chapter4-9
ちょっと、詰めすぎたかな。話が圧縮しすぎたかも。
どうしてこうなった。
「で、何故こうなっているのか。問いただしたいのだが…………?」
エストレアは静かに憤慨した。必ずや正さねばならぬと決意した。
ーーこんなめちゃくちゃな方法があってたまるか、と。
何故ならば、今エストレアはーー
「諦めよ、何、後ろにいる連中も過去に体験している。諦めて、慣れてしまえ。そら、着火するぞ?」
ギルド本部に備え付けられている祝令用の大砲に詰められているのだ。
大砲につめられている 。
何故だ。
もう一度言う。何故だ。
危険極まりない、冒険と言うには無滑稽すぎる。
しかし、返って心は冷静になれるもので僅かに動ける首を回して後ろにいる冒険者達を見る。
彼らの反応を見るために。
全員、目が死んでいた。挙げ句の果てには、「心を折らないでね。」と応援、いや慰めの言葉をいただく始末。
そうこうしてるうちに既に着火されていたらしく耳元でジリジリと音が聞こえてきた。
「なに、昔のことだ。誰よりも早く連絡させるために早馬を出すよりこちらがいいと私自ら十五年前の戦役時に発案したのだ。風などの突風もあらかじめ魔法で備えておけばいいし、なによりインパクトがあるからな。安心しろ、火薬自体は入れておらん。あるのは魔力粉だけだ。」
「それのどこを安心しろ、と?」
なにやら昔話を語り出したが、つまり、今からエストレアは大砲に打ち出されて、ウルマトまで物理で飛ばされる、そう言うことなのだ。
やがて、シュッと自身の足元あたりから聴こえてくると、ギルドマスターはニヤリ、と。他の冒険者達は引き攣った笑みを。
「いや、待て、待ってくれ………!頼む!」
「逝ってこい。」
懇願虚しく次の瞬間、エストレアは風をきって大空に投げ飛ばされていた。
「き、きゃああああァァァアアアァァァァーーーー!!?お、覚えてろ、ぎるど、ますたーァァァァっっっ!!!!?」
「ふむ、久々にやったが問題ないな。そして、無地のショーツ、と。」
悲鳴を引き延ばし空の彼方へ木霊してキラン、と空に光が灯ったのだった。
投げ出されたエストレアは知らぬことだが、その時一瞬だが下着が見えてしまっていた。一部男子が女性冒険者達に、といっても分かりきったことだが粛清されたのは別にここで言うことではあるまい。
「さて、貴様らも一人ずつ打ち出すからな。一度体験した身だ、誰から行くのだ?」
●●●
魔物の群れが進軍する。
上空には、赤い体色の竜が飛び魔物とは違う、動くものを焼き払いながらウルマトの住宅街エリアに向け進んでいく。
彼らが進んだ後は蹂躙だった。見渡す限り、血が付着していない大地はなく、死体が転がっていない場所はない。
彼らの中のコボルトの一匹が、地下に隠れていた子供達を嗅覚で探し当て四肢をもぎ彼の食料と化した。
大柄なトロルが、すでに死んでいる女性に腰を振っている。
オーガが、手に持つ棍棒を振り回して、その周りにいたゴブリンが運悪くひき潰されていた。
単眼巨人が、生き残って立てこもっていた人々に手に持つ棍棒を振り回して残らず挽肉にしていく。抵抗していたのか、残った手には槍などが握られていたが、
見ての通り、死んだ。
原型なんてない。先ほどいったように挽肉同然にすり潰されたのだから同然だろう。
進行する道の前にバリケードがあれば怪力を振るい押し破っていく。
「来たぞぉ!!隊は、車掛!!止まるな!距離を詰めたら密集陣形だ!!」
生き残っていた騎士達だ。タワーシールドと長槍を密集し始めファランクスと呼ばれる形で向かい合うようだ。
人数は150とちょっと。だが、魔獣達の数は少なくても100では聞かないだろう。千体規模で押し寄せている途中なのだ。
数とは暴力である。が、その前に空からの一撃もまた暴力である。
「怯むなぁ!!すす………め!?え?」
劫っ!!!という光と熱を自覚した途端彼らの意識は完全に絶たれた。無論、それに巻き込まれた魔物も同じである。
破壊された建物の上に着地する影こそ、今彼らを焼き殺した存在だった。
上位竜・真紅
大きな翼を広げ、棘だらけの尾が振れるたび、砂塵と触れたものを無残に切り裂き口からは火炎が常に漏れ出ていた。
筋肉で固まれた丈夫な四肢は、たとえ崩れ落ちそうな建物の上でも確実に面を捉え離さない。
金色の瞳は、あらゆるものを睥睨し見下ろすだろう。本来、彼のような存在は先の魔女に使役されるような生命体ではない。誇り高く、狡猾で、言葉こそ話せないが言語を理解する竜種である。
この首に刻まれた隷属の刻印さえなければ、あの魔女も喉笛を切り裂き、はらわたを引きずり出して噛み砕いてやるものをと思う。
それができれば、苦労はしない。だから行き場のない感情をこの、目の前の弱いものを押し付ける。
もう少しの距離で小さき者がたむろする街とやらに行き着く。そこを焼き払えばどれだけすっきりするだろうか。
元々あの魔女も、言っていたではないか。街を燃やしてしまえ、と。一番槍にウルマトとやらの街に行ってもいいがそれではつまらない。
だから、今も血肉を求めて行進するゴブリンやオーガ、単眼巨人、刺殺蜂、群体鋼毛狼。
だが、この時はまだ知らなかった。だが、彼の聴覚が捉えたのは頭上を通り過ぎる悲鳴と僅かな魔力の反応。
それは、彼を通過して街の中へ消えていった。
●●●
「ひ、ひやあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっっ!?」
風邪を切る音が耳元で聞こえ、視界一面青空、下を見ようとして今、エストレアは自分がどこにいるのかを思い出し下を見ることを諦めた。
大砲で発射されて未だに勢いが衰えることがない。速度もかなりの物。赤い外套がバタバタと動き、時々視界を遮ってくる。
そして、勢いが弱まり始めた頃には、煙の匂い、焦げた血の香り、生臭い獣たちの匂いが立ち込みはじめ見れば大きな門を構えた街が見えた。このままいけば激突して大惨事どころか死ぬ可能性もあるのだが、不思議なことに門に近づく頃になるとまるで吸い込まれるように、誘われる蛾のように近づくのだ。
やがて、門の近くに立つ鐘楼のついた塔のような施設の屋上にエストレアはふわっ、と降り立った。ギルドマスターの言う通り、たしかに場所には確実に着いたが…………
降り立つと、そのまま膝をつき吐きそうになる。顔は今更ながら涙が崩壊寸前で場所が場所だけに今にも声を出して泣きたくなる。
「(も、もう空中遊泳なんてやりたくない、これが終わったら一発殴らないと…………。)」
目元を拭い、膝をパンパンと埃を落として立ち上がるとそばにあった柱に憂さ晴らしを兼ねて拳をぶつけへし折る。
崩れる柱の音を背後に、あの獣人のギルドマスターを殴ると決意して。
「な、何事だ!?」
どうやら今の破壊音で衛兵が駆けつけたようだ。顔を見る限り、かなり余裕がないようで事実このに魔物の大群が押し寄せてきているのだから仕方ないことか。
「ああ、すまない。イライラしていたからつい、な。冒険者ギルドから来た。空を駆けて、な。」
ちょいちょいと指を空に向けて彼らに説明する。困惑する彼らに、悟りを開いた目で空を見上げる。ここまで焦げた血の香りが漂ってくることが今何するべきかが分かっているのだが………。
ヒュウウウウウゥゥゥゥゥゥ…………
『うわあアアアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアアアあああああーーーーッッッ!!!』
風に乗った音が聞こえ、後から悲鳴が聞こえてくるそれもいくつか重なって、だ。
『へぶっ!?』
『ぐげっ!?』
『きゃっ!?』
『ギルドマスター、乱暴すぎ。私じゃなかったら地面に顔くっついてた………。』
『うおっ!?』
『誓霊ーー!頼む!!』
まとめて吹っ飛ばしたのか、後から続々とやってくる。
が、エストレアと違い顔面から突っ込むように着地するものだから皆顔が砂埃に塗れる。
「おお、エレン無事だった………か。いや、無事じゃないかその顔を見れば。」
ジッドの言葉通りならば、今の彼女の顔は笑顔である。それはもう凄みのある、笑顔だ。
「ん”ん!!ジッドもふざけるのも後。それよりも………魔物の奴ら、門にたどり着いたみたいよ。兵隊さん、状況詳しく。」
「は、は!メルキア砦を突破した後、このウルマトに通じる街路中の村々を襲撃、跡形もなく。更にこの見張り台からも確認された上位竜が旋回しており立て籠もることを余儀なくされています。現在、居住区を背後にしているため下手に動けない状態であります。」
「更に、このような状態な上メルキア砦で6割の部隊を失っているため最低限の兵しか残っていないのです。」
かなり、面倒くさい状況らしくウルマト側はメルキア砦で抑え込む腹づもりだったようでよく観察すれば兵士は少ない。それだけじゃなく疲労が溜まっているようだ。
不安と、上位竜という恐怖だろう。
「まあ、あれだろ?竜さえぶっ倒せばお前らでも魔物はなんとかできるだろ?竜は任せな、そんために俺らがあんな思いして来たんだからよ。」
鞘から抜かれた魔剣を肩に担ぐ少女剣士ネロは自信満々に胸を張る。
それに問いをかけたのがエストレアだ。
「作戦はあるのか?新米だからとかはなしで聞きたい。まずどうやって竜を“どこで戦って、どこで落とすのか”それが聞きたい。」
「んなもん、なるようになれだよ。作戦たてようが、相手は竜だぞ?下手な作戦は足を引っ張るだろ。」
故にエストレアは、今この場で思いついたことを打ち明ける。
「なら、住宅密集区であることを利用して、こんな作戦はどうだろう………。」




