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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter5-4

上位竜戦は次か、次の次に終われるといいな。終われば、王都を舞台として展開し、一章を締めくくりたいと思います。




「邪魔、だっ!!」


魔剣を振るう少女は今しがた斬り捨てたワームのような魔物の体液が剣に付着したため振るって落とす。


少女ーーエストレアはここまでに魔物をこの魔剣のウォーミングアップも兼ねて刈り取っていた。

自身の体から、血液から生み出した剣は、よく手に馴染むもののその本質を理解していないためこうして斬って体に覚えさせる。


黒血の剣。なんとなくで、そう呼ぶようにしているが実際のところどうなのだろう。


しかし‥‥あまりにも弱い。切れ味を、能力を試すためにやっていたがなんともつまらない。魔剣に喰まれているわけではない。



一閃ーー


上位竜と戦う彼らに近づくたび燃え盛る火の手がエストレアを阻み、未だ残っていた魔物が襲いかかる。狼のような魔物を斬り落とす。それはバターのように骨など関係なく両断してしまう。


「つまらん、だが‥‥数だけは一丁前ということか‥‥。」


散らすか。




ーー 紅月一刀派紅流剣術



ーー枯葉墜このはおとし



踏み込み、手前の猪のような魔物に肉薄する。柄に手をかけその過程で顎をカチあげる。


エストレアの吸血鬼としての力でカチ上げられたのでかなり滞空してしまう。それだけではなくその余波で周りにいた魔物も同じようにカチあげられてしまう。


鞘はないが、抜刀体勢へ。


再び、一閃



鞭のようにしなり、カチあげた魔物は全て細切れとなり鮮血が降り注ぐ。

降り注いだ血は当然エストレアにかかるが気にするふりもしない。


紅流剣術と紅月一刀派紅流剣術とは体系が異なる。似てはいるが紅月一刀派紅流から別れ様々な武を取り入れて独自に強化していったのが紅流であり、その一つたる剣術であり。紅月一刀派紅流とはいわば紅 諸葉の家柄初代当主開祖 紅 朱羽左衛門が記した奥義。


あらゆる状況に対応し敵を倒すのが紅流であるならば、あらゆる状況であってもそれごと切り落とすことを念頭にした戦い方である。


体に降り注ぐ血の雨に濡れて顔についた血を舐めとる仕草は妖艶でその様はまるで幽鬼であろうか。



「まずい。ろくに処理しない豚の肝みたいだ。」


不足していた血の摂取をしていたからだ。吸血鬼は何もそのシンボルたる牙で摂取する必要はない。その肌に付着するだけでも十分である。何故か口に含んでいないのに味がするという謎があるが。


切る、斬る、斬って捨てる。

彼女が歩けばその度に魔物の鮮血が舞う。鎧袖一触とはよく言ったものだ。


「‥‥‥うむ、視認できたな。あの様子だと劣勢か。急ごう。」


絶えぬ爆発と火は夕暮れ近くだとより強調され太陽は既に傾きはじめている。


再び、踏み鳴らし音を置き去りにして駆け出していく。







●●●




「くそっ!全然狙えねえじゃねえか!陽が落ちたら狙撃できねえぞ!」


羽ばたく上位竜ドラゴン真紅レッドと炎による陽炎、奮闘する彼らが一点集中による狙撃を阻害しており、また止まることないため一向にチャンスが訪れないでいた。


「こりゃ、今日決着は無理かな。最悪、一日置いてから………いや、郊外に避難した市民を襲う可能性が高えか。」


一旦、仕切り直すことも考えたがまだ、街の外には魔物がいるはずでありそれはここにいる竜殺し以外の冒険者が耐えているはず。

視界を見渡せば、消火活動をする人もいるのでここであれを倒す必要が出てくる。実は、レンヤが先ほど来てくれたが、状況を鑑み地下水道に兵士たちを誘導することをお願いし、彼自身に鐘を鳴らしてもらうことになっている。


「落ち着け、まだチャンスはある。後、一人来てくれればーー!」



ーーーーー


ーーーー


ーーー


ーー


上位竜ドラゴン真紅レッドは頭に血が完全に上っていた。


何度も火球を吐き、時には肉弾戦を仕掛けるが‥‥‥全て躱されいなされた挙句その際に幾度も傷を負わされた。刻印支配されているという屈辱に加え自身の攻撃を躱されここまで傷をつけられたのは初めてだった。


やはり人間は危険だと明確に敵意を表した。大きく咆哮、地面から飛び立つと人間の跳躍の限界高度まで上昇。

これから行うのは今まで多くの敵を屠ってきたとっておきであり上位竜が並みの魔物より強いと言われる所以。必殺技である。

上昇しながら口腔内に熱を溜め込む。火球、吐息ブレスは何度か使用したが決定打にはならなかった。ならば、逃げ場のない衝撃波と爆発、そして消えない焔を拡散すれば良い。


だが、これは溜めが大きく隙が出来る。だから、届かない上空から吐き出しばらまく。


「やべ………!」


地下に逃げた兵士達は助かるだろう。だが、街の外や今ここにいる彼らは逃げられない。




「くっ!!今ならっ!!」


上位竜であれば色問わず持っている吐息ブレスの一種。

竜殺しであるオルストは上位竜の放とうとするそれの正体に気づき、作戦外の狙撃をしようとしてけれど放つことはなかった。

それは二重の意味で。


上位竜は吐息ブレスを放つことはなく、オルストも矢を放つこともなかった。




「チェエエエエエストーーーーーーッッッ!!!」


人間離れした跳躍で上位竜・真紅の延髄をかかと落としで叩きつける姿があったから。

その姿は、上位竜に真っ先に狙われて戦線離脱したはずのエレンもといエストレアだった。


ありえない音を響かせて、上位竜はもがくように落下しエストレアは空中で回転しながらまだ無事な民家の煙突に華麗に着地する。その手に、黒く光る剣を握りしめて。

熱を帯びた風が、燃える光景が、エストレアの揺れる髪とさっきまで碧眼だった瞳が赤く輝く様が何より強調されている。

三日月のように歪められた口からは犬歯より長い牙が覗き、破れたレザー装備の下から覗く肢体が蠱惑的で恐怖だった。


それでも、彼らが彼女を見ても驚きこそすれ恐れないのは彼女、エストレアが無意識に強力な魅了を発動し誤認させているため。それと、冒険者として新人であるはずの彼女に違和感を感じながら従うのも魅了の効果だったりする。

種族として持ち合わせる魅了は魔術による魅了をはるかに凌駕し、使い方次第ではカリスマとしても機能する。


心なしか、エストレアの指の爪はまるで鉤爪のように鋭くなったように見える。


「アイツ、戦闘離脱したんじゃねえのかよ……。」


「………。」


「服の損壊状態見るに相当な怪我したはず……なのになんで傷がないの?」


「こいつはおっかなびっくりだ。後で聞くことが増えたね。」


ネロ、バイド、ニアス、フレニア。見える範囲で戦っていたのはこれだけ。オルストは狙撃のためあの塔の中で機会を伺っているのだろう。


パチパチと火の粉が上がり、瓦礫と一緒に上位竜・真紅は起き上がる。

口元には焔燐が溢れ、目は怒りに染まって充血している。


対するエストレアとはいうと煙突という高さを捨て降り竜殺しの冒険者達と一緒に並び立つ。


「お、おい、傷大丈夫だったのかよ?」


「ああ、問題ないとも。寧ろ、あの一撃食らって目が覚めた感じだ。」


一応、竜には気を払いつつネロは思ったことを聞く。が、返ってきたのは当然とばかりに問題ないという。


「あ、あれ?お前目赤かったけ?緑ぽかったような……?」


「気のせいだ。」


「けどよ、『気のせいだ。』お、おう。」


「GARUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAaaaaッッッ!!!!」


翼を雄々しく広げ、上位竜・真紅は吠える。背中に突き立てられた雷の魔剣が未だ痛みをもたらしそれが返って怒りを増長することになる。


広げた翼により、突風が起き燃えて崩れかけた建物を吹き飛ばし、飛翔しようとその体を持ち上げた。


「させるわけないだろう、もう少し落ちていろ。」


エストレアの振るう剣、その剣閃が鞭のように伸び背中に突き立てられた魔剣の柄に巻きつくと勢いよく引きバランスを崩してやる。


「お?流石だな。これでもまだ滞空できるとは。」


だが、流石は上位竜の中でも最強の色を持つ《白亜ホワイト》に次ぐ竜種の中でも最強格か。

全身の膂力に物言わせて、踏ん張り逆にエストレアを引きずるように徐々にその体は浮き始める。


が。


それこそ、最大のチャンスと言えるし2度とない機会でもある。


エストレアは手を天高くかざし叫ぶ。「鳴らせ」と。




●●●



「やっとか。待ちくたびれたぜ。キッチリ決めやがれ、オルスト。手前の腕に賭けてんだからよ、サッサと終わらせろ、よな!!」


ネロの実兄、レンヤ・ジウスティアは備え付けられたレバーを思いっきり引き、ゆっくりと鐘が動き出しカラーン、カラーンと音を立てる。


遠目で、嵐のような風を纏い螺旋を描いた大矢が無防備な体に向けて走るのを見た。



ーーーーー


ーーーー


ーーー


ーー



「よぅし、やるか。」


「『我が契約せし風の精霊に請い願う。ただ一つの迷いなく乱れることのない必中の矢をーーー届けたまえ。』」


ギリギリギリ…………

鎖の弦が己の手首に食い込み、赤く痛い。手に持つ矢も大型弩バリスタの装填用の槍の如き大きな大矢。矢だけでも大きさゆえに片手では少々重い。


その目に映るのは飛んではいるが、滞空したままそれを維持したーー竜である。その背中には、見覚えのある剣が突き刺さっていて、時折放電し竜の苦悶の声が聞こえてくる。


炎に包まれているとはいえ、風が穏やかになり絶好の射撃、後は射抜くだけだ。


彼の契約する精霊が大弓に寄り添いブツブツと呪文じみた言葉をかけると番られた矢には元の大矢が見えないほどの嵐の矢に変わる。

けれど、術者やオルストには何ら影響はない。


そのあまりにも大きい大弓から弦を離し槍のように大きな矢が放たれるーー


「喰らえ、『嵐風竜穿通アーマデル・ドラ・セルナ』落ちろおおおおォォォォォォォォ!!!」



これで決める。そう、願をかけて放たれた矢はたしかにーー上位竜・真紅の体を穿つ。

大きく横に吹き飛び、きりもみに転がるはずだった。


「な、ウッソだろ!?しくじったか!?」


たしかにオルストの放った大矢は上位竜を貫いただろう。が、そこには背中の刺さった魔剣が食い込むのを邪魔をして致命には至らなかった。


やべえ、と塔の中に逃げ込むと同時に特大の火球が先ほどの狙撃地点に着弾。

大きな爆発を起こして上層部がバラバラに砕け散った。











「オルストっ!!」


「っ!皆伏せろ!!!」


狙撃は成功した。が、撃ち落とすことは能わず火球による反撃によりオルストのいた場所が爆ぜた。直後、怒りに任せた尻尾による乱撃が彼らを襲いエストレアが棒立ちになっていた四人の頭を掴み伏せさせる。


硬い鱗に覆われ棘だらけの尾は地面をガリガリ削り砂埃により視界は塞がれ炎と煙により呼吸がままならなくなる。


煙の隙間から見えたのは大矢が翼膜と翼骨に貫いて魔剣のそばで鏃が止まっておりおそらくあれが致命を留めたのだろうと推測した。


既に、今の出来事で危険を回避するため魔剣に巻き付いていた自身の剣はただの血液に戻り熱により凝固してしまっている。


「(どうするっ!?このままではジリ貧だ。作戦は失敗だ、だがーーいや。武器ならある。)」


竜の背中、ネロがその背中に乗り突き立てた雷の魔剣ズツァニッグがあるではないか。

幸い、鐘を鳴らしたレンヤのいる塔に向けて飛翔しようとしておりこちらには気づいていない。


「(ーーやるか。)」


駆け出す。姿勢を極端に低く、這うように走りあるいは獣のように駆け抜ける。


「くっ、煙で距離が………!」


ーーー魔力解放、完全解放まで???秒‥‥、インストール。〈リリスの仔〉No. 1《吸血姫ヴァンパイア》、〈リリス〉と接続を開始。ーー






エラーを確認、観測できる領域にいません、再度接続を実行ーー


失敗しました。魔力測定、宿主の意思を同調インストール。目標との最短距離を魔力で示します。


「(なんだ、今のはっ!?)」


脳内に流れる機械じみた音声というより概念が目を通して脳内になだれ込んでくる。

そして、何かは知らないが目標との最短距離を示してくれるらしく目を集中して凝らせば、なんというのか光の筋が見えてくる。


「(そこを走ればいいのか………!)」


飛んでくる瓦礫を足場にして飛び乗り、体をひねって躱し、大きく体を逸らして徐々に距離を縮めていく。


そして、煙の晴れた視界の下にはドンピシャに上位竜・真紅の真上。

真紅の瞳から片目だけ蒼く輝き、軌跡の残光を描いて上位竜の背中めがけて落ちる様は小さな流星のようだと、郊外に逃げた子供達が大人に伝えたという。


「とった!!」


背中に着地し、その突き刺さった魔剣ズツァニッグを引き抜こうとする。背中に不埒者を感じたのか上位竜は体を大きく揺らして振り落とそうと暴れ始める。

そのせいで煙が晴れてきてしまい、彼らの目にも止まることになる。


「あ、アイツ!ウチの魔剣をっ!!」




ただ暴れるだけではエストレアは動揺しない。この程度の揺れや揺さぶりは何度も前世で味わい、今世でも魂レベルで刻まれた感覚だ。


「無駄なあがきだ。これでーーー」


ズルっ、と剣を引き抜く。手に力を込め放出するはずの魔力が剣の中に閉じ込められ刀身に莫大な雷が宿る。何処からか天を曇らせ、雷鳴を呼び剣が呼応する。直後に雨が降り、エストレアの体と竜の体、街を濡らしていった。


担い手が変われば天候さえ変えられる。それがこの魔剣の真の力。


「終わりだ。」


ーー紅流剣術 伍の型 雨斬(落ちる雫を堕とす)


さっきまで竜の頭に向けていた体は魔剣ズツァニッグを刹那に振るい逆側に飛び降り着地する。


ズンっ、と剣の切っ先を地に刺すと同時に竜の首は落ち巨体が落下し切り口から鮮血が大地に染み込んでいく。



ドシャっ。


そして、糸の切れた人形のように崩れる形でエストレアは濡れる地面にその体を預けて意識を手放した。

染み込んだ竜の血が、地面を通じて彼女の体の中へ吸い込まれたのを誰も知らない。











ーー続く

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