Chapter4-5
すまない、うっかり二週間も放っていてすまない。
ここから、飛竜戦リメイク入ります。
ーーあくる日の朝の食堂でこんな話があった。
「孤児院の先生をしてくれ、と?」
「そう、エレンさんのような低ランク帯の依頼の殆どが凍結してるでしょ?だから、私が面倒見てる孤児院の院長さんに無理言って依頼立ててもらったのよ。」
依頼が凍結されて仕方なく宿に帰った明後日の昼頃。エストレアが止まる恰幅亭の昼食時に目の前に座る亜人の兎人、アグニルがそう言う。
「しかし、いいのか?」
「いいのよ、せっかくうちらのパーティーに来てくれたんだしね。お互い様ってヤツよ。」
「わかった。贅沢は言えないしな。日はいつにするんだ?」
「既に私名義でギルドに申告してあるから、そうね3日以内に答え欲しいな。」
「わかった、とりあえずギルドに行くとしよう。そういえば、ジッドとアンナは?」
キョロキョロと見渡すもののいつものメンツがいないところでアグニルに尋ねてみる。
「あの人らは別件よ。隣町に魔獣が出たからね、その対処で朝早くから出かけたわ。」
「…………。」
いつの間に。
そう思うしかなかった。反対にエストレアといえば呑気に寝ていたというのに。
別に樹海の依頼が凍結されても、他の場所、近隣の村や町、個人らの依頼があるのだからそれを吟味すればランクを上げることさえ出来たはずだ。
「くっ………。」
どうやら自覚が足りないと己が気づいたが悟られぬよう僅かに顔を歪ませる。が、長く冒険者をやっていたアグニルにはお見通しだったらしい。
「ふーん、ま、気にしないでいいよエレンさんはまだ駆け出しだもの。そう思うぐらいならまだマシね。」
「気をつける。それと、その答えだが………受けよう。詳しく教えてくれ。」
「分かったわ。じゃあ、明日の朝、そうね朝二刻頃にここにおいで。」
ーーわかった。
そう言うとアグニルはパンをスープに浸しながら再度エストレアに向き直り質問してくる。
「そういえば今日はどうするの?依頼は孤児院受けるから予定ないの?」
「いや、今日は武器とか見ておこうかな、と。今まで使っていた長剣がダメになりそうでな………。」
「そうーー。なら、いいところがあるわ。」
パン、と柏手を鳴らすと「さっさと食べましょ、早く行かないと気まぐれで閉めちゃうから。」とエストレアを催促し、エストレアもパンとスープ、サラダを食べ始めたのだった。
●●●
「ふぅー、こんなものか。もう少しいい武器なら良かったんだがな‥‥。」
場所は恰幅亭から離れて、ギルド本部から西へ少し歩いた路地裏の寂れた店の中。
店内は、さまざまな剣、槍、鏃が所狭しと並び、奥にはレザー製の防具など置かれて、気休め程度のカーテンがあり、そこが試着室なのだろう。
現在、エストレアは赤い外套の下にレザー製の防具とコートを着ているが用心のため籠手や脚絆などを試しに装着していた。ついでに武器も探すことを忘れない。
アグニルは周囲の武器を手に取り、感触を確かめていてこれじゃないと分かれば元に戻して、別の武器を手に取る。
「たく、嬢ちゃんの要求を満たす武器なんてウチにゃねぇぞ?ギルド御用達の武器屋だからあえて知らねぇけどよ、普通の武器屋だったら追い出されてるぜ?」
奥から出てきたのは筋肉隆々としたまさにボディビルダーのような男が武器の入った箱を何個も重ねて運んできた。その顔は困惑そうな顔をしていて彼女、エストレアがいう武器五がないか探してくれていたのだ。
前世でよく使っていた愛刀と旋棍である。が概要を言っても店主にはわからないようだった。
わかるはずもないかとエストレアは自笑する。刀も旋棍トンファーも前世でいえば何世紀先の武器だ。
こういう客には慣れているのか少し苦笑していた。
「だから、聞いたのだ、店主。こういう武器あるいは類似した物はあるかと期待してギルド御用達である武器屋に来たのだ。アグニルの勧めでもあるし………。」
ボリボリと頭を掻きながら再度、店の奥に消えていく店主。
ついでに、新しい長剣は購入済みだ。
少し間をおいて店の奥からおそらく在庫である武器が入った箱をさらに重ねて持ってきた。
「よっこらしょ、っと。あいにく店にあるものじゃ嬢ちゃんの要望は答えられねぇ。だがここにあるのは俺が若え頃に集めてきた代物だ。ひょっとすると要望に答えられるものがあるかもな。それにーー」
「それに?」
「刀、つったか?片刃の反り返った剣だったな?この国じゃねえけどな似たような武器はある。ただ、何って言ったかな、か、カト………」
武器屋の主人、あとでアグニルから聞いたところフロムという名前らしい。
彼は羊皮紙を取り出すと思い出すように形を描いて行く。
それを覗き込むように見ると特徴的な刀身の絵がある。
「カトラス、か。」
「ああ、思い出した。それだ、昔は海賊まんまなドリオン海洋連合の兵士が愛用する剣だが、これならいけるんじゃねえのか?」
ーー考えておこう。
そういうことにした。
結局、あの店で購入したのは新調した長剣と籠手、脚絆に脛当てと膝当てだ。関節を阻害しないよう後で調節するつもりだ。
帰り道、おおよそ日の入り二刻前、四時ごろだろうか。ついついいろんな店に顔を出してはこれは行けるか、これもなかなか………と手を出してしまい気がつけば両手が塞がってしまった。
女の買い物は長い、そして多い。それはどの世界でも同じで、前世では男であったエストレアも例外ではなく。
が、これも大抵は必要なもの。アグニルから受けた依頼で使うものばかり。
ーーというのも建前だ。
たしかに荷物は使うものばかりだが。先程の話でエストレアの買ったものは香水などだ。
逆にアグニルは服やアクセサリーなど、それは必要か?というものが多く占めていた。
「う、うう、流石に重い、ぞ?」
「うん、流石に………買いすぎた。ゴメンね。」
衣服というのは重い。抱えなければならないほどにヨタヨタ、と歩いて持つのだから察するべし。
いかに体幹が優れていようと、許容を超えればバランスなんてあってないようなもの。
「あれ?お前ら何やってんだ?」
いけに……もとい荷物持ち発見である。もとい、肩に大きな戦鎚に担いでのこのこ歩いてきたドランが。
不意にアグニルと視線を合わせ互いに頷くとドランに再度向き直りとびきりの笑顔を二人して向けたのだった。
●●●
「おいおい、ふざけんなよ………。なんだって依頼帰りにこんな荷物持たないけねえんだ………!?」
「何故って………、そこにあんたがいたからよ。それとも何?こんなか弱い女子二人に大荷物持たせるわけ?」
「だからって全部持たすことはねぇだろぉっっ!!?」
プルプルと肩を震わせながら、目の前を進む二人に苛立ちを含ませて声を荒げる。
ちなみに持たせようとしたことは認めるが全部持たせるつもりはエストレア自身微塵も持ってなかったことはここで弁明させておく。
「ドラン、少しだけ持とう。というより全部持たなくていい。持たない分は置いてほしい。それを持つから。」
ドド……………
「いや、いい。持てねえことはない。よっと。」
「ワーー、チカラモチー!」
「うっせっ!!」
ドドドド………
何だろうか、後ろの方から何かがすごいスピードできている気がする。
ーーーうわあっ!!
ーーーどこの馬鹿だっ!?暴れ馬持ってきたのは!?
「どうしたの?エレンさん。キョロキョロして。」
「いや、何か聞こえないか?」
ーーーやばい、こっち来るぞ!!
明確に聞こえて来る、背後からすごいスピードで突っ込んで来ようとしているのがわかる。
「うん?っ!!アグニル、ドラン!!避けろ!!」
ドドドドドドドドっ!!!
叫ぶように前方にいる彼らに呼びかけるも後ろにいるそれの方が早い。
「え?」
「あっ?ブェアッッッ!??」
アグニルはそれを見ると側転して屋根に登ると回避したが荷物を持っていたドランは蹴り飛ばされた。
「馬?暴れ馬じゃない。」
はねられたドランをアグニルが魔法で癒しつつ先ほど通過したそれに文句を言う。
だが、エストレアは確かにそれを見た。騎手の人が傷だらけで、ほとんど意識がない状態だったことを。
「アグニル、ここを頼む。私は見て来る!」
ダッ!!
風を切るように一気に加速すると、先ほどの暴れ馬の痕跡を辿りつつ行き着いた先はたった今、このシェアトの冒険者ギルドの入り口に突っ込み半壊させた光景だった。
●●●
ギルドの入り口から慌ただしく傷だらけの女性が駆け込んできたのは。
「何事ですか!?」
受付嬢のエリーゼが経験からか険しい顔つきになる。近くにいた冒険者が駆け込んできた女性を支えて介抱する。既に瀕死の状態で、体のほとんどが火傷により見るからに重症であることがわかる。
かろうじて紡いだ言葉はここの誰もが驚愕することになる。
「ハァハァ、ウルマトに、無数の魔物の群れが……気をつけ……て。」
「っ!!しっかり!!詳しくお願い!どう言うことなの!?」
ガクガクともう一度確認のため肩を揺らすが今の状態の彼女にそれは悪手だ。
だから、エストレアは反射的に叫んでしまう。
「エリーゼ、揺らすな!!だれか担架を持って来るんだ!急げ!!」
即座に横たわる彼女の首に手を当て脈を確認する。
弱くなっているが、脈はある。即座に治療すれば一命は取り留めるはずだ。
やがて、二人が担架を持ってきたことでそれに乗せると彼女からうわ言のように紡がれた。それは先ほどのより驚愕に値するものだ。
「ドラゴンが………いるの、はぁはぁ、みんな、死んじゃう……。」
冒険者なりたてのエストレアにとって最初の試練が今ここに。




