Chapter8-7
お待たせしました
「ふふふ、ドレス似合っておりますわ♪」
「まさか、こうしてまた着ることになるなんて……」
現在、エストレアは王都アントンにあるオルステッド家所有の邸にて今夜開催の仮面舞踏会と夜会及び合唱鑑賞会に向けてカリーナ主導の元、大勢のメイド達によるお着替えの真っ最中であった。
「まぁっ!ジェシカお嬢様のご友人はスタイルが良いですわね!」
「これは光る原石だわ!」
「でも、華美に装飾すると逆に見汚くなりますね。シンプルなイブニングドレスにしましょうか」
「採寸はーーーうそっ!?かなり着痩せする方でしたの!?トップ93の大台手前、ウエスト……64、ヒップ83です、って?!くっ、屈辱ですわっ!」
「安産型、しかも腹は引き締まり、けれど過度に筋肉が目立たない、しなやかさに加えて高めの身長………!ま、負けた……!」
もみくちゃにされながら採寸含め着せ替え人形のようにされてからだいたい二時間近く。
後、メイドなのに私情がダダ漏れなのはいいのか。それから勝手にスリーサイズ漏らさないで欲しい。
因みにーー
「異人の子をドレスアップするのはエルフの方をした時以来ですね」
「うーん、この子達は………」
エストレアの奴隷であるダークエルフの双子、イルナとイザルナも別室で本当の意味でおもちy……着せ替え人形と化していた。
何故、彼女エストレアがここにいるのかといえば。
エストレアはギルドマスターにより懲罰委員会の参考人として誘致されていたが直前になってジェシカが招待状を持って彼女のもとに訪れたためにお流れになった経緯がある。
エストレアの代わりとして竜殺しであるネロの兄、レンヤが務めることになった。
参考人として参加することは重要なのだが、招待状を持ってきた貴族の令嬢のメンツがある。
招待状を受け取ってしまったエストレアはギルドマスターの参考人誘致に応じるには招待状を持ってきたジェシカを断らなければならない。
そうすると、今は隠しているがエストレアの育った公爵家令嬢としての恥になる。
何より、ジェシカにはエストレアが身分を隠していることに完全に理解しており、その上で接しているために下手に出ると正体が周囲にバレてしまう。
それだけは避けたい、という思いが強かった。
そのためにギルドからの招聘は辞退し、怒られて泣きはらしたジェシカが伴った飛竜による竜騎兵に乗って開催日の前日に王都アントンに到着したのだが………
「ジッドもアンナも来ればよかったのに……」
「流石にあの怪我で行くのはキツいと思うぞ。ガペットとナッシュ、ドランぐらいだろう」
そうだ。アンナとジッド、エストレアが今いるパーティーの主軸たる彼らは先日の地下遺跡で泥を纏った獣と交戦しほぼ一日中戦い続けており、その怪我で施設で入院を余儀なくされている。
アグニルとドランはいわゆる居残り組であり、聞くところによるとパーティーに必要な用具類の買い出しや場合によってはギルドに志願して限定的なバイトで金銭を稼ぎパーティー維持費をやりくりしていたらしい。
そのことを知ったエストレアはお金を幾ばくかをアグニルたちに払おうとしたところ、まだ所属一年も経ってない新人に払う必要はないと断られてしまった。
話は戻すが、試着による着せ替え人形を終えてオルステッド家の屋敷の一室でソファに三人揃って座っている。
今の彼女らの格好は美人ということもありこのまま夜会に出れば声のかけられる事は請け合いであろう。
エストレアは黒をベースに背中をくっきりと開けたラウンドネックノースリーブ型イブニングドレス。
人によっては大胆すぎると言われるかもしれないが、そもそもオルステッド家けら借りている身なのだから文句を言う資格もないし、衣装選びをしてくれた使用人達にもねぎらう必要もあるだろう。
左胸辺りにちょこんと飾られた赤い髪色と同じルビーで編み込んだ薔薇の造花が静かに主張する。
髪もポニーではなく、スタンダートな夜会巻き。しかし、髪の量が多いので一部を三つ編み状に織り込み垂らしている。
アグニルは獣人、兎人ということもあってエストレアのような大人びた服装は逆に合わないということで
青色の軍服風のレースステッチがあしらわれたワンピースドレス。
彼女自身は獣人特有の耳を持っているために裾の長いドレスは見栄えが良くないとのことらしい。
イザルナとイルナは双子だが、見た目に合わせて着せてある。ドレスではなく、二人とも燕尾服のようなものを着ており共通でズボンを履いている。
奴隷という表向きの立場ではあるがもったいないということで急遽用意されることになった。
二人は今、慣れない環境と服装で疲れたのかエストレアの膝の上で寝ている。
最後に、ジェシカだ。
ジェシカはアグニルと同じく、ワンピース型のパーティードレス。胸元のリボンがついて可愛らしく、黒と白の修道女用の服をアレンジしたゴシック風ドレスである。
短めの髪に挿した髪飾りは大粒のカンラン石とメッキではあるが白金の白が小麦色の髪に映える。
二人は優雅に慣れた手つきで紅茶を口にし、アグニルは普段口にする事のない、高級茶葉で淹れられた紅茶を勿体無いような感覚で、けれど二人の所作を見様見真似で口にする。
「ふあぁ……」
口にした途端、口内を鮮度瑞々しい香りが満たし、同時に体の気だるさが吹き飛んだような感覚を覚える。
「あらあら。アグニル様ったら、この茶葉がお気に召して?」
「うん!すっごく美味しい!」
「エルフが中心になって暮らすパラスの茶葉だ。小国群の中の一つで、人間社会と交流を持つ珍しい国だな」
あっという間に空にしたアグニルのカップに茶を注ぐ控えていた使用人に、茶葉の解説をするエストレア。それをふふふ、と笑いながら見るジェシカ。
「やっぱりエレンって庶民じゃないわよね?所作なんて精錬されてるじゃない。私なんて見様見真似なのに」
「それはそうですわ。なぜならお姉様はーーーもがっ!?」
「そこまでだぞ、ジェシカ?それ以上言おうものならーーー分かるな?」
口を押さえ込まれ、笑顔なのに、目が笑っていないエストレアを見たジェシカはカタカタと震えながら頷くことになる。
普段こういう風に迫られれば興奮するはずが一周回って怖くなったらしく、全身をガタガタと震わせて肯定する。
「アグニルは何も見なかった。いいね?」
「え、えぇ。そうね、冒険者たるもの、むやみに首を突っ込むべからず……だものね」
二人のやりとりを見て、こちら側に振ってきたエストレアに対し引き気味に受け答えする。
というより、普段見たことないエストレアの有無の言わさぬ圧力を受けて面食らっておりそれを拍車にかけて目の前のエストレアが捕食寸前の肉食動物に見えたのだった。
「ゴホン!話を変えるがアグニル、孤児院はどうだった?多分、同じ気持ちだ」
「うん………。特にカリル君の顔が忘れられない。こんな、こんなのってないよ」
ーーー
ーー
ー
エストレアとアグニルはジェシカが去り、食堂で食事を取った後、日が暮れる前に孤児院を訪れた。
訪れた頃には、近辺を警邏する衛兵も、冒険者もおらず施設の子供らも遊ぶことをやめ片づけをする最中であった。
顔なじみを見つけた子供達の反応は一つだけで。
自分たちを見るなり、嬉しそうな顔で駆けつけてくる。
だが、その人数は前来た時よりも少ない。見慣れた子の姿が減っている。
その中にエストレアが一番印象に残る子がいた。
言うまでもなくカリルである。初めて会った時、エストレアのズボンを下ろそうとし、下着を見ようとした不届き者で、エストレアの技術に興味を持った夢見る男の子。
だが、カリルはエストレアに視線を向けはするが何も言葉を発することはなかった。
エストレアは見逃さなかった。自分たちがここに来た時、期待の眼差しを向け、そして落胆の顔をしたことを。
おそらく……いや、間違いなく彼は好意を持っていたマリーの姿がないことに、自分たちの暗い顔から察してしまったのだろう。
アグニルはクライアでの現地調査に同行した際、施設を泥が襲った時マリーを攫ったことを知っていたため、姿を探していたのだが………結論から言えば姿形見つけることすらできず、肉塊の中から特定など出来るわけもなくーー。
そのほかの子の姿も見えなかったため、処分されたか、魔獣に食われたかは分からなかった。
「カリル君………」
「お姉さん………!マリーのやつは見つかったのか……?」
エストレアが話しかければ、だいたい察しがついていたが聞かざるを得ないのだろう。
目を伏せたエストレアはフルフルと首を振る。
俯くカリル。周りには涙をこらえるような声も。
途端に静まり返る空気を打ち破るように、傾きかけた日を背に院長が姿を現した。
「院長………!」
「お久しぶりですね、二人とも息災のようで何よりだわ」
以前来た時よりもやつれているように見えなくもない。
院長は子供達に中に入るよう促すと、聞き分けよく時々背後をチラッと見るが孤児院の中に入っていった。
「ごめんなさい!!」
アグニルが頭を下げた。唐突過ぎ、面食らったエストレアは院長の顔を見る。
院長も院長で、アグニルの行動でどう対応すればいいのか分からないような顔をした。
「顔を上げて、アグニル。気持ちだけ受け取らせてくださいね?」
「う、うう……だって、だって……!グスッ、グスッ……」
院長はアグニルの頭をかき抱き、なだめ始めた。途端に泣き崩れたアグニルは彼女の腕の中で落ち着くまで泣いていた。
エストレアはただ何もせず、うつむいて事の成り行きを見守るしかなかった。
アグニルが落ち着いたころ、アグニルと一緒に院長の部屋に入るとこちら側が把握できたことを出来るだけ話した。
クライア地下での実験施設、奴隷商館での出来事など、泥にまつわることはできる限り話した気がする。
最初は驚いたりしていた院長だったが、地下遺跡の実験施設の実態をアグニルが話すとハンカチを取り出し涙を拭っていた。
右手で十字を切り祈りを捧げる彼女。
「そう………ですか」
そう呟くと、淹れられたシナモンティーを一口飲んでこちらを向き直る。
「感謝の言葉もありません。此処までしてくださり、私達を代表してお礼申し上げます。貴方達の努力によって、少なくとも犠牲になった子供達の無念も晴れることでしょう。本当に、本当にありがとう」
礼を言われ、二人揃って固まってしまう。
「れ、礼なんて………!私たち、言われる資格ないのに!」
「アグニル………」
「いいえ、十分にあります。確かに、いなかったこと、犠牲になった事は心が痛い物ですが……けれど貴方達は十分な解決にあたり走ったのでしょう?世の中は結果だけが全てではありません。彼らに尽くしてくれた、それだけで十分値するものよ」
「けれど、そうね。出来たらーーー私達、他の孤児院や教会の子らが王都で合唱鑑賞会を執り行う行事があるのよ。そこで聞いてくれたら嬉しいわ」
ーーー
ーー
ー
「実際の話ではありますが………、シェアトに限らず、他の施設でも似たような感じですわね。国境沿いの教会だとほぼ全員攫われたそうですわ」
ジェシカの又聞きの話。
泥事件のせいで解決したとギルドからの通達があるまで軟禁状態だった彼女は、執事長から情報を収集しながら拙いながらも独自で調査していたらしい。
「おそらくですがクライア地下での出来事はあくまで黒幕の一施設に過ぎなかったのでは?と私は考えます」
ジェシカは羊皮紙を使用人から受け取るとテーブルの上に広げる。
そこには様々な観点から、視点から見た『泥』に対する考察、そのレポートである。
「ざっと読みで構いません。ですが、書いてある通り、犯人は単独での犯行とは言いがたいのですの。私としての見解は、実行する側は単独であり、支援する側の共犯がいると思っていますわ」
エストレアは舌を巻いた。よくここまでの調査及び考察のレポートを纏めたのだと。軟禁状態だったのにもかかわらずここまで視野を広げたレポート。
言っておくが、ジェシカは成人年齢である15歳ではなく、まだ12歳である。
例えるならば小学6年生か、中学上がりたての頃の子が有名な大学卒業論文か、海外のフィールドワークレポートを一人で書き上げたに等しい。
無論、それ以上の天才がいるかもしれないが、紛れもなくジェシカは天賦の才を持った、貴族の娘なのだ。
現に、父親であるマグスより錬金術の秘奥を授かり、刻印まで継承しているのだから。
「凄い………!施設の場所の山貼りや今後の犯行……というか実行日時まで候補とはいえ、予測してるのこれ?!」
「お褒め頂き光栄でございます。ふふふ、大したことではないですわ」
「いや、いやいや!!十分大したことよ、これ!?え?でも、候補として上がってる実行日時……今日を含めて2日?しかも、これよく見ると王都近郊をかなり絞って推測してるの?」
ツッコミを入れるアグニルを横目にエストレアは羊皮紙をしげしげと見つめる。
「何故、王都近郊なのかというと、一覧の事件から逆算した結果なのです。初めはここからでした、ウェルゼリン大樹海……そこから北上し、シェアト及びウルマトへ、さらに北上してクライア。そのまま北上ではないですが北西へ王都があることを考えますと、クライアより北には王都以外重要な街等が無いのですよ。ですのでーー」
「必然的に王都近郊か」といえば首を縦に振り肯定とした。
「そして、今夜は仕掛けてこないと思いますが問題は明日の夜。来賓であるアナト枢機卿が合唱鑑賞会に顔を出す時に仕掛けてくる可能性がありますわね。何故ならーーー」
「何故なら?」と二人揃って首をかしげる。合唱鑑賞会では頻繁に行われたがそこまで重要なものだったかと貴族時代の記憶を辿っていくエストレア。
「これは女の勘、というか同属の匂いを感じたのですわ。おそらく、敵は術師。錬金系の魔法使いでーーー、そして錬金術に限らず神秘を追求する魔法使いであれば涎物の聖遺物が我が国にありますわね」
その言葉で、ピーーンと閃く思考。
「【深遠の神鉱】か!!」
その言葉に対し、ジェシカは真剣な顔で確かに頷いた。
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聖遺物とは。
神々の宝物、神造兵器とも。あらゆる種類があるが、一つ持つだけで三界を征し、或いは砕くことが出来る究極の武具、アイテムを指す。
聖遺物は二つのカテゴリーに分けられており、現在の主神アマデウスらを含む天上の神々が生み出したものと、創世神たるリリスと概念神たるアグル含む神々が生み出したものがある。
また、一部の聖遺物は神々の生み出したものではないが途方もなく強力なためカテゴライズされることもある。それは、今、話題に出たものも同じだ。
我が国、シェードリンド王国において国宝とされる武器の形態を持たない聖遺物、【深遠の神鉱】。
別名、オリハルコンやらイロカネなどと呼ばれる過去、現在、未来において最高級の魔力結晶体。
その内蔵魔力は、実にーーーーー1つの神話世界を創生することが可能、とされる。
星の核のカケラとも言われており、創世神話において星の核であり、また邪神とされた女神リリスの一部という説が有力である。
これを凌駕する物は現在ではおそらく、ない。あるとすれば、隣国の建国神話に登場する古の古竜、ズツァニッグのみだろう。神々でさえ勝てないと言わしめた神話の竜の心臓ならばおそらくーーー。
純粋な魔力の塊である【深遠の神鉱】は単体での破壊能力は皆無であるため媒介として使うことが殆ど、と言うかそれしか使い道がない。
「ええ、ですがお姉様の言う通り触媒としては最高のもの。泥に関しては実際に目の当たりにした時からある程度の予測が立っておりましたの。これは何らかの触媒、或いはその残りカスでは?と」
その泥の一部をこっそり回収しておりましたわ、ほほほほ、と笑う。
「てい!」
「あいたっ!?」
「そんな危険物、回収なんかしてどうすんのよ!?目の当たりにしたんなら、わかるでしょ!?」
迂闊に滑らせたせいで手刀による制裁をエストレアから、アグニルから有難いお言葉を頂いた。
スパァンと綺麗な音がジェシカの脳内に響き、涙目である。
「ハァハァ、人前で叩かれるのも良いですわね。んっ!濡れそう………」
((ダメだ、こいつ。早く何とかしないと。))
叱ったはずなのに、性的な興奮を発するジェシカを二人は同じ考えに至り。
なにやら、一人で体を抱えてゴソゴソと………(自主規制)
「カリーナ、頼む」
「かしこまりました」
観てられない状況になって控えていた専属の使用人であるカリーナにジェシカを引き渡すとようやく帰ってきたのか「はえ?」と間抜けな声を漏らし。
「さて、お嬢様。お叱りのお時間です。舞踏会まで時間はまだありますからね、お客様の前で少々、いえあまりにも品がなさ過ぎます。さ、いきますよ」
目が笑ってない笑顔で“脇に抱えた困った主人”を説きながら軽く一礼し部屋を退室する。
数分後、館全体に幼い少女の泣き声が響いたそうな。
ジェシカさんはあれですね、進学校の、頭がいいけど先輩を慕うあまり、欲望に忠実な子になっちゃった後輩、………そのままか(笑)




