Chapter7-4
書けたので投下します。
●●●
「そろそろ仕留めた頃合いかしら……」
黒いフードをかぶった女、キュリア・ノイマンは水晶越しに“試しで作った合成獣”と奮闘する侵入者である冒険者を眺めながら、最初の頃に脱出した女の冒険者を追撃すべく用意していた屍者と徘徊している魔獣達をけしかけた。
大賢者とも、不可の魔法使いとも言われる我ら新生魔王軍の頭脳の要ーーマリウス・シオンから警告を受けたが目の前に実を結ぶ利益があるのに逃すなど愚の骨頂だと思った。
尊敬もして、敬いはするが所詮は魔法使いだ。似た土壌ではあるが見ている視点が異なる時点で意味などない。
水晶を合成獣から転移したであろうあたりに移す。
青髪の少女が、魔力を温存しようと控えめに攻撃しながら押し寄せる屍者と魔獣を追い払っている。
「ふふ、可愛いわね……虐めたくなるじゃない」
ーー『くぅっ………しっつこいっての!!火球っ!!』
ーー『っ!?幻影流影!』
ーー『あと、あと少し……あと少しで外……』
「はぁい、チェックよ?」
そうはさせじとキュリアは軽く指を走らせ、水晶を撫でる。水晶に波紋のような小さな魔法陣が出現し、水晶の向こう側にいる、魔法使いに向けて自分の眷属を送る。
送ったのは有翼幻獣。いつだったか、時間稼ぎのためにウルマトに送った上位竜と比べれば獅子と蟻ほどの差があるが冒険者にとって危険度はAランクの魔獣だ。当然、自然発生した有翼幻獣ではなくこれも実験の一環で生み出した合成獣である。
ーー『有翼幻獣とか、冗談じゃないわ!?』
水晶の向こうでは焦るような声からしてこの有翼幻獣が危険かが分かる。
アンナは周りの冒険者、特にニアスやその師にあたるズオーなど宮廷魔術師や支援魔法に特化したレンヤ・ジウスティアなど突出した存在のせいで薄れがちな魔法使いだ。しかし、年齢とは裏腹に精錬された詠唱、魔法知識、実践経験など仲間とともに経験からくる裏打ちされた努力型の魔法使いである。
爪のラッシュを紙一重にかわしながら地形を利用し毒などの攻撃をやり過ごす。隙が生まれれば出口を目指して進み、あるいは火球を無詠唱で弾幕を張る。
腹式呼吸で集中力を切らさず、魔力を温存しながら有翼幻獣を奥へ奥へ押し込んでいく。下へ落とすのが理想だが、もし生きていればジッド達が危ない。
『あそこの………、崖の下に押し込んで……!』
「あら、なかなか賢いじゃない」
残念ではあるが水晶越しに転送こそできるもののそこから転送したものをコントロールすることは出来ない。
追加で魔物を消しかけようとするが既に外に近いため断念せざるを得ない。これ以上追い立てると早い段階で露見しかねない。
「仕方ないわね……。早いけど、次のステップに移るために撤収の準備をしなきゃね。データは回収させてもらうけど」
水晶を撫でて今移る景色を消す。
そして、この工房にある必要なものは回収していく。特に今まで集めたものの結晶たる妖しげな小瓶、これだけは絶対に手中に収めていなければ。
「ふふふ、子供達の魂集めご苦労様。あの世で彼女と幸せにね、ボガード」
「後は………、母体ね。ナターシャ妃が未だ見つからないのよね………。最悪、適合できるのなら人間でも構わないかしら?」
消えつつある水晶の向こう側、対峙するジッドと怪物……いやかつてはボガードだったものは急速にその体を膨張させていた。
コントロールを離れ、制御できない力は細胞を促進させて適応していく。それはますます人としての自我と尊厳が消え真に怪物として落ちることを意味する。
瞳のない、むき出しの歯茎だけの顔が元の顔を押し出して二つの顔になる。
泥を吐き出し、触れた地面を刺激臭のする煙を立たせ彼らの立つ場所を覆うように充満する。
だが、キュリアにはそんなことには興味は失せた。コントロールを放棄し劇的な変異が起きても既に手にするべきデータは揃ったからだ。
空間を歪ませて、必要なものを放り込む。
残るのは、別に知られても対してなんともないものばかり。
杖を軽く地面に小突き、術を発動する。体がポリゴンのように変わりやがて、その場所から彼女は消えた。
あとはーーー静寂のみ。
ーーー
ーー
ー
「はぁ、はぁっ、はっ………」
大きく息を吐き、瓦礫、崖に押し込み擬似的に崖崩れを起こして有翼幻獣を下敷きにした。
あれだけの量の瓦礫に押しつぶされたらさしものの有翼幻獣とてひとたまりもない。
生き絶えたことを証明するためか、瓦礫の隙間からわずかに出た前足はズタズタで、生物にありえない泥状の黒い血のようなものを流している。
「くぅっ………。」
肩を抑え、うずくまるアンナ。先ほどの攻防で肩に爪をかすめたのだ。
汚れを知らない、白いキャンバスのごとき肌は斜めに入った爪痕があり、血が滲んでいる。肉を抉られることはなかったが、それでも悲惨である。
ここまで来るのに、大量の魔物や屍者に追い立てられて既に裸足だし至る所に擦り傷やらブレスやらの跡が見える。
彼女自身、接近戦にはとことん非力な魔法使いなため回避しながら戦わざるを得なかった。
結果的には、軽傷程度で済んでいたが今回は運が良かっただけだ。
追いかけていた魔物達はこの遺跡が狭い環境にもかかわらず大挙して押しかけてきたことが災いしかなりの数が落下していった。
これが遺跡ではなく、洞窟やひらけた場所だったらどうなっていたか。答えは想像に難くない。
「助けを、助けを呼ばなくちゃ………!」
魔力は先ほど尽き、包帯を巻いたが血が滲む肩。膝は笑っていて出口向かうたび何度も転んだ。
『ア“ア“ァ“………』
不意に聞こえる呻き声。その声を聞き、アンナは杖を支えに聞こえてきた方向へよたよたと進む。
「ウッソでしょ……!?」
アンナは顔を青ざめた。屍者がまだ残っていたのだ。崖を覗き込むと壁をガリガリと引っ掻いてよじ登ろうとしている。
しかもだ。
屍者の足元には、赤黒い泥がまるで粘菌のように上へ上へと登っているのだ。屍者はその泥に絡められるように徐々に上へ上へと近づいてくる。
何かの間違いじゃないかと思った。けれど、それは現実で。アンナは現実逃避したい衝動にかられる。疲労困憊、魔力不足、軽くはない怪我の三拍子で目の前のことだけではなくジッド達が危ないということさえ夢ではないのかと。
その衝動を抑え、アンナは出口に向かって僅か数十メートル先の出口へ足を運んだのだった。
その後、アンナは出口から出たはいいが外は真夜中で見張りの門番も丁度交代だったのか誰もいなかった。
少し歩いたところで、壁にもたれかかり負傷した肩を抑える。
実は今にも声に出して泣きたい気持ちだった。声に出すべきだろう、少なくともこの地下でとんでもないことになっているのだから。
でも。とここがどこなのかということも理解している。悪徳都市と言われるだけある場所である。
理解してもらい、協力してくれるなら大助かりだ。しかしーーー
見ず知らずの人に声をかける勇気が今はない。信じてもらえるかどうかも怪しい。冒険者の多くはこの地下を目当てに訪れるか、エルブラントの花街を目的に来ることが多いのだ。
「はぁ、はぁ、はっ、はぁっ………。」
真夜中であることを利用して目立たずにある場所を目指す。ここに来る前に手続きをしてくれた兵舎だ。
治安を維持するためにある衛兵ならば信じてもらえなくても、ギルドに取り合ってもらうことが出来る。
そして、アンナは暗闇の向こうへ消えていった。その後、兵舎にて保護されることになりギルドに報告が行くことになる。
●●●
「は?」
カランカランと乾いた音を立て、荷物を床に落とす。
調達したばかりの、装備とかその他も同様だ。
ポカンとしている、三人のエストレア、アグニル、ドランの表情は滑稽と言えるだろう。
三人を前にして、ギルドマスターの秘書を務める彼女の口から出た言葉は青天の霹靂というべきもので。
たしかにやばいという感覚はあったが、それは別の話だ。
「もう一度、言ってもらえる?」
「ギルドは情報の一部をあえて公開していません。ですが、同じパーティーのメンバーであり加えて数少ない竜殺しの称号持ちです。貴方達のメンバーのうちの一人、アンナさんが今日の深夜クライアの地下遺跡から負傷した状態で保護されました。怪我の程度は軽いそうですが、問題がもう一つ。貴方達がホロウに行く頃の時間帯でーーー」
『地下遺跡より、屍者グールが出現した、と報告が上がっております』
……………………。
静寂が訪れる。が、それも一瞬だったが。
「なぜ黙っていたのよ!?」
「おい落ち着け!?」
「これが落ち着いていられる訳ないでしょっ!?」
それからあっという間だ。アグニルが秘書の女性の胸ぐらを掴むと自身のもとに引き寄せ怒り心頭な表情でまくし立てる。
彼女の怒りはもっともだ。
当然、エストレアだって拳を握りあらん限りの力で目の前のこの女を殴り飛ばしたい気持ちだ。
「皆様のお怒りは当然です。しかし、これはギルドマスターの指示でした。」
「ギルドマスターは頭がおかしくなったのか?」
エストレアは呆れたように尋ねる。それに否と唱えたのはドランだ。
「いや、違うだろ。多分、余計な混乱を市井にもたらさないようにするためだろ?」
「はい。ドランさんのいうとおりです。これを公にした場合、非常に大きな混乱は必須。収まりがつかない可能性もあります。故に早期の公開を伏せていました。しかしーーー」
「『屍者が出た』ことにより、ギルド内は二つの意見に別れました。このまま情報を伏せながら盤石な準備をしてから鎮圧する。もう一つは、すぐさま情報を公開し部隊を編成、鎮圧に当たるべきという声がありました」
ここまで聞けば彼女がエストレア達の前に来た理由もだいたい理解できる。
間に合わないのだ。どうあがいても。つまり、単独あるいは少数で今すぐいけばギリギリ間に合うと言う。
「無理よ。早馬を使っても使い潰すこと前提で走らせれば半日とかからず着くけど無理通り越して無謀よ……!?」
「ですが、それしか手がありません。幸い、親切な人が名指しで馬を貸してくれました。ーーーエレンさん、貴方に、です」
「私に?何故?」
「それは………」
彼女は目を閉じてここに来る前の出来事を思い出す。
ーー
『やあ。ちょっといいかな?』
ボロボロの外套をまとい老人のような、若い男のような女のようななんとも言えない声を発する人物を呼び止められた秘書。
しかし、ボロボロの外套の下に見える白と金の刺繍は隠せそうもない。一体どこのお偉方だろうか。
『なんでしょう。今、私は取り込み中ですので手短にお願いします』
『いやそう長くなる話じゃないさ。ただ君はこれから彼女に会いに行くんだろう?』
彼女とは誰だろうか、思考するも目の前にある人物は分かっている癖に、と言わんばかりだ。
『王女殿か………いやエレンという女性にあったらこの子を渡してほしいのさ。何、彼女なら難なく御せることができると思うよ』
空間を破って現れたのは漆黒の毛並みと体躯を持つ馬……なのだろうが空間を破って出てきたことに冒険者ギルドの職員として最大の警戒を抱き後ろに下がる。いつでも動けるように半身の構えでそれを睨みつける。稼業から身を引いたとはいえそこまで落ちぶれていることはない。
『怖がらなくてもいいじゃないか。大丈夫、危害は加えたりしない』
『貴方、それがなんなのかわかっているのですか?』
『無論だとも。幻影魔馬だろう?ランクBの魔獣だね。兎に角、君たちに危害は加えたりはしないと保障しよう。これは彼女へのプレゼントなんだよ。何せ、他の子達と違って疾いからね』
ーーまあ、なんだ。この子は預けるよ。
そういうと彼?はいつのまにか姿を消しており、後は黒い馬の魔獣と彼女のみだった。彼女は幻影魔馬を連れて再び歩き出す。
だが待ってほしい。彼女はなんの疑いもなくソレを連れて歩き出し馬舎に繋ぎ会うべき人の元へ向かったのだがそれをおかしいと思わないことになんら違和感を覚えなかった。
実はあの時、彼女に魔法をこっそりかけられていた。
記憶の改ざんを。彼?曰く彼女と合流した後は自然に解けると言っていたという。
ーー
「つまり、私単独で救出に迎え、と?」
「こちらからのちに増援を送るつもりです。しかし、そのための手回しが必要です。それにーーー貴方の成績を鑑みるにしてもたしかに適任はいません」
「?」
「わかっていないみたいですが………上位竜を単独でその首をはね、孤児院から脱出した子供達に迫る泥を退け、子供とはいえ魔族である衰弱したダークエルフを発見したではありませんか。冒険者登録の際、堕落の梟を撃滅したという報告書もあります。総合的にAランクの冒険者として列してもおかしくないのですよ?」
そう言われるとむず痒いものを覚える。
堕落の梟とかずいぶん昔のように感じられるし上位竜もネロの魔剣があればこそだった。
ダークエルフの子供に関してはまだ意識が戻ってないため面会はできず隔離されたままだ。
マリウス・シオン曰く、彼らを擁するべきだというがきっかけがわからない。
「はぁーー、……わかったわ。釈然としないけどね、あんたがギルドマスターの意向に背いてまでうちらに打ち明けてくれたんだから答えないといけないわね」
思考に沈んでいるとアグニルが秘書の前に立ちそう言うと振り返ってエストレアの前に立つ。
「エレン?リーダーが、アンナたちが危ない状況を知らなかったとはいえのほほんとしてる暇はないわよ!能力的にあんた以上の適任はいないんだから先に行きなさい。私たちはその後に追いついて見せるから!」
エストレアの肩をパシーンと叩き鼓舞する。彼女の兎耳が跳ねるように彼女の心情を表す。
「……分かった。必ず、必ずたどり着いて見せるさ」
「決まったようですね。ではこちらに。足はすでに馬舎にありますから」
ーーー
ーー
ー
「ねえ、さっきあんなこと言ったけどさ。ちょっとこれは………」
「はい?」
「魔獣なんて聞いてないわよ!?しかも、あれって幻影魔馬でしょ!?見なさいよ!!周りの馬たちが失神してるじゃない!!ってか、あれ死んでない!?冒険者たち集まってるじゃないの!!」
見ると大勢の人たちが集まっている。剣を持った冒険者たちもいて剣呑な雰囲気だ。
彼らを押しのけてその先を見ればエストレアから見ても明らかに異質な気を放つ馬が一頭。
それを見たアグニルが秘書に向かって狂ったように喚き出す。
「使えるものはなんでも使うのが冒険者というものですよ、アグニルさん?」
「限度というものがあると思うんだけど!?」
幻影魔馬。
馬の魔獣。合戦が行われた場所で現れることが多く一般には死んだ馬がなんらかのスピリチュアルを受け魔獣として変性したと言われる。
また、戦士殺しという忌み名を持つ。
幻影魔馬という魔獣、それは物理攻撃を受け付けないという性質を持ち唯一ダメージを与えられるのが純魔法攻撃のみ。魔力がこもった武器だろうがなんだろうが物理攻撃なら透過してしまう。たちの悪いことに物理を受けつけない上にあちらからはこちら側に一方的に干渉できる。
かつての戦役でも魔王軍の多くの騎兵隊に用いられた記録が存在し甚大な被害をもたらした。
魔法以外を受け付けずダメージを与えられないのに一方的に攻撃される。
その時は魔法使い部隊による一切飽和攻撃で凌いだとされるが今でも魔法使いではない冒険者が遭遇した場合即撤退、魔法使いがいるならば即撃破が推奨されている。
で、そんな危険な魔獣がシェアトの馬を預かる馬舎に抵抗することなく繋がれているという状況。
魔獣がいるので冒険者が来ないわけがなく、かといって使役の可能性があるためおいそれと殺すこともできない。
「皆さん、危険ですので下がってください。ここは我々が対処いたしますので」
秘書がパンパンと手を叩き言うと衛兵にお願いし人払いを行った。無論、衛兵もだ。
全員が退去したのを確認すると秘書は鐙と鞍を持って来させた。幻影魔馬は馬と比べて1.5倍の大きさを持つ。なので、それも馬よりかなり大きい。竜騎士などが乗る使役した竜に取り付けられるような大型のものだ。
「さ、どうぞ」
「いや、どうぞと言われても……」
うんうんとうなづくアグニルとドラン。
どうするかと思案していると幻影魔馬が動いた。膝を曲げ、頭をエストレアに対して恭しく下げている。
まるで乗れと言わんばかりだ。
色々と突っ込みたいことは数あれど、今置かれている状況には時間がない。恐る恐るではあるが幻影魔馬の鐙に足をかけ跨るとすでにつけられている手綱を手に持つ。
「おお………!」
「ね、ねえ……大丈夫?」
アグニルが心配そうに見るがエストレアは問題ないと、答える。
なんと言うのか、一体感があると言えばいいのか。しっかりと騎乗したことを悟ると幻影魔馬は勇ましく鳴き嘶く。
なんとなくだが、彼?に名前をつけねばと思ったエストレア。
黒く艶めく鬣は触るとまるで女の髪のように滑らかで鬼灯のように赤い目はガラス玉のようで美しく見える。見方を変えれば、かなり良いのではないか。
「………。ラムレイ、お前はラムレイだ」
黒く、彼方へ飛ぶという意味を持つ名をこの魔獣に授けた。それは、彼女の魔王の娘という王権の名に基づいて名付けられ同時にかの魔獣からすれば名誉である。のちに、このラムレイを加えた二頭の愛馬を手に入れることになるのだが、それは別のお話。
幻影魔馬から内から溢れるものを振りまく。それは喜び。それは光悦。
「こらこら、今からよろしく頼むぞ?」
手綱を引き、注意を促す。ようやく外への門へ向かおうとするが目の前に立つ人影が。
「市民から報告があったと思えば………よくここでの規則を破れたものだな?ルイ?」
「情報を伏せるとしても、せめてパーティーメンバーにはお伝えする必要があると判断したまでです。それにこちらも聞きたいことがあります。なぜ陥斧ルディスを?」
「決まってるだろう。その幻影魔馬をぶっ潰す。逃げ込もうとする亜空間ごとすり潰せば解決することだからな。エレン、そこを退け」
エストレアの前に立つのはここのギルドマスターのルディナ。明らかに本気モードであり、なおかつ怒っている。
エストレアの前に秘書、ルイが立ちふさがるように立ち彼女の気に当てられながらも涼しげに応対していく。アグニルとドランはギルドマスターの怒りに尻込みしており幻影魔馬とエストレア以外の馬や衛兵たちも顔を青くしている。
「エレンさん、行ってください。こうしている間が、1秒1秒が惜しいのです」
ーーそれに今のギルドマスターを止められるのは私しかいませんから。
片手で指の関節をポキっと鳴らしファイティングポーズを取る。
「……っ!エレン行ってこい!!必ずあいつらに間に合えよ!!」
「無事連れかえったら、なんか奢ってあげるからね!」
「わかった!……ラムレイ!!飛べっ!!!」
大きくうなずき、幻影魔馬ラムレイの腹を蹴り命令を下す。
獣のような雄叫びをあげ城塞都市の城塞をたった一回の跳躍で飛び越えるほどの高さを叩き出す。
「させん!!」
ルディナがルディスを振りかぶり地面を蜘蛛の巣状にヒビ入れながら跳躍、追いつこうとする。
あたりに散らばる破片、大気がねじ曲がる重力を纏う斧。
「それ、こちらのセリフですよギルドマスター?」
ルディナの背後から聞こえるのは屋根から屋根へ、壁は壁へと足腰のみで登り大きく垂直に振りかぶられた踵落とし。
ルイがルディナの武器、柄に踵落としを見舞いルディナを自身ごと墜落させることに成功させる。
「くっ!」
ルディナはすぐさま飛び起き飛び出すが既にエストレアとラムレイは城塞都市外の畑道を駆け抜けて豆粒サイズまで遠ざかっていた。
それを見たルディナははあーっため息一つ付き、そばにいたルイに言う。
「ルイ、貴様の処分は後だ。馬を持て、私のな!!」
「かしこまりました」
「貴様、これも狙っていただろう。全く、予定全部ぶち壊してくれたな?」
「はて、なんのことでしょうか?」
ふふふ、と笑いお互いに笑えない笑みを浮かべバチバチと火花が散る、ように見える。
あの後、遅れてギルドマスター専用の馬が連れてこられそれに乗ったルディナが衛兵たちに見送られてこちらも凄まじい脚力で野を走り去っていった。
「俺たちいる意味あったか?」
「ないわね?」




