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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter5-2



ーー『いいか、諸葉。紅流において最大の敗北はなんだ?』


ーー『はい、紅流において敗北とは『油断』です。油断はあらゆる場面で、あらゆる時にいつでも現れる。だから、常に体を刃にせよ、と。』


二人の男性が木刀を持ち、互いに正眼に構えながら自らの修める道の心構え、それを確認し合う。

場所は、現代でも今なおあるやもしれない立派な道場。中央に二人が立ち、壁際には黒服をまとった屈強な男たちが正座して事態を見守っている。


ーー『そうだ、故に常に体を剣として、武器として立たねばならない。それを完全に会得せねば、戦国より受け継ぎし『紅月一刀派 紅流古武術』を継がせるわけにはいかない。では、構えよ諸葉。先ずは紅流剣術、弌の型からだ。』


ーー『はい、お願いします父さ……師匠。不肖諸葉参ります!』


紅家が所有する国技館ほどの大きさを持つ大道場で、紅家の舎弟、子といった屈強な彼らが見守る中、紅 諸葉の父にして現紅家当主 紅(くれない) 豹理(りょうり)が、息子である諸葉に技(業)を授ける。


紅 諸葉が、11の時であった。








その日、12ある型のうち三つまで知った。そして、紅流において型は教えるのではなく会得する自身の体で知るのだ。

明治までは、その会得する時その体は傷だらけであった。無論、真剣による傷だ。基本、授かるのは長男のみとされているがこの時までその長男が命を落とすことは珍しくなかった。


ーー『いてて………!父さんこういう時殺しにかかっているように見えるんだよなあ……。』


諸葉の部屋、その隅にある布団の上で包帯だらけになって横になっていた。

この日の稽古は、まさしく鬼神の如しで修練を積んだ諸葉でさえ、チビりそうになった程だ。


ーーコンコン


襖を隔ててノックの音。どうぞ、と言われれば入ってきたのは黒髪に錦織の高価そうな着物を着た妙齢の女性、それと付き人だろう二人の黒服がやってきた。


ーー『母さん……。』


ーー『諸葉、とうとう受け継ぐ日が来たのね。いい?あなたのその傷は、紅家としての誇りそのもの。その傷を見て、いつでも自分の中の己と戦うのよ。』


ーまあ、それはそれとして。


『旦那様より言伝があります。今日はここまでとして、明日以降は朝五時、夜七時に大道場に来るように。大丈夫、私たちの子なんだから、きっとすべて修得できるわ。今日は寝なさい、明日に備えてね。』



ーーーー

ーーー

ーー

ー



「ごはっ!?く、う、うぅ、はぁ‥‥‥‥‥!」


痛い。


痛い。



「夢で、あの日を見るとは………。は、はは、油断こそ紅流の敗北。それを破ってしまったか。が、私は私で紅 諸葉は私を構成する一部でしかない。破ってもいいか。」


これ程の苦痛は王都で令嬢として生きていけぬと逐電した誕生会以来だ。

結局、自分の正体がなんであるかを思い出して、理解して養父に嫌われることを恐れ何も告げずあの場を去った事は軽率すぎたと思う。

いや、養父は私を探そうとしているだろうがこの体の力が彼らに向けられるのが、向けることが嫌だと叫んでいる。


「う、ぬぅぅ、派手にやられた‥‥‥らしいな、オマケに‥‥‥服ボロボロ‥‥‥。」


瓦礫をなんとか押し退けてみれば着心地の良かったレザーの一式装備は上位竜・真紅の一撃でボロボロで下着が見えてしまい、外套の赤い布は隠すには弱いほどにボロボロ、僅かに服として機能している状態だ。

その下着も見えてはいけない部分もチラッと見えてるのだが。

おまけに視界も最悪で砂埃と流れ出た血が目としての役割を阻害している。


「くっ、うぅ!?」


突如として発した右腕の激痛に目を凝らしてみればありえない方向へ曲がり、瓦礫の一部が肌に突き刺さっている。右腕だけではない、足や指も似たものだ。だが気味が悪いがゆっくりと患部がジュクジュクと音を立てて異物を押し出している。流石に折れた骨は戻さないと治らないが‥‥‥。


荒療治であるが折れた指を無理矢理戻し、あらぬ方向へ曲がった腕を激痛を耐えて戻す。

本当ならすぐにでも医療施設に運んでもらい、回復系魔法と外科措置し、数ヶ月は安静にしなければならないのだが今現在緊急事態な上あちら側が見逃してくれないことも起因している。


「ん、ぅぅぅうぅんんんんんんんん?!!」


力任せに突き刺さった異物を引き抜く。大量の血が吹き出し、激痛のあまり声が漏れそうになるがなんとか抑える。

全ての異物を取り除き、今度は瓦礫を押し退ける。ボタボタと瓦礫に血が垂れ流れている。そして血を流しすぎたせいでさっきから喉が異様に渇く。

気を抜けば、衝動のまま、無差別に血を吸いかねない。いや、痛みが飢えを加速させている、というべきか。だがここで無差別に血を吸えば、後々面倒ではすまない事態になることは明白であった。


「まだ、右腕は動かないか。それに………。」


右手にあるのは長剣(ロングソード)の柄だけなった剣の残骸。


「あーあ、安物といっても獲物がないときついな。」


ーーそれに。


「ふふ、血に飢えた連中だな。私の肉が欲しいか、うん?」


血の匂いに誘われ、屍肉(スカベンジャー)漁りの如く、魔物がエストレアの周りに近寄っていた。一定の距離を取りながら、こちらを見失わないのはこちらが力尽きるのを待っているのか。

事実、エストレアは身体中傷だらけ、骨は折れ、内蔵だってぐしゃぐしゃなはずだ。


けれどそれがどうした。

ちょうどいい、少ないがお前たちの血を吸い、糧にする。

まだ力が込めるには回復が追いついてないが血を吸えば追いつくだろうし、幸い魔物の数は困らない。

シュババと中国拳法の構えを取ると口を三日月のように歪ませた。


「その血、恵んでもらう、ぞっ!!」




●●●




「ははっ、お終いだな。せめて娘の顔でも見たかったなぁ‥‥‥。」


巨大な熊のような魔物に捕まり今にも食われそうな時にそうぼやく一人の兵士は兵役を全うする為、故郷に残した妻子を思い出す。

もうすぐ死ぬ。少しでも楽になる為、目を瞑りその時を待つと


ズガァン!


「GRUUUUUUUAAAaaaaaa!?」


大きな音を鳴らして、兵士は地面に落ちて。熊のような魔物は困惑し辺りを見渡すが、それはナニカが高速で飛来して直撃したもので‥‥‥。この混乱の最中、どこから飛んで来たかなどわかるはずもなかった。右手が動かない。肩からぱっくりと吹き飛び僅かに血が吹き出ているのを見た時ソレは稲妻を纏った剣を振り下ろす少女を落ちた首が最後に見たのである。


「ゼェー、ゼェー、やっとだぜ。ツっ、まだ頭がクラクラするぞ‥‥‥。兄貴、どう動くべきだ?元を叩くか?」


走って来たようで、息も絶え絶えなネロが、稲妻を湛えた大剣で続けて魔物をまとめて斬りとばす。


「アホか、愚妹。さっきまで気絶してたやつがなんだって?」


「う、それは‥‥‥なんとかなる!」


「気合でなんとかなるんなら、こうはなってないだろうがっ!その脳筋なんとかならんのか、この愚妹!」


兄弟喧嘩しながら、バッサバッサと魔物を打ち倒す様はこういった状況に慣れている故か。あるいは彼女、ネロの兄であるレンヤの搦め手による支援の賜物かどうかは不明ではある。


「しっかし、随分と吹き飛ばされたもんだ。俺が倒した上位竜は〈青〉と〈黄〉だったからなぁ‥‥‥。ていうか今どんな状況?」


「お前らが気絶している間に、街中に奴さんが強襲、作戦立案者がやられて、オルストはほかの奴らに攻撃されないようヘイトを稼いでる。その間に俺がお前らを救出したってわけだ。」


「あいつ、早速やられたのかよ。で、無事なのか?あいついねえと作戦もたつくだろ?」


「お前らを救出した時、リムに事情を話して向かってもらった。仮にも聖女なんて呼ばれてるんだ。多分行けるはずだ。」


あの時、レンヤはバイドとオルストが吹き飛ばされる彼女が咄嗟に受け身を取りながら吹き飛んだのを見た。あれなら、生きているはずだ。戦線への復帰は不可能だと思うが。


「ジウスティア殿、助太刀ありがとうございます!」


あらかた魔物を掃討した後、助けた兵士から感謝されたが、今は一刻も争う事態。急いで、本体に戻れと残して作戦の詰めを執り行うべく駆け出した。


「俺は、オルストの方へ行く。ネロは、上位竜を追え。住宅区の屋根を飛びながら高起動戦闘だが………行けるよな?」


「ああ、任せろ!バイドが今、踏ん張っているんだろ?なら、行かねえわけねえ!!」



●●●



「五十、一!!ふ、はっ!!」


投げる


蹴る


掌底を打つ。


背後からくる敵を裏拳で、


手刀で切り裂き、


ヘッドロックで頭を砕く。


獲物がない今、体術で魔物達を一切寄せ付けず倒した敵が流す血が、まるで意思を持つようにエストレアの体に付着し染み込むように消えて行く。


「はぁ、はぁ、ぐっ!!」


目眩を起こして、膝をついてしまう。思ったより損傷が酷い。いくら魔物の血とは言えど、純度が低く回復するには全く足りない。


ーー不味い、このままじゃ誰かを傷つけかねない。


視界が揺れる、頭がグラグラする。既に動けるほどには回復したはいいもの、内蔵のダメージが深刻だった。


瓦礫に背中を預けていると、前方から気配がする。魔物ではない、人のそれ。


「見つけました………って、エレンさん!?無事だったのnいや、無事じゃないわね。生きているのが奇跡だわ。」

「その声………リムなのか?」

「ええ、レンヤさんからあらかた聞いていました。この傷じゃ、運んでいる暇ないから応急措置だけして…………気休めだけどこれ飲んで。」


リムの手に握られている瓶、青く透き通った液体が入っていて陽の光に照らされ水面のように煌めく。


「ポーション、か。」

「ええ、ないよりマシだと思うわ。」


エストレアは左手でそれを受け取り思い切り煽って飲む。確かに少しだけ楽になったようだ。


「顔色が戻ってきたみたいね、このまま急造の救援キャンプに行くわよ。さ、背中に乗って。」

「作戦は………どうする?」

「あなたの今の体で続行できるわけないでしょ。見栄張らないで行くわよ。」




●●●




「ぐっ………おお!!!」


「GAAAAA AAAA AAAA AAAA AAAA AAAA!!!」


屋根から屋根へ飛び移りながら、バイドは大きく跳躍してクレイモアを振るう。

竜種の身体は魔力に対して絶大な耐性を持つが、物理属性を持つ攻撃は大きく軽減されるとは言え通じる。


バイドは甲殻の薄い、羽の付け根や尾、爪付近など硬くない場所を的確に攻撃する。

しかし、竜殺しの名を持つとはいえど相手は上位竜の真紅と言われる竜種でありなかなかに尽きぬ体力にバイド自身焦りを感じている。

それに、自分のスタミナも尽きかけている。


何度も、屋根の上を飛んだか。何回、竜のブレスを躱すため、入り組んだ路地を駆け抜けたか。


オルストは、つい先ほど兵舎に飛び込みあの新人が渡した大弓を取りに走っていった。

つまり、今オルストを危険に晒さないように一人でヘイトを取っているわけだ。

身体だけじゃない、心のスタミナも尽きそうだ。


「くそ、誰か………うわ!?」


不意に飛び移りが失敗し、屋根から落ちてしまう。

それを見て、好機と思わない敵がいるだろうか。


「しまっ!!」







目を瞑り、せめて知らないようにと身構えていたバイドに一向に衝撃がこない。そればかりか、大気を震わす稲妻が聞こえる。


「よう、助太刀に来たぜ。立てるかバイド?」

「………ネロか。遅えんだよ、来るのが。」

「悪いな、さっきまで気絶してて、兄貴に起こしてもらったばかりなんだ。」


雷を称えた大剣を鞘に戻して、その手を今なおへたりこむバイドに差し伸べた。それを取り確かな足腰で立ち目の前の竜を見据える。


「オルストいねえじゃねえか、どうした?」

「大弓を取りに兵舎に向かった。」

「そうかい、ならうちらで手柄掻っ攫うぞ!!」



好戦的な瞳に眼前に映る竜を捉え、ニィィと笑うのだった。

ようやく、ちょっと進んだかな

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