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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter9-3

お待たせ。


そして、今回からバトルばっかりです。応援お願いします。


雨が降っていた。

黒い雨、呪詛を含んだ泥の雨。

天は陰り、雷鳴を轟かせ、欠けた魂を求めて屍者が街を彷徨う。

祭り気分で賑わった王都は瞬く間に地獄と化した。



「第3分隊は市街地へ向かえ!第4、第5分隊は聖堂周囲の屍者の一掃せよ!私含め第1分隊、第2分隊は聖堂内に突入し要人の保護へ向かう!!」



黒い雨が降る中、白銀に煌く甲冑を纏う白薔薇の乙女達。彼女らの纏う鎧は、盾は、槍は祝福され、全て装備すればこの黒い雨の呪いはただの雨に過ぎない。


「これより、作戦を開始する!作戦名は【ジークルーナの騎笛】!!繰り返すが、決して単独で戦うな!三人一組で行動し、作戦にあたれ!!いいな!!?」


「了解っ!!!」


「よし!各員、馬に騎乗!!」


フローラの声に従い、女騎士達は馬に乗り、王門から出発する。

白馬の白さと白銀の甲冑はこの暗雲において一つの流れ星の如く煌めいている。


フローラは、相馬を駆けながら頬に流れる黒い滴を指で拭う。


「嫌な予感がする。屍者だけではない、もっと悪意に満ちた、何かがいる………」


彼女は街ではなく、空を見上げて胸中に抱いた感覚に恐怖した。



同じくして、白薔薇騎士とは別で街中を警らしていた竜蘭騎士団はレオの指示の元、雨に濡れないように布を被せた市民を守りながら次々と屍者の群れを下していた。


「これ以上、近寄らせるな!!」


「結界展開まで、あとどれ程だ!?」


「後、30秒で展開完了です!」


竜蘭騎士団は屍者達を一掃しながら一般市民の救助に当たっていた。

市民達の避難場所として、中央にある広場とそばにある王都立図書館を緊急用の避難場所として絶対防衛線を引いていた。

現在、屍者達を食い止めるために広場に通じる道全てに宝石を核とした自立式の結界を展開する魔法陣を敷いている。

既に展開が完了しているところでは屍者達が見えない壁にぶつかるようにして結界を叩いている。

シェードリンド王国の宮廷魔法使いであるズオーとその弟子であるニアスによる逸品。

その結界はちょっとやそっとでは壊れることはない。


「回復が使える奴は、図書館内で収容した市民の浄化を進めろ!雨に濡れたままだと呪いが進行するぞ!!」


「はいっ!!」


回復系の魔法が使える騎士は、竜蘭騎士団にはかなり少ない。白薔薇と同じく抗呪の祝福がつけられた黒鎧を身につけてはいるものの解呪ともなるとできる人の裁量に頼らざるを得ない。


市民の収容を開始してからどれほどの時間が経ったのだろうか。

王都の街は、黒い雨に塗りつぶされ泥を吐き出す屍者が辺りを彷徨く生きた廃墟と化してしまった。

市民達はなんとかこの広場に逃げ果せたのだろうか。まだ聖堂内や一部の施設には大勢の市民が残されているはずだ。


(聖堂の方は、フローラがいるから問題ねえんだろうが………)


「あ、団長どちらに?お伺いしたいことがあるのですが……」


「あぁ、ちょっと気になったことがあってよ。オーネットにここ任せてある。奴に聞け」


「は、はぁ……」


「どのみち結界を張ったことでアイツらは入ってこれねえ。ま、なんだ。俺の直感がよ、あそこが怪しいって睨んだんだよ」


任せたぜ、そう言ってレオは黒塗りの馬上槍を肩に担ぎ結界の外へ出る。

外に出たことで獲物と認識した屍者達が近づいてくる。


槍一閃。


槍を一薙し、彼に近づいていた屍者達は首を両断され力なく倒れる。


「ふん、ゴブリンより強くオークより弱いった感じだな。こういう手合いは共食いをするもんだが………人間を的確に狙ってやがるな。加えて、肉が腐っているんじゃなくて呪詛を含んだ泥が体のほとんどを占めてやがる。宮廷貴族様達の私兵共を出張らせることを反対した甲斐があったぜ」


突如として起きたこの事態に、国王権限で緊急で開かれた会議においてレオとフローラは貴族達が持つ私兵を使うことに反対した。

加えて常在する衛兵にも伝達させており彼らもまた宿舎にて待機を命じられたのだ。


騎士団と違い、彼らには抗呪等の祝福が施された装備を持たず、辛うじてミスリル合金製の装備が支給されてはいるが魔導伝導性は高くても呪いを抵抗するだけの力はないのである。

それも黒い雨が降ってからレオとフローラは直感でこの雨の異常性を理解していたがためだ。

王国最強の二大騎士団の団長2人からの反対意見は無視できるものではなく、ズオーの魔法的視点からしても危険な雨であることは間違いなかった。


やがてレオは開けた場所へと出る。噴水場であり、憩いの場としてよくここには屋台の露店があった。しかし今は誰もおらず、そこは何故か屍者達の骸だけが存在しており、異質だった。


「なるほどなぁ………、そりゃそうだ。こんなのもいるだからよ。えぇ?化物」


それはいた。

姿はまだ人を保っているのだろう、下半身は人間の名残のように見える。が、上半身が異常だった。


極度に肥大化した両腕、元は美しかったのだろうか錦糸の如く滑らかな髪に名残が見える。容貌だが、身体は皮膚の下で回転し、髪の毛は頭から逆立ち、1つの眼は頭にのめり込み、もう1つの眼は頬に突き出る。肥大化した筋肉は巨大に膨れ上がり、指の一つ一つが腕そのものになっている。

口から大量の泥を吐き出し、下半身より3倍はずっと大きい。

それはクライアの地下遺跡において初めて姿を現した獣とほぼ同じの存在。

レオの声に反応して、獣は唸り声をあげながら振り返る。



そして、レオの視界から消える。



真横から振り払われた蹴りをレオは両の腕で止めた(・・・)

舗装された地面を砕きながら少し後退した後、完全に受け切った。


「あぁ?いきなりイキッてんじゃねえぞ」


こめかみに血管を浮かしつつ、受け止めた手に力を込めていく。

レオは、竜蘭騎士団団長。素早さにおいて他を追従させないフローラとは別に彼は耐久することに群を抜いている。また、彼の槍捌きは完全装備の重装歩兵ファランクスの一斉攻撃に例えられ、そしてそれを受け止められるだけの力も持ち合わせているのだ。


受け止める腕は血管がうき、獣の足を凄まじい握力で締め上げていく。

徐々に蹴り上げた体制のまま浮き上がる獣。


「オラァっ!!!」


グシャァっ!!と握力によりひしゃげて逝った足をまるで棍棒のように振り投げ飛ばし。

建物を巻き込んで止まったところに追い討ちの如く彼の馬上槍が獣の心臓を穿った。

崩れ落ちる瓦礫、いくつかレオを打つが動じる気配を見せない。

突き刺した槍から命の炎が消えるのを槍を握る手から感じ取るまで。


「ふぅ…………いや、息をつく暇も与えねぇってか?」


瓦礫と一緒に槍を引き抜き、肩に担いで息をつくと背後で気配が生まれる。何度か見たが、黒い雨に打たれた地面から生えてくるように屍者が生まれるのだ。

同時に、既に生き絶えた獣と同じような化物も数体、此方に近づいてくるのが分かる。


(チッ、避難場所から遠ざけるためにここまできたが………裏目になったか?)


結界を張る前から、何か違和感を感じていたレオ。

展開に成功し、避難してくる市民を受け入れていくに連れて高まる違和感。


避難する市民が増えるたびに背中に冷たいものが走った。


故にレオは単独でここまで引っ張り、道中で近づく屍者を屠ってきたのだが………。


「まぁ、後悔はねえか」


部下と市民を守るためだ。多少、自分に鞭打ってもいいだろう。

馬上槍を大きく振り上げ、渾身の力で投げた。

風を斬る轟音に近しい音を伴いながら屍者と獣の群れを大きく吹き飛ばし、粉微塵と化す。


続いて腰に下げた帯剣を引き抜き、残る屍者や獣を見据え吠えた。



「覚悟しろよ、テメエら。俺はーーー英雄でも、冒険者でもねえ。一介の騎士で軍人だ。俺の後ろは進ませねぇ!斬られたい奴からかかってこい!!!」




●●●



「ジェシカ!こっちへ!!」


「お姉様、そっちは外ではありませんわ!?」


「いいんだ!今は外に出てはいけない!!」


ジェシカが外に通じる道を指差すがエストレアはそれを否定する。


“外に出てはいけない”


窓から見えた打ちつける黒い雨と、実際に目の当たりにした黒い雨雫がエストレアの警鐘が強く鳴り響くのだ。

あの騒動でアグニルとイルナ、イザルナとはぐれてしまい、すぐに抱き寄せたジェシカと共に会場側へと進んでいた。


それにだ。今、会場内では護衛達により屍者達は軒並み殲滅させたばかりであるために下手に動くと不味い。

それだけではなかった。

取り残された子供達のこともある。護衛達は要人の警戒以外に余裕はなく、舞台側に残された彼らをどうするか。



「ちっ」


思わず舌打ちする。

呻き声と共に屍者達が入り口から、窓から、あらゆるところから侵入しようと壁を叩く音が激しくなる。


さながら、B級ゾンビ映画のようだ。困ったことに、呪術で発生していること以外はほぼ同じなのだからタチが悪い。

どうやら、屍者はその名の通りアンデッドに分類できるようで要人ーー、神聖国からの招待客である枢機卿は自ら避難することなく、手に持っている聖杖ホーリーで打ちのめしている。聖杖で殴られた屍者は傷を治すことなく、砂のように砕けていく。


要人なのだから、帝国側のように安全な場所まで避難すれば良いのだが彼女は護衛達の言葉を無視して、取り残されている合唱会で歌っていた子供達を庇うように闘っているのだ。


「主の御元へ帰りなさい」


「憐れな子らに、救いを」


「どうか安らかに」


聖杖から光が迸るたびに、砂のように崩れ落ちる屍者。光が届かない場所があるなら、護衛の騎士達がハルバードを振るう。


どうにか舞台側にたどり着いたエストレアとジェシカは顔馴染みと再開する。


「エレン!?どうしてここに!?」


「それは此方もだ。リム、貴方もどうして?!」


相変わらず、まず一番に目に行く聖職者しからぬトンデモ果実。デカければいいってもんじゃないが、あそこまでデカいとどうしたらそうなるのか逆に興味がーーーゲフンゲフン


「お姉様から邪な気配がするのですわ………」


ジェシカの目からハイライトが消えかけて、何やら不穏な雰囲気。

宝石を握り締めて、リムの元へゆっくりと歩いてくる。そんな状態のジェシカに軽く手刀一発。


「ていっ!」

「あいたっ!?」


此方を涙目で見上げてくる彼女に対しため息ひとつ。

まったく、今どういう状況かわからないわけでもあるまいに。

ジェシカに諭そうとするが、バリン、と乾いた音があちこちから響き、呻き声と這いずる音が聞こえてくる。


「申し訳ないけれど、共同戦線張りましょ?ほら」


「げぇ………!」


リムから言われた視線の先には此方に向かってくる屍者達。

こんなファンタジーな世界でもアンデッドはいるがここまでB級ゾンビ映画っぽいのはどうなのか。


「わかった。リム、背中は任せた」


「ええ、後輩の背中は私が守って差し上げます」


「私もおりますわよ!!宮殿周囲に待機させていた残っている銀氷の絶乙女アブソリュート・ラウンズ・ヴァルキュルを呼び出します!!」


これ以上、会場に近づけまいと舞台から降り、護衛騎士達の、制止を振り切ると入り口入ってすぐのロビーで三人は迎え撃つ。

天井から舞い降りるようにしてやってきた銀氷の甲冑騎士はその名の通り、麗しい乙女の姿と矛盾する無機質な体であり、そしてゴーレムであった。

やってきたのは槍と直剣、そして旗を持った三体の乙女達である。


またリムは十字銀槍、エストレアはロングソードとカランビットナイフを引き抜く。


「厄日だな、今日は」


「えぇ、泥に関係しているようですが……この様子ですと黒幕も顔を出すかもしれませんわね」


「そうだといいな。リム、貴方の竜殺しの槍の冴え、目に焼き付けるとしよう」


「まぁ。可愛い後輩の手前ですもの。竜をも殺す我が槍術、得とご覧あれ」


にこやかに笑うと同時に背中越しでも見えるほどのデカい乳房が揺れる。

というより、背後からチラリと見るだけでもはっきり見えるほどのデカさはサイズにしてどれほどか。

自分もトップだけなら90を超えているがあれはメートル計算したほうが早いのではないか。


ーーその体で、機敏に槍を奮って蹴散らすのだから恐れ入る。


考えて欲しい。


あんな体(メートル越えの爆乳)で揺れる事なく(慣性の法則どこいった)、閃光の如く振るわれる穂先は流水のよう。

切り裂いた穂先に血がつくこと無く、その体にもらまた血がつくこともない。


ものの五分で七割ほどの屍者、獣共を三人で倒したのだが………、外の黒い雨により次々と湧いてくる屍者。


「どういう原理でしょうか?ほぼ無限に出現するなんて………」


「黒い雨が原因なのは明白ですが、天候操作出来るほどの魔法なんて聞いたことがありません。究極の魔法である極醒魔法ならばあるかもしれませんが……魔法である以上は永遠に続かせることは不可能です」


「もしくは………あの暗雲の中に何かがいる、とか?天候に悪影響を及ぼすほどの強大な魔獣ーー例えば神話におけるズツァニッグみたいに」


「まさか。我が祖国においてもズツァニッグのことは知ってますがあれに並ぶほどの存在はいないはずです」


疑問に思うことはあれど、このまま戦っても消耗するだけと判断した三人は大扉を閉めることにした。

呼び出した戦乙女に扉をバリケードがわりに努めさせ、会場の方へと戻ることにした。

目的は、地下通路を使い要人と一緒に脱出するためだ。

勿論、要人だけではない。未だ残されている市民や控室で待機していた子供達もいる。

控室に通じる場所は窓等がないから屍者が侵入することはないが逆に脱出できる場所もない。


リムが会場にいる全員に逃げるよう声をかけている。

しかし、ジェシカが貴族用の緊急用の地下通路を使って避難することを提案するも一部の市民らの反対により事が進まない。

しかし、既に帝国の要人らは既にその地下通路を使って避難済みであり残された彼らもそれに続けば助かる見込みがある。


神聖国から来た枢機卿の護衛騎士達は一刻も早く脱出させたいからか、此方の提案には積極的ではあったが市民と子供達を同時に連れて行くことができないことを知っているため、特に子供達を連れて行きたい枢機卿との意見がぶつかってしまう。


(どうする………!)


仮に外に出ても、呪いに塗れた黒い雨。そこを徘徊する屍者達を突破して安全な場所に避難させる必要がある。この場合、王宮が最適解であろう。

エストレアもこの聖堂地下の通路を知っているが、行き先は王宮ではなく町の中心部だ。

そこそこ大きな建物といえば図書館があった筈だが………。


ドン!ドン!ギギィ……………!!!ピ、ピピンッ!!


大扉の方から無理やりこじ開けるように、叩きつけるような音が聞こえる。蝶番が力により一つずつ、吹き飛んでいく。


(時間がないーーー!)


「早く!」


声を荒げる。しかし、進まない。

彼らは期待しているのだ。王都には、国一番の騎士団がいることを知っているし、その強さもだ。

彼らが駆けつけて助けてくれる。それまではここにいてジッとしていればいい。

動かない市民らはそう考えていた。


「ぐ……….!リム、それに騎士殿!!地下通路を伝って枢機卿を外へ送りましょう!!!もう、外は長く持ちません!通路はこちらです!」


「そうしたいのは山々なのですが……閣下が……」


「子供達を、市民の皆様を置いていくのは我が教義に反します。そうしなければならないのはわかってはいます。しかし、彼らをこういう時に導かなければ………」


駄目だ。本来の彼女はこういう思考はしないはずだ。しかし、状況が状況ゆえに視野が、思考が狭まってまともな思考ができていない。



ドガァン!!!



間髪入れず、大扉が吹き飛ぶ。吹き飛んだ大扉は大理石の石柱を易々と砕き、天井からも瓦礫が降り注ぐ。

グチャグチャと肉が潰れる音があちこちから聴こえて、雪崩のように舞台のあるホールへ瓦礫と隙間から這い出る屍者達が。

更には瓦礫を吹き飛ばしてぶかぶかに膨れ上がった獣もこのホールに侵入してくる。

獣が無理やり瓦礫の山を吹き飛ばすものだから破片がこちらに飛んできて、大きな塊が市民に直撃し首から上か、体の上半分が消し飛んでいる。


舞台側にも瓦礫が飛んでくるが護衛の騎士やリムによって粉々に叩き落とされ巻き添えになることはない。


「くっ、早く!!」


「地下通路はここをまっすぐ行けばありますわ!一刻も早く!!」


ここに来てようやく市民も動かなければ死ぬ、と理解したのか舞台側に押し寄せてくる。狭い勝手口に押し寄せて、舞台側と口論になる始末。


「ハァッ!!」


「セェイっ!!」


剣閃と槍閃。いつのまにか近づいてきていた屍者を斬り伏せるリムとエストレア。

豪腕を振り上げてくる獣には横に散開して避け、振り下ろされた腕を2人で切り結び、切断する。

重心が乱れたことで大きく体を崩す獣をそのままに交差するようにすれ違い、2人は獲物を振るう。

足の腱を切られ、支えられなくなりその巨体を席を巻き込んで倒れ込む。

そこをリムが銀槍を脊椎に突き立てると、痙攣するように振るわせてドロリ、と溶けていった。


「完全に入り込まれてしまったわね」


「ここは捨てるしかないな。連れて行けるだけの人を奥の地下通路へ誘導するしかない。ゴネるならーーー」


「オトして、いいんですわね?お姉様?」


「もう少し、穏便にな?」


「では決まりですね。ジェシカ様、あなたは避難の誘導を。私とエレンは殿を務めます。ここは一歩も通さないように行きましょう」


それぞれ散開してエストレアとリムは屍者と獣を近づいてくるものから斬り伏せていく。

ジェシカは避難誘導しつつ、瓦礫を使ってゴーレムを生成し、壁役として市民らを守っていた。


流石にここまで入り込まれたのなら、枢機卿も非難するだろうと舞台の方に視線を向けたがーーー


(避難して、ないっ!?)


それどころか、エストレアに対し何か喋っているようでーーー


「ーーー!ーーけーい!避けなさい!!!」


「っ!?」


避けろ。そう言われて、全感覚を索敵に使う。

首筋に迫る冷たい感触、次いで右肩からの袈裟斬り気味に走る感覚に左側に転がるように避ける。


ーーヒュン、ヒュカッ


軽やかな音と共に黒い刃が先ほどまでエストレアのいたところを通った。




●●●






「あら、避けられたわ。変ねぇ、絶対に避けられないタイミングなのに」


「なに……ぐあっ!?」


間髪入れず、膝立ちの状態のエストレアの腹部に重く、鋭い蹴りが突き刺さる。

空気が一気に吐き出され、舞台側へ大きく吹き飛び瓦礫を巻き込んでようやく止まった。


「お姉様!?」


「エレン!?」


リムとジェシカはいきなりエストレアが瓦礫を巻き込んで吹き飛んできたことでそちら側に視線を向けるーー前にリムが踏ん張れずに壁に叩きつけられた。


ジェシカは確かに見た。

視線を向けようとしたリムの真ん前に立ち、見るにも禍々しい大鎌を振り上げて。

間一髪、銀槍を盾にして防いだものの圧倒的な膂力の前にそのままの体制で吹き飛んだのだ。


「きゃっ!?」


次に餌食になったのはジェシカだ。うつ伏せに倒され、その背中に片足を乗せている黒いローブとフードを来た女。


「くっ………!」


「残念ねぇ、お嬢ちゃん。でも、これも運命と受け入れるしかないのよぉ?」


うつ伏せになりつつも、ジェシカはその人物を見上げるように見る。

先ほどからの黒で統一されたローブとフード。同じく、青みの帯びた黒い大鎌。白さが強い薄桃色の髪、そして、小悪魔のような角を。


「魔族ーーー!夢魔、ですって!?」


「ご名答。貴方があのゴーレムを作った子?すごいわね、こんなにも若いのにーーー才能の塊ね!」


はしゃぐように見下ろす夢魔の女。

だが、その手に持った大鎌を振りかぶっている時点で、ジェシカを殺そうとしていることは明白である。


「神の魂さえ降ろしてゴーレムに定着させられるような稀有なお嬢ちゃんはぁ………私達に危険だから










ーー死んで?」


「っ!!(お姉様っ)」


ジェシカは、迫る死に対し目を瞑り、心の底から敬愛するエストレアを叫ぶ。


騒ぎが大きくなる。

獣が、屍者が、逃げようとする市民や騎士達を集団で襲い、食らっていく。

悲鳴があちこちから上がり、残っているのは瓦礫に飲まれたエストレア、壁に叩きつけられ気絶したリム、今から殺されそうになっているジェシカ。


だが。



ーーーガギンッ


「あら?」


振り下ろされた大鎌はジェシカの首を跳ねる事はなく、その間に聖杖が突き立てられている。


「そこまでです。夢魔よ」


「誰かしら?」


「姿を見た時から、私は貴方を覚えている」


コツコツと、こちら側に歩み寄る厳と満る声。

だが、なぜなのか。彼女は残っていた子供達と一緒ではなかったのか。


「あ、アナト枢機卿閣下?」


法衣から覗く右腕の帯を解きながら歩みを止めないアナト枢機卿。解かれた右腕はガラスのように透明でそれでいて千の松明に匹敵する光で輝いていた。


「屍山血河の魔女、キュリア・ノイマン。15年前の戦役で一夜にして10万人の兵を壊滅させた貴方を、私が忘れるものですかっ」


そこまで言われたキュリアと呼ばれた夢魔の女は少し考えるそぶりを見せて理解したように肯いた。


「あぁ、あの時のお嬢ちゃんじゃない。くふふふ、随分と大層なものを抱えているのねえ」


「えぇ、ですがこの腕は我が誇りそのもの。先ずは貴方ーーではなく。



ーー憐れなる、罪無き子供達の魂に救いの手を………!」



次回予告!


遂に姿を現した魔女キュリア。

一瞬にして、エストレアと竜殺しのリム、天才ジェシカを打ち倒した彼女の前に枢機卿が立ち向かう。

焦るように聖堂を目指す騎士団は大勢の屍者と獣、瓦礫に阻まれて、枢機卿はただ1人。


解き放った右腕の秘密とは?キュリアの目的は?


「隊長、空を、空を見てください!!」

「あれは………あれはなんだ?」


暗雲の中から這い出るように出現するソレをキュリアは高らかに叫ぶ。


「さあ、劇場も中盤!!我が計画のため、【深遠の神鉱】を貰うわ!おいで、竜王の末ーーヒュドラ!!」


光り輝く右腕を解放した枢機卿も同じく叫ぶ。


「これほどの軍勢、ですがすべて、常世のものたち。ならばーーー五分でケリをつけましょう。我が祈り、洗礼の言葉を聞け」


次回、Chapter9-4 「洗礼の言葉」





ーーー「我が理性を捧げる!狂気の月よ、我が理性を対価に我が敵を倒す力を!!!」














ーーあくまで予定です。

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