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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
71/206

Chapter8-9

お待たせ。


賑わう人達。


豪華絢爛にしつらえた宮殿のホール内。


ベル・クラウディア帝国より劇団を呼び、ホールの一角で前奏を奏でる。


絶妙な配置により置かれたテーブルには何人かの貴族やそれの顧客である商人の重役や子息らが座り、ビュッフェ方式で作られる一品は招待客に、ひいては人によっては豪華な食べ物にありつける貴重な機会。


そのことも理解しているのか、正装しつつも何処か浮ついた、子供が肉を焼いているスタッフを見つめてるのを見て、スタッフは今焼けたものを皿に取り「どうぞ」と手渡してやる。


ここ、シェードリンド王国は親愛を謳う国。作法に厳しくはあれど身分を理由に人を貶したりはしない。

皿を受け取った子供は「ありがとう!」といい、親子だろうか父親と母親、兄と思わしき少年の座る席へ戻っていった。


彼らは貴族を除き、招待客が主だ。

今夜は仮面舞踏会ではあるがそれは今夜の終わり頃に執り行われるもの。

今いる貴族は、伯爵から下にあたる人達で、侯爵家より上の貴族はこれから入ってくる。無論、侯爵家、公爵家からの招待客もこれに含まれる。


一通り人が揃ってくると、今度は王族が入ってくる手筈になっている。

司会を務める軍務卿アーノルドはこの日のために用意したステージの天幕の裏で時間になるまで待機していた。


「ふう………。寒いな」


季節は真冬ということもあり、吐く息は白く、手は霜焼け寸前。

それも、使用人たちに比べれば優遇されている。ホールの中は、神聖国より購入した照石で温かくされているがアーノルドのいるステージの裏や使用人達が慌ただしく動くスタッフルームに至っては吹き抜けのところがあるために冬の風が差し込む。


懐から懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

コチコチとムーブメントが動く音に癒されながら打ち合わせた通りに進ませるべく会場の入り口に立つ近衛兵の合図を待つ。


やがてゴーンと大きな鐘の音が響くと、入り口に立つ近衛兵は手に持つ儀礼用の槍の石突をコン、と鳴らし「公爵家ネメス・モートハク公、にゅ〜〜〜ぅじょ〜う!!」と大きな声を張る。


声を張った近衛兵とは違った近衛が二人がかりで扉を引くと、手慣れた手つきでレッドカーペットを引き、要人の通り道を作る。


レッドカーペットの上を歩くは均整の取れた体躯を持つ美丈夫。片眼鏡モノクルを付け、シルクより仕上げたスーツは確かな目で見抜き選び取り作り上げた職人の一品。

彼の背後に続くのは彼の妻や妾、その子供達。


そしてーー。


「あれはーー。冒険者ギルドのルディナ会長か!?彼女はガルトン公と一緒に泥に対して質疑応答をしていた筈だが……終わったのか?」


黒い髪に狐耳と狐の尾を持った獣人の女性、ルディナと、同じく冒険者ギルドの竜殺しの称号を持った有名人ーー、ネロとレンヤ、オルストの三人。


竜殺しの称号を持つ彼らは王都の市民、そして貴婦人らから高い人気を持っている。

竜を倒すというのは、いつだって御伽話のようなものであり、それを成し遂げた者は大いに歓迎されるのだ。


彼らが入り終わると次はルートゼラ公爵、その家族連れとあと意外だったのがルテムル湖畔の霊廟の管理人であるルートゼラ公爵の先先代にあたる彼女ーー、リアリスというのだが……が来ていたことだ。

彼女に関してだが……、隠居して霊廟の管理をしていたが泥が霊廟で確認できたことが王宮に届き、ルートゼラ公爵当主ーー、前を歩く彼が安否を気遣い避難させた。


社交界から離れた彼女だが、年老いてもなお舞台では生き生きしているのが目に見えてわかる。


残念ながら、公爵家であるガルトン卿は今夜は休むらしい。質疑応答で仕事が溜まり出るに出れないらしいが致し方ないか。


アーノルドはまだステージの裏だ。アーノルド自身も公爵家であるためにあの場で乗り込む必要があるのだが、その役は彼の妻に任せてある。


無論、今彼の妻であるソフィアもいつもは寝てばかりな毎日だが今夜はしっかり化粧をしてドレスを纏いレッドカーペットを歩いている。


公爵家が終わり、次は侯爵の者たちが入場する。

バルムント侯、ヘルピュライ侯、辺境伯も続いて入ってくる。


「続き〜〜〜!オルステッド侯爵おなーりーー!」


オルステッド家の名が出て、懐かしさを感じたアーノルドは舞台の裏からそっと、オルステッド家を見る。

どうやら、当主マグスは来ていないようで、そのかわり娘のジェシカが参内している。


彼女の後に続いて入ってきた人物を見て、アーノルドは一瞬思考が












ーーーーー止まった。


誰が見間違うものか。

左胸辺りにちょこんと飾られた赤い髪色と同じルビーで編み込んだ薔薇の造花が静かに主張し、スタンダートな夜会巻きは一部を三つ編み状に織り込み垂らしている。

なにより、紅い髪とその瞳。


瞳の色が違うように見えたが紛れも無くーーー


「エストレア……!」


死んだと思っていた、可愛い我が義娘。

今まで何をしていたのかと問い詰めたいが、とにかく自分は自分の役割をかなぐり捨てて、愛する娘のもとへ足を運びそうになり。


ーー目が合った。

そして、彼はさっきまで抱いていた感情がまるで無かったかのように霧散し「あれ?何しに来たのか?」という一時的な記憶の忘却を起こした。


それが、娘から魔眼を通してかけられた呪である事さえ知らずに。



●●●




「なあ、マスター帰りたいんだけど……」


「仕方ないだろう。我慢するしか無い」


げんなりとした表情で項垂れるネロをルディナが半端諦めたようにいう。

そもそも彼女たちは今夜はここにいないはずである。夜の屋台に乗り出して美味しいものを食べ、頃合いを見て宿に戻るはずだった。ルディナは宿で一休みしつつ、こっそり持ち込んでいた『特集!行き遅れの貴方に恋の出会いを!これで貴方もハッピーエンド!!著者:ズオー・マクレイン』を読破せんと意気込んでいたのだが………。


とにかく。

今の彼女たちは慣れないドレスを着ており、窮屈そうで裾を引っ張ったりして落ち着きがない。


ルディナはギルドマスターということもあり、夜会などはある程度は出席したことはあるものの、獣人である出生から誘われればとりあえず行く、という感じでこちらから積極的に参加することはない。


ネロはネロで嫌そうに、ドレスを着ることが嫌そうな顔をしており同じように兄のレンヤも黒茶色の夜会服を顔をしかめていた。

まるで二人とも、こういう舞台が苦手であるかのようで………。




「おお、これ美味えな!」


「いい食べっぷりだな、オルスト……」


ネロとレンヤの気持ちなど知らぬとばかりに精霊使いのオルストは普段食べたことのない豪華な食べ物に舌鼓をうちながらレンヤと一緒にテーブルに座っている。


「ところでお前たち、仮面持ってきてるのか?」


そんなところにギルドマスターが手に仮面を持ちながら席につく。

今の彼女はダークブルーのゴシックドレス。ロリータワンピースと呼ばれるもので身体の小さな彼女にはちょうどよく収まる形になる。


「いや、屋台の兄ちゃんから貰った仮面しかねえぞ……?」


「あるにはある。が、ここにはないな」



わからなくはない。くどいようだが、もともと彼らは舞踏会など参加するつもりはなかった。

一応、嗜み程度に踊れるがそれも付け焼き刃も良いところでこういう舞台では露骨に出る。


オルストは屋台から綿飴?のようなお菓子を買ったときにおまけで付いてきた木彫りの仮面しか持っておらず、レンヤは同じようにおまけで貰ったがネロに渡したっきりで手元にはない。


「全くお前らは……」


「いやぁ、すまんね」


「謝る必要はない。寧ろーー、いや別に踊ることはない。ホールの隅っこで踊ってる連中を見ながら酒でも飲めばいい」


「そうするか」


「あれ?ギルドマスターじゃん。どうしてこんなところに?」


野次馬になることを決めた彼らは席を立つと同時に背後から声が掛かる。


声をかけたのは、仮面を付けた小柄な体で大きさの合ってない魔女っ子帽子を被り、紫色のローブドレスを着て浮遊する少女だった。


彼女は怪訝そうな顔をするルディナ達を一瞥すると仮面を取り、意地悪そうに笑う。


そう、彼らと同じく冒険者ギルド所属の一級冒険者で妖精族のニアスだ。

フヨフヨと不規則に宙に浮かぶ様はこの舞台でかなり浮いている、が誰もそれを咎めない。

忘れがちだが、彼女は冒険者であると同時にシェードリンド王国の宮廷魔術師の一人で、大魔導師ズオーの『契約』する妖精なのである。


冒険者家業をしている時がかなり多いためか、こうして宮殿に来るとズオーの代わりに出席を余儀なくされることがあり、今回もそれに当たるのだろう。


良くも悪くも彼女は有名人であり、こうして彼女が声をかけられたルディナ達に視線が向くのは自然の成り行きであり。そして、今仮面を付けていないからか、誰なのか、かが一発で看破されてしまう。


「こんばんは、マドワゼル・ルディナ。冒険者ギルドマスターの貴方が今夜のパーティーに出席なされるとは。この機にお近づきになりたいですな」


「どなたかしら?悪いけれど、今はご友人と歓談中よ?騎士爵ならば尚更礼儀を欠かしてはならないわ。今後気をつけることね」


勇気あるというべきか、無謀というべきか、一人の男性がルディナに挨拶をかけたが、普段の彼女を知る者たちから吹き出しかねない猫被りモードになったルディナに一蹴され追い出された。


追い払われた彼は茹で蛸のように赤くなったが、相手は15年前の戦役で英雄と言われたほどの英傑。

まったくもって勝てる相手では無く、また今でさえ恥をかいているというのにこの場で更なる恥の上塗りは不味いと感じたのか、そそくさと立ち去っていく。


「うわーー、ないわー。猫被りのギルドマスターは久しぶりだけど、やっぱ似合わねぇ………!」


「ぷ、くくく、ギルドマスター、く、くくくっ………!」



笑いを耐える彼女を知るシェアトの竜殺し達。


余談だが、冒険者ギルドのギルドマスターともなればその社会的地位は低いはずもなく、貴族の爵位に例えると侯爵位程になる。更には、基本的に社交界において爵位の低い貴族が、上の貴族ーー特に侯爵、引いては公爵位に話しかけることは基本あってはならない。上の爵位が話しかけてきて初めて会話が始まる。


伯爵位になるとこの辺は徹底されるのだが……騎士爵などの低い爵位だとギルドマスターが持つ社会的地位を理解していない人がたまにいる。


そんな彼らに青筋を立てながら、笑顔で一番笑っているネロの爪先にかかとを落とす。


「いてぇっ!?」


「ふんっ!」


場所が場所だけに、ネロも空気を読んでか小さく悲鳴を上げただけに留まった。

機嫌悪そうにルディナは近くを通りかかった使用人にワインを貰いそそくさと窓際へと行ってしまう。


「災難だな、ネロ?」


「ひぃー、まじ痛え……!ヒールで小指を突いてくるとか鬼だ……」


よりによってルディナが履いていたのは高さを出すためのハイヒールで、ヒールの部分はかな〜り、高い。そこを歴戦の英雄の力でネロの小指を踏んだのだ。

竜殺しという称号持ちの高位冒険者でなく、一般の人で合ったならば骨が折れるどころか粉々に砕けるに違いない。


「む、ネロにオルストではないか。ネロはともかく、オルストは怪我は大丈夫なのか?」


そんな彼らの元へやってきたのは黒を基調とした大胆に背中をくっきりと開けたラウンドネックノースリーブ型イブニングドレスを着た令嬢……もといエストレア。

片手に持つ皿には所狭しと並べられたチーズケーキの各種を乗せている。さらには少し高い食べてみたのか、スポンジケーキのカケラが口元にくっついている。いくら好物でも、ちょっとイメージが崩れて……崩れてない?あれ?


「おう、エレンじゃねえか。お前も来てたんだな……ってたしか貴族の娘さんから招待されたんだったな」


「耳が早いな。そう……だな、彼女はちょっと困った子だけど」


「で?肝心のその子はどこに…『あーー!ここにいたわね!?』ん?」


オルストはエストレアに彼女を招待した貴族の娘を聞こうとすると聞き覚えのある声がした。その方向へ視線を向けると青色の軍服風のレースステッチがあしらわれたワンピースドレスをきた、兎人の女性。

腰に手を当て、『まったく……』という感じの雰囲気を出した彼女はオルストもよく見かける人物だった。


「ジッドんとこのアグニルじゃねえか。なんだよ、シェアトの連中とよく会うな、今日は」


「あら、オルストじゃない。そうじゃなくて!エレンどこほっつき歩いてるのよ、あの子が探してたわよ?『お姉様がっ!いなくなりましたの!?」って」


「ごめん、チーズケーキ見つけちゃって………その、あの…」


「もう。イザルナ達も貴方を見失っておろおろしてたわよ?」


実はエストレアはホール内に入ってすぐに視界にアーノルドを見つけ魅了を使って認識を変えた後、ビュッフェの側に並ぶスイーツのコーナーの中に目敏くチーズケーキを見つけてしまいーーージェシカの知らぬ間に皿に色とりどりのチーズケーキを乗せていたのだった。


チーズケーキはエストレアの大の好物。スフレも、ベイクドもレアも、珍しいものではシェーブルと言われる山羊の乳を使ったチーズケーキ、人は選ぶであろうがゴンゴンゾーラのチーズケーキなど様々なチーズケーキに目を輝かせ至福そうに舌鼓を打っていたのだ。


ジェシカや、アグニル、従者のイザルナとイルナを放り出して。

シュン、と落ち込むエストレアに呆れたアグニルは。


「まあ、こうして見つけたわけだし?それにシェアトの連中とこうして出会うってのも乙なものね」


「お姉様ーーー!!なぜ、ジェシカを置いてしまわれたのでしょうか!?」


トテトテと小走りにジェシカがこちらに駆け寄ってくる。爵位の低い貴族達はジェシカの姿を見つけると自身達の従者にそばに控えているカリーナにコンタクトを取るよう指示を出している。


ジェシカは男爵位から侯爵位に引き上げられた家柄。人によっては成り上がりなど影で叩かれることもあるがオルステッド家の実績によって昇爵されたことが大きい。当然、公爵家であるクワイエット家とつながりを持つ為、コネも彼らとは規格が違う。

爵位の低い彼らが縁を築くために奔走する姿が密かに行われていた。


「お姉様!もうじきダンスのお時間ですわ!楽器団の皆様が準備をしておりますの、仮面を付けて踊りましょう!!」


彼女の言葉と同時に今まで流れていた演奏の曲調が変わる。

ジェシカは懐から仮面を取り出しエストレアに手を差し伸ばした。



●●●




「「「………………………」」」


(いや、あんなにあっさり見つけるとは思わなかったわ!?)


(ていうかどうやって戻ってきたんですかね!?)


(私達、結構無理して国境まで出張って捜索したっていうのに!?)


スタッフルームから会場につながる入り口の影から顔を覗かせるように見ているのはレオ、オーネット、フローラの三人。


彼らの視線の先は、エストレアである。

元より、彼らの装備品である鎧には豊穣の女神を祀る神殿から魔力耐性、呪詛耐性など多くの加護が付けられており、複雑に入り混じるそれは神の呪いでさえ簡単には与えられない程だ。

それ故に、エストレアの認識を変えるための魅力の力は簡単に払い除けられてしまう。


以前ウルマトの領主館で白薔薇騎士団の隊士に出会ったエストレアだがその時は魅了は効いていた。

理由はただ一つ。

その耐性を底上げするのは『盾』と『鎧』が揃った時。あの時の彼女らは旗と槍は所持していたものの、聖遺物である【白護の聖盾】の複製である『白薔薇の盾』を所持していなかった。


それでも確率的には機能していただろうがーーー。


(え、どうすんの?このまま接触する?)


(出来るわけねえだろ、オーネット!?俺たちただでさえ下の連中に仕事押し付けて来てるんだぞ!?)


(元帥閣下は誘導しろって仰ってましたが……無理があるのでは!?)


大きな声は出せず、ヒソヒソと会話する二大騎士団団長と1人の騎士副団長。側から見ればシュールであろう。

エストレアの認識を変える魅力を弾き、更に好物であるチーズケーキに一目散に向かって幸せそうに食べる姿を見て、「あ、いつも凛としているけど、あれを食べてる時はこういう姿は間違いない」と。


タイミングも掴めず、手をこまねいている間に音楽の曲調が変わる。すると、多くの人たちは仮面を取り出し装着した。これでは、ただでさえ近寄りにくいのに、うかつに近づけなくなる。


「よし。今夜は引き上げだ。元帥閣下の読みは当たって、生存を確認した。今まで何をしていたとか、身柄の確保は明日だ。明日の合唱鑑賞会で捕まえるぞ」


レオの言葉で、珍しくフローラも賛成の意を示した。

彼らは再び宮殿の奥へ消えて行き、奥で待つ主君へ報告するために会場を後にした。






ーーー


ーー






「はぁ……。久しぶりすぎて体が鈍っていたか?」


エストレアはワインを片手に、チーズケーキを肴にして窓のテラスで一休みしていた。

音楽が変わると仮面を一同全員が装着して音楽に合わせて踊る人たちが一人、二人、と増えていった。


舞踏会が本格化したあたりから使用人達がテーブルを手早く片付け始め、テーブルは最小限の数になる。

突然、料理の数も減るわけで、踊りを誘ったジェシカに一曲付き合うと急いで再びチーズケーキを確保に走ったのだ。


そして、会場に戻ると仮面をつけているせいで多くの男性から踊りの誘いの数々がエストレアをも待っていた。

ジェシカという侯爵の娘と同姓で踊っていたこともあり、つながりを得ようとすることは明白だったものの、直接的に断われず困ってしまった。

アグニルが助け舟を出さねば泥沼にはまっていただろう。

その後、ジェシカやシェアトの冒険者達と義理で踊った後、こうして窓のテラスで一休みしていたのである。

なお、今仮面は外しており素顔のまま。少し離れた会場に目をやると彼女の素顔に目を奪われる男性に懐かしさを覚えつつ、ワインを少し口に含む。

染み込むワインの香り。満月の光が彼女を照らし出し、幻想的に映し出す。


「ふぅ………。そろそろ戻るか。………む?この、香り、は……」


ガタ、と席を立ち、持ってきたグラスと皿を持って戻ろうとすると不意に香る男性用の香水。

その香水をエストレアは覚えていた。いや、この香りを使う人は限られている。何せ、『王家の一族』だけ使える特別なもの。


ギシ、と木製の足場を鳴らし誰かが近寄ってくる。

反射的に振り返ろうとしたときそれは叶わずーーー。


「エストレア」


ギュッと抱きしめられて手に持っていたグラスと皿を思わず手放してしまう。

カラン、と乾いた音を立てて、僅かに入っていたワインが床を赤く染める。


「な、な………!?」


その声を知っている。我が内にいる、己と溶け混ざる彼女が知る、彼を。


「じ、ジェラルド、殿下?」


耳元で囁く彼の声音は彼女が知る彼とは違っていた。何処か大人びた、狼のような声。



「ひゃっ!?」


「会いたかったよ、愛しの、俺のエストレア」


耳たぶを甘噛みされ、エストレアは珍しく小さな嬌声を洩らした。

満月に照らされた二人の姿は、官能的か、それともーーー?











やっぱり、こういう何処かほんの少しだけ官能的なシーンあるとファンタジーだと思うんです。

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