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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
49/214

Chapter6-6

8000文字達成



「お二人には感謝しています。私たちがいない間ここを見ていてくださってありがとうございます。」


エストレア、アグニルの二人は孤児院の外で施設内で丁寧にお辞儀するシスター数名を視界に収めながら孤児院を後にするところだ。


何故か、といえば理由は単純に二つだ。一つは孤児院の依頼は風邪をひいて休んでいた職員の代わりで戻ってきたこと。もう一つは先日の誘拐事件、及び視察に訪れた貴族の娘共々施設の子がまとめて謎の汚泥の塊に襲われそうになった事で施設がギルドの名の下に厳正警戒が敷かれたことだ。

厳正警戒が敷かれたことで冒険者として事件の解決に当たることが通告され関係者である自分たちは真っ先に行動せよ、と言われたからだ。


子供達は別れの惜しみと知っている顔が戻ってきてくれた二つの感情が混ざったような顔をしている。それも数が少ないのも、自分たちが留守にしている間に施設内に汚泥の塊が多くの子供達を飲み込み連れ去ったからだ。

不安と恐怖だろうにその目は強い意志を感じる。エストレアは一人の子供に近寄り屈みながら頭を撫でてまた来るからな、と声をかけておく。


うん!と元気な声で答えてくれるその子に微笑ましさを感じながらエストレアは名残惜しそうに一度だけ後ろを振り返るとシェアトに向けて歩き出した。

今後、事態が収拾するまで施設内には感知系の魔法を使える魔法使いやまた対魔法戦に詳しい剣士の冒険者たちが代わる代わる来ることだろう。

ランクが上がったとは言えエストレアはまだまだ駆け出し同然。

下手に首を突っ込めば何があるか分かったものじゃない。もう、遅いかもしれないが。


あの騒動の後、ジッド達はクライアに向けて出発したとアグニルとドランから聞いた。また、ギルド内で酒を飲んでいる冒険者から騒動の後でシェアトの警戒態勢が高くなりほぼ外からの出入りができない状態だということを耳に挟んだのだ。

それに今日はアグニルと任意とは言え事情聴取もあり、加えて貴族令嬢のジェシカを狙った汚泥を撃退したこともありエストレアだけはほぼ強制と言っても過言ではない。


「解決するといいね………。」


「ギルドに送った汚泥の鑑定待ちだな。それまでは、いやあらかじめ予測しておかないとずっと後手後手のままだ。」


麦畑は既にあらかた刈り取られて大地が覗かせているあぜ道を二人は歩く。

太陽は既に正午近くまで登ってきていて、日本でいう冬が近づいているにもかかわらずその日差しは刺すように少々痛い。


孤児院を後にしたが、ジェシカの姿はなかった。院長に聞いた話では馬車に乗って領内へ帰っていったそうだ。あのような出来事の後だ。さぞかし心配し、そしてこってりと絞られることだろう。

無事でよかった反面、いい薬にはなるのではないか。



ーー


「くしゅんっ!!」


「ジェシカ?話は聞いていたかい?お前の自由奔放さには既に諦めているけど、あんな目にあったんだからもっとお淑やかにーーー」


「わかってますわ、お父様!!お姉様の危機には駈けつけろ、ってことですわね?!」


「はぁ………もう少し絞らないといけないな。」


ーー



●●●




ここは幾重にも張られた魔法障壁の中。

黒髪狐耳のシェアトギルドマスター、ルディナは神妙な顔つきで目の前にある瓶に込められた黒い汚泥のようなものを見つめていた。


側には秘書の他に竜殺しのニアス、リムの二人。それと魔法の知識を持つ選抜された職員5名のみがその場にいた。


「ニアス、リム、お前達に頼んだのは他でもない。ニアスは魔法、リムは奇跡の二つの術式獲得者だからだ。簡易鑑定ではその中身は魔法関連のものであることは判明しているがそれ以外のことはわからなかった。

よって、双方に長ける二人に二つの視点で調べて欲しい。出来るか?」


「分かった。」

「了解しました。」


ギルドマスターによる説明を受け、二人はたしかにうなづいた。

シェアト近郊にある孤児院で発生した誘拐、および逃げた二人を追いかけるように発生した泥のかけらの入った瓶をまずニアスが手に取った。

裏組織が多く集まるクライアでも起きた子供達の誘拐、そして、 確認されたであろう巨大な影の関連するものであるとその瓶に入ったものは主張する。


「……………っう!?」


魔法陣を展開して、込められた術式、魔力の質、属性、そして既存の術式かどうかを見ていく。

複数の術式が刻まれた陣を展開しながら、調査を進めていく。その顔色は調べが進むうちに悪くなる。リムはニアスの顔色が悪くなるのを見逃さなかった。近寄りながらポンと肩を叩くと変わりなさいとジェスチャーをする。

ニアスは魔法陣を解くと、次にリムに手渡した。



「では………。」


同じようにリムもタリスマンを使い、魔法陣とも違う文字が円を描くような不思議な術式を展開。

象形文字のようなそれは常に不規則に動き、リムは弾くように指を走らせる。

その様はエストレアが見ればオーケストラの指揮者に例えただろう。

ニアスの魔法陣が、皆がよく思い浮かべる魔法陣ならばリムの奇跡の術式はそう例えるしかなかった。


「これは………いえ、まさか……!」


その作業を見るギルドマスターは目をそらさずこの瓶に入った泥がなんなのかを推測していた。


(簡易鑑定では立会いをしていないからわからないがぱっと見ではおそらくは禁術の類………。私でも分かる悲鳴をあげる魂のごった煮のような不気味なものだ。どこの阿呆だ、こんなものを作り、使役する馬鹿は…………!)


「ギルドマスター、終わりました。」


リムの言葉でギルドマスター、ルディナは彼女へ視線を向け答えを出すのを待った。


「ニアスとも話し合った結果、この泥は………。」


「マスターの思っている通り、禁術。ただの禁術じゃない、『錬金術』における禁術、だよ。」


どのようなものか、わからない職員達。互いにどういうことかと聞きあう。

それでもギルドマスターはやはりという顔で二人に再度問う。


「具体的には?」


「「魔法の触媒、そして生贄。(ですね。」」


続けてニアスが発言する。


「ーーー知識として間違いがなければこれはパンドラ戦役前に、神聖国の教皇が禁断として数十年前に根絶したはずの生命の錬成に関するものだよ。」

「やはりな。」


命の錬成。誰が言わなくても理に反する代物。それがこの泥だという。大体察しがついていたギルドマスター、ルディナはパンドラ戦役に参加していたからだろうか、ほかの職員にはいまひとつわかっていなかった中で彼女はこの禁断の代物を睨みつけるように見つめる。


「つまり何が言いたいのかというとーー


これは先ず何にも汚れていない無垢な魂が大勢必要。例えるとパンドラにあると言われる対城用魔法発動に必要なサイメスト魔結晶の千年結晶ミレニアムの1グラム分作るのに該当する魂が十、いやもっと必要。ううん、魂の質によっては百も行くかもしれない。

この量なら、多分対城用魔法とはいかなくても対軍用魔法クラスなら5発は確実に撃てる。早く対処しないとやばいよ。」


対城用魔法。この世界の最強にして最高クラスとされている大魔法。触媒にサイメスト魔結晶が必要な上発動すれば戦争において戦況をひっくり返した上で逆に追い詰めることさえ出来るトンデモ魔法で10種類あると言われるがどれも扱い次第では国を滅ぼすことさえできると言われるのだ。

それ故に、その強力な力故に並みの魔法使いでは扱うことはできず、宮廷魔術師クラスが数十人集まって、魔法最高の触媒であるサイメスト魔結晶の中でも千年結晶ミレニアムと呼ばれる希少なものをふんだんに使った上で行使できる代物。


「この量で対軍用のみならず村を消せる規模の大魔法が何度も使えます。報告で聞いた限り連れ去ろうとした量、というか大きさなら魔法を使えない人でも『対城魔法を行使できる』こと。調べた限りでは邪悪さも一塩ですが………」


「それが、人間の魂をたくさん使って生み出されているというのが問題。師匠にも聞いてみるけど多分見解は同じだと思うよ。だって、これがあれば過程はどうであれ国を滅ぼせる魔法の触媒になり得るんだから。

ましてやーーーこの魂の塊が子供の魂を使っているなら大問題なんてレベルじゃない。王都に、国王に進言するべき。場合によっては他国にも協力を仰ぐべきだよ。」



そして、無垢な魂。それは最近消えた子供達、誘拐された子供達含めてのことだろう。まだ何も知らない、子供だけが持つ綺麗な夢はさぞかし魂は美しいに違いない。

そして、彼女達は魂のごった煮と言った。


「う、うげぇ………!!」


そこまで聞いた職員は理解した瞬間、吐くものが何人かいた。

つまりだ。この泥を作るのに、いなくなった子供達の肉体と魂を使って生み出されたもので、さらには魂はこの世界において魔法適正にも反映されることを踏まえるとたくさんの魂を使って泥を作れば一つ一つの魂の魔法適正が混ざり合いわずかな量で大魔法が行使できることに他ならない。


「加えて、ニアスの言葉に重ねますがこれは自律します。簡単な命令を与えて魔力を注げば命令通りに動きます。生きた水、というべきでしょうね。禍々しいことこの上ないのですが。」


「じゃ、じゃあクライアで確認された巨大な影は………!」


職員の一人が震えながらその瓶を指差す。

なんとなくだがここまでくれば彼らもある程度は察することが出来るのだろう。顔が真っ青だ。



「確証はないが、現場の状況や市民の目撃情報などを照らし合わせればーーそういうことなんだろう。


ーーー胸糞悪いな。」


『っ!?』


ルディナから発せられた濃密な殺気。いつのまにか手にしていた得物、銘を『陥斧ルディス』の刃の部分を床に叩きつけ部屋の床をすり鉢状に変えてしまった。無意識か、意識的かはさておきルディナから発する殺気は竜殺しの二人でさえ竦むような強烈なものだった。

過酷を極めたとされる15年前の戦役で英雄と言われた彼女の殺気はどこまでも本物で絶対にこの件の元凶を潰すと決めた瞬間でもある。


「っ…………。ギルドマスター、とにかくこれを師匠にも渡してみようと思【その必要はないわい。】えっ?」


老成した男性の声が、ニアスの言葉を遮るように発せられた。が、声はすれども姿はない。


【此奴のペンダント越しに聞いていたし、見ていたわ。ワシに届ける必要はない。】


声の発生源はニアスの身につける装飾品、そのうちの一つペンダントからだ。


「そのお声は………もしかして、ズオー様?」



●●●




【おうおう、なんともなんとも。こうして見れば見る程に……………エロいなっ!!】


「は…………?」


ニアスの胸元のペンダントから発せられた声はどこまでも、威厳に満ちて………満ちていなかった。


【母性溢れる佇まいにそこに見え隠れする力!何よりその!豊満な体つき!!揺れる爆乳!!!いやー、うちのバカ弟子とは天の他の差が…………うおおおおっ!?】

「黙れ変態。このまま踏み潰して精神を昇天させようか?」


ギリギリ………と見た目からは似つかない力で首から外したペンダントを握りしめそのまま足元に投げつけて踏みつけるニアス。

グリグリと踏みつける、見た目から高そうな装飾品を足蹴にする彼女の表情は目が死んでいると言っていい。


【いい加減にせんか!バカ弟子がぁっ!!!年寄りをもっと労われ!!】

「師匠に労わりなんて与えたらますますサボり癖が悪化する。というかなんで出てきた。なんで私のお気に入りのペンダントに師匠がいるのか気になるんだけど?おまけに汚いし。」


何処かの漫才みたいなやりとりをするニアスと喋るペンダント……いや通信媒体にされたペンダント越しに喋る姿なき大魔導師ズオー。

なんでもこのやりとりは二人を知る者たちにはいつものことなんだとか。


【たく、ほんっとにバカ弟子め………。まあ、良いわい。お主らの見解はワシも同じ見立てじゃ。しかしじゃ、すこーしだけ外れてあるものが二つある。先ずこの泥はの、『禁言呪』といってな。二人の言う通り、生贄と魔法の触媒。言霊を重ね、自在に動かす人形にも変えられる。だが、作るのに無垢な魂が大量に必要な上に………人間じゃ作れん(・・・・・・)。】


「っ!?」

「どういうことだ?」


人間には作れない。それはどういうことなのか。その答えはズオーの声が響くペンダントが紡いだ。


【まんまじゃよ。ワシの知る限り、禁言呪は神代の禁術。呪われし古き女神の末裔たる種族だけが行使できた奇跡。うちら人間が魂という代物をどうこうできる程出来とらん。】


【加えて、二つ目。対城用ではないわい。これはもっと上をいく代物じゃ。ワシは名義上『極醒魔法』と呼んどるがの。神々の権能そのものと言われる大魔法、防ぐことは能わぬ超常の魔法。それを行使するものとワシは見た。

つまりじゃ。答えは明白じゃぞ?古来より禁術は魔族が得意とする。あの憎らしいマリウス・シオンではないと思うが、禁術錬成に長けた、15年前の戦役を体験した強者が関わっておる。】


「「「「っ!!!??」」」」


次々と出てくる驚愕の言葉の羅列。仮説だとはいえもし事実ならば再び戦役が起きる可能性だってあり得る。


【のぉ、バカ弟子よ。やっぱその瓶をワシの工房へ持ってこい。詳しく解析するわ。望み薄じゃが魂の一部だけでも剥離出来ないか試すわい。それと、ルディナよ。早まるなよ。まずこれは仮説にすぎんのだ。調査の継続、裏付けは怠るな。王都はある事件のせいで立て直しに精一杯でこちらに回す余裕がない。ではな。】


輝きを失い、声は消えた。もはやただのペンダントに変わり無機質な装飾品に戻っただけだった。


「各員に告げる。このことは極秘に徹すること。いいな?」


ルディナの厳かな言葉で今回の件は締めくくった。各々が転送され、ただ一人残ったルディナは手に持つ陥斧ルディスを見つめる。


「くそっ!!」


苛立ちまぎれに一閃。施された防壁に弾かれたが一振りによる空気の振動は部屋一面震わせる振動を起こした。


「もし、もし本当にあいつら魔族の仕業ならば………」


叩き潰さねば…………!

父さん……、母さん……。




●●●





「ただいま。」


「おや、おかえり。大変だったね、取り敢えず飯にするかい?」


エストレアは久し振りに恰幅亭の門をくぐった。出迎えた女将から顔色を見て心配されたようだ。

街に戻った際、念入りに審査され許可が降りるまで三時間かかった上にギルドに再度取り調べを受け、残留していた竜殺し(主にフレニアやネロ)に捕まって詳しく問いただされて戦ったわけではないのに心身ともに疲れてしまった。

それはアグニルも同じなようで恰幅亭の入り口近くの椅子にもたれかかるように座り「つっかれたあああああああああァァァァァァァ!!!」とボヤいている。


「はいはい、その椅子にもたれかかるんじゃないよ。行儀が悪いからね。席に座った座った。」


アグニルに肩を貸すと彼女は席に座るなり置かれていた水の入った容器を一気に煽る。

エストレア自身も疲れていたせいか同じように置かれていた水の入った容器を口に含む。

既に帰ってきていたドランも苦笑気味に笑いながら「お疲れさん。」と酒らしきグラスをコツン、と当ててくる。


「当事者なんだから当然ちゃ当然だが大変だったみたいだな?」


「そうよ、大変だったんだから。私なんかよりエレンの方が大変だったと思うわよ?」


「まあ、二人をかばい泥を撃破しただけなんだが………。なんというか………スライムを相手しているみたいな感じだったかな?そこの具体的なところを重点的に聞かれたよ。」


へえーー、とアグニルはいつのまにかもらっていた酒を煽る。

いつのまに頼んだんだのか気になったが、目の前に座るドランが「あっ、アグニルてめえっ、こらっ!」とグラスをひったくったのでドランから奪ったようだ。


「あによぉ、喧嘩売っちぇんのぉ?ドランのくしぇに!!」


ご覧の通り、彼女は酒に弱い。酒乱なのか絡み酒かは分からないが少し飲むだけで赤くなり呂律は回らずなのに絡みに行く体力はある。

疲れたと言っていなかったか?


「あー、アグニル。部屋に戻れよ。疲れたんだろう?なら、一休み、いや一眠りするべきだぞ。」


「うーーーー!あたしはぁねえ!まだぁのむのぉ!!」


「エレン、同じ女性として頼んだ。」


「そこは男の甲斐性を見せて欲しかったぞ………。ほら、アグニルいくぞ。」


いやいやと愚図るアグニルの肩を支えると二階の彼女の部屋を目指して階段を上っていく。

獣人の殆どは種族的に酒には強いはずだが兎人はそうでもなかったみたいだ。いや、彼女だけがそうなのかもしれないが。

二階の廊下隅から二番目の部屋が彼女の部屋だ。彼女の手提げ袋から鍵を見つけるとドアに差し込み中へ入っていく。ロウソクを立て、ランプに取り付けると部屋はうっすらと明るくなり部屋全体が露わになる。


「うわーー……………これは。」


散らかった衣類、脱ぎ捨てられた下着類、読みかけの書物。

アグニルを椅子に座らせると先ずはベッドのメイキングから。脱ぎ捨てられた衣類、下着を集め近くにあった籠に入れるとシワだらけの麻製の敷布団を伸ばす。埃が舞うが窓を開けることをしない。既に夜だし、冬の風を入れるのも良くないだろう。


一通り終わると既に寝ているアグニルをベッドに下ろして部屋を後にする。


「終わったっぽいな。」


「ああ、そういえばドランは何故ジッドたちと同行しなかったんだ?」


エストレアが思っていた疑問。それはドランはジッドのお目付役でもあったという印象があったから。なのに、彼はこの街にとどまりジッド達と一緒に行かなかった。ジッド達のチームの大半はクライア向けて出発したというのに。


「独自調査さ。俺は神聖国出た後、帝国で冒険者やってたっていったろ?その時一緒にこっちに来た仲間がこの街のスラム街を仕切っていたのを知ってな。あいつらとアポ取るために敢えて残ったんだよ。

裏の情報は裏から。おそらく、この街に出た泥の持ち主はまだこの街にいるはずだ。時間がねえ、一応取り付けてもらって調べてもらったから多分そう早いうちに情報が来るだろうよ。」



なんと。彼は彼で独自に情報を集めていたという。

確かに以前、彼は帝国で冒険者をやっていたと聞いていたが…………その時一緒にいたという仲間を駆使したネットワークで今回の事件を追っていたのだろう。


「あいつらがいうには隠れ蓑が必要だって言ってたな。娼館、商会、裏ギルド、スラム………こんだけデカイ街だ。全部揃ってる。が、白なんだよなぁ………。」


酒を飲む彼を見ながらエストレアも思案する。ギルドも冒険者も今なおピリピリした緊張感の中、今回の事件で最も関わったであろうエストレアも自身の発する勘と直感が真っ先に浮かぶのに見落としているナニカがわからなかった。


「隣、宜しいですか?」

「探したよ、エレン。」


思考の海に沈もうとしていたエストレアを引き上げたのは二人の女性の声だ。


「ニアス、……それにリムじゃねえか。」


相席となった彼女らに驚きを隠せないエストレアとドラン。主武装である杖と槍を携えているのを見るにいつでも臨戦態勢に移れるようになっているのだろうか。

他の席では有名な竜殺しである二人に何事かと野次馬になるが女将に止められ遠巻きに聞き耳を立てている。


「うちらが来たのは、ちょっとだけ聞きたいことがあったんだ。」

「ニアスさんのいう通り………直に相対したというエレン、貴方に少し聞きたいことがありますの。」


「何を?」


「実はまだ未公表ですが………鑑定は終わりました。が、実際に相対したわけではないのでわからないこともあるのですよ。それで………」


「私達も知りたいなと思った。実際に見た貴方の口から。」


「どうもこうも………。腕の一部分だけだったからそこまでは………。ただ、操っているのは間違いないけどそう、一瞬だけど共有パスを感じ取れた気がする。」


エストレアもあの泥の腕から見出した感覚はそんなものだ。

嘘は言ってないし、それ以外に言えるものがない。

切り倒した時は飛び散った泥。その際、不自然に消失する線のようなものが感じ取れたのだ。


「その話が本当なら術者だね。使役させて、収集させるといったところ?自律する泥って奴隷みたいね。」


ピーンと脳裏にくるものがエストレアに走る。今、なんと言ったか。


「奴隷?」


思いつくのに見落としそうなもの。所有者によるがイメージは人権なき者たち。

奴隷を扱う、或いはーーー


「ドラン、この街で奴隷を扱う商会、或いは団体を知らないか?!」


「ど、どうした?」


「早く!!」


考えが正しければ、そう、いつでも奪える上法的には人権がない奴隷ならば格好の隠れ蓑ではないか。それにクライアの奴隷管理の人間が殺されて扱っていた奴隷がいなくなったとジッドも言っていたではないか。


「ま、街のはずれにクラトンという爺さんがいたはずだ。小さな商会だが、この街を中心に奴隷を捌いていたーーーって話だ。っておい!?」


ダッ、と風の如く夜の中へ消えていったエストレア。入り口まで追いかけたドランとニアス、リムが見たのはまるで翼が生えているかのように軽やかに屋根を飛び越え夜の中に消えていったーーエストレアの後ろ姿だった。









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