Chapter4-3
ーーチュンチュン…………
朝日が窓から差し込み、その光を浴びて目がさめる。
吸血鬼は朝日に弱いと聞いたことがあるが間違いだ。正確には流水に触れないことだけが弱点かもしれない。
この場合の流水とは、魔力に富み、源泉に近い湧き水を指す。なので、普通の水や川、聖水には効果は薄い。
ただし、血を吸い意図的に眷属にした下僕は聞いたことのある効果全てが適用される。下僕は亡者と変わらないからだ。
ーーもっとも、今は『渇き』もなければ眷属にしたいものはいないが。
「たしか、今日はアンナとアグニル達と魔力制御だったか。うってつけの依頼があるから、と言っていたな。」
腕を肩の高さまでまっすぐ伸ばし、腕を水平に保ちながら、ぐい、ぐいと胸の前に引き寄せ引っ張る。
ゆっくりと、しっかり体を伸ばして筋肉をほぐす。
今でこそ、自身の体についてよくわかると言うもの。こうして、柔軟や食事を通してみれば吸血鬼としての覚醒を経ても人間と変わらない気がする。
覚醒直後からジッドらに会う直前、盗賊を壊滅させるまでの間は目を赤く爛々と輝かせて、まさしく飢えている状態だった。
その理由はごく単純で、あの祝誕会ではじめての『渇き』が訪れるはずだったのだろう。
だが肉体が死にかけ、今の自我が形成されると同時に来るはずだった『渇き』がそれよりも優先される生命維持及び維持妨害要素を含んだ敵の殲滅に上書きされてしまい、押さえ込んでしまったらしい。
結果として、半暴走状態になっていて盗賊達を殲滅した後に収まったのだ。
「依頼でなかなか確認できなかったからな、柔軟するか。」
床に座ると足を開いて開脚姿勢に。
そのまま前に倒して背中の柔らかさを確認する。問題なく、腹が床につくあたり大丈夫だろう。
年にしては、いささか大きい胸が潰れる感触は少し戸惑うが。
足を閉じて前屈する。これも問題なくやれた。
立ち上がると、腰を捻って体幹を矯正しつつ中心部をほぐす。
朝日を浴びながら、体操するのも気持ちいいものだな、そう思いながら階下から聞こえる声を拾う。
ーー『朝食が出来てるからねーー!!』
「いくか。」
白のネグリジェを脱いで、昨夜回収した預けていたインナーや、レザー製の帯、脚絆に小手と赤い外套を羽織る。腰帯に長剣と鞘を指して準備は万端だ。
ちょうど、別の部屋からあくびを殺しながら出ていく音が聞こえる。
ドアを開ければ、寝間着姿でいろんな人達がそれぞれの部屋から出てくる。
その中にナッシュ、ドラン、アグニルがいないあたり、すでに階下にいるのかもしれない。
「ふぁあ〜〜〜………、おはよう………。」
眠け眼で大きくあくびしながらアンナがちょうど出て来るところだった。
青みのある髪は寝癖で大きく跳ねていて一房のアホ毛がぴょこぴょこ動いている。
「おはよう、アンナ。」
「あれー?エレンさん、装備整えてどうしたのー?」
まだ、寝ているようだ。
ふぅ、と息を吐くと取り敢えずまずは朝食を食べなければと思い一緒にいるはずのジッドの姿を探す。
「いないか………、すでに下にいるのかな?アンナ、寝ぼけてないで下に行こう。今日は依頼中における魔法の使い方について、だろう?」
「ふぁぁい………。」
大丈夫かな………。エストレアはそう思わざるを得なかった。
●●●
ビタァァァン!!!
乾いた音と共に顔面にまとめられた紙が叩きつけられた。
ぐぅ、と痛みに耐えながら赤く腫れた顔を叩きつけた本人に向けた。
「馬鹿者!!いつまで情報を隠しておくつもりだ!!すでに樹海の表層近くまで魔物の群れが来ているではないか!!仕事の後回しを繰り返すのも大概にしろ!!!」
会議室の上座。怒声をあげ鋭い眼光を蛇に睨まれた蛙のように直立不動する警備官長に投げかける幼い外見をした女性がいる。
黒髪のショートに黒い狐耳。椅子の背もたれにははみ出た黒いふさふさした尻尾が彼女の感情を示すかのように揺れる。
「黙ってないで、何か言葉を紡げ。人形か貴様。言い訳でもいい、この不手際に対してどのような事が出来るか、あるなら申せ。ないならないと言え。」
ルディナ・デネヴィード・シャスティフォル
人社会に溶け込んだ、獣人族狐人の女性。
冷酷な司令官みたいな口調を話すがここのギルド長を務めているのだ。狐の獣人であるが十五年前の戦役においては、この国の将として一時は英雄とまで言われていた。アーサーによりそれは薄れていたが。
余計なことは言うなと暗に伝えてくる迫力。冒険者上がりのこの面子だからこそ冷や汗で済んでおり冒険者上がりでない警備官長もそれなりの修羅場をくぐっていたからこそまだ大丈夫だった。一般市民なら卒倒ないし心臓が止まるかもしれない。
冒険者ギルドのギルドマスターを就任するにあたり、亜人である彼女に対して何かある事に難癖をつける頭の固い、いや人間が偉いと信じるバカな僧による向かい風が強かった。
「はっ、此度の………魔物による対処ですが数日前から魔物の数が増えていたことは確かです。よって、ランクC以上の冒険者を集め討伐作戦を…………。」
「馬鹿者!!今から冒険者を集めるだと!?集め始めて被害がすでに出ている場所に向かうのにどれだけの日数がかかるか計算したか!?すでに被害が出ているんだ!!もういい!下がれ!!」
「……(チッ、獣人の癖に……偉そうに)わかりました。」
退場を言い渡され、今にも怒りを爆発させると言わんばかりに肩を怒らせていたがその怒り、いや罵倒を心の中にとどめてそそくさと退出していった。
一方、ギルドマスター、ルディナは机に頬杖に書き、指を机にトントンと刻みつつ、萎縮するほかの役員に目を渡す。
「次!!今のバカは放っておいて経済委員長、今回の被害額の想定は出来たか?」
「は、こちらの資料にございます。最低でも、300名規模の村二つ、亜人の住む村が二つに100名以下の疎開地域三つが既に……。被害総額は1800金貨ほどかと………。今後の被害でさらに上がる可能性が………。」
金貨一枚がシェートリンド王国でおおよそ12000円相当。
つまり、エストレアの前世、日本円の単純計算で二千百六十万円。数字だけ見れば大したことないが、この世界では十分、さらに一国で起きた出来事では国家予算の十分の一に当たる。
魔物による村々の壊滅は、十分に災害としてなり得るのであった。
「一つの村であれば、それでもないが複数が同時に襲われる、か。では、聞こう『龍殺し』グラムス。Sランク冒険者としてこれは偶然か必然か。」
ルディナがチラッと見れば既に船を漕いでうたた寝をしている、若いが顔に大きな傷を持つ男。
鼻提灯を膨らませて、完全に寝ているのを見るとルディナはため息をつきながら魔力を手に集め手銃の形にして『火球』を放つ。
が、直撃はせず寸前でかき消され男グラムスは目を覚ました。
「んだよ、せっかく気持ちよく寝てたのによ。」
「起きたか、で?寝ていたとしても“聞いてはいたのだろう”?お前の答えを聞きたい。」
「ああ、それね。まあ、あれだ。俺としちゃーー」
●●●
「ええーーっ!!樹海付近での依頼はしばらく禁止ーー!?」
「ごめんなさい、急にギルドマスターからのお達しで………。近々ギルドマスターからのお言葉があると思いますので、しばらく樹海以外の依頼しかないんです。」
緊急事態である。
朝食を食べ終えて、アンナとアグニル、そしてエストレアは依頼をこなすため冒険者ギルドを訪れたのだが入って見れば大勢の人だかりがあった。
「マジかよ………。」
「今きたけどよ.そりゃねえだろ………」
「あー、ポーション切れてるのに!材料取りに行けないなんて!!」
「依頼こなさせてくれ!!頼むよ!!」
「お、落ち着いてください!!ギルドマスターによる指示なので……。近々、討伐作戦が実施される予定です!!」
冒険者たちに揉みくちゃにされながらも懸命に説明を繰り返す受付嬢達。
モナやエリザの他にも勤務している受付嬢が慌てふためく冒険者達に対応している。
冒険者達は、掲示板にある依頼とは別に、それに貼られた一枚の羊皮紙だけを注視するようにしている。
そこにはこう書いてあった。
『魔物による大進行の予兆のため、ウェルゼリン大樹海付近の依頼は発行していません。次の通達があるまで樹海付近での活動は禁止とする。
ーー冒険者ギルドマスター ルディナ』
唐突で起きた、この出来事にまだ追いついていないエストレア。
いや、この場にいる冒険者全員理解が追いついていないだろう。ただ、魔物の群れが樹海の外に進行している、それだけが事実であり初心者であるエストレアが依頼をこなすどころではなくなった。
それだけである。
「これは…………荒れるぞ。」
確かな予感が、エストレアの脳裏に横切ったのだった。
戦闘開始の描写をChapter5か6で出したいな……。
なるべく濃くしたいから………うーむ。
とりあえず、応援お願いします。
※注 主人公エストレアのスリーサイズ知りたい人きょsh………(グシャッッッ!!!




