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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter 8-4




「さて!諸君、よくここまでの訓練に耐えてくれた!!この合宿も残すところあと一日。これが終われば、数日挟んで王族主催の仮面舞踏会と合唱鑑賞会が行われるがーーー、その数日間はアイアノス元帥閣下とアーノルド卿により休日としてある。最後まで気を抜かずに頑張ろう!」


『はいっ!!』




3泊4日の合宿の最終日前日の朝の朝礼。

金髪をサイドテールにしたフローラは目の前に立つ新人のべ56人にエールを送る。


今日の訓練メニューは湖畔外周100周を二時間以内で鎧と武器を持ってランニング。ルテムル湖の外周はおおよそ琵琶湖と同等で、外周全ては回ることはしないが遅れれば遅れるだけ昼食の時間が遅くなる。


鎖帷子とナイフのみで組討、竜蘭騎士団員と合同で執り行われる。

組討はトドメのみ寸止めで殴る蹴る、投げるは当たり前、首絞めは寝技でも立って絞めても良い。

当然、脇挟みや蟹挟み、頭突き、肘打ちに始まり川津掛けやチョークなど何でもあり。流石に目潰しは砂掛けること以外に使うことはないが金的は普通にある。

当然倒れるのは男子、そう特に今組手をしているレオとフローラとか。



「ぐ、ぐおおおおぉぉぉ………!?」


「はん!女の体に触ろうとしている不埒者が悪い!」


「ちょ、おま、それ合同の組討でそれを言うか……!?」



レオが抗議しても「ふん!」と言ってそっぽを向いてしまう。

ニコニコと笑うアンジェラがレオではなくフローラに向いているあたりどうやらお気に召さなかったようだ。


「ご心配なく、レオ殿。あの子に関しては『私が』、『責任を持って』、『直しますから』」


「不安しかねえ………」


よろよろと立ち上がる彼は砂を叩くと股間をさすりながら「痛え……」と呟き水分を取っているオーネットの元へ。彼から水筒を受け取り、一気に煽る。


「団長、いいの食らってましたね。俺でも竦んでしまいましたよ」


「言うな……。今でも痛えんだ」


レオとフローラが離れた頃、新人騎士達は汗だくだくにフローラが連れてきた使用人(メイド)達からタオルとレモン水を手渡され休憩に入ったようだ。

何名かは酸欠による頭痛を訴え日陰で休まされていた。この世界では何かの拍子に病気になるし、怪我もする。

しかし、重篤な病気になると魔法をもってしても完治はできず、手術などできる医者もいないし出来ても骨折や脱臼などの整形外科が精々。

風邪とかはまだマシではあるがそれでも地方によっては不治の病といわれるところもある。


白薔薇騎士団の騎士達は病気なることはもってのほかであった。国を守る二大騎士団が病で倒れるなど醜聞であるという見方が強かった。

アーノルドやアイアノスは人なのだから病になるのは自然だろうと寛容ではあったが推薦する側としてはやはり無視できないところである。


だから、過酷な訓練でも体調の不調を訴える者は例えサボりであろうと強制的に休ませる。どうせサボりなら今後の訓練に耐えられずに抜けるからだ。


どうだ、これ以上ないホワイトな職場だろう?


ズンズンとしかめっ面をしながら歩いてくるフローラは休憩している新人達に立つよう指示。

在団していた他の騎士達に指示を飛ばすと彼女らに向き直りこう言った。




「よぅし、次は馬に乗っての湖畔周辺にある森を複数班に分かれて訓練を行う。君達はこの合宿が終われば各隊隊に振り分けて配属されるから実質この班のメンバーが隊に所属されることになるだろう。隊列にはチームワークが必要だ。うまく仲間と連携し、目的地まで辿り着くこと!時間は………丁度いい、一時間半だ。辿り着いたものから昼食とする!」



「なお、既に訓練は始まっている!ルールは簡単だ。

8人の先輩方が既に森のそれぞれの入り口から入って湖畔の南方にある霊廟を目指して進んでいる。君達は7人一班になって馬にのって追跡をする。

被りはない、それぞれの道から入るように!」




フローラは彼女らの後ろにある森を指差す。そこには宿舎があるがその後ろに切り開かれた丁度馬数頭が駆け抜けられるだけの広さの道が八つ存在しており、使用人がプラカードを持って『ここから』と示してくれている。


フローラ曰く今回の追跡訓練は要人(逃げた犯罪者でも、亡命者でも何でもいい)を追いかけている設定で

追跡を行い連携を強化する、とのこと。

その途中では山賊に扮した竜蘭騎士団がそれぞれのどこかで待ち伏せて待機しており、チームワークのほか戦闘等の応用が必要になる。


戦闘に関しては寸止めではあるが評価に繋がるため、ある意味ではガチである。



「よーし、お前ら分かってんな?例年通りの役回りだ。終わったところから狼煙を上げろよ、何か異常があったら赤い狼煙を上げろ。すぐ飛んでいくから」


『オスッ!!』


「じゃあ、解散!散れっ!!」


『はっ!』


男達、竜蘭騎士団の皆も伝統通りに配置につくべく馬を走らせる。因みに竜蘭騎士団の馬は黒系で、白薔薇騎士団の馬は白で統一されている。

まあ、鎧も武器も黒と白なのだから今更感があるが。


そんな光景を湖のほとりで水精霊(ウンディーネ)がニコニコと微笑みながら見ていた。






●●●






「や、やっと着いた…………!」


「も、もう立てない」


「ひ、膝が笑って……あ、あはは」


「」



死屍累々、屍山血河の如し。

彼女らが全員目的地に着いたのは正午を過ぎ、一時間半過ぎたあたりであった。




「り、竜蘭騎士団の皆様が容赦ありませんわ………。死ぬかと思いました」


「立て、寝ている暇はないぞ。団長殿がさっき言っていたけど寝てるやつは一対一のサシで模擬戦やるからな」


「冗談抜きで死んでしまいますわ……」




げんなりとした言葉で先輩騎士に返す倒れ臥す新人騎士の一人。

誇張ではない。フローラ団長は人間ではない、人間の皮を着たナニカだと認識している。

馬上槍試合決勝でレオ・ゲオルニウスとの一騎打ちは今でも目に焼き付いている。


全身甲冑で覆われて、カイトシールドと馬上槍を持ちながら瞬き一つする間のうちに100の撃ち合いがあるくらいである。新人であった自分たちでは到底目で追いつけるものではなく、呆然としていたが偶々そばで見ていた騎士団統括を任されているアイアノス元帥が私たちに教えてくれたのだ。


「お前達の瞬き一つのうちに彼らは槍の撃ち合い100や200は撃ち込むだろう。それが当たり前なのだ」と。


その光景はあまりにも知っている馬上槍試合とは一線を超えており高軌道戦闘と言える化け物の独壇場。

というより、それについていける馬も大概で音速を突き破り、弾けた音が絶えず聞こえ舞台の土台が端から粉になって砕け散る。


目に焼き付けろと言われたがそもそも捉えきれない時点でお察しである。

手元のレポートなど何を書けばいいのかサッパリである。



「そうだろう、私たちも去年はそうだったから。だから、立った方が賢め………い、あ」


「イネア騎士、貴卿に湖畔10周を課す。なに、すぐに終わるだろう?終わった後は宿舎裏のコートにて待機するように。シゴいた彼女らの介抱の用意をするように」


「うげぇ……」


「そこでのびている君たちもだ。一人ずつ模擬戦をするからな。因みに延びていれば延びるほど模擬戦の時間は増えるぞ?」


「「「たちます、立たせていただきます!団長!」」」


「宜しい、なら直ちに立ち昼食を食べなさい。空腹の状態ではろくに動けないですからね。霊廟の管理棟で昼食を用意してある。ついて来なさい」



立ち去るフローラの背を見ながらふらふらと立ち上がると急いで脱いだ鎧を着て彼女の後を追う。

彼女の行き先には確かに書いた通りの棟があり、その近くに墓石が並び立つ霊廟があった。

霊廟はかすかに聖性があり、空気が透き通っており心地よい風が吹いていた。

それもそのはずでこの霊廟には古くから聖人が埋葬されており魔獣の類もこの地には近寄らない。


棟の中に入ると、かぐわしい香りの嵐に包まれ空きっ腹に一層の加速が入る。


「うわぁ………!」


誰が漏らしたか、感嘆の声。

昼食というにはかなり豪華で、色とりどりのサンドイッチに熱せられた鉄板に乗る熱々の子豚のスペアリブ、薬草など消化保進中心のサラダに、貴族の習性が抜けない人に向けた紅茶の用意まで。


「たらふく食べるといい。夕食のディナーは最終日だからこれよりももっと豪華にしてやる。どうせ、今食べたものは夕食までの訓練で戻すか、吸収されるからな」


「フローラ、それで台無し。今夜は更にすごくやりますからね?」


「え………」


残念な一言であたりに笑いが起こり、各々の席に座ると使用人達が給士してくる。

初めは軽くサラダで、メインのスペアリブと一緒にサンドイッチ、最後に季節のフルーツと一緒に紅茶が運ばれてくる。




「今日は先輩達がここの管理人さんと一緒に作ったもので、管理人さんは朝から早く作業に取り掛かってくれた」


「いやだよ、団長さん。長い間、白薔薇さんの合宿のサポートして来て今ややりがいのある仕事なんだから。もっとフランクに接してちょうだい」


「ルートゼラ公爵家の大奥様に対して失礼なことは出来ません。こうしてやり取りすることすら失礼にあたるスレスレなんですから」



管理人はかなりの高齢の女性だが、今フローラの言うようにこの管理人は元々ルートゼラ公爵家の先先代当主の奥方にあたる人物で歳を理由に社交界や政治から離れ、同じ公爵家であるクワイエット家に頼み込み昔から好きだったルテムル湖畔近くの霊廟管理をするようになった。普段は朝から霊廟の隅々の掃除や手入れをして時にティータイムを挟み湖畔の宿舎を掃除する日々を送っていた。

が、今回は白薔薇騎士団の合宿があるため最終日ということで彼女と在団する騎士達と一緒に昼食と夕食の用意をすることになった。


当初は、貴族の人間らしくほぼ何も出来なかったがやはり年月をかければ身に付いてくるもので、今までしてこなかった料理もお手の物だ。


「ああ……、忘れかけていたものが思い出せそうですわ………」


「ネモーー?帰ってこーい?」


放心している人もいて、和気藹々の雰囲気。

昼前の訓練の疲れなど何処へやら、今では粛々と、かつ肩苦しくない程度に食事と談笑している。



「フローラはいるか!?緊急事態だ!!」


ガタンっ!!


そこは不意に開け放たれる扉。

入って来たのは竜蘭騎士団団長レオである。


「な、貴様、いくらなんでも乙女の場に完全武装して入ってくるなど言語道断……!「もう一度言うぞ!!緊急事態だ、ウチの部下が持ち帰った非常案件だ!!」ここでは食を取る場だ、場所を変えるぞ」


「アンジェラ、皆を頼む」


フローラは副官であるアンジェラにこの場を任せるとレオの後ろについていき、閉められた扉の向こうに消えていった。

事情の知らない彼女らは何が起きているのか分からず、水を差すように昼食の時間が止まってしまった。


「竜蘭騎士団の皆様はたしか山賊に扮してサポートしておりましたわよね?」


「うん、ということは本当に盗賊が出たとか?」


「でも、それなら騎士団の皆様で解決されるのでは?」





●●●












「聞くぞ、緊急事態とは?」


「ここなら、大丈夫だろ。オーネットに現場は任せてあるから心置きなく共有できる」


「勿体ぶらず話せ、レオ」


管理棟を抜け、レオはフローラを伴い霊廟の中を進んでいる。道中、竜蘭騎士団の隊員が厳戒態勢で交代を繰り返しながら歩哨しており、何かが起きているのは理解できた。

そして、レオがフローラを連れて来たのは霊廟の最深部であり、この霊廟の中では最も大きな墓石がある広場だ。

そこではオーネットを始めレオの腹心といえる騎士達がレオを向かえるように待っていた。


だが、フローラはその光景に対して言葉を失った。

自分が就任してから早数年、ここで合宿を執り行って来た。当然、この広場の墓石も知っていたし地理にも明るい。


「こ、これは…………!」


「ウチの部下が不振人物を見かけ追いかけたところ、ここにたどり着いたらしい。ご覧の通り、荒らされてる。部下が報告する前にも水精霊が俺のところに来てな、『聖なる方の眠りは暴かれた』と言われた。墓荒らしだ。しかも………」


「この墓には、以前アーノルド卿より知らされていたんだが、行方不明になっているエストレア公爵令嬢の本当の母親が眠っている場所らしい。卿もその人物のことは知らないらしいが、ここに埋葬したらしいんだが…………」


「待て!そもそも霊廟は聖人が多く埋葬されている!まず、墓荒らしなど出来るはずがない!!そもそも、この霊廟に埋葬されている人たちは装飾を好まない、盗む意味がないはずだ!!」


「装飾じゃねえ、この墓だけ限定して【遺体丸ごと持ち去られてやがる】」


「なっ…………」


再度絶句するフローラ。

そして、無残に掘り返され荒らされた墓を見る。

遺体が納められていた棺桶は破壊され、中の遺体はどこへ消えたのか。


基本的に考えて魔物の仕業とは考えにくい。結界のおかげで侵入できないし、綺麗好きな水精霊なせいで生息すらしてない。となると人為的な仕業と考えるべきだろう。


「レオ、既に伝書の方は……?」


「済ました。お前に伝えに行く前に送ったから明日にでも連絡が行くはずだ」


二人の元に一人の騎士が駆け寄ってくる。騎士は二人に敬礼しレオに対し報告する。


「隊長!!隈なく調べたところ魔力による痕跡を確認!!おそらく、自力では持ち上げられず魔法を行使して持ち上げ掘り返したものと」


「となると、やはり真っ当な人間の仕業じゃねえな。痕跡からどの時間帯で行われたかはわかるか?」


「日が変わる零時から三刻ほどの間かと思われます。真夜中での犯行なため我々でも気づかなかったかと」


確かに真夜中での犯行は定番だろう。加えて、宿舎からだとここからかなりの距離があるし、管理棟だとしてもわからない可能性がある。


「魔法に精通する人間の犯行が濃厚か。死体を利用する………死霊術師(ネクロマンシー)か?」


「だが、死霊術として死体を使うのはわかるがそれなら不特定多数の死体を集めるだろう。なぜこの墓だけが掘り返された?」


不可思議な犯行。

前例のない事件を前に二人の騎士団団長は腕を組み悩む。


「隊長!!」


「今度はどうした!?」


「墓の周囲に散乱していた残骸を回収していたところ………このようなものが……」


鉱石を回収するための試験管に入っていた物を手渡す騎士。それを受け取ると半透明な容器に入っているのは『泥』だった。


魔力の込められた、泥。


冒険者ギルドから王都宛に送られた報告書にて子供達がいなくなる事件の裏に泥が関与していたことと、クライアにて連れ攫われた子供達全員が死亡したことなどの旨が書かれていた。


「「………………」」


もはや合宿どころではない。

一刻も早く王都に戻る必要がある。

風に乗って、湖にいる水精霊達の囁きが聞こえてきた。



『聖なるや、聖なるや』


『眠りは暴かれ、命の灯火は穢された』


『昏い雲、都覆いて』


『厄のカケラ、降り立った』


『キャハ、キャハハ』


精霊達は人間とは違う視点を持つ。

歌声だとしてもそれが自分達のみならず、ひいては王都と王族、市井の者達を脅かすものではないかと思い、血が引くのを感じ取った。







ーーー

ーー

ー




「ば、馬鹿な………!」


クワイエット家領主館にて緊急の伝書がアーノルドに届けられた。

その内容は霊廟での異変で、中身を進めるほど手元がわなわなと震えこめかみがしわ寄る。


「貴方………」


今にもこの手に持つ紙を引き裂かんばかりに力がこもると一人の女性が入ってくる。

美しく、気品の良い人物。彼女こそアーノルドの妻であり、諸事情により貴族社会に出られないものの良き妻としてアーノルドを支える存在であった。


「今日はいいのかい、ソフィア?」


「ええ、今日はすこぶる体調がいいの。流石に日差しの下で歩くのは出来ないけど、屋敷内を散策する程度は大丈夫」


「そうか。あまり無理をするな、お前まで居なくなったら私は正気を保てる自信がない」


「そんなこと言わないでアーノルド。あの子だってきっと見つかるわ。お腹を痛めた子ではないけど一人の母としての勘が働くの。あの子は遠くないうちにまた会える気がするのよ」


ところで、とソフィアはアーノルドの机にある伝書を目を向けた。アーノルドは少し迷ったような顔をするがそれをソフィアに手渡す。

あの子、エストレアの数少ない出生の秘密である貴婦人に関する知らせ。

丁寧に埋葬し、必ず素晴らしい人に育てて見せると誓った相手。それが無残に、何者かに掘り起こされ遺体は持ち攫われた。


「どうしてなのかしら、運命の女神はどうしてこんな意地悪をするのかしら………」


「白薔薇騎士団、竜蘭騎士団がいながら賊にいいようにされた。これだけでも、貴族院懲罰委員会の介入は避けられまい。アイツらは少し治外法権化している騎士団を快く思ってないからな」


失礼します、という声と共に執事を務めるボフォイが二つのティーカップを用意する。

すん、と鼻をくすぐる紅茶特有の香りが疲れをほぐしていく感じを覚える。


カップを置くと羊皮紙を取り出し羽ペンを走らせる。

今回の件で伝書を送った彼らに対する返信だ。

そのあとはアイアノスを呼び事態の共有を図り、根回しをしつつ『泥』という一連の事件の慣例性に調査を入れる方針を固めた。



「冒険者ギルドは泥は終着したと言っていたが……終わっていなかったか。これはギルドに報告書を送らねばなるまいな」


「やれやれ。仮面舞踏会も合唱鑑賞会も日にちはもう無いというのに。跳んだ面倒なことになったな」





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