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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
48/229

interlude Chapter No.1

やべえよ、やべえよ。四週間か。


報告:誤字修正、サブタイトル変更。


【彼女の好きなものとは?】



ドンッ


そんなオノマトペがつきそうな空間、というか店の一席がそうだ。


洒落た装飾、季節を考えた花、見目麗しい店員。そんな店の中、一席にエストレアが座っている。


両手を組み、厳としたただずまいで何かを待っている。

僅かに膝をピクリと動かすあたり待ちわびているようにも見える。


(………まだか?)



開店したてだからか、客は多い。注文してからそれなりに時間は経っている。そわそわして落ち着かない。席についてから渡された水の入った陶器は既に空だ。

お腹のなる音を漏らすまいと注文の品を待つ。






そんな彼女を店の外にある向かい側のレンガ造りの壁から覗き込むように見ている三人がいた。アンナ、アグニル、ドランである。何をしているのかと言えば………


「ねえ、あれこの前開店したばかりの………」

「王都に一号店があったはずですけど………二号店出来たのね。」

「なんで俺が真昼間からシーフまがいなことやったんだよ………」


ズレてるなぁ……。


「だって!あのエレンさんの私生活見られるんだよ!?なかなか素を出してくれないから話が弾まないんだよ!?分かる、ドラン!?」


「知るか!!」


エストレアの私生活覗き見である。当然、エストレアも外の彼らの存在を知ってはいるが無視しており、見たければ好きにすればいいと思っていた。

さて、どうしてこういうことになったかそのあらましから語るとしよう。



●●●




「依頼完了だ。手続きを頼む。」


手に持つ依頼人の達成証明書と受注した依頼の二つを提出する。

受付嬢のエリーゼは二つを見て、引き出しから依頼人本人からの書類と照らし合わせる。


「…………、分かりました。たしかに達成したのを確認しましたよ。こちらが報酬になります。」


エリーゼから硬貨の入った麻袋を手渡されこれで依頼は完全に消化した。

ギルドを後にしたエストレアの顔はいつもと違ってウキウキとしているようだった。









受けた依頼はとある村で頻繁に出現する魔猪の群れの討伐だ。村に着くなり依頼人から詳細を聞き出現の多い場所の地形の把握、群れの構成、荒らす収穫物の傾向などを二日かけて観察し、村人と協力しながら罠を作成。

この世界における、狩猟を含めた罠は落とし穴、くくり縄に投石機だ。一般的なトラバサミは存在せず、また当然としてライフルの類もなく武器は簡素な弓とマチェットのみ。


エストレアは落とし穴を選んだ。ただ穴を掘るだけではない。掘った穴の底に斜めに切り取ったそれなりの太さを持つ木の枝をまるで槍衾のように敷き詰め、それを系三箇所設置した。


深夜に行動開始だ。茂みを注意深く目を届かせていつでも行ける状態に。

どれほど経っただろうか、月が雲に隠れる頃ガサガサと茂みが揺れて小さな一つの塊がおどり出る。


「うりぼう………?」


ピギピギと鼻を鳴らしてさらに茂みから二頭のうりぼうが出てくる。

鼻を鳴らして慎重に動く様はなんとも可愛らしい。


「ふむ、大体6メートル先かな?」


エストレアが目を向けたのはうりぼうが出てきた先、茂みの奥。大体の予想ではあるが6メートル先に動物特有の気配を感じる。しかも子供であるうりぼうが先に行っているというのに微動だしない。


(罠でも勘付かれたかな……?」


エストレアはそう思ってはいた。が、正確には魔猪は野生動物の勘でエストレアの、吸血鬼としての力を敏感に感じ取ってしまったためだ。

けれども、格上の存在がいたとしても、罠の存在が気づいたとしても、うりぼうが先に行ったのは変わらない。

うりぼうもいつもと違う空気に気づいて茂みに帰ろうとする。が、また戻ってきた。何度も茂みに帰ろうとするがその度に戻ってくる。


(ははぁ………そういうことね。)


エストレアはその場からまるで猫が獲物を見つけ近寄るような体勢になり目と鼻と耳からくる魔猪の情報を頼りに近づいていく。無論、紅流独特の息使いで気配を薄めていく。


恐らくはこの群れは大きくなりすぎる手前なのだろう。斥候が子供なのも口減らしを兼ねているのかもしれない。随分と場を重ねた群れだ。


月と月明かりの下、鴉の声が聞こえ魔猪の悲鳴が聞こえてくる。

その場には月明かりに照らされ魔猪は全て細切れとなり鮮血が降り注ぐ。

降り注いだ血は当然エストレアにかかるが気にするふりもしない。



その様はまるで幽鬼であろうか。



「まずい。ろくに処理しない豚の肝みたいだ。」


不足気味だった血の摂取をしていたからだ。吸血鬼は何もそのシンボルたる牙で摂取する必要はない。その肌に付着するだけでも十分である。何故か口に含んでいないのに味がするという謎があるが。


切る、斬る、斬って捨てる。

彼女が歩けばその度に魔猪の鮮血が舞う。鎧袖一触とはよく言ったものだ。


「くふふ、ご馳走さま。」


爛々と眼を紅く輝かせ、血塗れの服と血に濡れた長剣と携えるエストレア。彼女の口元には普段見えない乱杭歯がギラリ、と光り輝いていた。


数刻は高ぶる高揚に任せていたかもしれない。落ち着いた頃、倒した魔猪の耳や牙を取って確認用にすると比較的形を保っていた魔猪の死体を括り付けると魔法で水を生み出し血を洗い流し、肝も水で軽く洗ってやる。

魔猪の肉、内臓はこの世界に生きる魔物寄りの野生動物の中でも美味だ。なんといっても猪とか豚とか変わらないし、上の二つと違い血はクソ不味いが香り高い肉は他の肉と比べてもなかなかに高いもの。

高騰するかと思えば魔猪そのものが危険な魔物寄りの動物なため冒険者に任せるしかない。ちなみにランクはC。


依頼を出した村人たちに渡してやればきっと喜んでもらえるだろう。

朝方には村に戻り、村長に魔猪の肉や内臓を渡してやる。村長はかなり嬉々として受け取ってくれた。

売るなり、皆で食べるなりすれば無駄にはなるまい。


依頼完了の証書を受け取り、シェアトに帰ろうとするエストレアを止めたのは村長の奥さんだった。

せっかくだからモツ煮作るから食べていきなさい、と言われ断るのもはばかったので甘えさせてもらうことに。

ピリリとした刺激がアクセントになり美味しかったといっておこう。



●●●




そんなわけで、前置きが長くなったが今日はエストレアにとってご褒美の日だ。半月に一度だけ、自分へのご褒美だ。

ギルドを出、前々から眼をつけていた店に向けて軽い足取りで向かう。


よく晴れた青空の下、活気溢れるシェアトの街。ギルドの前の大通りを通り、中央にある噴水を眺めて通り過ぎ。時々露店に並ぶアクセサリーをみては掘り出し物がないか、目利きを光らせる。

これは、というものがあるにはあるものの手にとってみれば精巧にできた偽物なんてザラ。前に女性陣で買い物に行った際に一度いっぱい食わされかけたことがあったので自称元公爵令嬢としてその辺は徹底している。

そうやって歩くエストレアの姿は休日を満喫して楽しむ、ひとりの女の子だった。ただそこに一般の人にはない何かがあったが。



「あれ?あれってエレン?」


そんなエストレアの背中を見つけたのはなかなかに整った顔立ちの兎人の美人、アグニル・ベレア。広場のベンチに待ち合いがてら休憩していたが偶然、エストレアが目の前を通り過ぎていった。


「随分、嬉しそうに歩いて………。なんかあったのかしら?」


顎に手を当てて、考え込むアグニルに声をかける人がいた。


「おっ待たせーーー!!さっきドラン拾ったから荷物持ってもらっちゃった♪」


「アンナ、何やってるのよ………。まあ、男手がいた方が楽だからいいけどね。」


「お前ら、最近俺の扱いひどくねえか………?」


チャイナブルーの髪のアンナが、両手に荷物を抱えたドランを連れてアグニルの元へ来たのだ。

こめかみに手を当て、嘆息するもその荷物では致し方なしかと諦めた。


「ところでアグニルは何してたのー?」


「エレンを見かけたのよ。ほら、なんか嬉しそうじゃない?」


アグニルは今この広場を抜け人影の奥へと消えていくのを指差す。


「あ、ホントだ。そういえば昨日の夜帰ってきてなかったよね。依頼受けたから、って。」


この状況下で一番不憫なのは荷物持ちにさせられ、そのまま放置気味になっているドランであろう。二人の少女は井戸端会議になり、完全に空気になっている。

流石に持ったまま立ち続けるのも辛くなってきたのか、花壇に腰掛け荷物を脇に置いて歩く通行人を眺めていた。

城塞都市、そして冒険者ギルド本部があるこのシェアトの街。


「平和だねぇ………。」


帝国、ではこの世界だとどっちの?と言われるのでファンテリム帝国の方だ。あの帝国で冒険者稼業2年続けここにきた。20年前ぐらいに後継者争いにより本来の帝国は二分化した。その後、パンドラ戦役だ。ゴタゴタした世界情勢で二分化した帝国はそのまま二つの帝国へ変わり、皇弟派のファンテリム、皇子派のベル・クラウディアになった。

ドランはその国にいた。治安なんてこことじゃ天国と地獄といった方がふさわしい。雲泥の差だ。


毎日のように起きる暴動に冒険者が駆り出され衛兵の代わりに治安維持が殆どだ。

地方だけじゃなく皇都でも国民は飢えに飢え、痩せ細り。女はその日を生きるために身体を売り、病気を患い、死んでいく。

教会は、賄賂を受け取り腐敗し宮殿はいつまでもそこだけ煌びやかに存在していた。

そこは、故郷と何ら変わりもしない。

だから、一緒に活動してた仲間と一緒に帝国を出てシェートリンド王国に来た時目を疑った。そして、ジッド達と出会ってーーー。そういえばあいつら元気かなぁ…………と思い出にふけっていたが……。


「ーーン!ドラン、聞いてるの!?」


不意に聞こえてきたアンナの声に、びくっ、と肩を震わせてドランはアンナの方を向く。コツン、と手にした杖でドランの頭を小突いてきた。


「ってなぁ………。なんだよ?」


「後をつけようって話!エレンの秘密探りたいからっ!」


「いや、断わ「さあ、いくわよっ!!」人の話聞けよっ!!?」


「さあ、キビキビいくわよ!」



反論するも女に理屈は通じない。やれやれと荷物を持つと同時に襟首を掴まれドナドナと引きずられていった。



そういうわけでエストレアの後に追いかけた三人は、見るからに下手くそな尾行をかけていた。具体的には壁から壁へ移動しながらエストレアの背中を見ているという感じだ。


「ねえ、ママあの人達何してるの?」


「シッ、見ちゃダメよ!!」


こんな具合に変な人たちとして見られるわけで。こめかみに血管を浮かせたドランに冷めた目で見るアンナ。知らん顔をして覗き込むアグニル。


「おい、俺ら完っ全に変な人じゃねえか………!」


「うっさいわね、小さいこと気にするんじゃないわよ。」


「移動するわよ、あの角を曲がっていったわ。」


こうして、彼らは冒頭における場所まで尾行?を続けていたのだった。

エストレアが入っていったのは王都で貴族御用達の喫茶店ホロウ。このお店の品々全てが普通の冒険者が一年稼いだお金でやっと一品ありつける、一般人からすれば天上の店。が、それでは販路が広げられないと判断したのか、グレードダウンさせた二号店を試験的にここシェアトに開いたとか。


本家にありつけないとしても貴族の、特に女性に人気のある菓子の数々は男女問わず魅了するには十分だった。が、それでも高いものは高いもので露店で売っている袋入りのクッキーが10個分で一品。グレードダウンしても敷居の高いお店であった。稼ぎのいい冒険者じゃないと通いはできないだろう。


「何を頼むのかな?」


「さあ?」


「エメラルドマスカットのミルフィーユがここだと人気らしいわよ?」


興味津々の二人とげんなりとしている一人は店の外からエストレアの挙動を見守るのだった。




●●●




「お待たせいたしました、季節限定スイーツセットでございます。」


ようやく待ちに待った注文の品がきた。店員がトレーに乗せられた品々をテーブルの上に互いが互いに見栄えるように配膳していく。

青みのあるクラベリーに似たソースをかけたレアチーズケーキ、瑞々さ溢れるレタスとよく熟成されたローストビーフを挟んだ白さがあるパン。

蜜でカリッと仕上げた甘芋のスティックに香り豊かな紅茶。


現代でいえばありふれた品々だが、この世界ではチーズケーキにするためのチーズはとても高価でクワイエット領をはじめとした高位の貴族達が独占している。この甘芋のスティックだってわざわざ北方にあるベル・クラウディア帝国から苗を譲ってもらっているし、ローストビーフとレタスのサンドイッチもそれぞれが王族お墨付きの専用の業者から仕入れているものだ。高くないわけがない。


紅茶は、香り的にはダージリンに近くお好みで置かれた蜂蜜を入れなくても十分美味しいし、後味も悪くない。

レタスとローストビーフを挟んだパンはほのかに甘い香りがするあたり天然酵母のものだろうか。ローストビーフは噛みしめるたび肉汁が溢れ、鮮度の良いレタスが油っこさを薄めてくれる。

甘芋のスティックは、サツマイモといっても間違いない。ホクホクした甘みが頬を緩ませる。





「うわー、美味しそう………。」

「ごくりっ………。」

「同感だな。」


外から見ている三人も同時にお腹の虫が鳴りアンナは口からヨダレが垂れそうになっている。彼らから見たエストレアはハートが飛んでいるように見え緩んだ頬から心底幸せそうなのだと感じ取れた。




エストレアとて外にいる彼らに気づいてはいるがもっぱら目の前のこれに夢中なためか我関せずという形でご褒美にありついていた。

エストレアは紅茶を飲み、次はメインのチーズケーキだ。ここでいうのもアレなのだがエストレアにとってチーズケーキは幼少の時からの好物であった。それはもうエストレアの一部といってもいいくらいには。それはこの世界で生まれたエストレアだけではなく前世、紅 諸葉の好物でもあったためより増し増しであった。

ベイクドもスフレも好きだが何よりレアチーズケーキが心を掴んで離さない。


「はむっ……。〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


フォークを入れ、小さく取ると口に入れる。シットリしたチーズとクリーム、レモンカードの爽やかさがエストレアの、少女としての側面をより表面化する。


チーズといえばこの国ではクワイエット領が生産率の7割を抑えていた。王都での店もクワイエット領から運ばれていると聞く。


「はぁ………幸せ……。」


少し冷めてしまった紅茶を飲み余韻に浸る。疲れた体に、自分にかけたこのご褒美は明日の依頼をこなすための活力に変わるのだ。

全てしっかり堪能した後は紅茶を飲み干しておしまい。やや心残りはあるが十分に楽しめた。


席を立ち会計へ。今回は季節限定だったため常設してあるメニューより僅かばかり高め。お値段にして銀貨5枚。10枚で金貨一枚と交換できるので日本円にして5000円。普通の人なら高いっ!と思うのだがそこは曲がりにも公爵家の娘。現代の金銭やりくりの感覚などとうに忘れた。


「ありがとうございました、またお越しください。」


店員の声を背後に店を出たエストレアは覗き込んでいた彼らの元に。既に彼らは衛兵の職務質問を受け、アグニルとアンナが必死になって弁解する。反対にドランは完全に諦めたような顔で空を見上げていた。

三人はエストレアの介入で事なきを得て、宿である恰幅亭に戻っていった。


「さて、帰ろうか。」


夕暮れにはまだ早く、かといって昼は既に過ぎた。この後は鍛錬でもしようかと思いながら彼らの後を追うように歩き出した。

















ーー後日。


「む、下着が入らない………。」


「痩せなきゃ………。」




最後は…………成長期だからね。仕方ない。何がとは言わないけどね。

エストレアちゃんは食べた分だけ無駄なく黄金律な育成に使われる体質。特にスリーサイズ……おや、誰か来たようd()

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