Chapter4-4
◯踏ん張る誰かがいる。
ジャリ、と砂を踏む音が、奴らの刺激にならないよう気をつけないといけない。
岩陰から、今回の調査をするためにすでに魔物に蹂躙された後の村の様子を伺う五人の男女。うち、二人は離れた場所に止めた馬車で待機中だ。そんな彼らこそギルドから正式に任命された、精鋭だ。
「よし…………、肉眼じゃ魔物の姿はねえ。」
「こちらも、魔力の反応から見て奴らの気配はないわ。行きましょう。」
「じゃあ、俺から見に行くわ。合図するから、それと同時に来てくれ。」
「無理はするなよ。何かあれば戻ってくるんだ。」
「怪我のないようにね、気をつけて。」
「無理なさらぬように。」
「わーーってる、って。女を泣かす男にゃ生まれてねえさ。」
出発して、目の前にある門との距離はおおよそ500メートル弱である。
黒の外套と口当てをした小柄な体躯の男が物陰から物陰へスイスイ進んで行く。
進んで行くうち、やがて焦げ付いたにおいが充満し、ただ無慈悲に行進に巻き込まれた訳ではないことがよくわかる。
「こいつは…………、おいおい。誰だよ、魔物の気配なんてないって行った奴は。俺か、というかマジかよ。」
男は影に隠れつつ、確認する。
たしかに、先ほどまで魔物の気配はなかったというのに、今じゃどうだ。
目の前、おおよそ500メートル先の元々は村の広場だった場所にはーー、
ゴブリン、トロール、オーガをはじめとした低級の魔物に、隻腕灰色熊、単眼巨人などといったそこそこ強い魔物は、よく見慣れたものだが。
なにより、目を奪われたのは真っ赤な竜種、見た限り『上位竜・真紅』の存在に他ならない。そしてーー、
「まさかーー、人為的に起こされていた、なんてな。戦役の再戦とか勘弁してくれよ。」
魔導師と思しき、紫色のローブを羽織り、無数の屍鬼を従えた女。幸い、距離は離れている。
「(おまけに屍鬼かよ………、うちらに神聖魔法は使えるのは一人だけ。あの数を相手にするにゃ神聖国の司祭レベルじゃねえと……。こりゃ、これ以上は無理だな。)」
向こう側が気づいたとしても離脱できるだけの距離はあるし、なによりーー
見るだけでいいのだ。
音を立てずにその場を離れて仲間の元へ。
そして、見たままのことを団長に話すと険しい顔をする。
「離脱するぞ、ここは危険だ。」
「どうして?」
疑問に思った僧侶を務める女性が訪ねてくるがそれどころじゃない。
「とにかく、逃げんぞ。まずはーー馬車にっ!!?伏せろっ!!!」
目の前が真っ白になるほどの閃光、熱、衝撃。それにより彼らは吹き飛ばされる。
「あらぁ?どこのネズミがコソコソしてるかと思えば………。人間じゃない。逃すわけないけど。」
ローブをすっぽり被っていた、女の魔導師がかの上位竜・真紅に乗って彼らの上空を飛んでいた。
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「マジか、そっちもだったか。」
「ジッド、あんたもダメだったの?」
冒険者ギルドに訪れたエストレアは、樹海を主にした依頼の殆どが停止されていたことを受けて宿である恰幅亭に戻ってきていた。
室内には同じ冒険者と思われる団体がいくつかあり話す内容がすべて閉鎖された樹海関連のもの。
「モナから聞いたんですけどね、元々その兆候はあったみたいだけど情報を隠されていたみたい。で、案の定隠しきれず露呈、気づけばすでに死者は出てる上、村のいくつかは壊滅、魔物の群れは樹海を出て何処かに押し寄せる可能性があるって。」
ナッシュからあの後聞けなかったことを聞かされ死者が出ることは仕方ないとはいえ気がかりなことはもし樹海を出た群れがどこに行くのか、だった。
村であればあの周辺に樹海の浅めのところを開拓している開拓村があるから絞りきれない。
こちらから打って出ようにも樹海であるため安易に突っ込めば迷った挙句魔物に嬲り殺しになる。
「もし、もしだが。ここシェアトといっても樹海までは普通に行けば夜通しで2日くらいはかかるはずだな?だが、樹海にさらに近い都市部があったはずだ。」
エストレアは公爵家での覚えていた勉学、そのうちのこの国の地理の記憶を頼りにテーブルの上に地図を広がる。
「ここがシェアトだから………。」
指でシェアトを示すと、ジッド、ナッシュ、アンナ、ドラン、アグニルが覗き込む。
「樹海はここだな。」
「魔物はどこで発生したかよね?先日の群体鋼毛狼のことを考えて………中程、浅めに近い地点も見たわ。」
「だとしたらシェアトは違くて、魔物が来るとしたら………。」
「ここだな。というか現段階でここしか考えられねえ。村はただの通過点だと思うからな。」
「おまけにそこは魔力が自然発生する源泉があるしね。」
ドランが地図のある一点を示す。
樹海とシェアトのおおよそ真ん中、開拓村と連携して樹海開発を進める小都市。
当然、距離もシェアトよりも断然近い。
その言葉は珍しく同じように一致した。
「ウルマト、か。」
皆が差してくれた地図の一点。
ウェルゼリン大樹海とシェアトに挟まれる形で存在する街の名前。
商業都市ウルマトである。
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「か、はっ………」
「うぅ………」
頭が馬鹿みたいになる。耳がキィィーーーンと耳鳴りしてうるさい。
見上げれば、バサバサっと風に煽られてフードの部分が取れその素顔が見える。
褐色の肌、黒艶めいた捻れた角が生えて少し尖った耳が銀色の髪から見える。
目は、金色けれどそれから見える感情は小さな虫をなぶり殺すような無機質なソレーー。
「む、夢魔だ、と…………!?」
「うーん、いい眺め。任務じゃなかったら精気吸ってやろうと思ったけどね。まあ、いいわ。今は、そんなことよりも証拠隠滅と口封じしないと、ね。上位竜焼き払いなさい。」
片足で上位竜・真紅を蹴り飛ばして命令する。すると、口を大きく開き魔力を集中させ、プラズマ化した火球が生まれる。
まだ、先ほどのショックのせいでふらつくし、他の皆を守るにも、もう無理である。
一番、森に近いのはーー、団長だけか。
「団長!!もう、立てるだろっ!!アンタは、先に行けえッッッ!!!このことを伝えるんだ!!『今回の魔物の進行は魔族、魔精鬼による人為的なもの、だって!!アンタが、アンタが一番逃げ道に近いんだ!!」
あらん限りの声を上げて、団長に叱咤する。
「無理だ、皆を置いて行けない!!」
「いいから、行くんだ!!ここで、ボヤボヤしてると意味がねぇっ!!俺が、俺たちが足止めしてやる。その間に、ルディナギルドマスターに伝えろ!!行けっ!!」
懐から短剣を取り出して、団長と呼んだ彼に投擲。スッと頬に擦り、血が滲みはじめている。
自身の血を見て、状況をようやく飲み込んだのか、身を翻して樹海へと走っていく。
樹海を抜けて、目指すはウルマトだ。冒険者ギルド本部のあるシェアトが一番だが、そんなわけにはいかない。
「っ!すまん、絶対、助けを呼んでくるから!!死ぬんじゃねえぞ!!」
駆けていく中で、そんな言葉が出ていた。
ダッ、と残り数メートルしかない目の前の樹海へ駆け出して行く彼らの団長。スピードを上げるために持っている荷物は武器とわずかなポーションだけ残して捨てながら走る。
「ふうん、逃すと思う?あいつから焼きなさい。」
「させるかよ。」
短剣を竜種の口元に投擲して発射を中断させる。驚いた上位竜・真紅は怒りをあらわにしてグルルル………と唸るように見下ろしてくる。
「悪いけどよ、団長も、まだ寝てる嬢ちゃんも手は出させねえよ。俺と付き合ってもらおうか。」
勝ち目はないといっていい。
だけど、ここで動かなければ無駄死になってしまう。
自然と短剣を握る手が強張るのが否応なしにでも自覚してしまう。
だけどーー、彼は何故か笑っていた。おかしくなったのではなく、自然と口がそう動いたのだ。
短剣を逆手に勢いよく踏み込んで、駆け出して行った。
少々、加筆しました。




