Chapter 6-7
あけましておめでとうございます
「うっ…………………。」
ピチョン、と水滴の垂れる音が聞こえる。地面は濡れているためかぬかるんでいた。
薄暗い、ランプ一つ置かれただけの空間にエストレアはいた。
服の前がビリビリにされていて下着を纏った豊満な体が見えてしまう。肌が見えているからかぬかるんだ地面で気持ち悪い。
「何がーーーたしか………。ツッ……!!」
後頭部がジンジンと痛み、何があったのか記憶を手繰り寄せる。そうだ、『奴隷』関連の店を調べようとあの夜街の向こうへ消えてーー
「目が覚めたか、嬢ちゃん?」
声がランプの向こう側から聞こえてきた。うっすらと見える人影は男性か。体が本能的に退いてしまう。
「安心しろよ、体は多分清いままだぞ?つか、助けてやったんだ、感謝して欲しいくらいだぜ。」
「助けた………?」
「なんだ、覚えてねえのか?お前、殺しの現場にいって背後から殴られたの忘れたのかよ。偶然俺らがあの餓鬼らの様子見に行かなかったらお前、慰み者になってたぜ?」
ランプの光で浮かび上がるのは、2メートルを超える男。赤いバンダナとそこに刺繍された帝国の象徴、獅子と竜が印象的だった。
何があったのだろうと必死に記憶を手繰らせた。
●●●
焦っていた。
自分でもおかしいと思うくらいに焦っていた。
いつも冷静であれと念じ続けていたものが今はなかった。
奴隷という単語を聞いた時から体が勝手に動いたのだ。エストレアという体が、吸血鬼の体が。紅 諸葉の思考や理性を引きちぎって。
「は、はは。何をしているのだろうな、私は。」
何も考えなしに飛び出して夜のシェアトを駆け抜けたがここにきてから全ての場所を網羅したわけではない。
昼間なら人がいるから屯所の人などに聞くことはできただろう。しかし、夜のシェアトは表通りを歩く人は少なくただ駆け抜けたエストレアは案の定ーーー迷子になった。
「ここは…………どこ?」
いかに夜目が効くとはいえ夜のシェアトの全体を知っているわけがなく屋根に登るもかつての都会、東京のネオンの光に包まれた世界ではない。夜の帳が下り、名実と共に暗闇の世界だ。
右も左も同じような通路。
前世だって、東京の夜の裏路地は迷路だった。ゴロツキがうろつき、粉の売り手がいて果ては借金を返せず連れ込まれる一般もいた。
前世での家は紅家は東京を仕切る家系だった。裏の警察とも呼ばれ同じ紋を持つ同業からは目の敵にされたこともある。
紅家もヤクザだ。諸葉はそこの長男であったことから幼少の時から狙われることだってあった。
でも、不思議なことに狙われたとしても諸葉に触れる前に金縛りに合うのだ。
あと少しなのに、体が動かない。
かつての、子供の頃の諸葉にとって何をしているのだろうと思ったものだ。
が、今になればというかこの世界を知れば自ずと知れるもいうものだ。この世界には神は存在する。既に神話の中での存在という認識が強く神の認知は薄れつつあるものの神聖国の威光は神代の時代のようだと言われるのだ。
話が逸れたが、紅家の家系には加護があるのだろう。未だ教えられていないが元服の時に触れさせられた黒塗りの日本刀を触った時から小さい時に感じた不思議な感覚が蘇った。
ーーもう見ることも触ることもない。紅 諸葉は死んだのだから。
コン、とつま先に何かが当たる感触がして夜目を凝らしてみれば痩せ細ったヒトガタ、いや人の死体だ。死んでから時間は経っていないのか鼻に付く匂いはしない。
城塞都市シェアトといっても前世のように恵まれているわけじゃない。奴隷だって普通にあるし、男尊女卑は世界共通。いや、女性でもやっていけるようにしたこの国が浮いているのかも知れない。
「へへっ、そこのお嬢さんいや冒険者だろう?どうだい?ウチの『モノ』買っていかないかい?キヒヒッ安くはするぜぃ?」
足を退けたエストレアに不意に声が掛かる。
見れば顔のほとんどを覆い隠すフードにボロボロの外套を纏った小柄な老人のような男がいた。夜間ということもあり声をかけたこの男?に警戒する。
エストレアは綺麗な目を睨め付けるように細めながらその男を見た。
「おっと、そう怖い顔をするなよ。俺は臆病なんだ。心配すんな、合法だからよ。いや寧ろあんたなら買ってくれるんじゃないかと思ってんだぜ?
だからよ、見るだけなら。見るだけでいいからよ、ちょいと俺について来て欲しいんだぜ。」
この男がいう『モノ』とは、多分それは奴隷である。多分だが。
奴隷は3つあり、
・犯罪などを犯して、労働で償う形の労働奴隷。主に業界用語で『蟻』と呼ばれる。働き蟻という言葉から来ていると思う。こちらは鉱山や使用人という形で働く。
・娼館などで用いられる通称『花』と呼ばれる奴隷。多くが女性であり、ほとんど娼館で働いている。こちらは貧しくて身売りされたり、したりして行き着く奴隷である。が、こういう売り買いは決まって合言葉がある。『春の花を買わないかい?』と。由来は売春という言葉からだと思うけども。
・最後に闘技場で活躍する剣奴隷。古代ローマの剣闘士がわかりやすいだろう。この奴隷は生まれそのものが奴隷であるという点である。生まれながら剣奴隷として生まれ、戦い続ける。無論勝ち続けばその功績によって市民権を獲得出来る。
が、剣奴隷は闘技場専用の奴隷。
この男がいう『モノ』は蟻か花。自分が男であったならば花になるのだろうが、エストレアはむべなるかな女性であるためおそらく蟻であろう。
他にも粉売りだとか、情報売りとかあるかもだがエストレアは今情報が欲しい。些細なものでもいいから得られるものが。
エストレアはだんだんと入り組んくる道を男についていきながら思考を重ねる。夜間とはいえ吸血鬼の目でも薄暗い夜の裏通り。
奴隷は前世の時代的に聞けば嫌悪感を出すかもしれない。しかし、奴隷は奴隷で存在がなくてはならない上に奴隷を所有には奴隷に必要最低限の生活が出来るようにする義務がある。
人をモノとして扱う以上、それ相応の責任が所有者につく。必要とする物だからこそ奴隷はこの世界において必要な悪なのだ。
「随分と裏通りを通るじゃないか。まだなのか?」
「へへっ仕方ないんですわ。ご覧の通り、『モノ』を光の通り近くには置けないんでねぇ‥‥‥。おっと、ようやくですぜ。この店ですぜ。ささ、どうぞどうぞ。」
開かれた扉を潜ると檻がいくつか置かれていて中に首に首輪と鎖で繋がれた奴隷があるはずの檻には誰もいなかった。不思議な気はするが移動させたのか。
つまるところこの男は奴隷商人なのだろう。思わぬ登場だ。
「一つ聞きたいことがあるんだ。」
「何ですかね?」
「あんたがクラトンとかいう、奴隷商か?」
「クラトン?あー、そんな名前だったかな?」
スッとエストレアの目が細まったのを男は知らない。売り込みにしてはいきなりエストレアを声をかけたのも不自然だ。普通は、「あんた、こんな夜更けに何やってる?」ぐらいは聞くだろうに。或いは下卑た目で囲むのもあり得るが。ノコノコついていったエストレアも同じようなものだが怪しさ満点の状況に警戒心がさらに高まる。
更に。
血の匂いがする。
よく拭き取られ、洗い、証拠が消されているが臭う。
ここの本当の主人たる人の怨嗟が血の香りとなってエストレアの肌に、鼻に、感覚にこびりつく。
「おい、ごしゅじーーーせぇいっ!!!」
「がっ!?」
声をかけようとした時背後から気配を感じ取り手刀を後ろに横薙ぎに払う。
理由は二つ、一つは狭い室内で背後を取ったこと。何にも声をかけずに。
一つは、武器を携えて振るおうとしていたことを足音から察したから。
加減はした。うまく調整をして首と頭の境目を打ち、感覚を麻痺させた。しばらくは動けまい。
「おい、何の真似だ?ノコノコついていった私が言えることじゃ無いがいきなり武器持って背後から襲うなんてーーーいや、その前に出てくるといい。いるんだろう、中にもそこの角にも。」
気配が、熱を帯びた感情が増えた。。囲まれたか。ひー、ふーみー六人とあたりをつける。
「いい仕事するじゃねえか、なあ、ディーンの旦那。こんな上玉始めてっすよ?あー、犯してぇ……。」
「こんな気の強い女を屈服させてご主人様呼ばわりさせてえなぁ……そんだけ男をそそる体してるしなぁ……!」
どうするか、場所が悪い。入り口は倒した奴がいい感じに倒れていて通路を妨害してるし背後に四人、前に二人。加えて四人のうちの二人が理性が吹き飛んでいるときた。臭いので寄らないで欲しい。
「ここの本来の主人はどうした?」
「あ?ここの?ならこいつだよ。」
嘲笑いながら受付のカウンター下から引きずるように人くらいの大きさの物体を蹴り飛ばし、月夜の光に晒される。
蛆が沸き、腐敗臭が凄まじく死後どれくらいか。骨が見えず、蛆が出ているから四、五ヶ月くらいは経っているはず。
つまるところ、ここの本来の主人はとっくに殺されていて今は荒くれ者どもの巣窟になっているわけだ。で、今エストレアはその体を荒くれどもに奴隷として狙われた、と。
「ふう、聞きたいことが増えたな。」
「何ごちゃごちゃ言ってるんだ。抵抗するなよ、俺たちが楽しめねえだろ?まあ、従順なだけじゃ萎えちまうけどな!」
フぅーーーーっと息を静かに吐き一歩踏み込む。次の瞬間には彼らの視界からエストレアは消え失せ詰め寄ろうとしていた二人にまずは手前の一人に自分の背中を寄りかかるように詰め寄り腕を首にかけて脇で固定、空いた手で腰を添えて肩の力のみでブレンバスターみたいに持ち上げて首をへし折る。結果くの字に首が折れ、折れた首には血肉と針みたいに尖った骨が露出し、ピクリとも動かなくる。
もう一人には髪を掴んで引き寄せ足を払いゼロ距離で肘を鳩尾に当てつつ床に落とす。氣を込めて呼吸とともに吐き出す。床がバキバキと折れて下の基盤が見える程浸透したエネルギーは凄まじかった。内臓がひしゃげる音を鳴らしながら血の反吐を吐き散らして動かなくなった。
「なっ!?」
わずか数秒の出来事。彼らからすれば至近距離で爆発が起きた、そんな感じだろう。
が、エストレアからすれば技ですらない。これを技とするなら今は見ることなき父豹理から容赦ない制裁があることだろう。
この世に生まれてから、いや目覚めてから一度たりとも紅流と言える拳を使ってない。使えないのではなく、使う意味がないからだ。
肉体が変わった、体質も変化した。筋肉の質も、種族も変わっていた。
再現はできる、そっくりあの頃のように。が、それではダメなのだ。前世では血に滲む努力と才を磨き紅流を継ぐにふさわしいと誇ることが出来た。が、今はどうだ。吸血鬼というだけで、その体を満足に御することもならないのに再現できてしまう。
エストレアは不敵に笑い、背後の月に照らされて官能的なまでに美しかった。
碧い目から紅い、朱い瞳に変わる。風もないのに髪が氣の流れにそって蠢いている。
「さて、夜は私の時間だ。慈悲だ、誰から死にたい?」
ゴキっ、と指を鳴らして残る連中に視線を送る。
皆、及び腰になって動こうとしない。つまらないなと思いながら腰に携帯しているナイフを抜きコツンと一歩踏み出す。
すると連中も一歩下がる。また一歩進む。
「所詮、群れるだけか。一人だけ残してーーー」
ーー殺すか。
呟きは彼らの死刑宣告。
獲物だったはずの女は人の皮を被った怪物であることを知り尻込みし彼らの顔色は青色を通り越して真っ白だ。
「う、ああああああああああああああああああっ!!!」
破れかぶれに突っ込んできた男の一人に足と足の間に左足を差し込み、軸足にかかとを絡ませて膝を曲げつつ腕を掴み引き込みながら裏から膝を曲げて前のめりに体勢を崩させ残った足の膝を倒れこむ男の顎に叩き込む。結果、舌を切り、歯を砕き下顎の骨が皮膚を突き破ってしまう。
これで、三人。残り三人と偽店主のみ。
コツ、と一歩進むとグチュと何か柔らかい感触がある。腐敗した肉ではない、もっと瑞々しくてそうーーースライムみたいな……………。
「なっ!?」
条件反射だった。咄嗟にバックステップし、着地しながら入り口で伸びている男を蹴り飛ばし出口を確保する。
「なんで……いや、お前たちだったか。この街で、あの孤児院を襲った泥をけしかけたのは!?」
足元でエストレアを絡み付こうとしていたのは件の泥だ。暗闇かつ、四方をあいつらに囲まれていて足元を疎かにしていた。
「へえ、鋭いじゃねえか。赤髪の女。」
「っ、ぎっ!?」
背後から砂を踏む音が聞こえ振り向くと同時に頭に衝撃を伴う痛みが走った。
殴打されたのだと気づき倒れる前に視線を後ろに向ける。
久しく忘れていたが後ろの男はーーー
「おま、えは………ボ、ボガート!?」
ボガートの手には鞘入りの大剣が握られていてそれでエストレアの頭部を殴ったのだろう。
頭部への一撃は脳を揺らし感覚が麻痺していくのを感じ取る。視界が揺れ、足元がおぼつかなくなる。
膝をつき、頭を抑えているとビチャと泥のようなものが地面に展開され無事だった連中が輪を狭めて迫ってきていた。
「あ、兄貴!!」
「よお、酷くやられたなぁ。こりゃ、落とし前つけねえとな………おい?」
「ぐ……」
苦悶の声を漏らして髪を引っ張られ無理矢理に引き寄せられる。
「あ?どっかで見た顔かと思えば……テメエ、冒険者ギルドで俺を蹴り飛ばしたクソアマじゃねえか。丁度いいや、ここで無残に処女散らしておくのも悪くねえよなぁ?」
ビリリと服を引き裂かれ下着を纏った体が露わになる。ボロン!という効果音が出るくらいに大きな乳房が露わにされたのだ。思わず痛む頭を抑えていた手を離し見えないように隠すもむしろ扇情的に映ってしまうから彼らからすれば寧ろ火に油を入れるような行為だ。
ダン!と投げ出されて尻餅をついてしまう。
「きゃっ!?」
ーー(動かなきゃ………!このままじゃ……!!)
しかし、体が動かない。ズリズリと引きずるだけだ。
手が伸びる、それだけが今この状況下でエストレアが吸血鬼でもなければ紅 諸葉でもない、ただの少女のしての感覚が体を鈍らせていたから。
「へ、いい身体してんじゃねえか。おい、暴れんなよ。」
「い、イヤ…………」
「おい、テメエら俺のシマで何やってんだ?ここら一帯は魔犬のナワバリだぜ?」
悲鳴をあげる声を遮ったのは彼らを取り囲む少年少女。その中で一際目立つのはおよそ2メートルを超える巨漢。手には年季の入った手斧を肩に担ぐように立ちエストレアを囲む連中の前に立ちはだかる。
「な、なんだよテメエは!!?」
「退いてろ、雑魚。」
ボガートではないが一人が食ってかかると拳を一振りし壁に叩きつける。肺の空気が一気に抜けて呼吸が困難になり動けなくなる。
やがて、男はボガートの前に立ち一言述べる。
「出てけ、ここはウチらのナワバリだ。それともスラムの連中全員とヤル気か?お?」
どこに今まで潜んでいたのか屋根のみならず壁の向かいから茂みから囲むように幅広い年齢の男女がボガート達を見つめている。手には角材やナイフなどが握られている。いくらボガートが冒険者とはいえこの数相手に挑むのは無謀。
「ち、退くぞお前ら!」
「あ、兄貴!?」
不利を理解したのか、ボガートは壁をかき分けて夜に消えていった。そこまで見たのを最後に安堵したのか意識を手放してしまった。
●●●
「ジルの兄貴、この子どうするんすか?」
ジルと呼ばれた男、2メートル超の男は下着と見え隠れするたわわな果実と纏わり付いている泥の残骸を見ないように近くに落ちていた冒険者カードを拾う。
先ほどの男と違い、ジルは紳士である。淑女の体を見るのは不躾極まる。
「冒険者か………。取り敢えず、身元ははっきりしてるから明日の朝、ギルドに引き渡す。それまではアジトで休んで貰うか。」
「ういっす。」
「ミーシャいるか?」
「兄さん、どうしたの?」
ジルと呼ばれた男は彼らの中から名指しで呼び出した。
ジルの後ろに立った女性は銀髪のミディアムショートで若干目つきがキツめのおよそ18歳ぐらい。女性としては高めの身長で171cm。
「こいつをアジトに連れてけ、俺じゃ目の毒だ。明日、ギルドに連れてくからな。」
「相変わらず、ウブなんだから………。で?ドランに連絡するのね?」
「俺らみたいなのがギルドに直接行けるわけねえだろ。あいつまだギルドで冒険者やってるはずだしな。」
一連のやりとりを終えるとミーシャと呼ばれた女性はエストレアを抱えると屋根の向こうに飛び越えて消えていった。
「よーし、お前ら撤収だ。預けた餓鬼どもはいねえしもぬけの殻だしな。憲兵来る前にずらかるぞー。」
『ういっスっ!!!』
ーー「というわけだ。日が昇ったら仲間と一緒にギルドに連れてくからな。」
「そうだったのか。ありがとう、感謝する。」
「礼はいいわ、お前さん腕は立つようだが女一人でああいう状況でなんで逃げなかった?俺らがいなかったらどうなってたか分かってんだろ?」
ぐうの音もでない。彼が、彼の仕切るスラムの集団“魔犬”が来てくれなかったら純潔を散らして心に傷を負っていたかもしれない。いや、本来ならそうなるはずだった。勝手に動いて、致命的な隙を晒して、そして………。
「兄さん、茶が入ったわ。」
「おう、ありがとよ。ほれ、お前さんにもあるぞ。」
「ありがとう。」
ランプを片手にお盆にカップ二つを乗せてミーシャが入ってきた。大男、いやジルは一つを自分にもう一つを座るエストレアに手渡す。
紅茶とも違う、黒く、苦めな香ばしさを、この香りをエストレアは知っている。
「これ、コーヒー?」
この世界でもコーヒーは存在する。周辺小国群から輸入されているからだ。しかし、コーヒー豆一つの物価がとても高く200グラム当たり金貨3枚。200グラムで3万円相当という前世では法外な値段である。
つまりは貴族向けの高価な嗜好品である。そんなものがなぜ彼らが持っているのか。
「ルート知りてえか?簡単だよ、ギルドからおすそ分けで貰ってくるんだよ。ギルドマスター知ってるだろ?あいつも地位が地位だけにいろんなもん貢がれているわけだ。んで、処分に困っているのを俺らが貰っているわけだ。食いもんならあいつらに食わせられるしな。」
「ふむ。」
成る程。つまり、いらないなら俺らにくれない?と。
ーーがめついな。
「あ、兄貴今いいッスか?」
「あ?どうした?」
「さっき使いに行かせたあいつら戻ってきたっスよ。で言伝預かってきたっス。」
コーヒーをすすりながら待っているとミーシャとは違う眼帯をつけた青年がやってくる。
使い?そういえばギルドに連絡するっていっていたか。
「え、えーと。エレンさんッスよね?ドランとアグニル姐さんから言伝預かってる。『後で覚悟しとけよ』だそうで。」
んじゃ!と早足で部屋を出て行く青年。若干顔が赤くなっているように見えたのは何故かと思ったが今の自分の格好を思い出しカアアッと耳まで真っ赤になる。
見られるというのはここまで恥ずかしくなるものかと思い知ったのであった。
「………………。」
「………………。」
その後、聞きたいことがいろいろあったものの日が昇るまで両者は無言で、しまいにはジルは大の字になって寝てしまったのだった。
エストレアといえば今更に手が震えてきた。それは先程のボガートたちに犯されてしまう寸前の記憶の恐怖のぶり返しではない。
ジルの首筋をチラッと見ては歯を食いしばり『吸血衝動』に必死に耐えていた。
ーーアア、オイシソウ。
ガリ、と牙で唇を噛み自分の血で衝動を抑え込む。今はまだダメだ。
そうしているうちに日が昇り始めた。
『で?何か言うことはありますか?独断で動いた挙句自分で墓穴掘りかけたエレンさん?』
日が昇り、ある程度の時間帯になると連絡されていた集合場所に向かうと腕を組み大層お怒りな様子でエストレアを出迎えた、アグニルとドランの姿が。
ドランに至っては指を鳴らしてアイアンクローの準備までしているときた。
「え、えっと………ただいま?」
『そうじゃねえだろうがアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!!』
アグニルの渾身のアッパーがエストレアの顎を見事にクリーンヒットさせエストレアは宙を舞ったのだった。
主人公は強いけど無敵じゃないのです。今回みたいに危ない線ギリギリな状態にされることがありえます。しかし、話を進めていけば強くなっていく、そんな感じでやりたいと思うのです。




