Chapter4-1
○実力試し、されど彼女はそれを凌駕する
「なあ、囲まれたがこの場合どうすればいい、先輩?」
ギィギャャャャャァァァァアァ!
ギィギィギャオ!ギャア?ギャア?
ギャ!ギャア!
それほど深くはない森の中で二人の男女が緑色をした小人のような何かに囲まれていた。
彼らの持つ武器は武器とは言えず木の枝や錆び錆びのナイフでありどう見ても威力は期待できそうもない。
彼らはゴブリンと呼ばれる魔獣であり、亜人ではない。
大きさはおおよそ1メートル20cm、メダカの子供のように腹が膨れていて、目は赤くギラついている。
数はおおよそ5体。場所はウェルゼリン大樹海入り口付近、そのオアシスである。
エストレアは敵に囲まれた時の対処法を知っているが相方がいるため、一応確認する。 決して先輩を立てようとかではない。多分。
ここにいるのは依頼のためだ。そう、あの後に受付嬢のモナのところに行ったところから始まるのだった。
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「あら、新人かしら?その真新しい鉄色のカード、新人ですね、どうします?依頼でも受けますか?」
「ああ、頼む。何かあるか?」
「それでしたら、これはいかがでしょう?」
モナという女性にカードを渡すと引き出しから一枚の羊皮紙を取り出しエストレアに手渡す。
それはゴブリンの討伐。依頼者は近くの村の村長でゴブリンによる被害が出始めたことだった。被害が大きくなる前に叩いてほしいという依頼である。
報酬は銀貨3枚と銅貨10枚。まあ、平均である。
「そうだな、これなら日帰りで帰れるし悪くない。よし、これを受ける。」
「わかりました。受注するのでカードを提出してください。それと‥‥‥アシストコースを使いますか?」
アシストコースというのは、要は低ランクの冒険者が依頼を受けた時二ランクまでの上のランク帯冒険者が同行するシステムだ。冒険者なりたての新人が不慮の事故で死ぬこともあるため新人を守る意味合いも持つ。それに彼らから現場からのノウハウも学べるのである。ただし同行できるのは2名以下となっているが。
「使わせてもらおう、頼めるか?」
「はい、でしたら‥‥ジッドさんたちのチームに懇意にしているみたいですし、既に決まっているみたいですから大丈夫そうですね。それとカード返却しますね。お気をつけて。」
依頼書を受け取り、ドランとアンナの元へ。ドランに依頼書を手渡して確認してもらう。
「おう、やっぱりゴブリン討伐だったか。えー、なになに?あー、いつものあの村か。」
「知っているのか?」
「んー、なんていうのかな。あれよ、その村はね、ウェルゼリン大樹海入り口付近なのよ。だから魔獣の攻撃を度々受けるの。といってもくるのはゴブリンか、コボルトみたいな低ランクの魔獣だから新人御用達の依頼なの。」
なるほど、アンナの説明を受けて納得する。たしか、一度養父から聞いたことがある。入団したばかりの騎士見習いは冒険者ギルドから初心者用の依頼を受けて訓練することがあると。
場所もだいたい同じだから同じものなのだろう。
「アンナは留守番な。エレンさんなら、一人で十分だろうし。」
「はーーい。じゃあ気をつけてねー。」
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「んー、ゴブリンとはいえ囲まれてるからな。しかも俺たち遠距離対応してねえし。カウンター狙うしかねぇな。闇雲に突っ込めば最悪袋叩きにされて死ぬ。」
なるほどとエストレアは頷く。ドランは僧侶、その中でも近接特化のモンクだ。そしてエストレアもどちらかといえば長剣を持っているとはいえど胸に七つの傷を持つある男と同じである。
とはいえエストレアも同じことを考えていた。武器を持った集団に闇雲に突っ込んで勝てるはずもない。
エストレアは遠当てがあるがそれだけで制圧するのは無理だ。
だからこそ、魔法というものが重要になってくる。一口に魔法といえど千差万別で、身体強化のような強化魔法や単体型の火球などの初球の魔法、怪我を治す回復魔法と長い詠唱と引き換えに事象に干渉し広範囲に効果をもたらす大魔法などがある。
エストレア自身、見たことないが長い詠唱、大量という言葉が天元突破した魔力消費、長年の技量からなる神代の大魔法『極醒魔法』なるものがあると聞いたことがある。
アンナから魔法のことを聞いてみれば、もう極醒魔法なんて何百年からずっと使い手がいないと言われているがそもそも神話の領域の魔法なので今では大魔法を使えるだけで褒め称えるらしい。
だが、どの魔法にも共通して言えるのが『詠唱』だ。詠唱なしである無詠唱の魔法は暴発率が高く、無駄であると言われている。
だから、古来から魔法の簡易的な詠唱が研究されてきた。今では、火球、身体強化などの比較的に難易度の低い魔法は詠唱の言葉を単語にすることができている。
「じゃあ、身体強化を使ってみようか。わかるかもだが、習ってきたことと実戦じゃ勝手が違うからな。
先ずは俺がやってみるからな。」
ゴブリンを見ながらドランは鎖が巻かれた小手を嵌めて互いに打ち鳴らす。エストレアはそれを見ていると言葉を紡ぎ始める。
ーー『起動』
胸元に手を当てて何かを引きずり出すように単語を紡ぐ。
ーー『操作』
その単語と共に魔力が体を包むようにドランの全身を覆う。
ーー『循環』
無駄にあふれていた魔力が研ぎ澄まされ薄くコーティングされているように見える。さらに体に張り巡らされた術式に魔力が満たされていく。
ーー『解除』
カチッ、そんな言葉が正しいだろうか。ほんの一瞬であったが術式に魔力が満たされて流れるように動き始めた。そして、ドランは瞑っていた目を開き行使する魔法を唱える。
「【身体強化】!!」
「ふん!!」
一息に一匹のゴブリンに肉薄すると強烈なアッパーを食らわせる。すると、血と泡を吹きながら痙攣して動かなくなる。
「まあ、こんなもんだ。エレンもやってみるといい。」
「了解。」
ーーすぅ…………
言われた通りに、見た通りにイメージして、集中する。
『起動』
魔力を起こす。血液の中に流れるように魔力がある。
『操作』
流れている魔力をまとめ上げて使う分だけ練り上げる。
『循環』
まとめた魔力の塊を正しく術式として編み込み、正しく循環するようにする。
『解除』
撃鉄を起こせ。
身体が、軽く感じる。いつも軽く感じてはいるがそんなものではない。羽毛のようだ。
世界が、より広く見えるようになったのも魔法の力だろうか。
「初めて、魔法というものを実践で使って見たが成功みたいだな。さて、」
試すとしよう。スラリ、腰の長剣を引き抜くと青眼に構える。目で捉えている範囲のゴブリンがこの剣の届く範囲だ。
距離は、5メートル、地面は水気を含んで少し柔らかい。
ふぅーー、息を吸い駆け出した。剣を一閃、踏み込んだ勢いが凄まじい爆風を生み、吹きあふれ砂けむりで視界が見えない。
ドランからすれば剣を構えたエストレアが一瞬で消えているように見えただろう。
そして、発生した災害じみた現状に、あまりに表現するに難しい惨状にドランはあんぐりとしていたが我に帰るとエストレアに詰め寄ってきた。
「ちょ、おま!!何をどうやったらこうなるんだよ!!」
エストレアが剣を振るった、それはゴブリンはまとめて両断され、背後にあるオアシスを比喩なしで切り飛ばし、木々をドミノ倒しに切り倒してしまった。
これほどの勢いならゴブリンは塵も残らず吹き飛びそうなものだが、エストレアの振るう『紅流』の速さがそれを超えてしまい、切れ味だけが残ったのだ。
だが、やりすぎには変わりない。ポリポリと頬を掻くと苦笑いをしてただこう述べた。
「えっと、やりすぎた、かな?」
初依頼、一応達成。




