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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter6-9



「私が………パンドラの、アレクサンドル王の娘………!?」


俄かに信じがたかった。確かに、私はクワイエット家の養女として語られたことはある。血は繋がってはいないのだと。

だとしても、どうして私が15年前に終結した戦役で、人類側の敵として立ちはだかったアレクサンドル王の子に繋がるのか理解できない、いや思考が追いつかない。


「予想通りの反応、ありがとう。答えは簡単だよ。王も吸血鬼だった。それだけさ。」


更にマリウス・シオンと名乗るこの男。私が知る限り、マリウス・シオンとは15年前の戦役でアレクサンドル王と同じくパンドラ側としての大魔法使いだったはずだ。

二つ名は【不可の魔法使い】。同じくして人類側の大魔法使い、【大魔導】ズオーとはしばしばどちらが上か議論が上がる人物でもあった。

そんな、人側の敵でもある魔法使いが、自身を王女と呼び現れた。


ーーなんの目的で、どういう意味があるのか読み取れないでいた。


目の前の彼、マリウス・シオンは言う。




「吸血鬼は特別な存在だ。血統は一つだけ、一子相伝長男、長女のみだけが血を残し子へ伝えていく。トメトル川の流れのように支流など許さず、一つだけの流れだけを尊守した。そのためには双子、兄弟は間引き血のレプリカさえも潰した。


元より、吸血鬼を除いた魔族と呼ばれた種族を十二種族(イクシード)と呼ぶ。まあ、そこに関しては今語ることじゃない。おいおい語るとしよう。

人側の神話によれば『邪悪なる女神にして創世を創り上げたリリスはパンを肉に神酒(アムリタ)を血として地に垂らした』とある。これが君を含めた吸血鬼の血と言われる訳だ。」



ニヒルに笑う彼が月光も合わさって怖気に似た気持ち悪さを感じ取る。

少なくとも、彼は今はエストレアに対して敵意は向けてはいないのだろう。

なおも彼は言葉を紡ぐ。


「十二種族はリリスが生み出した十二の概念を持つ巨影より生まれた。しかし、吸血鬼だけは違う。リリスの肉体そのものから作られた、神の肉体そのもの。

これが特別な理由の一つ。時を経て完全なる化身アヴァターラとして血を繋いでいきリリスを呼び起こす器にする。今となって形骸しているけどね、それが当時の彼らの目的だった。わかるかい、君の体は神の肉体に近い。エネルギー補給だって人よりかはリリス神に近い。」


ーーガス欠なの、分かっているだろう?


彼が姿をあらわす前、エストレアが呟いた疑問に答えるような声、いや言葉。


「君、どれだけ血を啜ってないんだい?一週間?一ヶ月?一年?それだけ渇いているなら何故血を吸わないのかな?」


「吸血鬼は血を吸わないと力はどんどん抜けていくよ。皮膚越しに吸わせたってダメダメ。食事と一緒。口から直接栄養とるのと理屈は同じ。もしかしてまだ人としてのモラルが残っているとか?」


痛い、鋭いところを突いてくる。人としての感覚が生き血を吸うことを躊躇うところがある。目覚めた時は確かに血を啜ってはいた。が、落ち着いてから血を啜ってはいない。

何より、生きている人の生き血を啜る気が起きない。体が求めようと心が受け付けない。


「吸血鬼は確かに血を吸わなくても生きてはいける。しかし、この世界はそんなことを考えてはいない。力は竜種、悪魔ネビュラのごとき思考と神の肉体は人と同じように出来てはいないのさ。つい最近、君は力でねじ伏せれるはずの相手に奇襲とはいえいいようにやられる寸前だったろう?」


「待て!それを何処で知った?!」


つい昨日までの己の未熟。それを初対面なのに指摘された。掴み所のないこの男は何処まで知っているのだろうか。

若干恥じらい気に睨みつけているとマリウス・シオンは他に何かを持っている。ボトルにグラスである。

キュポンッとコルクを取るとむせ返る鉄を帯びた、自分にとって甘い香り。

体が疼きだす。薬物に取り憑かれた中毒者のように体が震え、衝動に駆られる。

体を両手で抱くように震えを抑えようとするが抑えようとするたびに跳ね返ってくる。苦し紛れに彼の持つそれを問う。


「そ、それは………!」


「うん?10代半端の少女の生き血だよ。因みに処女ね。って、かなり凄い顔じゃないか。鏡を見るといい、どれだけ君が血を吸わず渇いていたか、よく分かるよ。」


マリウスのいう通り、横目で鏡を見るといつも隠れている牙は唇からモロに見えるくらいに出ており、頬は熱を帯び瞳は瞳孔が縦に細く、またギンギンに赤く染まって闇夜とも相まって目が光っているようにも感じられる。

正直言って怖い。

荒く息を吐くエストレアを他所にマリウスは見せつけるようにグラスに中の液体を注ぐ。濃い赤珊瑚のような、ルビーのような真っ赤な血。


「ハァ………!ハァ、ハァ………!!ま、マリウス……、じ、焦らさないで……!ぐ、グゥウウウウ…………はっ、はっ!!!だ、ダメだ、我慢出来ない!!!」


バシッとマリウスの手からグラスとボトルを奪い取る。保存がいいのか凝固することなくボトルの中は満たされており甘い香りが鼻から、口から染み渡る。


グイ、とグラスの中のものを一気に煽りボトルの中も一気に煽る。しかし、その途中で力が入りすぎたのかボトルそのものを握り潰してしまう。ブシャァとまだ中に入っていた血液がエストレアの体に降りかかる。

血だらけになったエストレア。しかし、皮膚についたものはあっという間に体に吸収され残るのはキャミソールについた血のみ。

正直言えばまだ物足りないがそれでも先ほどのような狂おしい渇きは癒えて鏡に映る化け物はいなかった。


「いい飲みっぷりじゃないか。予備のボトルはここに置いておくよ。おっと、短気だな彼も。まだ話したいことはあるけれど僕も時間だ。また会おう、王女殿下。」


ニコリと笑うマリウスは袖から取り出した懐中時計のようなものを取り出すと焦るような顔でエストレアから去ろうとした。

いや、本当に何をしに来たのか。ただ挨拶をするために来たのか。

突っ込みたいことがありすぎて逆に声が出ない。手を伸ばそうとするが彼はすでに術式を展開していて体が透けている。


「ああ、そうだ。君は明日、現場検証で駆り出されるのだろう?なら、お願いがあるんだ。あの場所の地下深くに匿われているはずだよ、良くも悪くもね。

願わくば、君が所有権を手に入れるといい。これは僕からの最初の導きだ。同胞の双子を探しなさい。きっとこれから君の力になってくれるはずだよ。」


「な、何処まで知っているのだマリウス!!」


「全ては予知の目の範囲で語るのみさ。じゃあね、君が真の意味で目覚めた時、もう一度相見えるだろう。その時は深いところまで語ってあげる。しばしの別れだ、王女殿下。」


「待て!くそっ!」


完全に消え姿形もなくなったのを知るとため息一つつき、ふと鏡を見る。お気に入りのキャミソールが血塗れになっている。


「あーぁ、高かったのになぁ……。もう落ちないじゃないかこれ………。」


それと今気づいたのだがあの男はエストレアも気付かないうちに結界を張り巡らせていたらしい。それなりに叫んだはずだ。なのに、気にしてはいなかったが人気が外から聞こえなかった。

それを認識できたのは外から聞こえるアグニルの声だ。


『エレンーー?さっきから呼びに言ったけど起きてるーー?ご飯できてるよーー?』


「わ、分かった!!着替えるから待っててくれ!」


マリウス・シオン。魔法使いとして桁外れの実力を持つようだ。しかし、今はーーー


ぐうぅ〜〜〜


お腹を満たすとしよう。血を摂取したせいかすこぶる調子がいい。このまま食事をとって活力にしよう。


「しかし…………、三賢人か。そう言っていたな、成る程。」


先ずは着替えよう。この血塗れのキャミソールは………今は隠そう。後で洗うのだ。







●●●








ーーその頃。

暗雲たちこめる、雷鳴が絶え間ない赤土の大地。

僅かばかりの針葉樹の森奥深く。木の上に巧妙に作られた家の一つ、周りと比べひとまわり大きな家の中で会議が行われていた。

濡羽色のショートにやや黒ずんだ茶色毛のある肌。髪から覗く長い耳。


ダークエルフ。魔族と言われる存在の一つ。人界に住まうエルフやその上位たるハイエルフとは生み出した存在が同じという経緯を持つ。光と影、対をなす概念を持つが故である。

上座に座る長と思わしき人物とそれなりに歳を重ねた男女六人が輪を組んで座っている。


「お前達よ………。かの賢者殿から朗報が入った。予言の子、運命の御子を見つけ出されたそうだ。」


ザワッ


六人の心情を表すならこれが一番だ。


「で、ではっ!お生まれになったのはどちらなのでしょうか!?」


手を挙げ発言するのは上座から見て右隣二番目のまだ若い男性のダークエルフだ。


「賢者殿から聞くに姫、であるそうだ。伝聞だけではあったがかのアレクサンドル王から受けた見事な赤い髪だそうだ。ナターシャ様は残念ながら御子が生まれた時に既に………。」


『おお………!』


感嘆に漏れる声。その声は喜びに満ちている。戦乱の最中、いつ産まれてもおかしくない状態でこの地を逃げ出したと聞いたが無事にお生まれになったのだと。ナターシャ妃の死はたしかに悲しいがそれ以上に生まれ育っていたことは何より喜ばしいものだ。


「ただ………、人界での生活が長かった為か……どうも受け入れ難かったご様子だったそうだ。」


「ならば、待つしかありますまい。何れは我らを導いてくださる方。影ながら支えれば良い。」


「そうだ、姫様をお支えするのだ。身勝手に王位を名乗るヴォルバートなぞもはや要らぬ。ドラグ水精セーレ、本来はこちら側の獣人ビースト、そして古竜エルダーと連絡を密としようぞ。」


「だが、ヴォルバートには我らは監視されておる。下手には動けぬ………!おのれ、僭主めが………!!」


彼らの宿る感情は義憤である。十二種族の意味を踏み倒した僭主と呼ぶヴォルバートはダークエルフにとって目の上の敵である。

だが、そんな彼らの密事は今、とある場所で水晶に写されて筒抜けであった。




ーーーー


ーーー


ーー




「ふん、ダークエルフの古臭い慣習には見飽きたわ。御子だと?阿呆らしい、そのようなもの存在するはずがない。」


何処か遠くの場所、所々崩落しかけている白亜の城の玉座の間にて玉座に座る存在が水晶に映るダークエルフの集会に退屈そうに見ていた。


このパンドラの大地にて全てを語るのは力だ。今の自分の力ならば十二種族最強と言われる龍とでさえ渡り合えると確信している。

だからこそ、15年前の戦役で『ワザとアレクサンドル王の戦線が崩壊するように準備を重ね少しずつ崩していき、最終的に神聖国と小競り合いに見せかけた密約を交わして間接的に暗殺した』。実際にとどめを刺したのは剣聖アーサーだが、この男、ヴォルバート・ギルバインが長い時間をかけて自分が王になるために仕組んだことだった。


全てのきっかけは種族として根本からある呪いとも言える吸血鬼の血統に対する絶対的な忠誠ーーーそれに対して疑問を抱いたことだった。

悪魔ネビュラとして生まれた自分が何故ーーこのような思考に至ったのか分からなかったが………そこは今となっては不要なものだった。

グラスに注がれた赤ワインを揺らしながらグラスに映る己の顔を見る。


「ふっ、もし仮に御子とやらがいるというのであればーーー面白い。久々に暴れられるな。」


「ーーはぁ。まぁた、悪い顔をしているねえ、ヴォルバート?」


「ようやく帰ってきたか、マリウスよ。どこをほっつき歩いていた?貴様にはキュリアの監視と援護を任せていたはずだが………?」


「ちょいっと寄り道さ。可愛い女の子を引っ掛けていたらこのザマさ、ハハハハハ。」


見ればマリウスの顔には引っかき傷があり若干腫れていなくも見えなくはない。

ヴォルバートがほかの自らに従わない十二種族に対していつでも強気にいられるのは不可の魔法使いと言われるマリウス・シオンを手元に駒として持っているからに他ならない。

マリウス・シオンはこのパンドラの大地における魔法使いの中で、三賢人の中で最強なのだ。その理由はーーー


「ふっ、マリウスよ。余の命令をやろう。このダークエルフ供をーーー殺せ。貴様の極醒魔法でな。」


「良いのかい?彼等を殺せば確実に君の基盤は崩れるよ?」


「ふん、予知の魔眼か。それは直結するものか?」


問題ない、そういう自信が溢れる顔をするヴォルバート。悪魔の風貌で言うのだから様になる。

だが、マリウスは目を細める。それは何処か冷めた視線でもあった。それを知らない悪魔の彼はワインを揺らす。


マリウス・シオンは不可の魔法使いと言われる。その理由は神々しか扱えないと言われた極醒魔法を何度も扱える上、単独で時間遡行を行うことが出来、空間転移などお手の物だからだ。

人間側の大魔法使いズオーなどと比べられることがあるがあれは遊んでいるだけ。この男が本気になればーーーいやこの考えはなくそう。


「直接のものではないね、ただ繋がるものかな?僕の見た未来だとおぼろげだけど君の玉座は崩れる。過程は様々だけどさ、これを行えば君は破滅は確実に繋がるだろうね。」


「構わん。未来予知?予言の子?はっ!阿呆らしい。自分の未来は自分で切り開くものだ。他人にとやかく言われて動く木偶は奴隷と変わらん。俺は、余はそれに抗って生きていく。いつまでいる気だ?やれ、と言った。マリウス。」


「はい、はい。分かったよ。ヴィル。僕はもう言わないよ。」


キィ、と戸を閉めてマリウスは退出する。その時の彼の顔はヴォルバートには見えなかった。


『ーーーーーーーーー』


戸が閉まる直前、マリウスは何かをしゃべった気がしたがよく、聞き取れなかった。


数時間後、パンドラの何処かでダークエルフの住まう集落の一つが極光に包まれて凄まじい空振と地鳴り、天に昇る魔法文字と光の柱が世界中で観測された。


神聖国は調査隊を派遣し調査を行ったところ、かつては針葉樹が生えていたであろう場所には隕石が落ちたのではないかと思わんばかりの奈落に通ずるクレーターがあったという。


ーー「物語は始まる。赤い、紅い物語だ。」








●●●










チュンチュン…………


「んぅ…………。」


朝日の日差しが覚醒を促す。ほのかに寒さを覚えることから既に冬へと近づいているのだろう。ここにきてから日が経つのが早い気がする。

日本みたいに四季というものがなく、春、夏、冬と三つしかない。

とはいえこの国は比較的温暖なためか冬が近づいていても寒いとは感じない。気候として似ているとすれば沖縄だろうか。一年を通して気温が二十度を下回ることは少ない。

ただ、朝だけは一気に気温が下がる。それは一年ずっとだ。


ブルルッと寒さに体を震わせながらモゾモゾと布団から出る。昨夜のキャミソールをしまい下着を身につける。

とはいえ下着は基本的にスポーツブラだ。いや、言葉のニュアンスは前世のものだが冒険者の女性が身につける下着はこれしかなくレースやら何やらがついたものは貴族がつけるものであった。当然、エストレアもクワイエット家にいた頃はつけていたこともある。最初に身につけたものでもあった。

スパッツをはいてヒートテックも兼ねる女性用の加圧インナーを身につける。豊かな乳房がかなり目立つがまあ致し方ない。

目はいくつかは忘れたがニーソックスをはきホットパンツにサスペンダーをつけ留め金に剣帯をつけて立てかけていた長剣と鞘を取り付ける。ポーチなどを腰のやや斜め後ろに取り付け赤いフードつきの、裾をやや短めにした軍用ジャケット風のアウターウェアを羽織る。現代と違い、魔獣の皮を使っている。着心地は良いが、前のがやはりしっくりくる。


正直、着こなせていないにも程があるものの実は他の衣類、洗うのを忘れていたということがあり着るにも匂いが気になりそうだったので有り合わせでやるしかなかった。

お気に入りの服もボガートにビリビリにされたのも原因であろう。


今度会ったら絶対潰す。どことは言わないが竿を落とせば丁度いい。


『起きてるーー?今日、駆り出されるんでしょ?女将が早めに作ってくれたわよーー?』


「ああ、起きているとも。もう少し待ってくれ、髪を整えねば………あー、もう跳ねてる……!一部キシキシじゃないか、もう!」


養父であるアーノルドはいないのだから切ればいいのに放っているのだからポニーを解くと腰近くまである赤い髪は蛇女怪メデューサみたいに荒ぶっている。

昨日マリウス・シオンが訪れたあの夜の後夕食となったのだがいつもより多く食が進んだ。

血を取ったことで、抑えられていた吸血衝動の一部が食欲に変わったのだろう。

とはいえ馬鹿みたいに食えば太る。さらには病気に繋がるからそこを考慮した女将により溶けたチーズを入れたパン粥にサラダと子牛のスペリアリブ、林檎の量を多くした構成だった。

いくら食が進む気がするとはいえ隣の席にいたフライドチキンみたいな肉の塊や300グラム以上のステーキとか女が食べるものじゃない。

ここは貴族令嬢としての体裁がある。


ただでさえ少し体重が増えた気がするのにドカ食いはしたくない。そうアグニルにいうと頬を摘まれて『これだからスタイルのいい女はっ!!!』と逆鱗に触れてしまった。

黒の少しヒールのあるブーツを履き部屋を後にする。食堂に入ると既にドランやアグニルが座って朝食をとっている。

ただいつもと違うのは2メートル超える大男、ジルがいることか。彼は朝から300グラムのステーキをリスのように食べている。既にその皿は5皿目。アグニルなどドン引きだ。


「いい食べっぷりだねえ。ほら、エレンあんたも座りな。今日はギルドで仕事あるんだろ?」


「かたじけない、女将。」


テーブルに置かれたのはフレンチトースト。シナモンをかけ小皿には蜂蜜が入っている。サラダはレタスにベーコンとクルトンが入っていてスープはオニオンスープだ。デザートには林檎、飲み物はまだ寒さが残るためか生姜湯のようだ。


「ねえ、何時から?」


「何が?」


「現場検証の事よ。当事者なんだから。」


「昼……正午なる前ニ刻あたりと聞いた。それまでにギルドに来い、と。」


「ふぅん?」


頬杖ついてアグニルがエストレアに他愛もない言葉をかける。

サラダを食べ終えフレンチトーストをナイフとフォークで切り分け蜂蜜を少しかけていただく。

甘くなった口を生姜湯で濯ぐように飲みデザートのリンゴをシャクッと齧る。

瑞々しく蜜をたっぷりと含んだリンゴはほのかな甘みを感じる。

異世界なだけあって現代でもこれだけの質のリンゴはないのではないか。

時刻は時計があるなら08:40分といった所か。その頃には既に食べ終えている。


「エレン?口元に蜂蜜ついてるわよ?」


「む。ほんとだ、ありがとう。」


食べ終えた食器類を女将のところへ持っていく。彼女の手間を省くために汲んである洗い用の水を入れて水漬けにしておく。一度洗いを手伝おうとしたことがあったが水漬けでいいと言われたのでその通りにしている。

その後はもう一度部屋に行き軽く柔軟してギルドに行くつもりである。


「行くのね?気をつけてよ?」


「分かった。」


エストレアは恰幅亭を後にする。シェアトの街は既に賑わい商売の声が引っ切り無しに聞こえてくる。


「さて、行くか。」





因みにジルはエストレアが出る頃にステーキ皿8枚目になっていた。

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