Chapter7-5
「疾いな!最高だ、ラムレイ!」
風を切り、赤い髪を揺らしてラムレイと名付けた幻影魔馬とともにクライア目指して爆走していた。
早馬より断然早く、誇張かもしれないが体感的にスポーツカーの最高速度に達するかもしれない。
景色があっというまに飛び頬に風が強く吹き付ける感覚。
普通なら、あまりにも早過ぎて目を開けられずましてや馬を褒めるなどできやしない。舌を噛んで終わりだ。
ちなみに早馬とは二つの意味がある。足が速い馬か、伝達を旨とする使者のことだ。
江戸時代、早馬に使われた馬は1日最高150kmまで走ることができるという。
黒い漆黒の身体が一陣の風となって突き進む様ははたから見て暗影の弾丸といったところ。
すでにシェアトを出てから一時間ほど経過し三つほど村を通過していった。
岩場などは軽々飛び越えられるのでこの分なら予想より早く着くかもしれない。
エストレアとラムレイは駆け抜ける。
出会ってからそれほど多く関わったわけじゃない。けれど上位竜との戦いを経て、ウルマトでの共同の復興作業に加え同じ席で酒を交えた友になった。いや、戦友みたいなものか。
ジッドも、アンナも、ガペットも、ナッシュもここにきてから良くしてくれた。
仔細を伏せていたことも何ともないと笑い気さくに接してきた彼ら。
貴族生活では到底考えられない毎日、充実していたと思う。
だから、だからこそ、変えがたい恩義が彼らにある。それを還元する。
「頼む、間に合ってくれ……!」
エストレアは祈りながらラムレイにさらなる加速を頼む。ラムレイの身体、いやエストレアを含め黒影の風となって雲行きの怪しい空の下、クライアを目指す。
遠く、雷鳴が響く。エストレアは鷹のような目を細め爛々と赤く輝かせてクライアの方角をにらめつけた。
●●●
「区長!宿場にいた冒険者達が屍者を討伐に向かいました!」
「非戦闘区域に屍者が侵入!既に娼婦が数名殺害されてます!」
「殺された死者から屍者が増加中!このままだと対処できなく……いえ手遅れです!!非戦闘区域での魔法の使用許可を!」
次々と流れてくる情報。
エルブラント区を取り仕切る区長エルミラは同じく区長を務める、顔を青くさせたハリマを尻目に頭を抱えた。
ここにはいないがイルデル区区長マクシリアンとトーリエ区区長ゼラも同様の事態となり既に連絡を取り合うのも難しくなる程切迫した事態になった。
既にギルドと、断腸の思いで王都にも使いを出し街常駐の冒険者や流れの傭兵に多額の報酬を条件に事態の収拾に向けて特例でギルドに通さず依頼を発注した。
後で嫌味の一つや二つ、言われる程度で済むなら安いものだ。街の存続というかこの街から拡散などしようものなら国の危機だ。
「ぐ、責任は私が取る!戦闘許可を出す!!そう伝えろ!!負傷者は空いている施設に運び込め!庵に入れても構わん!」
「はっ!」
ガシャン!!!
ガラスが割れる音がする。同時に皮鎧を着た壮年の男性が外から窓を突き破って報告に来た男を巻き込んで部屋に飛び込んでくる。散乱するガラス、食いちぎられた喉元。
ヴヴう………
低い、唸るような引き切るような声。部屋は一階なため声の主が割れた窓の柵を乗り上げるように侵入する。
屍者である。起き上がり、獲物を食らうべくゆっくりと首をあげるーーことはなかった。
誰よりもエルミラが壁に立てかけてあった見事な装飾が施されたナイフーーを屍者の頸椎に突き立て、首を捻り引きちぎった。
飛び散る、血ではなくドロドロした黒いタールのような液体。
「ハリマ!!」
「おうよ!」
ハリマは飛び込んできた男性の首元に手を当て脈を図る。即座に首を振り、死亡していることを確認した。
同じように巻き込まれた人も打ち所が悪かったのか既に息がなかった。
「ゴホッ、ガハッ!?」
ハリマと必然的に二人だけになると無理に動かしたためにこみ上げたものをハンカチを手にして口を覆い咳を出す。ハンカチには赤いシミがついていて体の奥から軋み出す痛みに耐える。まるで知っていたかのようにハッと気づくとハリマが慌てて体を支え椅子に座らせた。
戦役を体験した世代とは言うもののあの頃のようにいかないのが何とも歯がゆいもの。何より戦役の時には
『拷問軍医』と言われたが流石に年である。無論それだけではない。
「なあ、ハリマ……。15年前だったらうちらが率先していたが……」
「姉御、そっから先は言わねえ約束だぜ。良くも悪くも戦役が終わってからうちらの抗争は終わりを迎えたんだ。年もそうだが……内臓患っている姉御を無理に戦わせたくねえ。」
「だがな……」
「言わせんなよ、知ってるんだぜ?あんた日々痩せこけているじゃねえか。俺も肺をやられてるがあんたはいつぽっくり逝ってもおかしくねえ。リンのヤブにだって見放されたんだろ?」
日々痩せこけていく自身の身体。体重は年々落ちて今じゃ40あるかないか。
皮膚は黄疸が、目は白眼の部分が黄色味が目立つ。
今まで、いや戦役が終息するまでは無茶をしていたものだ。怪しげな薬に頼り、あるいは毒と分かっていても飢えから食したりもしたし致命的な病気を罹ったり治ったりもした。当然、戦場で高ぶる兵士を慰めもした。今でこそ治ったがその際、性病を移されたりもした。
最近は右手がうまく動かなくなったりもする。寒い日は特にだ。
「アンタは発作が出ちまったんだ。休むべきだ。指示は俺らがやる」
「頼む」
ハリマの姿がなくなると椅子に背中を預け病気に侵されているというのに葉巻を取り出し気怠げに咥え火を灯す。
発作直後であったため思いっきり噎せると同時に机に赤いシミを作った。
口に咥えた葉巻を机に押し付けて消すと天上を仰ぐ。
「楽しみさえもなくなったか……」
「ミカ…………」
彼がここに来てから発作は治ってきていたが屍者の出現のショックのせいかぶり返してしまったようだ。クライアの唯一の医者である男、リンや王都の宮廷医師でさえ匙を投げたこの体。
残された時間は、この時間で浪費してしまうのかと心の中で怯えていた。
ーーー
ーー
ー
昼頃シェアトを発ち、山を越え川を越えてようやく煙が立ち昇る町のようなものがかろうじて見えるところまでやってきた。
実際、吸血鬼としての視力でようやくなのでまだ距離はあるだろう。
あの時と同じ、上位竜と同じように夜が来る。夜になれば人々は更に怯えるだろう。
「まずったな………公道使えば良かったか」
近道をしようとして整備された道を使わず獣道や崖を伝ってショートカットを試みたが急がば回れということわざがあるように無理にショートカットする必要はなかったようだ。整備された道を疾走すれば良かったのだがいかんせん急がねばという強迫観念にかられラムレイにも少し負担をかけてしまったらしい。
「ラムレイ、行けるか?」
問題ないと言わんばかりに前足を振り上げ嘶く。目の前は切り立った崖、流れの速い川、かろうじて見える目標の街。なら、やることは一つ。
「義経公の一ノ谷逆落としではないけどなっ!!」
地面を砕き、崖を落石を伴い一陣の風となって滑り降る。ラムレイはこちらの意を汲んでくれる。
普通の馬ならビビって動かないだろうに、最短距離で落ちて麓まで運んでくれる。ほぼ垂直な崖を地面を走るかのように駆け画面いっぱいに広がる地表に汗が伝う。やがてなんともないように降り立つと背後からドシャドシャと水の中へ落石が落ちてきて軽く堰き止めてしまった。
現世なら通報ものだなと思いながら崖を降り切った後はクライアに通じる公道を目指し少しばかり生い茂った森の中を駆け抜けた。
●●●
話変わってクライアの公道付近、その近くの峠にて一つの商隊がある。
荷物が載っているであろう馬車二台に絢爛な装飾が目立つ馬車が一つ、槍の先端がチラリと見える質素な馬車が一つ。絢爛な装飾が施された馬車がおそらくはこの商隊の主人だろう。後者は護衛の傭兵が載っているに違いない。
豪華な装飾が施された馬車を除き、荷台と護衛、商人の乗った馬車が更に二つ存在し隊列乱さず進行している。
「ほっほっほ、バーレスでの商売は成功じゃったなぁ。そうは思わぬか娘や?」
「はい、おとうさまがすごいからです!」
馬車の車内もかなり豪奢でそれだけお金を持っているということだろう。その中で主人と思われる少々恰幅の良い男性と娘と呼ぶまだ幼い少女、従者の初老の男性がいた。
「旦那様、シューリ様あと2日ほどでクライアに到着する予定でございます」
「ふむ、クライアは七ヶ月ぶりだが……最近この国はきな臭いとは思わんかね、執事?」
「僭越ながら……確かにその通りでございます。シューリ様のような幼い子供が行方不明になる事件がここ最近目立ってきたことを考えますと何かしらの陰謀を感じます。それを鑑みますとシューリ様を同行させたのは英断でありましょう」
グラスに注がれたワインを傾けながら国の情勢を従者と交わしていると足元にしがみつき上目遣いで見上げる愛しい娘の姿が。少し目元が潤んでいるのを見る限り寂しさを感じてしまったようだ。
父親である彼は娘の目をじっと見る。幼くして流行り病で母親を亡くし自分と娘になってからしばらく経つ。お年頃というにはまだ幼く流石にそれに食指が動くような変態には預けられない。
「バトラー、おとうさま、シューリひとりにしないで?」
「おお、娘よ。大人の会話だけにしてほっぽらかしするのは良くないな。さあ、わしの膝に来や」
嬉しげに彼の膝上に乗りその背中をふくよかな体に預ける。当然、クライアの惨事など1日2日で伝わるはずもなく、予定通りにクライア目指して進む。
護衛もありなんらかのアクシンデントも起こり得るはずもない。
そう思っていた。
車内だったから気づかなかったがズドーンという大きな音が前方から聞こえてきた。加えて窓のガラスが振動して車内の調度品、安定しない小さなものからゴロゴロと落ちていく。
「な、何事だ!?」
「確認してまいります。旦那様、お嬢様決して外には出ないでくださいませ」
「おい、なにごーーっと!?」
扉を開け確認をしに出て行った従者を見届けていくと護衛の傭兵の一人が首に細い棒のようなものが飛来し突き刺さり吹き飛んでいくのを窓から二人は目撃してしまった。それが鏃であると知るには十分な時間だった。
加えて少し遅くして中からでも聞こえる悲鳴、剣戟の音。
「しゅ、襲撃だと……!?旦那様、お嬢様、決して外には出ないようにしてください!」
扉を少し開け、従者がそう促す。
シューリは小さな体を一生懸命に力を入れて窓から外を見た。怖さもあったが単なる興味もあったのだろう。
シューリは見た。自分たちと顔見知りの人たちとは違う、なんだが小汚くて匂いまで感じ取れそうな荒っぽい人たちが馬に乗って集団でここを囲みまるで嬲るように攻撃している。
荷物を乗せた荷台と人の乗る台は別なので賊はあらかた殺した後奪うつもりなのだろう。
だが、ここにはひとつだけ雰囲気の違うというか場違いというか絢爛な装飾が施された馬車がある。これに目をつけないはずがない。
「ひっ!?」
バン!と窓が大きな音を立てる。ガラスの向こう、ニヤニヤした顔が張り付くようにこちらを見ている。続いて破られるガラス。ヌッと伸びた垢だらけの汚い手でシューリの髪を引っ張り引き寄せる。
父親は隅でガタガタと震えていただけでおそらく頼りにはなるまい。
「おーおー、こーんなキラキラした馬車に誰が乗ってるかと思えば……こんな別嬪なお嬢ちゃんがいたとはねえ……?ヒッヒッヒ」
「親もこんな状況じゃビビって丸くなるだけかぁ?まあ、金持ってるんだろうしな。嬢ちゃんダシに甘い汁吸えるかもなぁ。いうこと聞かなきゃ嬢ちゃん死ぬぞってなあ?ヒャヒャヒャッ!!」
彼らの格好、賊にしては薄汚いが整った装備だ。煤けているが紋章もある。何処かで盗んだか兵隊崩れかはわからないが襲撃の手際が良かったことも相まって彼らは下衆な薄ら笑いを浮かべシューリ含めた二人は中から引きずり出された。
(バトラー……!)
いつも助けてくれる従者はいない。おそらく倒れている人たちのどれかに含まれているに違いない。
「た、助けてくれ!!か、金なら払う!だ、だから私の命だけは………!」
シューリはまだ幼いがある程度は状況を理解できるだけの資質を持っていた。父親がこの状況で自分だけ助かろうとしていることもなんとなくだけど分かっていた。
人間、その程度のものだ。
(おとうさま………)
望んでいなかったといえば嘘になるが頼りの護衛はいなくなり従者はいない。文字通り孤立した。そんな状況で自分以外に気をかける人は少ないだろう。
「へ〜ぇ、自分はいいんだ。じゃあ見逃してやんよ。ただこの子は貰っていくけどな、奴隷にするか娼婦に売るか、どうなるかは知らねえけどな。ヒヒヒヒヒヒ」
「な、なあボス。この子今犯っちゃって、い、いいですかね?お、俺もう……!がっ?!」
「チっ、見境なしのペドがっ !まだ価値も査定してねえんだぞ。抑えろ!」
なんだかやばい人がいた気がするがおそらく気のせいであろう。
ボスと呼ばれた人がぶん殴ったことで心の中でホッと安堵する。
「ボスーー、馬と食料、あと装飾品、金とか掻っ攫ってきたっスよーー!」
陽気な声と共に繋がれた馬と麻袋にパンパンに詰まった商隊の荷物を自分たちの馬に乗せた馬車のようなものを連れてきた。
それを見た彼は皆を集め撤退するよう、号令をかけた。
「ボスーー、こいつらどうするんで?」
「やっぱ奴隷行きだな。おい、こいつら縄で縛っとけ」
「ウィ」
「………っ!ひっ、やぁっ!!」
「チッ、暴れんな!」
シューリは強く目を閉じていたがやはり怖かったのだろう。考えるより体が先に根を上げてしまった。
縄をかけられる寸前でバタバタと暴れる。
「この、大人しくしてろ!!」
「や、やだぁっ!!おとうさま、おとうさまぁ、ぎぃっ!?」
ヒリヒリする頬、殴られたのだと理解するには数秒要した。
理解した途端に目尻に大粒の涙が浮かび大声で泣き叫びそうになりーー口に何かを詰め込まれた。
「んーーーっ、んっーーー!!」
声を出そうにも口ごもって出せない。
おまけで目も目隠しされて視界が閉ざされる。
全てを諦め、身を任せようと力を抜くも何も起きない。ただ地面が揺れるような、なにかがこちらに向かって走り抜けていくような感覚。それは着実にこちらに近づいてくる。
「ーーーっ!?ーーース、ボスっ!」
「なんだぁありゃ………っ!?」
「なんだ、てめえは!?」
「女……?」
『蹴散らせ、ラムレイっ!!!』
彼女が最後まで意識を保つことはなかった。ただ最後に聞いたのは汚い盗賊の声ではなく凛とした、透き通るような、けれど力強い声。
そしてーーーずり落ちた目隠し越しに見たのは真っ黒な影と紅い髪をたなびかせた閃光のような光ーー。
●●●
エストレアはラムレイと共に駆け抜けていくうちにある感覚を覚える。
それも覚えのある感覚で匂いと言うべきかそれを嗅ぎ取った。それは血の色、襲撃されたものの流した血である。
「誰かが襲われているのか?まさか、屍者がすでに外にーー?!」
そうであれば駆けつけない理由にならない。もしそうであれば撲滅は困難になりうる。
匂いと感覚を頼りにそれをたどる。
鬱蒼とした森を抜け整備された道に出る。クライアに通じる国の正規道であり踏みならされた地面は水を含んでもぬかるむことはないくらいに固まっている。
そこでエストレアが目を見たのは。
壊された馬車、なぎ倒された荷物。無数の足跡。
(盗賊に襲われたか!)
屍者でないことを安堵し、それをさておき目の前の盗賊どもに意識を向ける。
縄と猿轡、目隠しをされそうになっている幼げな女の子にシェアトで泥に捕まりそうになっていたジェシカと重なりラムレイの腹を軽く蹴って合図を送った。
彼女の意思を汲み取るとラムレイは小さく嗎き大きく跳躍。
彼らのすぐ近くに降り立つ。
「なんだ、てめえはっ!!?」
各々の武器を取り出しこちらを囲もうとする彼らを鼻で笑いもう一度ラムレイの腹を軽く蹴る。
「蹴散らせ、ラムレイ!!!」
前足を振り上げ大きく嘶く。鬼灯のような紅い目が盗賊を捉える。かと思えば騎手も馬と同じように異なる敵へ向けて掴んだら投げ飛ばし、蹴り飛ばす。
空気がブレる。続く振動。倒れる盗賊。
格闘、特に拳法というものは足腰が命だ。両足が大地に立っているから成り立つもの。だと言うのに乗中は不安定なくせにまるでそれを感じさせない。
馬でありながらそれはさながら重戦車のようで盗賊の彼らにはなにが起きたのかさっぱりわからなかった。
これぞ『紅流 人馬一体乗体術』。
馬との信頼と連携が成立していることが絶対条件であり常に揺れる重心は馬の脚から得ている。
流鏑馬をご存知だろうか。走りながら、的を狙って矢を放つ弓馬礼法にして実践弓術。
あれはまだ馬上から弓を放つだけマシであるがこれは馬の動きに合わせ体術を放つため、落馬の危険性が高い。
乗り慣れてもいない、その日に乗ったばかりだというのに恐れもしないその度胸。
具体的に分かりやすく言うならば走る馬の上で踊る歌手をやれと言うのと同じである。
(わかる、どう動けばいいか彼もわかってくれているーー!)
紅流は一世代でその前のすべての深奥を覚えなければならない。武を追求し、確実に殺めるため。長子のみ継承する一子相伝の深奥、その経験は例え転生し異なる体だとしても色あせることはない。
気がつけば盗賊は皆倒れ伏し動くものはいない。縛られた少女は気を失っているのかピクリとも動かない。胸が小さく上下するため生きてはいる。側の父親と思しき小太りな男性はダンゴムシのように丸くなってガタガタと元は綺麗な装飾が入った馬車の残骸の陰で潜んでいる。
ラムレイの背から降りると盗賊たちを一箇所にまとめて縄で縛ると近くの大きな樹木の下でもう一度縛り上げ動けなくしてやる。
それから、犠牲になった護衛と思われる人たちの亡骸を一箇所にまとめて置いておき、縛られていた少女の縄を解いてやる。くぐもった声が聞こえたが解放された時の声だろう。
「悪いな、この武器借りるぞ」
エストレアは落ちていた盗賊たちの誰かの持ち物の武器である一振りの片手斧を手に取る。
刃の厚みも十分、重みもバランス良く盗賊にしてはもったいないぐらい、いい武器だ。
片手斧を背中にしまうと同時に肩に縛った盗賊たちの余った縄を掛けラムレイの背中に乗る。軽く腹を蹴って合図を送るとその場を去っていく。
後に巡回に来ていた近くの村の自警団が縛られて喚く盗賊とすでに起きていた二人を発見、保護したそうな。
●●●
「……っ!?ここ、はっ?」
もうじき日がくれるクライア。未だ屍者が徘徊する街で絶えず悲鳴と喧騒が満たす中、兵舎で彼女はようやく目を覚ました。
誰もいない、状況の中彼女アンナは外を見る。
「うそっ………!」
火に包まれ所々絶えず煙が登り徘徊する屍者、応戦する衛兵、もしくは冒険者、傭兵。
自分が呑気に寝ていた間に何が起きたのか。包帯が巻かれた体を持ち上げて立てかけてあった杖を手に取る。
部屋を出、廊下に出ると丁度ひとりの衛兵に出会い声をかけた。急いでいるように見えたが、この機を逃す気はない。
「あの!今、何が起きてるんですか!?」
「あ?見ての通りだよ、屍者が大量に湧き出て犠牲者が増えてる。嬢ちゃんの相手してる暇がねえ、何があってここにいるかは知らないが手が空いてるなら猫の手も借りたい状態だよ」
そのまま彼は向こう側へ走り出していった。取り残されたアンナは杖を握りしめ彼の後を追いかけていく。
そんな彼女の背を見つめる一人の人物。
黒いモヤのような形であり人というか影といったほうがいいかもしれない。
やがて、実体を伴い形をあらわにする。捻れた角を頭の両側に備え、蝙蝠のような羽を持ちダークスーツのような服を着た、まさしく絵に描いたような悪魔。
「ようやくですね。さて、あそこから出てこれた彼女について少し調べますか。まったく、面倒なことになりました。キュリアは後片付けをしっかりして欲しいものです。」
彼は嘆息しながら同輩であるキュリア・ノイマンに向け後一つ抜けているところを嘆く。
十二種族の一つであり悪魔にして現魔王ヴォルバートの配下、六闘将『啓信』のジュダ・ツィオルキンは再び地面に解けるように消え波紋を残してアンナが進んでいった方へそれは進んでいく。
第二の夜明けは近い。
新キャラ顔見せ。
この章ではあまり関わらないキャラで定番の頭脳系キャラです。




