Chapter4-2
昼過ぎ三刻頃、つまり、午後3時、城塞都市シェアトの冒険者ギルドにて依頼を終わらせたエストレアと付き添ったドランがギルドの戸を開ける。
「はい、たしかに依頼達成を確認しました。お疲れ様です。こちらが報酬になります。」
受付嬢のモナから報酬を受け取り帰りを待っていたアンナのいるテーブルへ歩を進める。
ゴブリンを討伐したことでシェアトに帰還したエストレアは初めて依頼をこなした成果に顔を緩ばせて、それを見たドランが微笑ましげに笑う。
今回の依頼は初心者向けの比較的簡単な依頼であった。少なくともエストレアにとっては。
依頼の達成方法は様々だが今回のような討伐系の依頼は依頼を完遂後受注者は依頼者のところに行き依頼達成の証拠を貰った上でギルドに報告する。
依頼達成を誤魔化す馬鹿が少なからずいるらしくそれを防ぐため二重のチェックがある。依頼者は依頼を出す時依頼を達成したという証拠をギルドに提出しギルドがそれを確認、達成した受注者がそれを依頼者から受け取りギルドに提出するというわけだ。
今で言う割符のようなものだ。
それでもこのシステムには色々と穴があるのでやはり依頼が達成されず誤魔化されたという報告もある。
無論、発覚すれば衛兵に捕まり国の法律に従って処分される。これが貴族絡みともなるとと〜っても面倒なことになるのだが。
実際公爵家であったエストレア自身もそれを見たことがある。 子弟の親が司法の人間に賄賂を渡してなかったことにしようと。
勿論当時、『戦乙女』なんて言われていたエストレアが進言し露見されたことで親子と賄賂を受け取ろうとした者も揃って罰せられた。証拠がないと騒いでいたが証拠品である賄賂を隠せるはずもなく。
これでも、他国の貴族や聖職者の汚職に比べれば比較的マシなのだから世界でも平和な国として良くも悪くも広がっている。
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「お疲れ様〜、どーだった初依頼は?」
手を振りながらアンナが今回の依頼の成果を聞いてきた。すでに酒が回っているようでほんのり赤い。
「おま、アンナ、ジッド来る前から酒飲んでんのかよ!?」
「だって暇なんだもん〜、ドランも飲もっ!!」
「ひっつくな!!離れろ!」
しつこくまとわりついているアンナを嘆息しながら背後から羽交い締めにして引き剥がしてやる。
じたじたと暴れてはいたものの椅子に座らせてやりドランとエストレアも席に着く。
「依頼の成果だったか?一応、達成はしたぞ?」
「ふーん、ドランから見てどーだったの?」
「ああ。成功はしたさ、未だ目を疑っちまうくらいだがな。」
グイっ、と大きく煽り顔が赤くなっていく。さりげなくアンナがドランの水の入ったグラスを酒に変えていたのだ。
だんだんドランも軽く酔ってきたのか話も盛り上がってくる。
「つーかさ、ありえないって。エレンさんを貶すわけじゃねぇけどさ……。」
「? どうしたの、あ、ゴブリンだけじゃなくて乱入とかあったとか?!」
「乱入はねえけどよ、アンナ、お前魔法精通してたよな?俺がやっていたのを見てあっさりこなした挙句、爆裂の魔法が起きたんじゃねえか、って言うくらいの派手にやらかしたんだぜ?」
信じられるか?と言うような顔でアンナの顔を見る。
「え、あんたの真似をしたの!?」
あちゃー、と言うような顔で赤い顔でこめかみを抑えるアンナ。
「エレンさん、ドランのは今の魔法界隈では時代遅れなのよ………原始的と言うか………。それにしてもエレンさんは魔力保有量が凄いのね、普通ははじめて魔法を使えば身体強化といえどガス欠になるのに。」
彼女曰く、ドランのやり方は三年前まで主流になっていた方法で、今では術式と言霊を刻んだ魔石を用いて魔力を注いで術式を起動するやり方に変わっているらしい。
完成させたのは、十五年前の戦役で活躍した大魔導師ズオー。
魔力量に優れ、戦闘力の高い魔族、この場合、悪魔族の捕虜を使って解析して新たに発見されたのだとか。
「まあ、明日は私がやるわ。で?ドラン詳しく教えて?どんな感じだったの依頼。」
「ああ、そうだなーー。」
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「ーー、そうだな。手こずることなく終わった。ただゴブリンが何かから逃げているような感じはあった。」
エストレアが余裕淡々と答える。
「そうなの、ドラン?」
「ああ、最初はエレンの理不尽な攻撃にビビっていたかと思っていたんだけどよ。違う感じがしたんだよな。」
「マジか!」
「あらぁ、じゃあはぐれかしら〜?」
いつからか、ジッドとガペット、ナッシュの三人がエストレア含む三人の席にちゃっかり座り会話に混ざっていた。
「お前ら………いつ終わったんだよ?現場から行ってどう見ても2日はかかるはずだよな?」
「んー、いや2時間はかかんなかったぜ!」
エストレアが思っていたことをドランが代わりにしてくれた。ここから開拓村まで討伐時間を鑑みて最短で2日、万全を期するなら3日半はかかるはずである。
「今回の隻腕灰色熊は若い個体な上、偶然餌場として見込んでいた渓流でのこのこやってきて僕たちに背中を向けて魚をとっていたので背後からグサーー、と。そしたらあっさり終わっちゃいまして。」
あはははと笑うナッシュ。
なるほど、まだ成体になっていない弱個体だったわけか。
「それで、解体して一部を開拓村にあとは馬車走らせて夕刻二刻頃についたってわけです。」
それにですねーー、とナッシュは後ろにいる話したがるジッドを見ながらそっと離れる。すると、ジッドは笑いを堪えるような顔をしてドランから聞いたことをエストレアに確認してくる。
「聴いたぜ、はじめての身体強化をゴブリンで試したらオーバーキルだったって話。」
「忘れてくれ!!かなり、やりすぎたって今になって恥ずかしく込み上げてくるんだ!!」
まさか、あそこまで派手になるなんて思いもしなかったから故に反省を踏まえて制御できるよう決意しつつあるところに掘り返されたのだから。
穴があったら入りたい、酔いではない赤く染まった顔を隠すように突っ伏した。
すでにジッド達は他の話題に盛り上がっているらしい。耳をすませばまずはドランだ。
「だからよ、エレンなら純粋なステータスならSランク狙えるんじゃねえかと思うんだよ。あの助けてくれた時を思い出してもそう感じるんだぜ。」
出会った時と今回の依頼を合わせてそう評価したらしい。だが、いささか過大評価な気がしなくもない。
ーー私は、流石にそこまで強くはないと思う。
「ギルマスといい勝負しそうだよな。あれ、でもギルマスってギルドマスターになる前はSランク最上位にいたって聞くぜ?」
「‥‥‥。わかんねぇなぁ‥‥。っていうかギルマス自体よっぽどのコトがねぇと部屋から出ねぇしなぁ。前見たのはいつだっけ?」
どうやらここシェアトのギルドマスターは彼らから見て謎多き人物のようである。エストレアもここのギルドではないものの他所の、クワイエット領のギルドのギルドマスターなら顔を合わせたことはある。あの時は養父アーノルドと一緒だったのでよく覚えている。
「えーと、去年のパンドラ征圧の有志を募ったときじゃなかったっけ?渋々承諾したとか愚痴こぼしてたね。」
アンナが記憶を掘り起こしてジッドの質問に答える。
「そうだったな、未だ魔族の小規模のゲリラ展開があるから参加しろ、参加すれば神の加護が〜とか神聖国の坊主がいってるけど全然進歩ねぇんだよな。今のパンドラって。」
「そうそう、魔族って人間以外の種族である亜人でさえ含まれるしかなり抵抗するって聞いたよ。中でもエルフの、ダークエルフは凄まじいらしいね。」
「あぁ、暗殺、狙撃、魔法戦と幅広く戦うからな。奴隷にされたダークエルフ見たことあるんだが、すげえぞ生半可な鎖や拘束具なんて引きちぎるからな、ほとんど獣に近い。」
奴隷。エストレア自身奴隷を見たことないわけではない。クワイエット家にも使用人として奴隷を雇っているし、朝一で井戸から水を汲んでいる奴隷を見たことがあるからだ。
家庭教師から教えられたこの世界の世界史、文明の発展において人以外の種族を教えてもらったことがある。
人に一番近く、けれど人族とは違う人型種族のことを亜人と言うのだが最近では人社会に溶け込んだ人型種族を亜人、溶け込まず閉鎖しているのを魔族として扱っているらしい。
魔族と認定される亜人はダークエルフを筆頭に邪鬼族と言われる魔物とされたゴブリンに似て非なるものやオーガ、トロルなど。
中でも、ダークエルフとされるエルフの一種は怪力と知られ、普通の奴隷用拘束具だと簡単に破られるので神聖なアイテムとされる『赤錆の鎖』で拘束のだそう。赤錆の鎖は神の言葉が刻まれ、神の言葉に汚れや力を吸収させ力を奪う。その際に汚れが鎖を赤く錆びさせるためにそう呼ばれているらしい。
反対に人社会に溶け込んだ亜人は獣のパーツを宿しているいわゆる獣人種が多い。アグニルの兎人族がわかりやすい。
だが、人社会に溶け込んで受け入れているのもこのシェートリンド王国や隣国の大国、バル・クラウディア帝国に周辺小国群の一部の国だけで、リスペリアン神聖国の人至上主義に染まった国や教会の人間は目の敵としていると言う。
そういえば、自身の吸血鬼は魔物として加算されるのか、亜人として認知されるかどちらなのだろうか…………?
「ーーーーレン!聴いてる!?」
「っえ?!あ、悪い!!」
突如目の前に手をひらひらさせて大丈夫?と言うようにアンナがいた。どうやら、いつもの悪い癖で考え事で世界が離れていたらしい。
「取り敢えず、戦闘面は大丈夫だと思うから明日は魔力制御をやるわよ。明日、朝食食べたらギルドね。」




