えーーーっ」」


剛鬼サイキ・ノーグは彼らのやりとりを聞くことなくいびきかいて寝ていて、鼻提灯を真淵アーレス・リオンに潰されて慌てて起きた。


「な、なんだ!誰だ、俺様の眠りを妨げた野郎は!」


「主人が来るぞ。だから起こした」


「あ、アーレス、てめえ………!」


額に血管を浮かせて、拳を握るサイキにニヒルに笑うアーレス。

好き勝手に行動する彼らは入室した二人の気配を感じ取ると即座に元の席に座ってやり過ごそうとする。


「お待たせしました。まぁ、私のいない間に喧嘩でもしそうと踏んでいましたが。あぁ、そうです。マリウス殿は遅れるそうですよ、では王都アントン攻略を始めましょうか。我が主人、ヴォルバート閣下」


「ジュダ、始めろ」


ジュダは水晶に魔力を込め、かの地における状況をリアルタイムで映し出した。

黒い雨に屍者、獣が徘徊しており、大混乱であることは間違いない。


「出出しはいいんじゃない?」

「ねーー?」


その後の流れはさしあたって興味を引くものはなく。

街並みが映し出され、竜蘭騎士団が奮闘する場面が映る。

その中でも、竜蘭騎士団団長レオの戦いぶりは獅子奮迅の如し。

剣一本で豪快かつ正確無比の太刀さばきで、50以上はいた屍者、獣を殲滅したのだ。


「ふぅん、やるね人間も」


「あぁ?強え奴が勝つ。それが当たり前だろうが。大体、屍者も合成獣(獣)もそこまで強くねえだろ」


そして。

王都の一角で、屍者達と交戦する一団を見つける。

それはシェアトのルディナ率いる竜殺しの冒険者達。

六闘将とその主人は彼らの動きを注視していたーーー。



ーーー

ーー

ー


「これで………10っ!!」


オルストが矢を放ち、眉間に矢尻が突き刺さって倒れ込む獣。

オルストがクライアにて遭遇した獣と比べればかなり弱い。

寧ろ、あの地下遺跡にて遭遇したものよりも奇形過ぎて攻撃を当てるたびに変異していくのだがそれも悪循環を辿っており生物として失敗的である。


「オラァッ!!」


大剣を大振りに振りかぶって、屍者を一刀に両断するネロ。

地面が濡れていることを利用して底無しの泥沼を作り、足跡の落とし穴を作るレンヤ、そしてーー


「ルディス使うまでもないな」


素手で獣の首を折り取るルディナ。

彼らは王門に向けて進んでおり、また雨に呪いがついてくることを知ったルディナの命令によってレンヤは自分含めて全員に抗呪をかけているため、雨による呪いは回避できたが次々と湧き出てくる怪物達によってほぼ動かない状況であった。 


彼らからすれば、竜種以下の屍者など敵ではないが、いかんせん数が多すぎる。

獣だって、戦闘経験のあるオルストからすればクライアの方が何倍も強かった。元になった人物の実力もあるのだろうが、あちらをオリジナルとするならば劣化版というしかない。


しかし、少しずつではあるものの前進しているからか大通りあたりまでくると遠くで騎士達が走っているのがわかる。


「ん?」


「どうした、ネロ?」


「誰かが単独で戦ってる……?」


「お、おい!」


ネロは騎士達の元へ行こうとするルディナらを置いて屋根の上に登る。

自身が感じたものを見つけるために。

目当てのものは割と早く見つけることができた。


「あれは………!竜蘭騎士のーーー団長じゃねえか!!」


ネロの後を追ってオルストがその視線の先を見る。

そこは、百以上の屍者、獣に囲まれて明らかに劣勢。一太刀で多く薙ぎ払っているが、新たに生まれる数の方が優っている。

ルディナも彼らに混じって戦闘を見ており、どうするか迷っていた。騎士達と合流するべきか、助太刀に入っていくか。

彼らなら逆 助太刀に行くだろうがルディナの立場上彼らを安全に届ける必要があるわけでーー。


「(いや困ったときはお互い様、か)救援に向かうぞ。オルスト、狙撃しろ。レンヤ、ネロと私に付与を頼む」


「「おうっ!」」


レンヤに付与魔法をかけてもらい疾走するルディナとネロ。

先ずはオルストが矢を番え、レオの背後にいる獣を狙撃する。着弾と同時に起きる衝撃に大きく体を揺らしたのを見ると立て続けて矢を射る。

どうやら、レオもこちら側に気づいたようで視線はこちら側に向けられていた。


軽やかに屋根から屋根へ飛び移るネロとルディナ。

レオのいる広場に降り立つとそのままの勢いで互いに背中を合わせつつ、魔剣と聖遺物であるルディスを振り回してレオを囲んでいた化け物達は泥のように溶けて沈んでいく。





ーーー

ーー

ー


「危なかったな、竜蘭騎士団団長殿?」


「これはこれは。ルディナギルドマスター殿。救援感謝する」


「で?騎士団長様はなんで一人でここにいるんだよ?」


ネロのもっとな指摘に、レオは後頭部をガシガシと掻きながら噴水設備ーー、もはや原型のない瓦礫と化しているが腰掛け経緯を説明した。


「成る程、自分が囮になって、か」


「まぁな。流石に市民らに危害が及ぶなんてあってはならねえからな。槍は持ってかれたし、剣もボロボロだ。来てくんなかったら奴らの餌になってたかもな」


レオは自嘲しながら、ルディナら一向にある方向を指差す。


「あっちをずっと行けば、図書館がある。そこで一般市民達の避難所として使ってる。もし、何かあるならそこへ寄れ。結界を張ってあるからあいつらは入ってこねえからよ」


「だが、あなたの方が大事だ。指揮権を持つ貴方が倒れたら元も子もない筈」


「なぁなぁ。さっきからあいつらが現れねえんだけど………。あの雨ってあいつら無限に湧くんじゃなかったか?」


レオを説得しようとするルディナに疑問を持ったネロが話に割り込んでくる。

注意しようとしたが、彼女の言うことに疑問が先に来て辺り一帯を見渡した。


(オルストの気配が……!?)


先ほどまで感じ取れた弓使いのオルストの気配が今では雨の中にかき消えて、また獣人の視力でも確認できない。

そして、今まで無限に湧き出てきた屍者達が今では姿を見せないことに今更ながら冷や汗が雨と一緒に流れる。


「おい……!どうした?!応答しろっ!!」


気づけばレオも水晶を使って定期的な連絡を取ろうとしていたがその顔に焦りが見えた。

お互いに顔を見合わせ、武器を取り出し警戒にあたる。

やがて、レオが先ほど指差した方角から一人の人影がこちらに歩いてくるのが見える。

それが一般市民であれば誘導していたところだが、だがその予想は外れる。


禍々しいまでの大剣を片手に、青みを帯びた黒い鎧を纏った美青年。その鎧と顔には夥しい血が付着しており、大剣もまた血に濡れて黒い雨と混ざる。


「こんばんは、いえこんにちはが正しいでしょうか」


血に濡れた均整の取れた顔はどこかで見た顔立ちで、赤と黒の入り混じる髪は女性のように艶やか。

理知的で騎士らしい振る舞い。だが、そのすべてが恐ろしい。


「冒険者ギルドのギルドマスター、ルディナとお見受けします。竜蘭騎士団団長、竜殺しの方々もですか」


「なにもんだ、テメエ……。それより、手前が歩いてきたところには騎士団がいた筈だ、あいつらはどうした?」


レオは険しい顔で、この謎の黒騎士を見やる。

彼が言うことはおそらく、考えたくないが………!


「我が主人の命により、貴方方の『殲滅』を任されました。我が名はメドラウト、と冥土の土産に覚えてくれたら、と」


決まりだ。この黒騎士は、図書館にいた騎士団と市民を虐殺した。あの血は、返り血に相違ない。


「ふ、ふざけるなよーーークソがァァァァっ!!!」


「よせ、早まるなレオ!!」


直剣を振りかぶり、全体重を乗せた一太刀は確実にこの黒騎士ーーメドラウトを捕らえていた。そして、確実に当たることも予想できた。


「話になりませんね、これがこの国の最強の一角ですか」


だが、地に伏せられたのはレオだ。信じられないといった顔でバッサリ切られ、血を吐いて膝から崩れ落ちた。その一瞬を誰も見ることが出来なかった。


「次は貴方達です」


淡々と目を細めながら、暗い炎を纏った大剣がルディナ達に向けられた。


「ネロ、レオを連れてここを離れろ。レンヤの気配は感じ取れるからおそらくオルストもそこにいるだろう。こいつの目的は、あくまで私らしいからな」


「なんだよ、それ!!俺だって戦えるぞ!?」


「足手纏いだと言ってんのよ!!ルディスを真面目に振り回すから、他人がいると存分に使えないって理解しなさい!!」


素になって怒鳴るルディナ。いつもの厳格な言動ではなく、プライベートな言葉が出てるあたり、相当パニックになっているようだ。


本当に彼らを殺すつもりなら、既に行動しているにも関わらず、こうして待っているのはルディナが目的だと言っているようなものだ。

なら、少しでも逃してやりあわよくば援軍を……と考えていたのだが、先程のレオを一撃で倒したのを見るとそんな余裕はないと否定する。


ネロは歯噛みしながら、負傷したレオを担いで黒い雨の向こうへ消えていく。

どうにかレンヤとオルストに合流できれば治療もできるだろう。


「待たせたわね、メドラウトとやら」


「えぇ、私もなるべくは無関係な人は殺したくないのですよ。私は契約に則って、貴方を始末しろと言われているだけなのでね」


どの口がいうのか。市民まで巻き込んだくせして、と心の中で罵倒する。

聖遺物であるルディスを構え、またメドラウトも禍々しい大剣を構える。

噴水広場という憩いの場だった場所で両者は舗装された地面を捲り上げて激突した。




次回予告!


暗雲から現れた異形、ヒュドラの一撃で王都アントンは壊滅状態に。

竜蘭騎士団のレオはメドラウトに一撃で戦闘不能に陥り、ルディナも地を削りとる激闘へ突入した。

意識から目覚めたエストレアは、生き残っていた白薔薇騎士団のフローラとわずかな部下、地下に逃げていたアグニルとダークエルフの双子、負傷しながら復帰したリムとジェシカで決戦に挑む。


一方、王宮では国王陛下の命令で緊急事態を発令、騎士団だけでは間に合わないと判断し、常備軍の出動が行われた。 

血で血を洗う、黒い雨の中、悲劇が彩り目覚めるものが現れる。


次回、Chapter9-5 「黒曜石は我が決意」



「我、ジェシカ・オルステッドは先祖の名たるサリヴァーンの名乗りを持って命ずる!!現れよ、我が最高傑作!!」














ーーの、予定です(三回目

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