Chapter3-6ーChapter end
チュンチュン‥‥
「朝食出来たよ!とっとと起きてきな!冷めた硬いパンを食いたいなら起きてこなくていいさね!!」
突然の大音量。
発生源はここの女将からだった。今エストレアがいる部屋は女将がいる一階から離れているところに割り当てられた。だというのにここまではっきり聞き取れるほどの大声が聞こえてくる。
かつての、前世の東京などの都会なら苦情が来てもおかしくない。
身支度を整え、部屋を出、階下に降りていく。途中、ジッド達と合うことがあった。
ジッドやナッシュは食堂である中には入らずに待合室のような一室でなにやら荷造りのようなものをしている。
視線に気づいたのか、ジッドは片手を上げて、いわゆるよっ、という仕草をする。
それにつられてナッシュやドランも同じように作業しながらエストレアに会釈してきた。
「おはよう。」
「ああ、おはよう。よく眠れたか?」
「ああ、おかげさまで。皆は何をしているんだ?」
エストレアは何をしているかを問う。朝早くから作業をするほどだ。大体はわかるが…………。
「なに、依頼の準備だよ。今日は近くの開拓村で隻腕灰色熊が出たってんでその準備だよ。」
隻腕灰色熊。
危険度ランクCの魔獣。隻腕であるが、異常に発達して長く伸びた腕が特徴でなんと、その腕は伸縮自在。伸びる距離は限度があるものの範囲内であればどこへでも進めることが出来る。
また、凄まじい怪力を持っているらしくその腕で若々しい木をへし折るほどの膂力を発揮する。
荷造りをしながらナッシュがハハッと笑いながら、昨夜のことを思い出すように顔を緩ませる。
「昨日は、かなり騒ぎましたからね。いやぁ起きれるか不安でした。」
確かに、昨夜は混沌としていてエストレアでさえ匙を投げたほどだ。
外野の他の客も酔いに任せて騒ぎ、酔ったアンナがジッドやドランに火龍吟醸酒を飲ませて腹踊りをさせたり。
無論、エストレアにも矛先が向いたがエストレア自身は弱くはないがあまり酒は飲むことはなく。
仕方ないのでこっそり外野側に逃げようとしていたナッシュを取っ捕まえアンナの標的にした。
ともかく火龍吟醸酒は飲めば一発でデロンデロンに酔っ払わせる酔っ払い量産機なのだ。
「うーー、みんなおはよう………。」
頭を抑えながら階段をトントンと降りてきたアンナにエストレア含めジッドの視線が集まる。
どうやら2日酔いらしく、その顔は青ざめているを通り越して白くなっている。
「おはよう!!さっさと支度しな!!!朝食は出来てるからね!!」
「「「あっ………!!」」」
女将の大きな声がアンナに向けて放たれ、エストレアと同じようにジッドのパーティメンバー全員口を揃えて悟った。
二日酔い、目覚めたばかり、大きな声。
よって、この後アンナが取ることは……………
「ウプッ………!?」
やっぱり。トイレに一直線に駆け込んで行った。
「あら、ごめんよ。出てきたら食堂においで。朝食は出来てるからね。」
●●●
あのあとアンナがトイレに駆け込んだので放置することにし、一階の食堂につく。すでにテーブルには料理が置かれており、出来立てなのだろう、美味しそうな香りが漂う。香ばしく程よく焦げ目がついたベーコンと目玉焼き、サラダとコンソメスープ。パンは自家製らしくほのかに甘い香りがする。
どこかのホテルの朝食のようだと思った。
「ちゃんと残さず食べるんだよ、じゃないと力も出ないしね。」
これほど美味しそうな朝食を残す輩がいるだろうか?
それはないだろうと思考を切り替える。
今日は昨日登録した際に作ったギルドカードを受け取ることと最初の依頼を受けることだ。
ジッドたちに聞いてみるとギルドは大体昼前二刻頃から開いているらしく、更には最初に受ける依頼のほとんどはゴブリンの討伐らしい。
当初は薬草とかの納品が主だったらしいが、冒険者の初心者だからこそ討伐系、ランクの低い魔獣討伐にシフトしたらしい。
冒険者ギルドは、ギルドマスターを頂点に、貴族のバックアップを受けた僚艦を幹部とし、Aランカー以上の冒険者をギルドの顔としてそのほかの職員や低ランカーの冒険者からなるピラミッド構造だ。
‥‥‥親友であったあいつから聞いたことある流れだな‥‥。
なんだっけか‥‥‥。あぁ、あいつの趣味だった異世界転生なんだか召喚なんだかの小説にある流れそのままじゃないか。
と言ってもこの世界自体、今では当たり前のように感じているがここも異世界なのだ。
「エレンさん?どうしたんです?ボケーとしちゃって。」
ナッシュに呼びかけられ、ハッと我に帰る。過去を思い出していたはずなのだがどうやら思い出しすぎて放心していたようだ。
最近、というよりナッシュこら話しかけられる回数が多い気がする。ニコニコとしているが、何を考えているのだろうか…………。
放心するぐらい昔を思い出すなどやはり過去の、紅 諸葉であったことを捨て切れてないということを自覚してしまった。
いや、捨てきれていないのではなく私は俺であり本人だ。混ざっているのだから、何も気にすることはないじゃないか、そう言い聞かせていく。
今の自分はエストレアであるが魂の本質は過去の自分が大きく影響しているのだろう。
コンソメスープをすすり、鶏ガラのいいダシが効いている。
ーーうん、美味しい。
●●●
太陽が真上に来る昼頃。
城塞都市シェアトは一段と活気に溢れていた。その中にここの冒険者ギルドも入っている。
この街は昼頃から活動する人たちが多い。朝早くから仕事するのは役所の官僚と衛兵、水汲みをする召使いや、一部の仕事を任されている奴隷などだ。
一般の人たちは昼頃近くになってから仕事を始め子供たちが遊びまわる。
「では、これがギルドカードになります。それと、規約の書いてある規約同意書です。ここにサインを。
ーーはい、ではおめでとうございます。あなたもこれから1人の冒険者として新たな発見、出会いがありますように。」
キラリ、太陽の光を浴びて光るギルドカード。
ギルドカードは、大体免許証ぐらいの大きさで、本当にカードだ。
エストレアの手にあるギルドカードは鈍い鉄色である。
「よし、今日から新米の冒険者か。なんかあったら俺らに言えよ?尊敬する先輩が教えてやる。」
「はいはい、馬鹿言ってないで依頼確認してきなさいよ、使えないわね。」
「あー、今日はどうせ二手に分かれて依頼こなすんだからいいんじゃねぇか?」
後、昼前二刻つまり10時を回った頃冒険者ギルドに真っ先に向かったエストレア。
ジッド、ガペット、ナッシュは朝、言っていた隻腕灰色熊討伐に向かっていてここにきているのはドラン、アンナだ。
アグニルは、今日は孤児院に行っているらしい。教会の中にあるらしく、彼女はそこの子供達から人気なんだそうだ。
「二手?そういえば、ジッド達は開拓村に行ったんだったか。」
「そうだぜ。で、俺らは付き添いだ。といっても聞いていると思うが新人には一つランク上がるまでは冒険者の付き添いが義務付けられてる。人一人死ぬだけで多大な費用かかるし、精神的に良くない。だから、今日なったばかりのエレンさんには俺らがついているわけだ。」
「安心してね、何かあれば手助けできるし知り合いも多いから困った時言ってくれればいいからね。」
まるで、会社とかの研修みたいだ、と思った。
この新人に対する生存を高めるための徹底した制度は今のギルドマスターが固めたらしく低ランクの冒険者が依頼を受けた時二ランクまでの上のランク帯冒険者が同行するシステムを作り上げたそうだ。
冒険者なりたての新人が不慮の事故で死ぬこともあるため新人を守る意味合いも持つ。それに彼らから現場からのノウハウも学べるのである。ただし同行できるのは2名以下となっているが。
「そら、そのカード持ってモナんとこ行ってこい。はじめての依頼だといえば向こうが勝手に選んでくれるさ。初めは選べないが、ランクが上がったり、貢献度が高けりゃ依頼を選べるようになるさ。」
「わかった。行ってくる!」




